『ペルソナ5 スクランブル』ならではの音作りとは? 『ペルソナ5S』特別インタビュー《サウンド編》

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 世界的に話題となったアトラスの人気RPG『ペルソナ5』の正統な続編として、アトラス×コーエーテクモゲームスがタッグを組んで制作し、2020年2月20日にPS4/Nintendo Switchで発売された『ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ』

 シリーズ初のアクションRPGでありながら、その遊び応えやプレイ感はまさに『ペルソナ5』そのもの! 実際に遊んだユーザーからも、ストーリーからUI(ユーザーインターフェース)に至るまで、あらゆる面で好評を博しているタイトルです。

 とくに、コーエーテクモゲームス側のサウンドチームとアトラスのサウンドチームがタッグを組んで作られたサウンド面は、これまでの作品ともまた違った魅力があり、アトラスファンとコーエーテクモゲームスファンの双方にヒット。発売後にもサウンドトラックがついた限定版を求めるユーザーの声が聞こえるほど、本作の魅力を語るうえで欠かせない要素となっています。

 今回は、アトラスのプロデューサー&ディレクターの金田大輔氏とコンポーザーの喜多條敦志氏、コーエーテクモゲームスのサウンドディレクター&コンポーザーの増岡郷太氏と、サウンドスーパーバイザーのMASA氏の4名に、お話をうかがいました。ぜひ最後までご覧ください!

アトラス『ペルソナ5 スクランブル』プロデューサー/ディレクター
金田大輔 氏(写真左から4番目)

 アトラスの主要タイトルに多く携わってきたクリエイター。近年では、『ペルソナQ2 ニュー シネマ ラビリンス』のプロデューサーも務めている。

アトラス『ペルソナ5 スクランブル』コンポーザー
喜多條敦志 氏(写真左から3番目)

 ナンバリングタイトルからスピンオフに至るまで、アトラスで数多くの『ペルソナ』サウンドを手掛けてきたサウンドチームの1人。

コーエーテクモゲームス『ペルソナ5 スクランブル』サウンドディレクター/コンポーザー
増岡郷太 氏(写真左から2番目)

 『真・三国無双8』などの楽曲を手掛けるコーエーテクモゲームスのサウンドチームリーダー。本作ではSEなども多く手掛けている。

コーエーテクモゲームス『ペルソナ5 スクランブル』サウンドスーパーバイザー
MASA 氏(写真左から1人目)

 『真・三國無双』シリーズの立ち上げからサウンドディレクターを担当。数多くの『無双』シリーズ楽曲を産み出したクリエイター。本作では、目黒将司氏の楽曲をアレンジしている。

ペルソナらしさでもコーエーテクモらしさでもない、コラボならではの楽曲

──まずは、それぞれがどのような形で本作のサウンド制作に参加されたのかを教えてください。

金田大輔氏(以下、敬称略):プロデューサーとして最初に方向性の話などをしましたが、サウンドに関して言うと、一番最初に「聞いた人の印象に残る曲にして欲しい」とお願いをした形です。そこから先は弊社の喜多條とコーエーテクモゲームスの増岡さんやMASAさんにお任せして、すごくいい形の曲に仕上げていただきました。

喜多條敦志氏(以下、敬称略):新曲の一部と、金田が言ったことをサウンド用語に言い換えて増岡さんにお伝えしたり、監修というと大袈裟ですが、アトラスのサウンドの窓口をやっていました。

増岡郷太氏(以下、敬称略):私は、サウンドディレクターという立場だったので音作り全体ですね。音楽だけではなくSE(サウンドエフェクト/効果音)やボイスをゲーム内でどう演出して、どう鳴らすかといったデザインをやりました。あとは実際に作曲をしたり、効果音を作ったりといった現場の業務もやっていました。

MASA氏(以下、敬称略):私は、もともと当社の『無双』シリーズと呼ばれるようなタイトルを多く担当してきましたので、そういった観点から、増岡の相談に「コーエーテクモゲームスが関わるアクションゲームなら、こんな感じの音楽性になるのではないか」とアドバイスをしたり、目黒将司さんの楽曲をアレンジさせていただいたりしました。

──金田さんが提案した「聞いた人の印象に残る曲であって欲しい」というコンセプトは、具体的にどのような形で実現されたのでしょうか?

