『おさまけ』二丸修一先生と『ママ好き』望公太先生のスペシャル対談をお届け

かーずSP
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 2月7日に電撃文庫から発売された『幼なじみが絶対に負けないラブコメ 3』

 その作者・二丸修一先生と、同じく電撃文庫『娘じゃなくて私(ママ)が好きなの!?』の作者・望公太先生による豪華な対談が実現!

 ラブコメラノベの最前線で戦う両作家が語る、幼なじみとお母さんヒロインの魅力をお届けする。

 幼なじみの志田黒羽は俺のことが好きらしい……でも俺には、初恋の美少女で学園のアイドル、芥見賞受賞の現役女子高生作家、可知白草がいる!

 ところが白草に彼氏ができたと聞き、俺の人生は急転直下。死にたい。失意に沈む俺に黒羽が囁く――そんなに辛いなら、最高の復讐をしてあげようよ――と。

※『幼なじみが絶対に負けないラブコメ1~2』『娘じゃなくて私(ママ)が好きなの!?』の内容について、面白さを損なわない程度のネタバレを含みます。ご了承ください。

(取材・文:かーずSP)

作品にヘイトは溜めない。モヤシのヒゲ根を抜くように丁寧に取り除く

───『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』3巻の発売、おめでとうございます!

二丸修一先生(以下、二丸):ありがとうございます!

───今回は『娘じゃなくて私(ママ)が好きなの!?』が早くも話題騒然! 年上ヒロインの伝道師・望公太先生をお招きしての、ラブコメ対談です!

望公太先生(以下、望):“年上ヒロインの伝道師”は最近名乗り始めたばかりなんですが(笑)、本日はよろしくお願いします。

二丸:よろしくお願いします。

───さっそくですが、望先生が『おさまけ』を読み終えた時の感想から伺っていきます。

:1巻が始まる前から大きなドラマがすでに始まっていて、そこから物語が進んで、衝撃のあのラストですよ! 「まさか、そっちに転ぶのか!?」って。予想が全然つかなくてすごく面白かったです。

 “王道=予想がつく”とすれば、王道ではない予測不能の楽しみがあります。

二丸:すごく嬉しいです。ヒロインがフラれた後から始まる物語は、前からやりたかったんです。「気持ちを暴露した後だからこそ描ける関係性って面白いよね」って温めていたネタを、今回は上手く組み込めました。

:なるほど、そこからですか。

二丸:はい。告白が失敗しても、そこで終わりじゃないことも現実には多いですよね。今は多様性の時代なので、例えば元カノが結婚しても、そのまま友達を続ける関係があってもいいと思うんです。

 そこを掘っていくと、クロ(志田黒羽)にも「フラれた後でも友達のままでいいじゃん」って落とし所が見つかる。フラれても幼なじみの関係を続けていけば、再逆転のチャンスも見つかりますし。

:そこでクロがアタックをかけてくるのもいいんだよなー。誘惑ヒロインを幼なじみでやっていることが新鮮なんですよ。積極的な誘惑系ヒロインってメインに据えるのが難しくて、王道的なラブコメだと大体3番手で出てくるんですよね。

二丸:サブヒロインで、強烈にガンガン攻めてくるキャラ(笑)。

:そうそう(笑)。でもガンガン攻めるヒロインを一番手に据えると、読者目線だと「付き合っちゃえばいいじゃん」みたいな。その子を袖にしている主人公が凄く嫌なヤツに見えちゃう。

