『絵師神の絆』制作の裏には手塚治虫作品への愛が。コンパイルハートの開発者インタビューをお届け【電撃PS】

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 “漫画の神様”と称された手塚治虫先生が残した数々の作品群を美少女化させ、“シメキリ”という敵と戦っていくスマホアプリ『絵師神の絆』が2020年4月7日に配信されます。

 『絵師神の絆』という一大プロジェクトがいかにして生まれたのか? 今回は、本作のキーマンであるアイディアファクトリーの代表取締役社長・佐藤嘉晃(さとう よしてる)氏とコンパイルハートの取締役社長・東風輪敬久(こちわ のりひさ)氏にお話をうかがいました。

手塚治虫“愛”から生まれた『絵師神の絆』

――『絵師神の絆』が企画された経緯を教えていただけますでしょうか?

東風輪敬久氏(以下、敬称略):佐藤が手塚先生の大ファンであったこともあって、もともと弊社はニンテンドーDSの『DSで読むシリーズ手塚治虫』をリリースしたり、手塚プロ様により、オトメイトの絵師が手塚キャラを描く展覧会(テヅカオトメ展)を開いたりしていたんです。今まで手塚作品を扱ってきたなかで、改めておもしろい企画ができないかと考えた結果、今回のプロジェクトをスタートしました。

  • ▲東風輪敬久氏:コンパイルハート取締役社長。代表作には『超次元ゲイム ネプテューヌ』など。

佐藤嘉晃氏(以下、敬称略):企画自体は、私どもから手塚プロダクション様に持ち込みました。もともと手塚プロダクション様は、手塚治虫作品を世に広げていこうと活動されています。本作はおもしろいゲームをご提供することはもちろんなのですが、その活動の一助になればという意図も含んで企画しております。

――手塚作品を広めるにはどのようなことが必要とお考えでしょうか?

佐藤:私は手塚先生の熱烈なファンですのでわかるのですが、濃いファンの方々にとっては手塚先生の原典(オリジナル作品)が至高なんです。しかし、手塚作品をもっと世に広めていこうとすると、多くのクリエイターさんのお力を借りてアレンジしたり、コラボなどを展開したりすることが有効です。とくに若い世代にも広めていくうえでは、必要なことと感じております。

  • ▲佐藤嘉晃氏:アイディアファクトリー代表取締役社長。手塚治虫作品のファン歴は約40年。小学校5年生のときに朝日ソノラマから出版された『鉄腕アトム』の復刻版を読んだのが手塚作品との出会いとのこと。"
  • ▲佐藤氏はインタビュー時、ヒョウタンツギが描かれたお手製の箱を持参。箱の中身は手塚グッズが詰まっていた。しかし、これはコレクションのほんの一部とのこと。

佐藤:弊社は2014年に『リボンの騎士』の派生作品という形で、オトメイトから『戦場の円舞曲』というゲームを出したことがあります。本作はあくまで派生作品ですので『リボンの騎士』を前面に主張していませんが、お客様には派生物として認めていただいたうえで好評をいただきました。この結果を受けて、派生作品の形での“手塚作品への貢献”に手ごたえを感じるようになりました。
 これらの要素を弊社会長の桑名の発案で企画したのが本作『絵師神の絆』です。やはり桑名が企画した『ネプテューヌ』シリーズ(※)とも相通ずる擬人化(美少女化)を手法に、派生作品の枠を超えた“手塚治虫作品のキャラクターを美少女”というコンセプトです。また、このコンセプトを使えば、“オール手塚作品”ゲームが可能になるんです。すべての手塚作品に触れられるということは、手塚作品に興味を持っていただけるチャンスも多くなると考えています。

※『ネプテューヌ』シリーズはコンパイルハートから発売されているRPG。 架空のゲームハードを擬人化した美少女たちが登場する。

――手塚治虫作品の魅力とはどういった部分でしょうか?