喜多條:サウンドチームは、普段からよく“ペルソナらしさ”と言われるのですが、シリーズを担当してきた目黒(『ペルソナ』シリーズの楽曲を多く手掛けてきたアトラスの目黒将司氏)の音楽性による部分が大きいと思いますので、今作においてはあまり『ペルソナ』を意識しないようにとお伝えしました。せっかくのコラボレーションなので、お互いのいいところを引き出したかったということもあり、こちらから細かい注文はいっさいせずに、コーエーテクモゲームスさんの思う通りに作ってくださいとお願いしました。

増岡:最初に当社のほうでデモ曲を作ったのですが、それを聞いていただいたときにその話が出ました。やはり、どうしても『ペルソナ5』の音楽性には影響を受けているのですが、影響を受けすぎるとコラボをする楽しみもなくなってしまいますし、新しいものにもなりません。……という話になって、我々はそこからずいぶん悩みました。

MASA:最初に増岡がデモ曲を1曲書くのですが、それが非常に難航しました。やはり『ペルソナ5』の音楽性に寄せようと意識した楽曲を作るとコーエーテクモゲームスらしさがなくなるし、どれくらいのさじ加減でバランスを取るべきか、非常に悩ましい。だから、最初の1曲はすごく難産でした。最初はすごく探り探りで作っていたのですが、じつは開発初期に目黒さんとお会いするチャンスがあり、そこで「どのように作ったらいいですか?」と相談したら、「本当に好きにやってください」と言っていただき、肩の荷が下りました。その後、アトラスさんといろいろ話をして、お互いのことが理解できたうえで好きなことをやるという作り方が、今回は非常にうまくいった気がします。

喜多條:金田からは「もうちょっと尖らして欲しい」といった、漠然とした注文しかこないので逆に難しかったですね(笑)。

金田:私は音楽がわかる人間ではないので、“料理”の仕方はサウンドチームにお任せするしかなかったのですが、『ペルソナ5』らしさを失ってもいけないですし、かと言ってコーエーテクモゲームスさんらしさがなくなってもいけない。そこがずっと悩みどころでもありました。サウンドチームのみなさんもすごく葛藤していましたが、結果的にはお互いの持ち味が良い形にまとまったと思います。

──ちなみに、最初にやり取りしたなかでいろいろ悩まれた曲というのは、どのシーンの曲ですか?

増岡:ゲーム開始直後のスクランブル交差点の戦闘時に流れる“Daredevil”という曲です。一番最初に作ったボーカル入りの曲がこれで、そこからもう1曲終盤のボスで流れる“Counter Strike”という曲を作ったのですが、最初に作ったその2曲が難産でした。

  • ▲ゲーム開始直後のスクランブル交差点での戦闘時や、ジェイルのトラウマルームに向かう時など特定の場面で流れる“Daredevil”は、ユーザーの間でも話題になっている人気の曲だ。

MASA:『無双』シリーズなど、当社のアクションゲームでも戦闘中にボーカルが入る曲はほとんどなくて、基本的にはインスト(歌詞なし)なんですよ。歌物をあまり流した経験がない我々からすると、キャラクターたちがしゃべるセリフもありますし、セリフとボーカルが喧嘩しないか、どうやって住み分ければいいのか、というところを非常に気にしながら作った記憶があります。

喜多條:バトルシーンのボリュームバランスに関しては、今回で一番苦労しました。

増岡:私の作業としても、一番苦労したところです。ボーカル入りの時点でまず声があり、ナビの情報支援ボイスがあり、アクション中のボイスがあり、SEも激しくしないといけない。同時に鳴る音が多いので、その住み分けをいかにうまく作っていくかが、今回もっとも苦労した部分です。

MASA:当然ながら歌を聞きたい人もいますし、セリフも同時に聞きたい人もいます。効果音も聞きたいし、結局は全部聞きたい、という要望に応えるのに本当に苦労しました。