 それを主人公(丸末晴)は最初に「別に好きな人がいるから」と誠実に振って、それ以降もずっと誠実に対応しているんですよね。

みやP(『ママ好き』担当編集):「フッたからこそクロに甘えたくない」って自分でセーブしちゃう、末晴の心情に共感を覚えます。

 別にキープしている訳じゃなくて、「フッたけど、仲良くしていたい」って気持ちが、嫌みにならず描かれているのがいいですね。

 末晴の善良な性格が伝わってくるからこそ、振られたヒロインと仲良くすることが下心になっていない。「心から大事な存在だから仲良くしたいんだ」って伝わってくるんです。

:誘惑に対して断る理由が突き詰められているから、全然ヘイトが溜まらない構造になっているのが上手いです。

二丸:ヘイトが溜まらないようには強く意識しました。読者さんに不快な思いをさせたくないので、ヘイトの要素を見つけたら、一本ずつ棘を抜いていく心境です。

 もちろん僕が認識できる範囲でしか抜けないですけど、できるだけ…と思っています。

:そういうの大事ですよ、もやしのヒゲ根を一本ずつ抜いていくみたいな(笑)。

二丸:まさにそんな感じですね(笑)。

“復讐”+“負けヒロインが勝つ”の着想で生まれた『おさまけ』誕生秘話

:黒羽は1巻でも十分可愛いんですけど、最後にアレをやったからこそ、2巻で思いっきりアクセルをベタ踏みしている。行くしかないから突っぱしる感じがすごくよく出ていて、まさにタイトル通りだなって。

 読者がイメージする「従来の幼なじみヒロインってこうだよね」ってお約束を踏まえつつ、新しいヒロインを提示していらっしゃる。

二丸:黒羽は難産だったんですよ。負けヒロインが再逆転するシチュエーションを煮詰めていった結果、積極的な性格になったり、主人公のおバカな部分をカバーするために世話焼きタイプになったり……ってことは幼なじみ要素は欲しいよねって。

 ドンドンドンドン色んなものが積み重なっていって、今の志田黒羽になりました。でも今までの幼なじみが抱えていた弱点も持っていて欲しくて、ポカしてしまう従来の幼なじみ要素も残したり。

みやP:飯マズ設定も(笑)。

二丸:一つくらいは大きなマズ設定を作ろうと(笑)。最初のプロットは“負けヒロインが勝つ”だけで、幼なじみとは決まってなかったんです。

黒川(『おさまけ』担当編集):確かヒロインが小学生って設定の時もありましたよね。

:それは法律的に負けなきゃいけない(笑)。

二丸:本当に右往左往してたんで(笑)。まず“復讐”と“負けヒロインが勝つ”を合わせてみて、1巻ラストの“あのクロの行動”に行き着きました。

 そこで、最初に振られているヒロインはどんな子だろう? 主人公と長く一緒にいた子の方が、一番影響が大きいんじゃないかって流れで、幼なじみが思い浮かんだんです。

:全員が聖人君子じゃなくて何かしらの落ち度があるから、バランスが成り立っているのも上手ですよね。

 1巻の最後でクロは復讐しちゃったから、2巻で主人公が鈍感さを見せたところでも、クロはクロでやらかしているしなって、誰にもヘイトが溜まらない。

 一人だけ絶対的に正しいヤツがいると、相対的に他の子が悪く見えちゃうんですよ。でも『おさまけ』メンバーは、みんながそこそこに悪巧みしている(笑)。

二丸:全員、泥沼に陥っている感があります(笑)。

「ギャルゲーでは、ヒロインのお母さんが一番可愛い!」から生まれた『ママ好き』

「隣の男の子が惚れていたのは、娘じゃなくて私だった!? 嘘でしょぉお!?」

 姉の娘を育ててきた女性と、そんな彼女に片思いをしていた少年。長年の想いが爆発する超純愛ラブコメ、開幕!

───二丸先生が『娘じゃなくて私(ママ)が好きなの!?』を読まれた感想はいかがでしたか?