佐藤:私が語るのもおこがましいのですが、“なんでもアリ”という点が魅力ではないかと思います。それぞれの作品に多彩な引き出しがあるんです。真面目なだけじゃない。お色気あり、哲学あり、化学あり、犯罪あり……。

 たとえば、意外なように思えますが、『鉄腕アトム』には犯罪の要素が多いんですよ。ブラックなネタが豊富で、“悪”のほうがテーマだったりします。アトムが、人間には悪の心があるのに自分は全然悪いヤツではないという観点から、かなり悩んだりするんです。

 また、手塚治虫作品に登場するキャラクターの名前がおもしろい。映画の俳優さんをもじったものとかね。その映画を見ていると二重に楽しい。1つの作品の中に二重、三重にカルチャーがひしめいているんです。だから何度読んでもおもしろい。私は、先生の影響を受けてクリエイターになった者として、「手塚先生は本当にすごい存在だった!」とお客様に伝えなければいけないと思っています。

▲左は佐藤氏が少年時代に記者として手塚先生にインタビューした際の記事。右は佐藤氏が入会していた“手塚治虫ファンクラブ”の会員証。

――東風輪さんもやはり手塚作品の影響は大きいのでしょうか?

東風輪:私は、若い頃にデザイナーを目指していたのですが、その時期にたまたま手塚先生の文庫本が出たんです。発売されるたびに買って読んでいたのですが、作品の深い部分に触れたことで、本来目指していたデザイナーではなく漫画家になりたいと思うようになったんです。

 アイディアファクトリーに入社した理由の1つはこの出会いだったと思います。当時は漫画も描いていましたし、入社後も会社で描いていました(笑)。ちなみに、実家にある私物のなかで、手塚先生の文庫だけは今でも残っています。それくらい特別なものなんです。

タイトルの由来は“現世代の絵師たちの創作”と“手塚先生との絆”

――タイトルを『絵師神の絆』にした理由を教えてください。

佐藤:手塚先生は漫画の原典を作り出した神様、“絵師神”なわけです。『絵師神の絆』は、その恩恵を受けた現世代の絵師たちがそれぞれ創作を行い、最終的には先生との絆を感じて手塚作品に戻っていく、ということをイメージしたタイトルです。だから、名前の順番にもこだわりがあって、“神絵師の絆”ではないのです。

 このイメージは“美少女化”というコンセプトにもつながっていきます。“美少女化”=“現世代の絵師たちの創作”ですので、もとのコンテンツのプロフィールを引き出したり、その性格を忠実に反映させたりする必要はありません。でも一方で、それは手塚作品とのつながりを感じられるものである必要があります。これが本当に難題でした。イラストレーターさんが、みんな頭を抱えちゃいましたね(笑)。

――手塚作品の美少女化に際して、手塚プロダクション様から具体的なオーダーがありましたか?

佐藤:ほとんどなかったですね。むしろ原作を原作として扱うときのほうが失礼のないように注意しております。

――これだけ手塚作品への愛が強いと、逆にいざゲームの世界観を作る際には気を遣う点が多かったと思います。

佐藤:先に申し上げたコンセプトがありますので、実際の制作については若い開発スタッフたちに任せています。現代の若い感性で手塚作品のキャラクターを“リアレンジ”することが、手塚プロダクション様のオーダーでもありました。

 我々が期待いただいているのは、まさにこの部分なんです。むしろ『ネプテューヌ』シリーズのファンや、コンパイルハートのお客様がよろこんでくれる『絵師神の絆』を作らないといけない。手塚先生のスピリットと、美少女という要素をうまくミックスする必要があるわけです。
 ですから、現代のイラストレーターさんに描いていただくのですが、手塚作品がしっかりとインスパイアされているという点は大事にしました。インスパイアされた要素が、ゲームのなかでどれだけ感じ取ってもらえるのか。この部分がわたし達として真剣勝負するポイントです。

――伽羅少女(手塚作品の美少女化キャラクター)をデザインしていただく際に、どんな点に配慮しましたか?