金田:いつもの弊社で作っているターン制のバトルとかと違って、戦闘中の流れが止まらないことも悩みでした。

MASA:ゲームの遊び方しだいで、どこでどの音が鳴るかも変わってしまうんですよ。ターン制バトルならボタンを押すという手続きがあり、そこで初めて音が鳴りますが、アクションゲームの場合はいつでも音が出ていますし、逆に敵がいないところに逃げて音が出ていない状態にもできます。いつ、どんなバランス、どんなブレンド具合で音が鳴るのかは、まったく予測できないんです。そんな状態で、歌と台詞とアクションのヒット音などの効果音、風の音などの環境音を、どのような配分でミックスすればいいのか、というのが課題でしたが、結果的にいいバランスになったと思います。

増岡:最終的には、私がベストだと思うバランスに調整しました。じつは、当社の『無双』シリーズと比べるとBGMの音量が大きめで、ちゃんと歌声が聞こえてくるようになっているんですよ。『ペルソナ』の戦闘中に歌が流れるのは大きな特色なので、アクションですが歌声が聞こえやすいバランスに調整しています。

目黒さんにぶん殴られるくらいの覚悟でチャレンジしたアレンジ曲

──アレンジ楽曲についてはいかがでしたか?

MASA:私は目黒さんの曲を2曲ほどアレンジさせていただきましたが、2曲とも『ペルソナ5』のなかでは重要度が高い人気曲です。それを私がアレンジすることになったので、最初に「どうなっても知らないぞ」と言いました(笑)。もう、目黒さんにぶん殴られる覚悟でやりましたね。中途半端でぶん殴る気にもなれないものだけはやめておこうと。もちろん、目黒さんの曲をぶち壊したいわけではなくて、これまで私が作ってきたようなアレンジにして欲しい、ということだと解釈しました。

増岡:私自身“Last surprise”に関しては少しハードロック系のノリでやってみたいと思っていたので、だったらMASAにお願いするのが一番いいだろうと考えました。

喜多條:それが素晴らしくて、金田とアレンジされた曲を聞いてすぐに「これは歌も録り直すべきだ」という話になって。

金田:一番最初は、もともとあった歌声が当てられていたのですが、ものすごくカッコいいアレンジでしたし、これだけ曲の勢いが変わっているならLynさんの歌い方も絶対に変わるはずだと思って、この歌だけはLynさんに再収録をお願いしました。

喜多條:レコーディング中はイントロ(曲の出だし)から曲を流すのですが、その時にLynさんが何気なく鼻歌を口ずさんでいて、それを「今のが欲しいです!」とお願いして入れてもらったんですよ。

MASA:最初に「エェ~」とハミングが入る部分ですよね。あそこは鳥肌が立ちました。

喜多條:Lynさんもあのアレンジだったからこそ、イントロのフレーズが浮かんだのだと思います。

増岡:録り直して本当に正解でしたね。

喜多條:『ペルソナ5』でも『無双』シリーズでもない『ペルソナ5 スクランブル』の曲という感じがしました。

金田:体験版の範囲でも流れているので、聞いてくれたユーザーさんがすごくテンションが上がると喜んでくれましたし、ゲーム性ともすごくマッチしていました。正直、私は目黒の曲がこう変わるのかという驚きも素直にありました。

  • ▲『ペルソナ5』の通常戦闘曲“Last surprise”が、まさかのハードロックアレンジに! コーエーテクモゲームスらしいギターサウンドとの相性はバッチリだ。

──今回はギターのパワーがすごくある曲が多いですが、そのあたりも意識されましたか?

増岡:やはり、SEも派手になるゲームなので、曲としてのパワーを出さないと負けてしまいますから。派手なアクションに合わせるとなると、ギターの音はすごく合います。意識的に入れたわけではないのですが、気付いたらオープニングにもギターが入っていたので、統一感を出せました。

──オープニング曲は誰が作られたのですか?

喜多條:私が作曲して、ギターをMASAさんに弾いていただきました。ギターを入れるイメージはあったのですが、せっかくのオープニングですし、何か一緒にできないかなと。

増岡:Lynさんの歌を録っている時に、ちょっと手伝ってくださいみたいな流れで決まりましたね。

──ちなみに、Lynさんの反応は?