二丸:このタイトルと表紙で、すべての要素が詰まっているじゃないですか。やっぱりママは絶対に可愛いんだろうな」って期待通りの内容+αがあって感動しました。

 よく料理マンガとかで、親子丼を食べ進めると底からジュワって肉汁が染みて、最上級の美味しい味が後からドン! とくる。ああいうエンタメの教科書みたいだなって。

:僕の趣味性が強く出ている作品なので、そうおっしゃっていただけるのは嬉しいですね。歌枕綾子(かつらぎ あやこ)ママは、私の中にある理想の“隣のお母さん”像です。

 よくギャルゲーにヒロインのお母さんがチラッと登場したりする時、「どのヒロインよりも、このお母さんが一番可愛いじゃないか!」ってずっと思っていたんですよ。

二丸:『Kanon』の秋子さんみたいな。

:そうです(笑)。ああいう隣のママが一番可愛いんじゃないか、何で攻略できないんだろう、ちゃんと攻略したいなって。でも作家デビュー当時から「アラサーヒロインやりたい」って言い続けては、当然ながらダメダメって言われ続けていました……。

みやP:もともと電撃文庫は10代のラブコメが多くて……じゃあ『ロウきゅーぶ!』、『天使の3P!』はどうなんだって話もあるんですけど(笑)、蒼山サグ先生の作品はスポ根の要素も強いですから。

:GA文庫で『ちょっぴり年上でも彼女にしてくれますか?(年カノ)』を執筆した時も、「27歳ヒロインは前例ないからちょっと……」って難色を示される時代だったんです。

 それをGAの担当さんが、企画会議でフルボッコにされて逆風が吹き荒れる中、頑張っていただいて。きっと『進撃の巨人』のエレンみたいな口調で言ったんでしょうね、「いいから黙って全部俺に投資しろ!!」って。

二丸:あはは!(笑)

:『年カノ』でそれなりの結果が出せたので、あれ以降は年上ヒロイン企画がだいぶ通しやすくなったのを感じます。

みやP:ただ『年カノ』の実績があっても、「30超えてるのかー」みたいな雰囲気はやっぱり編集部内でもありました。なので何度も重版することができて、読者の皆さんに感謝です!

:そろそろ子どもを産んだお母さんラノベがいけそうかな……。

二丸:えーっ!(笑)。

:作家としては一回投げてみて、市場がどういう反応するのか見てみたいです(笑)。

ラブコメは、攻略される側の視点が面白い

───『ママ好き』は綾子ママの一人称がメインですよね。一部に左沢巧(あてらざわたくみ)の主観もありましたけど。

:そこは意識した部分ではないんです。どちらが主人公だと決め打ちしているわけじゃなくて、物語にとって最適になるように視点を決めていった結果です。

 恋愛ものでは相手からガンガン攻められる時、攻略される側の視点って面白く感じますから。

二丸:すごく共感します。女の人の可愛さって、女性視点の方が出せると思っているんですよ。

:なぜラブコメに少年視点が多いのか。ヒロインから迫ってくるからなんじゃないかって。『ママ好き』は巧くん(男の子側)が綾子ママを攻略していく話なので、お母さん視点のほうが絶対面白いだろうなってことで、綾子さん視点が増えています。

二丸:「えっ!? どうしよう! どうしよう!!」って女性なりのテレや心の葛藤が『ママ好き』にはたくさん詰まっていて、僕は嬉しいんです。今まではバスローブ一枚の姿でも冗談が言えたのに、告白後の同じ状況では超恥ずかしがるみたいな。

:告白されてから、相手を見る目が一転するのは大事な要素なので(笑)。ほとんど息子みたいな巧から告白されたことで、男として見ていいのか、悪いのか。「どうしたらいいんだ!?」って綾子さんの葛藤を可愛く描きたかったんです。

「今までの幼なじみヒロインとは違うぞ」と思わせる内面がクロの強さ

───『おさまけ』1巻でも“告白”がキーになっています。

二丸:告白までの流れを読み手に納得してもらえるように、途中で積み重ねをたくさん描くことは意識していました。

:むしろ告白の前の段階が重要なんですよね。

二丸:そうです。でも本が出るまではずっと不安でした。後半に盛り上げポイントをギュッと詰め込んだせいで、後半がラブコメっぽくないって叩かれる可能性も危惧していて……。