東風輪:オリジナルのデザインと新デザインのバランスが難しかったですね。手塚先生のキャラクター、とくに、もともと女の子のキャラクターをデザインしようとするとより苦労が多かったです。やはり、もとのキャラクターデザインに似すぎてしまうんですね。

 “現世代の絵師たちの創作”にしないと、斬新さが足りないし、フックにならないんです。ですから、コンパイルハートらしい“萌えキャラクター”を徹底して目指しました。ブラック・ジャックも「おっ!」っと感じるビジュアルですよね。個人的には“火の鳥”が好きです。美少女なんですけど、明らかに“火の鳥”とわかるデザインになっているんです。まさしく、この見え方を目指しました。

――最初にデザインされた伽羅少女はどのキャラクターでしょうか?

東風輪:最初に完成したのは、ブラック・ジャックですね。ブラック・ジャックの完成版をほかの伽羅少女のデザインのレギュレーションにしていきました。当初はかなりオリジナルのデザインに寄っていたのですが、少しずつ修正していき、最終的なものに仕上がりました。

  • ▲ブラック・ジャック《イラストレーター:ナナメダケイ》

――ブラック・ジャックのデザインについて、コンパイルハートさんからのオーダーはあったのでしょうか?

東風輪:全キャラクターのデザインのルールを決めるという観点から、かなり調整のやり取りをしました。手塚作品をテーマにしているので、「お色気が強すぎるからよくない」など、きちんとボーダーラインを引きました。

佐藤:一方で、健康的お色気ならいいんです。手塚先生も非常に上手で、大人向けの作品を作っていたりします。医学博士ならではの、俯瞰的視点にもとづく構図です。決して劇画チックにならずに、どんなにリアルに描いても漫画として成立しているのも手塚作品の魅力ですよ。

――上がってきたデザインについて、手塚プロダクションさんの反応はいかがでしたか?

東風輪:すごくご好評いただきました。伽羅少女に声をあてた声優さんたちについてもすごく理解されており、気に入っていただきました。全体的に、かなりスムーズにお話ができたと思っています。

伽羅少女のモーションパターンやボイス数は想像以上のボリュームに

――『絵師神の絆』は、レトロとハイテクが融合した世界です。どのような発想から、世界観を構築しましたか?

東風輪:手塚先生が生きていた時代背景をモチーフに世界を作っていきました。そこに、手塚先生が描き残された未来への希望も加えています。

佐藤:原作をひも解くと、手塚先生はSF的なことを深く考えています。ですので、本作の世界観も“レトロフューチャー”といったイメージです。

  • ▲手塚治虫作品の話題が尽きないお2人。ボリュームの都合で本記事にすべては収められていないが、とにかく手塚“愛”にあふれていた。

――手塚治虫作品をゲームに落とし込む際に、バトルやシステムは、どのように制作を進めていきましたか?

東風輪:コンパイルハートとしては、『ネプテューヌ』シリーズなどでRPGをずっと制作してきました。ですから、これまでのノウハウを生かし、RPGにしてみようと考えました。キャラクターのビジュアル変化といった、システムへの落とし込みも、モバイルアプリのトレンドを研究し、踏襲しています。

佐藤:ちょっとシステムとはずれるかもしれませんが、バトルする相手は“シメキリ”なんですよね。これはすごく手塚先生的な発想だと思います。通常であれば“シメキリ”って守るものじゃないですか。それを敵ととらえて、倒していくというのは痛快なんですよ(笑)。

 現代の社会には、なかなか適合しない話と分かっていながら、手塚先生のバイタリティに学ぶべきものを、現代のクリエイターに感じてほしいと思っています。“シメキリ”を次から次へとぶち破ったことでこだわり抜けた“クオリティ”とは何か? それを感じてほしいですね。