喜多條:「今回はキラーチューンですね!」と言われました。歌う曲すべてがキラーチューン(一度聴くと好きになってしまう魅力的な曲、代表曲)だと。

増岡:歌うのが難しいともおっしゃってましたね。

喜多條:とくに増岡さんの曲が難しいと(笑)。盛り上げどころがいっぱいありますから。

増岡:あえて作ってはいるのですが、これはLynさんに怒られるかもと思いながら、とにかくメロディーが上がり続ける曲を書いてました。

金田:収録の時にメイキングビデオを作らせていただいたのですが、そのときにLynさんが「コーエーテクモゲームスさんの曲は『ペルソナ』らしさを出しつつ、どの曲もチャレンジしていておもしろかった」とおっしゃっていました。

喜多條:コーエーテクモゲームスさんの曲をLynさんが歌うのはお互い初めてのチャレンジでしたし、どんな感じになるのかはなかなか想像できなかったですね。

増岡:想像を超えていけたと思いますよ。

──今回は、ボーカル曲の歌詞にもいろいろな方が関わっていますね。

喜多條:作詞についてはオープニングがLotus Juiceさんで、バトルの4曲を弊社のスタッフが書いています。彼らは他の『ペルソナ』シリーズ作品でも良い詞を書いてくれていましたし、社内なので修正もしやすい。なんといっても『ペルソナ』シリーズが、すごく好きで熱意もあるのでお願いしました。

金田:Lotusさんには作詞だけではなく、歌録りを行うタイミングでもサポートとして現場に立ち会っていただいたり、歌物のトータル的な監修もしていただきました。

──エンディングの歌詞は金田さんが担当されており、初めての体験ということですが、感想はいかがでしたか?

金田:最初は何から書くべきか、取っ掛かりが見つからず迷いました。それで、弊社で作詞をした経験があるスタッフに相談したんですよ。そこで、そのスタッフから「どのゲームにもテーマやメッセージ性があります。キャラクターにテーマを直接語らせるわけにはいきませんが、エンディングの歌だけは、テーマとして伝えたいことをはっきり伝えられます。ユーザーがメッセージ性を言葉で感じる最後のタイミングが、エンディングの歌詞なんですよ」と言われました。それを聞いて考えがまとまり、できるだけシンプルな言葉で作品のテーマやメッセージを曲に合わせて真っ直ぐ書かせていただきました。

喜多條:わかりやすくていい歌詞だと思いますよ。最初にLynさんが歌い始めた瞬間、鳥肌が立つような感じでした。

増岡:すごくいい歌詞でしたね。

金田:本当ですか? 裏で違うこと言ってませんか?

喜多條:言ってないから安心してください(笑)。

各都市ごとに環境音が全部違う! SEへの細かすぎるこだわり

──制作時に、アトラスのサウンドチームのやり方を参考にされたところはありましたか?

増岡:まず、『ペルソナ5』で使われていたSEを素材としていただけたので、システム系の音やペルソナを出すときの“ブワッ”となる瞬間の音などは、原作の『ペルソナ5』のものをそのまま使っています。“総攻撃”も、多少加工してはいますが『ペルソナ5』らしさを出すために、ほぼそのままです。逆に、今回のアクション部分、敵を斬ったときの音などは、当社が昔からやっていることを生かせるので、そこはこちらが好きにやらせていただきました。

──個人的には通販のピコピコした効果音や、料理の音などがすごくリアルだと思いました。

増岡:通販の音はソフィーが起動するときに「ピコン」となる音があるのですが、その音をそのまま使っています。キャンセル音も「ピコン」の音を逆にしているんですよ。ソフィーは起動するときの音が2種類あって、1つは喜多條さんが作った“AIと心”というソフィーのテーマ曲の最初のメロディーを拝借して作っているのですが、今回はそれを使いました。

喜多條:そうだったんですか。知らなかった!