:いえいえ、後半の盛り上がりが面白いんじゃないですか! それに後半がラブコメじゃないとは思わないです、ラブコメです。

二丸:あーよかった、そうおっしゃっていただけて! でも今回出る3巻は3巻でラブコメが強めの話なので、1巻の後半が好きだった人がどう思うのか、今は今で不安を感じています(笑)。

:どっちでも不安になっちゃう(笑)。

───『おさまけ』は2巻で、1巻からテイストを変えているようにも見えます。

二丸:1巻でしっかり“復讐”にケリをつけました。ただもうひとつのテーマ“幼なじみが負けない”は生きているので、それでもう1回、再構成した結果です。

 なので2巻は2巻で、「1巻とテイストが違う」って突っぱねられる可能性に恐怖していました……。

:全然そんな心配することありませんよ! 読者が求めていることがたっぷり詰まった素晴らしい2巻でした。

 復讐は1巻で終わりましたけど、2巻はその復讐をバネにした物語だと思いますし、復讐があったおかげで、2巻でできていることが増えていると感じます。

二丸:ありがとうございます! 1巻で好評だった要素は、2巻でも踏襲しています。『おさまけ』の美味しいところは変わっていないぞって気持ちで執筆していました。

───具体的にはどのへんでしょうか?

二丸:クロが末晴にアタックするシーンや、クライマックス部分は1巻で面白がっていただけたみたいです。なので2巻でもクロが末晴にグイグイ迫るシーンや、末晴が活躍するシーンは絶対に入れようって心がけていました。

───2巻でクロがXXXXになる展開が印象的でした。

二丸:強引すぎでしょ……でもそれがいい! あのネタは別にSFじゃなくても、日常モノでもタイムリープはやれることを示したかったんです。

───そんな状況で、クロが普通に食事したシーンが驚きました。

二丸:僕の中にある「強い人」って、こういう事なんです。感情でギャーギャーまくし立てるでもなく、本気になったら有言実行で何でもできてしまう。

 クロが「わーっ」と自室で悶えながら、「この事実、なくならないかな。夏休み前に時間が飛ばないかな……」みたいなことを、本気でやっちゃう。この実行力が、僕はこの子の強さだなって感じるんです。

:「その辺の幼なじみとは違うぞ」って思わされます。

二丸:そうなんです。クロは今までの幼なじみヒロインとは違う、この子はやると言ったら本気でやるぞってメンタルの強さが表れた部分です。

過剰な青春感は『とらドラ!』とドラマ『学校へ行こう!』から

:ラブコメの1巻でいきなり文化祭が舞台になるのも珍しく感じました。普通ラブコメって一巻は春スタートが多いので、舞台をダイナミックに使っていて、ありそうでなかったラノベだなって。

 もしかしてバラエティ番組の『学校へ行こう!』がモチーフだったりします?

二丸:はい、頭の中にイメージしていたのはそれでした。

:やっぱり!

二丸:ただ先にイメージしていたのは『とらドラ!』です。2巻の後書きにも書いた“過剰な青春”ってテーマも、最初のプロット段階では『とらドラ!』を代表例で出させていただいたんですよ。

:『とらドラ!』がお好きだった?

二丸:ええもう。全校生徒の前で、生徒会長選挙の演説で告白するとか、すごい青春感に圧倒されました。舞台装置としてそのアイデアもイメージしつつ、最近の作品で圧倒的な青春感ってあまり見かけないなってことで、力づくでやってみました(笑)。

───一方『ママ好き』では、巧も大学生なので学園が舞台ではありません。

二丸:僕はそこ、“ラブコメ=学園モノ”って固定観念を壊してくれて、個人的には嬉しいんです。年の差カップルもそうですが、自由な作風がどんどんウケると執筆側としても幅が広がりますので。

 ただ修学旅行とか体育祭といったイベントが一切できないといったやりづらさはありますか?