――世界観や“シメキリ”の解釈など、たしかに『絵師神の絆』は“なんでもアリ”なように感じますね。

佐藤:やはり“なんでもアリ”であることは、手塚先生的な部分だと思います。細かいネタを仕込んだり、システムのどこかに“手塚先生”らしさを出しても、一般のお客様は気づかない可能性があります。ゲームをプレイしても気づかれないかもしれません。でも、それでもよいと思っています。

 まずは、ゲームとして素直におもしろいものでなければなりません。伽羅少女たちを集めたいと思わせなきゃいけない。そのうえで、なぜこんな名前がついているのだろうと興味を持っていただき、オリジナル作品にも触れてもらいたい。私としては、これが本望なのです。その結果、手塚ファンが増えていけば、少しでも御恩が返せるのかなと思います。

――ゲームの開発を担当するウインライトさんと協力するにいたった理由を教えてください

東風輪:ウインライトさんとは、かなり付き合いが長く、すでに共同で運営しているタイトルもあります。

佐藤:アイディアファクトリーのヒット作の1つでもある『幻想記セフィロト~時の世界樹~』は、ウインライトさんの開発によるものです。このタイトルは5年以上も続いている人気作です。そのご縁もあって、「手塚先生のゲームタイトルを作ります」とお話させて頂き、お受けいただきました。

――ウインライトさんの強みとはどんなところでしょう?

東風輪:やはりプログラミング技術の高さですね。RPGを作ってきた経験はすごいです。バトルシステムに関しても、私たちの要望をうまく入れ込んでいただき、進めていただきました。

佐藤:ウインライトさんも手塚作品のタイトルということで暴走するんです(笑)。「手塚先生のタイトルだったらこうじゃなきゃいけない!」とか。力の入れどころが別方向に行ってしまい、締め切りが遥かにオーバーしました。お客様には“シメキリ”は倒していただきますが、我々が“締め切り”を破ってどうすると(笑)。

――やはりウインライトさんにも“手塚愛”の強い方が多かったのでしょうか?

佐藤:みんなそうでしたね。ですから手塚先生をテーマにしたというのは、そういう良さを引き出せたと思います。愛情があふれすぎてしまいますが(笑)。

――お2人の想像を超えて出来上がったものとは何でしょうか?

東風輪:伽羅少女1人に対するをモーションパターン数やボイス数のボリューム感は当初の想像以上のものになりました。ほかのタイトルと比べても、やりすぎなくらいの量になっています。ボイスはほかのタイトルと比べても、3倍くらいありますよ。システムボイスは、とにかく多いですね。

 本編ではフルボイスですし、声優さんもキャラクター被りなしです。ついこだわっちゃいました(笑)。伽羅少女の個別のエピソードも現在のところ4つあります。伽羅少女を育成することによって変化するリアクションもかなり作り込まれていますよ。アップデートによって伽羅少女も増えますので、もっとご期待に応えられると思います。

――最後に、ユーザーさんに向けてメッセージをお願いします

佐藤:シメキリは過ぎてしまいました。しかしここまでこれたのは、多くの方々のご助力以外の何物でもありません。本当に方々にご迷惑をかけてしまいながら、ようやくリリースの時が迎えられました。今はヒットさせてさらに展開したい思いでおります。

東風輪:今回、手塚先生の作品をもとに多くのクリエイターの方々に参加していただきました。その方たちがこのプロジェクトを気に入っていただいて、うれしく思います。デザインに関しても、制作を進める上で仕上がるものによろこびを感じており、この伽羅少女たちをどのように動かすのかという観点から、しっかり作り込んでみなさんにお届けします。第1章には、いろいろなところにネタが仕込まれていて、多彩なアイディアが盛り込まれています。そして、多くのキャラクターたちに出会ってほしいと思います。

(C)TEZUKA PRODUCTIONS (C)Rudel inc. (C)COMPILE HEART
※「株式会社手塚プロダクション」「手塚治虫」の塚は旧字体が正式表記

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