MASA:ここで初めて判明した事実ですね(笑)。

増岡:ソフィーのテーマ曲と、ソフィーを象徴するSEを関連付けられないかと思っていたので、喜多條さんに内緒でやりました……。

喜多條:もう、全然内緒でやってもらっても構わないですよ(笑)。

  • ▲UIの斬新さと合わせて、本作のなかでも非常に印象に残るソフィーのショップ。通販の音やソフィーの起動音とテーマ曲を聞き比べてみよう。

──ソフィーのテーマ曲と言えば、彼女の鼻歌もテーマ曲のメロディーなのですか?

喜多條:アレはエンディングのメロディーを口ずさんでいます。もともと「ソフィーの鼻歌を入れたい」と金田に言われてから作り始めたメロディーなんですよ。ただ、エンディングのどこを鼻歌にするかはちょっと悩みました。

金田:鼻歌は、ソフィーとあの人物に関する伏線が欲しかったという理由があります。ソフィーは「人の良き友人になれ」という言葉だけではなく、あの鼻歌も覚えていたという話にしたかったので喜多條に作ってもらいました。

増岡:“AIと心”とは別の曲ですが、ある意味でエンディング曲も近い関係ですね。鼻歌は序盤からソフィーが口ずさんでいるので、印象に残ると思います。あとはSEだと、今回はいろいろな地方に行くので、各ステージのSEの作り込みはかなり頑張りました。渋谷に関しては『ペルソナ5』のSEをいただけたのですが、仙台や札幌などの各地方に関しては、まずどんな場所なのかというリサーチから始めなければならず、それが結構大変でした。いろいろな音が重なっているのですが、じつは地域ごとに全部音を変えています。自分でも行ける範囲で遠出して録音したり、地方に住んでいる友人に地方っぽい音を録ってきてもらったりして、それも参考にしています。

MASA:都会などの賑やかなところは、日本全国だいたいどこでも同じなんですよ。違いを感じるのは気温や湿度。それから匂いの差だったりするので、そこを耳で聞こえるものとして抽出するのは大変な作業だったと思います。

増岡:地方性という話で言うと、どうしてもSEだけで表現するのは難しいと。そこで、今回はボイスの部分でも地方性を表現しようということで、たまに聞こえる“ガヤガヤ声”に、その地域の人が言いそうなセリフや方言を入れたり、街頭モニターでご当地のCMっぽいボイスを流しています。ストーリーの変化によって微妙にCMの内容を変えているなど、細かい演出もしているんですよ。

  • ▲地方によって環境音も変えているという徹底したこだわり。2周目を遊ぶときは、各地方の“音(SE)”にも耳を傾けてみて欲しい。

──“地方の音”ということですが、具体的には、どのような音を参考にされたのでしょうか?

増岡:近場でいえば、当社は日吉にあるので裏口から出ると普通に住宅街だったりします。そこで音を録って繁華街ではないステージのベースとして鳴らし、上にいろいろな音を重ねて雰囲気を出したりしていました。あとは、金田さんたちが実際にキャンピングカーでロケに行っているので、そこに同行していた当社の人間にレコーダーを渡して「とにかく、いろいろなところでレコーダーを回して録音して欲しい」とお願いしました。

MASA:キャンピングカーは壁が厚いので、ドアの開け閉めをすると独特の音がするんですよ。そういった特有の音をたくさん録ってもらっています。

──そうやって録音した生活音や環境音を背景に流し、ベースにして音を作られたのですね。

MASA:生活音や環境音を流すと、そこにいる臨場感が生まれるんですよ。それは、後から音を並べて作ろうとしても絶対に再現できない音なんです。たとえば、人がワイワイしている雑踏の音も、1人1人のセリフを並べてもそれっぽくなりません。現実の音を録音してベースにしながら、それを加工する作り方をしています。

──昔のゲームとは違って、今のクオリティだからこそしなくてはならない作業という印象ですね。

MASA:ゲームが3Dになってからは、こういった作業が増えました。それまでの2Dドット絵では、こういう作り方をしても効果を発揮しないんですよ。むしろ、邪魔だったかもしれません。

増岡:1つ思い出した笑い話があるのですが、今回は舞台が夏じゃないですか。だから、最初は安直にルブランの前の銭湯の木に、セミの声を置いて鳴らしまくっていたんですよ。そうしたら、開発からすごいクレームがきました。「いくらなんでもセミがうるさ過ぎる!」と(笑)。そこで、セミの声の頻度を下げようか、種類を変えようかとなったのですが、その変更がなかなかひと筋縄ではいきませんでした。