:これはよく言われるんですけど、僕は全然そんな事は思っていません。学園ラブコメの何が便利かって、複数のヒロインが一箇所に集まるイベントが強制的に起こせるからなんですよ。

 でも『ママ好き』は巧が自分からアクションを起こすので、強制イベントが不要です。

二丸:確かに。

:GA文庫の『年カノ』を書きながら気づいたことですけど、一対一のラブコメにすることで、逆にいくらでもイベントは自主的に起こせます。なので学園イベントが無くても、何とでもなります。

 これが複数ヒロインものだと、強制イベントがないと苦労すると思います。

二丸:確かに『おさまけ』が学校じゃなかったら、まずみんなが同じ場所に一緒に居ない。夏休みになったら、誰かがアクション起こさないと出会わないですし。

:1対1と複数キャラクターでは、その差なんですよね。

昔のラブコメは“幼なじみは絶対勝つヒロイン”だった。『おさまけ』に感じる郷愁感

───主人公の末晴はどういう造形で生まれたんでしょうか?

二丸:末晴と哲彦はセットで考えました。末晴をちょっとおバカにするって決めた時点で、親友キャラを聖人君子みたいな非の打ち所がないキャラにしたら、末晴のバカさが目立ってしまう。

 読んでいて「こいつ何いってんの」ってヘイトが溜まらないよう、親友キャラ(哲彦)をもっと悪友に寄せることで、末晴は悪くないヤツになる。ヒロインと親友の真ん中に主人公がくることは意識しました。

───哲彦はいろんな人からクズって言われまくっています(笑)。

二丸:昔のラブコメにはこういう悪友キャラが多かったと記憶しています。なので過去のラブコメを咀嚼しつつ、今の時代に活躍させられないだろうかってことで哲彦の造形が決まっていきました。

:そうなんですよね。『おさまけ』って、いい意味で懐かしさを感じるんです。

二丸:ええ、ノスタルジーを感じる方は結構いらっしゃるんじゃないかな。

:温故知新で、昔の良い部分を上手に活かしつつ、斬新な部分もある。ちゃんと今のトレンドも押さえつつ、どこか懐かしい雰囲気もする。それこそ昔のラブコメは“幼なじみは絶対勝つヒロイン”だったわけで。

二丸:ええ。ずいぶん昔まで遡ると、幼なじみは最後に結ばれるヒロインでした。じゃあどこから幼なじみが負ける展開が増えていったのかを振り返ると、ひとつの起点として挙げられるのが、あだち充先生の『H2(エイチツー)』なんじゃないかって。

:あっ、なるほど!

二丸:『タッチ』(1981年~1986年)では幼なじみの南ちゃんに告白しましたが、『H2』(1992年~1999年)は幼なじみの雨宮ひかりと結ばれなかったのが当時、衝撃でした。ラブコメの大御所・あだち充先生レベルでそういう変化が見られたのは、もしかしてあそこで時代が変わったきっかけだったのかもしれません。

───『ときめきメモリアル』(1994年)の頃は藤崎詩織がバーンと中央にいましたし、『ToHeart』(1997年)でも神岸あかりがメインでした。

みやP:美少女ゲームでも、昔はパッケージの手前に幼なじみが配置されていたんですが、気づいたら一番大きいキャラじゃなくなってましたね。

子育て、失恋など実体験を創作に活かす

───実体験を参考にすることはありますか?

