『十三機兵防衛圏』ネタバレ解禁インタビュー! ヴァニラウェアにエンディングの秘話を聞く【電撃PS】
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記憶の上書き、時間の転移、人類存亡を懸けた計画――。単語やセリフの1つ1つがエンディングへの重要なカギとなるハラハラ感が、プレイヤー間で話題となった挑戦的な学園SFドラマチックアドベンチャー『十三機兵防衛圏』。
第3弾となる今回は、“エンディングを含むネタバレ回”として、本作のディレクターを務める神谷盛治氏を始めとするヴァニラウェアのコアメンバーへのインタビューをお届けします。応えてくださったのは、神谷氏の他、神谷氏のよきサポーターでもあるデザイナーの前納浩一氏、そしてキャラクターデザインを出掛けた平井有紀子氏の3人です。
まだ本作をクリアしていないプレイヤーはご注意を! プレイ後に読めば、本作ならではの魅力が深まるので、ぜひプレイ後にチェックしてみてください!!
『十三機兵防衛圏』インタビュー
プレイヤーに物語の補完を委ねる挑戦と勇気
先述で“単語1つ1つがネタバレにつながる”と書きましたが、その単語ひとつだけでは考察が難しく、“1つの単語”の謎が解明されたとして、“作品の全貌の謎”は深まる一方の本作。けれど、プレイヤーに訪れるのは、真相への断片が開花した時の快感です。
プレイ中は一瞬、さまざまな場面でエンディングの片鱗を見たような錯覚に惑わされます。しかしそれも“ミスリードのなかのひとつでしかない”ということが多く、プレイヤーは大きく広げられた“謎”というパズルのピース1つ1つを大切にしながら、エンディングにたどり着くまで、その全貌を解く難しさに翻弄され続けたと思います。
一周プレイしただけでは、すべての謎が解明されることはないかもしれません。だからこそ、“もしかして”という探求心が、クリア後の圧倒的な余韻の後に訪れるのです。“この世界を理解したい”という気持ちは、本作への愛着に拍車を掛けました。
紆余曲折で作られた冬坂・森村・千尋
――ストーリーの謎に迫るうえで、特に重要になるキャラクターの1人が冬坂だと思います。いろいろな姿(?)で登場するので、声優さんも演じるのが大変だったと思いますが……。
前納浩一氏(以下、敬称略):冬坂の声優さんは種﨑敦美さんですね。1人で何役も担当していただいて、もう大変だったと思います。苦労をおかけしました……。
神谷盛治氏(以下、敬称略):でもそれは冬坂のコンセプト通りだったんです。“一人の女性のすべての年代の魅力を描く”という。女性の魅力っていろんな面がある、ということがうまいこと出せたらいいなとシナリオを作りました。
神谷:ただ……実は『十三機兵防衛圏 プロローグ』の頃は、子供千尋の中身は“森村先生”の設定で、別の物語で展開するプロットがあったんです。ところがプロットを大幅にカットしたことで物語が変わり、最後になった郷登編を作る際、謎をすべて語りきれなくなって(苦笑)。「ネタばらしができるやつは誰だ!?」と悩んだ結果、思いきって“森村博士”に変更したんです。普通なら「この段階で新設定なんか作って、ほんまに辻褄が合うんか!?」って思いますよね。
――『プロローグ』の後に変更されたんですか!
前納:ヒヤヒヤしましたよ(笑)。そういう時に“聖典(※)”が役に立つんです。アトラスのQAチームさんに「大丈夫ですか?」と確認をお願いして「大丈夫です!」と言われた時は、「よかった……!」と。
※聖典……アトラスQAチームが制作した、本作の複雑な物語の時系列を順に記した資料。開発チーム内でシナリオに矛盾が発生していないかをチェックするためのもの。ネタバレ満載で門外不出!?
平井有紀子氏(以下、敬称略):私は“冬坂七変化”は森村先生で終わりだと思っていたので、もう1段階要ると言われて……(笑)。
神谷:当初というか別会社さん向けの企画だった頃は、2188年の話ってそんなに語るつもりはなかったんですけどね。
描きたかったのは、人の懸命さ
――描かれる年代が“40年刻み”なのも、絶妙なサジ加減だなと思いました。
神谷:最初に描きたいなと思っていたのが1985年で、次に描きたかったのが戦時中だったんです。それで40年という区切りが発生しました。作中ではどちらも昭和という年号で語られていますが、本当は2025年でも年号を使いたかったんですよね。現実に平成から次の年号に変わる時期がシナリオが佳境の頃で、「早く……早く新年号を教えてくれ……」と待っていました。でも新年号が発表された後になって改めて考えてみたら、「令和」「令和」と連呼するのは、お客さんにドヤ顔を見透かされるかなと思ってとどまりました(笑)。
――物語として、恋仲になるキャラクターが固定だったのは少し意外でした。
神谷:それはコンセプトが“少女マンガ”だったからですね。各主人公シナリオに12ルートあった頃は、冬坂編で登場する関ヶ原は「彼の気持ちは冬坂か東雲か、どっちに転ぶの……!?」といった展開でもっと少女マンガしてました。ルート改変後は、夢の謎と恋の展開を、予定の半分のルートでやらないといけなくなって、それどころじゃなくなりましたが……。
――本作では“恋愛モノの王道”の展開もありつつ、ちょっと捻った恋模様もありつつ、さまざまな“運命”を強く感じました。
神谷:王道でありつつサプライズにも持って行かないといけないので苦労しました。本作は少女マンガがモチーフですから、恋愛が根幹にあるのは自然なことですが、描きたかったことは“人の懸命さ”です。
きっかけはなんであれ、“思いを貫く”、貫くことのすごさみたいなものを描きたかったんです。『十五少年漂流記』をイメージしていた頃は熱い友情を描く、みたいなことも考えていたんですが、女の子が入ってきたら、絶対に友情だけでは収まらず、恋に発展するだろうと。それなら最初から恋を描いたほうがわかりやすいし、プレイヤーも気持ちよくなってくれるかなと思ったんです。
アトラスのプロデューサー・山本晃康さんが、本作のテーマは“愛”だと語ってくださったことがありましたが、そのとき僕は少し違和感がありました。いま振り返るとその理由はそういうことなんです。“運命の愛”であればそれは奇跡だけど、貫いた想いは“運命”になるのではないかなと。
――キャラクターたちの“恋愛のその後”を描いていたのも驚きました。
神谷:あの“同窓会”は最初からやろうと思ってました。でも初期設計では“真エンディング”として考えていたのです。“追想編が途中でも、崩壊編を100%まで進めれば通常エンディングは見られる”という仕様の時期があったんです。
思ったより通常エンディングが短くなったこともあり、最終的にエンディングはひとつにまとめました。「おそらくみんなはこのゲームを何度もリプレイしないだろう」という懸念もありましたし(笑)。
――何周しても、新たな発見に気付いて楽しいですよ!