──開発からのクレームで、セミの種類が変わってしまった(笑)。

増岡:とはいえ、変えすぎると今度はセミに詳しい方がプレイしたときに「このセミは、この地方にいません」と言われてしまうので悩みました。今回は日本全国に行くということで、効果音を作る前に各地方でどんな動物がいるのかというリサーチもしてるんですよ。

金田:雑踏の音や車の音。人が話してくる声など、いろいろな音が次々に聞こえてくるのが本当にすごいですよね。現実世界とジェイルのギャップ感も、SEのおかげで引き立っているところがあると思います。

  • ▲アドベンチャーパート中に聞こえてくるSEや背景音は、都市ごとに別のものが用意されているという。実際に遊んで、聞き比べてみよう!

──“ジェイル”は架空の世界ですが、どのような形で音を作り込んでいったのですか?

増岡:ジェイルはすごく難しかったです。現実世界と同じく、それぞれで世界観が違うので統一して考えずに、渋谷のジェイルならこの音、仙台だったらこの音と、すべて分けて考えました。ただ、根本としては現実世界ほど音が鳴っていないんですよ。基本的にアクションをする場所なので、気持ちよくアクションに集中できるようにしています。それから、現実世界とは違う場所ということを象徴するような音になるようにも心掛けました。渋谷の地下だと残響音がちょっと強めになっているなど、同じジェイル内でも場所によって声や音のエフェクトを調整しています。

──SE1つをとっても“縁の下の力持ち的な存在”として工夫されているのですね。

増岡:ただ、環境音を頑張れば頑張るほど、アクションの音が目立たなくなってしまうという問題が……。さらにボイスとBGMが乗るのですが、環境音はあくまで一番下のベースとなる部分なので、どう折り合いをつけるのかが悩みどころではありました。

金田:すごく工夫されてますよね。たとえば、シャドウアリスと戦うところでは周囲に観客がいるのですが、技を出すたびに観客が沸くんですよ。

増岡:それはチームメンバーの一人が提案してくれました。彼が「こうしたら絶対おもしろいですよ!」とアイデアを出してくれて、ほぼ1人でやってくれました。アレはよかったですね。

金田:いい感じで鳴っていますよね。声が聞こえてくることで、逆に観客がいることに気づくんですよ。その場に絵があっても気付かれないことはよくあるのですが、音が入ったことで絵に気づけるんです。宝箱などの見えにくい物に対するヒントという意味合いで鳴るときもありますし、宝魔が出た時も音で気付かせている部分があるなど、ジェイルの音は現実世界以上にゲーム性に絡んでいます。

  • ▲環境音に加えて、戦闘の効果音やかけ声、BGMまで重なって流れるジェイル内での戦闘シーン。ヘッドホンやイヤホンなどで意識して聴くと、その工夫の一端を垣間見られるかも!?

サウンドチームお気に入りの“Daredevil”と“Counter Strike”

──今回、みなさんが一番印象に残っている曲を教えていただけますか?

金田:本当にどの曲もすごくカッコいいですが、私は最初に話していた“Last surprise”のアレンジですね。あの曲が、最初に聴いた時のインパクトでは一番大きかったかなと。今回作られた新曲もいいのですが、聞き覚えのある曲がものすごくカッコいいアレンジになっていて、改めてLynさんに歌い直してもらったことで、『ペルソナ5 スクランブル』そのものの完成図がイメージできたんですよ。それもあって印象深いです。

喜多條:私は、最初に増岡さんが作っていただいたデモ曲の“Daredevil”が印象に残っています。中盤にLynさんが高音で「Strike!」と歌うところがいいんですよ。こう作ってきたのか、とすごく悔しかったですね。