:ぶっちゃけた話を言うと、最近の作品は舞台が全部地元です。

みやP:ママが飲酒してこなかった理由は、車じゃないと病院に行けないから、って言ってましたよね。

:それは地元の感覚として、あります。自分も子育て中なんですが、子供が小さいと、いざ車を動かせないと病院に行けませんから。年上ヒロインだと車の運転もできるので、舞台として田舎の方が都合がいいこともあります。今後は『ママ好き』でも綾子さんの運転シーンが出てくるかも。

二丸:僕は基本的に実体験を参考にはしません……ですが、さすがに『おさまけ』は自分の失恋体験を見つめ直さざるを得なかった。自分の過去の学生時代を振り返って、読者に共感してもらえそうなところを色々ブレンドしつつ……。

:辛くないですか?

二丸:めちゃくちゃ辛かったです!

:ですよね(笑)。

二丸:現在は“心が痛い! 辛い!”ということで封印し直して、記憶の奥に閉じ込めました(笑)。

『おさまけ』ネーミングの由来は『ファイアーエムブレム』から!?

二丸:『ママ好き』キャラの名字で難しい漢字を使っていますけど、名付け方にこだわりはあるんですか?

:なにも無いんですが、最近の作品では、メインキャラの名字縛りをしています。例えば『年カノ』は全員、桃太郎とか浦島太郎とかのおとぎ話にちなんでいます。

 『ママ好き』は、偶然のタイピングで“カツラギ”が“歌枕”って変換されたのが興味深くて調べたんですよ。そうしたら東北の難読地名だったので、じゃあ東北の難読地名縛りにしようってノリですね。

二丸:僕は固有名詞をつけるのが、大の苦手なんです……。

:じゃあ『おさまけ』の名付けはどうされたんですか?

二丸:僕はゲーム『ファイアーエムブレム(FE)』が大好きなので、シリーズ1作目『ファイアーエムブレム 紋章の謎』のキャラクター名が順番に付いているんです。

 “丸末晴(マル スエハル)”はマルス、阿部先輩はアベル、志田さんはシーダで、可知さんはカチュアって。

みやP:その語呂を考える方がスゴくないですか!?(笑)

:全部きれいにかかっていて、いい感じじゃないですか。

二丸:2文字だったら合わせやすいんです。例えばカインの“ン”まで使おうとすると、和名にするのは難しい。でも“カイ”までだったら甲斐って日本語名と合わせやすい。

 真理愛はミネルヴァの妹のマリアで、そのまんまですけど。真理愛のお姉さんは絵里なんで、マルスのお姉さん・エリスからとってます。

:そうかそうか。志田家の四姉妹も、もしかして?

二丸:すでに志田って名字が付いているので、さすがに『FE』縛りにはできませんでした。サブキャラクターのゴウド君はゴードン、魚沼さんはウォレンって……“ウォ”しか繋がってないけど、別にいいやって(笑)。

:シロとクロ、四姉妹の色縛りがわかりやすいので、そっちに気を取られていて盲点でした(笑)。

創作のコツは……性癖を爆発させろ!?

───小説を書きたい人に向けて、創作のアドバイスを教えて下さい。

:僕が『年カノ』を執筆したきっかけの一つに、ストレートエッジの三木一馬さんのインタビューがあったんです。『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏見つかさ先生に、「性癖を爆発させろ!」っておっしゃったそうです。

二丸:(笑)。

:「なるほど……僕もこのくすぶっていた性癖、『年上お姉さん』を書きてぇ! この性癖を爆発させなければ!」と、一人で勝手にインタビュー記事を読んで感銘を受けました。

───そこで奮起されたんですね。

:もうひとつありまして、同じ時期に『ワンピース』の尾田栄一郎先生の新人向けアドバイスが描かれているインタビュー漫画を読んだんです。「今は漫画が増えているから、“この作者ヤバい!”って思わせるためにも性癖を爆発させろ」とおっしゃっていて、同じ時期にその2つを目にして、尾田栄一郎と三木一馬が言うなら間違っているわけがないと確信しました。

二丸:めちゃくちゃ説得力がありますね!