神谷:伏線とそれが回収されるシーンは、初プレイでは全部を気付いてもらえないのは覚悟の上でしたが、たとえお客さんに伏線の半分しか気づいてもらえなくても「おもしろい!」と思える物語を作る、というのが僕の挑戦でした。実際にそううまく作れたのかは、自分ではもうよくわかりませんが……。
――個人的に、10年は語り継がれるゲームになったと思っています。
神谷:“最後のオチ”が好みじゃないという人もいますし、賛否はある変な作品だとは思いますよ。
細部の補完はプレイヤーの想像に委ねる形に
――井田先生や千尋などの重要人物たちも、本当に全員が想いを遂げていて「こんなきれいなハッピーエンドがあるのか!」と驚かされました。
神谷:井田が解明するはずだったおいしいところを全部子供の千尋が持っていってしまって、井田には悪いことをしてしまいました。東雲も人気が出るかどうか、不安になっていた人が社内にいました。東雲のアニメーションを付けてくれた村上くん(東雲をはじめとする複数のキャラクターのアニメーションを担当したデザイナー・村上彰氏)が「人気出るといいんですけど……」としんみり言っていて。「ごめんごめん、じゃあ俺がカウントダウンイラストで東雲持ち上げるよ、これで人気爆裂!」と(笑)。
――そしてエッチな方向へのミスリードを誘ったわけですね(笑)。
平井:神谷さん、「東雲は誰も描かないんじゃないか」って言ってませんでした?
神谷:そうそう。でも村上くんもがんばって東雲描いていて見事にカブった。まぁ村上くんは描くよね。
平井:私は開発中、東雲は「いろいろなものを一身に背負いすぎているように見える」と思って、ずっと人気が出るか不安でした。
前納:ほかのみんなも、じつはいろいろと激しくやらかしているんですけどね。
平井:東雲のはわかりやすくて注目されるから、ヘイトが全部東雲に集まってしまうのではないかと思って、神谷さんに直接話しもしました。
神谷:本当は2188年の経緯みたいなものが描けたら、もうちょっと緩和できたかなと思うけど、語るところがなかったんだよね。
前納:僕は現代での東雲の日常生活でのかわいいところがもっと描けていたら……と思います。関ヶ原とどんな感じだったのか、とか。
――東雲と郷登は複雑な関係に思えますが、郷登が東雲に声をかける演技が優しいように思えて、東雲好きとしては安心しました。
神谷:バトル会話で二人が過去に付き合っていた、という逸話を入れましたが蛇足でしたかね。あれも本来、関ヶ原と郷登の追想編で語られる予定だったものです。
平井:私はエンディングに関ヶ原だけ出てこないのが不安だったんですけど、神谷さんに言っても「関ヶ原はお祭りパーティに参加するような男じゃない」って言って聞いてくれませんでした。
神谷:関ヶ原は団体行動嫌がるだろうな、と思って……。たしかに、冬坂の「この戦いが終わったら、バイクでどこかに連れて行ってほしい」の伏線が残っちゃったけど……でもまぁ、5年間の間に何にもないことはないんじゃないかな?
前納:そこはぜひプレイヤーのみなさんに、それぞれの解釈で補完していただければと思います。僕たちもそういう反響が出るのはうれしく思っていますから。
――本日はありがとうございました!
ファンの間での盛り上がりにも注目を!
発売後もまだまだプレイヤー間で考察の続いている本作。そんな高い熱量を誇るタイトルは、なかなか出会えるものではないでしょう。ファンアートはもちろん、考察記事などを投稿して、みなさんも『十三機兵防衛圏』の世界のひとりになってみてはいかがでしょうか? なお次回は、電撃PlayStation Vol.683にて掲載した、本作のサウンド周り全般を担当するベイシスケイプの崎元仁さん、金子昌晃さんへのインタビューを、増補加筆した完全版を公開します!
『十三機兵防衛圏』インタビュー
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