増岡:あのシャウトは、すごく高い音なので普通は書かないんですが、Lynさんなら歌えるかなと思って書きました。

喜多條:1音だけ音符がポンと置かれていたところに、弊社の作詞担当が“Strike”という単語を当てたんです。あそこは悔しい思いをしました。

増岡:私はサウンドディレクターの立場からいくと全曲です。あえて1曲をあげるなら、自分の曲なので手前味噌なのですが、終盤でかかる“Counter Strike”です。この戦闘曲が、一番作るのに苦労しました。今回のタイトルとしての色を出したくて作った曲です。ですから『ペルソナ5』らしさや『無双』らしさといったワードは完全に取り払っていて、『ペルソナ5 スクランブル』だからできる曲を目指しました。メロディーも大変な曲でLynさんも歌うのに苦労されていましたが、すごくいい場面でかかるんですよ。

喜多條:“Counter Strike”は弊社でも人気がある曲です。

増岡:チャレンジした曲なので、ユーザーの方にどう取っていただけるか不安はあったのですが、私としてはよくできた曲だと思っています。

MASA:私は少しだけ参加しただけなのですが、さきほど金田さんに褒めていただいた“Last Surprise”のアレンジですね。あの曲をアレンジしたときは、増岡が“Daredevil”と“Counter Strike”を苦しんだ末に生み出したあとで、言ってしまえばアトラスさんに1度合格をいただいて方向性が見えたときでした。そのあとに私のほうへオーダーが来たので、かなり楽をしてやらせていただきました。私の中で『ペルソナ5』と言えば“Last Surprise”という印象が強いんですよ。結果的に2曲アレンジしていますが、最初はこの曲だけをアレンジして欲しいという依頼でしたので「それなら、この1曲に私の個性を込めるしかない!」と。目黒さんの曲を私が料理したらこうなります、というところを見せておかないといけないと思い、フルスイングで作りました。だから、金田さんに褒めていただいたのはうれしいですね。曲自体の話で言うと、あの曲はイントロをギターで弾くと映えるんです。しかも、それをツインギターでハモって弾くとハードロックに聞こえると思っていたので、そこにヒントを得てからは割とスルスルとできました。

増岡:最初に聞いたときはビックリしました。イントロはストリングスのフレーズという固定観念があったのに、完成した曲を聞いたらいきなりギターになっていたので、あまりに驚いてもう笑っちゃいましたよ。

MASA:最初に聴いていただいたバージョンは、ストリングスを全部排除したバージョンでした。全部排除してギターとドラムとベースのすごくシンプルな構成にしていたのですが、流石に「どこかでストリングスを入れませんか」と言われてしまって、ちょっと戻しました(笑)。

増岡:「せめて、サビの裏くらいは入れましょう」と言いましたね。

MASA:やりすぎちゃったかなと思いつつも、やりすぎるくらいやらないと意味がないですし、私が頼まれた意義も薄れてしまいますから。当社では、これまでもいくつかコラボゲームを作っていて、私も何本か担当させていただきましたが、コラボゲームは制作に取り組む意義を考えさせられますね。コーエーテクモゲームスが、このIPのコラボゲームを作る意義とは何か。ほかの会社じゃなくてなぜうちなのか。別のクリエイターではなく、私がやる意義はどこにあるのかと、いつも考えています。それを“Last Surprise”のアレンジに込めました。そのあとで、もう1曲アレンジしてくださいと言われたのですが……(笑)。

増岡:それは作戦です(笑)。最初からもう1曲あると言ってしまうと、無意識に50:50の力配分になっちゃうじゃないですか。どちらも100の力でやって欲しかったので黙ってました。

MASA:確かに、最初から2曲お願いしますと言われていたら、ペース配分を考えていたかもしれません。

喜多條:全力を出してもらうための作戦だったと。

MASA:出番が1回しかないと思っていたので、全力を出したらまだあると言われて驚きました。

金田:増岡さんの裏話が次々と明らかに(笑)。その勢いでLynさんの歌も取り直してよかったですね。

増岡:Lynさんの歌で思い出したのですが、ゲームの7割くらいが完成するまでは仮の歌を当てていたんですよ。Lynさんの歌に差し替えた瞬間に「コレはちゃんと『ペルソナ5』だ」と盛り上がって、開発がすごくいい方向に向かってくれました。Lynさんの歌はすごく『ペルソナ5』らしさを出す象徴になっていると実感しました。