:なので創作では、性癖を爆発させましょうと言いたい。でも一番大事なのは、性癖を爆発させた上で、独りよがりにはならないよう注意することだと思います。尾田先生も「性癖を爆発させた上で、読者を納得させることが大事」とおっしゃってましたし。

───具体的にはどうすればいいんでしょうか。

:お約束はお約束として押さえることでしょうか。『おさまけ』もそれが上手で、「幼なじみが勝つ」って大きなフックが用意されている反面、もう一人のヒロインは黒髪ロングの綺麗でツンツンな女の子で、お約束をちゃんと守っています。

 王道は押さえつつ、一箇所は尖った部分を用意する。『ママ好き』でいえば、「ヒロインが一回りも年上」って飛び道具を用いつつ、やっている事は王道のラブコメです。

───そのバランスが難しそうですね。

:なので型破りなことをやりたかったら、型を知らなきゃダメって話に落ち着くんです。何がお約束かを分かった上で、ここは破るけど、ここは破らないってバランスを取るのが理想だと思います。

二丸:僕もまさに同感なんですが、先ほどの「性癖」の話、つまり好きなジャンルや属性じゃないと、秀でたものが書きづらいんじゃないでしょうか。

 好きだからこそ自然とたくさん摂取しますし、良さを理解していると思うので。なので自分が好きなものが何か、創作する人は掘り下げて欲しいですし、読み手にその良さを教えて欲しいです。例えば僕は姉がいるので年上女性のヒロイン自体あまり興味がないのですが、望さんの作品を読むことで、年上女性の良さを教えてもらったと思っています。

 最近はラブコメが研究しやすい時代だと感じています。例えばTwitterに日々アップされている漫画では、1シチュ・1キャラクター・1アクションの楽しいラブコメがたくさん出回っています。バズった参考例をいかに掘り下げて、自分の糧としていくのか、といった面で研究もできますし、単純に自分の好きなジャンル、シチュエーションを把握するのにも使えると思います。

───パクるという意味ではなく、世間でウケた要因を分析して、自分の武器にしていくってことですね?

二丸:はい。すべての創作がそうだと思うのですが、現在完全なオリジナルは難しいと思うので、参考にするのは本質ですね。例えば『おさまけ』では単純なキャラクター性やシチュエーションだけでなく“振られた後にラブコメの美味しさがある”という面があります。「自分はこの良さを誰よりも知っているんだ!」って強みを表現すれば、書きやすくなるんじゃないでしょうか。

 なのでもし『おさまけ』の末晴と黒羽の関係が好き! と言っていただいた場合でも、黒羽の性格が好きなのか、シチュエーションが好きなのか、振られた後での繋がりがある関係性が好きなのか、トラウマがある主人公が好きなのか、人によって好きな部分が違うと思います。全部同じだとさすがにパクりになりますが、そのうち一つが最高に好きなので活用し、残り三つの要素は自分がもっと好きなものをぶち込むといった手法を使うだけでも、まったく違うものになると思います。

タイトルで手にとってもらう工夫。読者に歩み寄る、固定観念を少し曲げる

:『ママ好き』『おさまけ』どちらも、ラノベで今まで売れないって言われてきた要素だと思っているんですよね。30オーバー年上ヒロインも、幼なじみも……。

二丸:最近の流れとしては少なかったですね。

:僕の場合、年上ヒロイン企画がボツを食らいまくった経験を振り返ると、ちゃんと理由があったんです。

 “年上が魅力的”だけじゃダメで、“年上ヒロインが、こうするところが面白い”までをパッケージングして提案すれば、企画が通るんだなって、ボツを食らったおかげで気づけました。

───企画が通った先で、本が店頭に並んでも、そこから売れるのも難しいです。

二丸:出版する数が増えている中で、全くノーヒントでは手が伸びないと思うんですよ。マンガ、アニメ、ネット動画、スマホゲームと時間を奪い合わなきゃいけない中で、小説って文字だけで勝負しています。

 情報が少ない媒体が勝負するためにも、送り手が何段階も手を取りやすい状態にするのは当然の対応だと思うんですよ。『娘じゃなくて私(ママ)が好きなの!?』ってタイトルを見ただけで、もう告白のシチュエーションがパッと頭に浮かぶ。三歩くらい読者さんに歩み寄っているのが強いです。

:「なんだこれ?」じゃなくて、「あ、こういう話だね」って、見た瞬間に中身が分かるくらい、表紙とタイトルが重要な時代だと思います。

二丸:あとタイトルの付け方で興味を持ってもらう方法として、既存の概念を裏切るのが効果的だと思っているんですよ。

 『はたらく魔王さま!』って聞いて、「えっ! 魔王が働くの?」って意表を突く感じ。『盾の勇者の成り上がり』の「勇者は剣に決まってるんじゃないの? なんで盾なの?」とか、『転生したらスライムだった件』の「転生したら普通は人間じゃない?」って、みんなの思い込みを少しズラして曲げる。

:まさに「幼なじみって負けるんじゃないの?」って(笑)。このタイトルと表紙がセットで、「きっと幼なじみがグイグイくる作品なんだろうな」って一言で伝えられています。

二丸:「イラストでヒロインがグイグイ押している感じを入れてほしい」とお願いしたのは、タイトルと表紙の掛け算です。でも「絶対に負けない」って、どう戦うのか、誰と戦うのか、これだけでは見えません。

 でも見えない部分は、受け手の皆さんが頭の中で転がしてくれて、期待度が高まるフックにも繋がります。

:情報量は多すぎても興味を持ってもらえないし、逆に足りなさすぎても伝わらない。そのラインが大事ですよね。

青春ど真ん中な旅行が描かれる『おさまけ』3巻、テーマは“逆襲の白草”

───発売されたばかりの『おさまけ』3巻について、見どころはどのへんでしょうか?

二丸:3巻は1巻や2巻では展開的になかなか入れられなかったラブコメ中心の話です。青春ど真ん中な旅行回! ということで、このメンバーたちと一緒に楽しんでもらえれば何よりですね。

 テーマとしては“逆襲の白草”だったので、その攻勢を見ていただきたいです。

 あとは末晴が黒羽、白草、真理愛との関係を見つめ直す巻ともなっています。そこを楽しんで読んでもらえたら幸いです。

 また個人的には四章最後の“毒”が最も力を入れ、同時に今回入れるかどうか編集と相談した部分です。ここを楽しんでもらえたり、もだえたりしてもらえたら作者冥利につきます。

黒川:今回も各専門店で店舗特典をご用意しています。電撃文庫公式サイトやTwitterでも紹介していきますので、まだ1巻がお手元にない方もぜひチェックしてみてください。

電撃文庫・電撃の新文芸公式サイト
電撃文庫公式Twitter

重版続々出来の『ママ好き』、最新2巻が4月発売決定!

───『娘じゃなくて私(ママ)が好きなの!?』の告知はございますか?

宮崎:おかげさまで重版続々出来……そして2巻も2020年4月刊行予定です! 今回ありがたいことに、アキバBlogさんでも記事を公開しますのでそちらもチェックしてくださいね!

───今回の対談を終えてみてのお気持ちはどうでしたか?

:いやー楽しかったですね!

二丸:はい。いままでお互いの作品を掘り下げて語り合う機会はありませんでしたから。テクニカルな話も出てきて、すごく勉強になりました。

:まあ作家同士の飲み会とかで、相手の作品を褒めるのも、自分が褒められるのも恥ずかしいんで(笑)、こういう機会ができてよかったですね。

二丸:ええ、まったくほんとに(笑)。

───本日はありがとうございました。

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『幼なじみが絶対に負けないラブコメ2』

  • メーカー:KADOKAWA
  • 発売日:2019年10月10日
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