金田:うちの社内でも、同じような反応がありました。仲間と一緒に戦っている感が出るかどうかはディレクターの薄田(『ペルソナ5 スクランブル』のディレクターを務めたアトラスの薄田無門氏)もすごく気にしていたところだったのですが、実際に音声が入ると周りで一緒に戦っているという臨場感が増したので、音の影響は大きいと感じましたね。“音”については、どうしても作業順的に後ろのほうになりやすいんですよ。開発の後半で一気に入るのですが、今回であればLynさんの歌声が入ったことでタイトルの方向性がビシっと固まって、すごくよくなりました。

増岡:アクション関連のボイスは、当社が作っているアクションゲームのなかでもかなり多めに録っています。怪盗団メンバーは、ここだけは絶対に自分がやると言い張って、ほとんど1人でデータを組み込み、どこでどう鳴らすかの作業をしていました。大変でしたが、一緒に戦ってる感が出たと思いますし、単純に1人のキャラクターだけを使っていても、カッコよさや爽快感を感じていただけるのではないでしょうか。それから、開発当初は「どこで、どんな曲をかけるか」という演出も仮で決めていたのですが、一度私と喜多條さんで話し合おうということになり、当社のスタジオに喜多條さんをお呼びして、朝から晩まで2人でゲームをプレイしていたのも記憶に新しいですね。今回、アトラスさんがすごいと思ったのは、いわゆる会話が続くイベントシーンへのこだわりです。台詞のどこで曲を止めて、次にどこで流すかに、すごくこだわりを持っていらっしゃるんです。明るいシーンだから明るい曲をかけておく、というようなことは絶対にやりません。ちゃんと、その場面やキャラクターの心情、雰囲気が変わった瞬間に合わせて、それに応じた曲に変えているんです。

喜多條:そこが今回、唯一監修したところかもしれません。曲作り自体は、コーエーテクモゲームスさんにお任せでしたから。でも、楽しかったですね。増岡さんと2人でゲームを遊び続けたからこそ、イベントを全部把握できてちゃんと作れたのだと思います。

増岡:その場でアイデアを出して「このシーンのために曲を作ろうか」なんて話もしてましたね。

金田:ゲーム開発は、素材が出そろった最後の1カ月がすごく大事なんです。その時期はデバッグもあるので触れられないところもあるのですが、最後の1カ月にパワーを注入できるとクオリティが駆け上がります。うちの社内だけで作っていたら無茶なところもあったのですが、コーエーテクモゲームスさんと一緒に作れたことがうれしかったですし、最後の追い込みも一緒になってやってもらえました。だから、こちらとしても絶対に手を抜けなかったし、そのぶん終わったときの達成感も大きかったです。本当にありがたかったですね。

──では、最後にユーザーのみなさんにひと言お願いします。

金田:今回は、どちらの会社らしさも超えた『ペルソナ5 スクランブル』らしさを目指して曲を作られていたのだと、改めて認識しました。プレイされた方は、ここでの話を思い返しながら楽曲やSEを聴いていただけるとうれしいですね。まだプレイされていない方は、体験版もあるのでぜひ!

喜多條:コーエーテクモゲームスさんが、すごく『ペルソナ』を愛してくれていて、最後までモチベーションが高いまま、『ペルソナ』愛を持って取り組んでいただけました。開発陣みんなが自信を持って作ったタイトルなので、ぜひ遊んでみてください。

増岡:コラボタイトルということで、アトラスさんと一緒に制作しましたが、サウンドが一番タッグを組めた部分だと思っています。ちゃんと『ペルソナ5 スクランブル』のサウンドというところを目指して作っていますし、それが実現できているという実感もありますので、遊んでいただいたみなさんにもサウンドがいいなと思っていただけると信じています。

MASA:アトラスさんや『ペルソナ』シリーズが好きなファンの方からすると、コーエーテクモゲームスと一緒に作ることに不安を感じられた方もいたのではないかと思います。でも、そこはご安心くださいと言える物ができたと思います。ぜひ遊んでいただいて、音楽も聞いてみてください。

 『ペルソナ』シリーズの魅力を残しつつ、コラボならではの『ペルソナ5 スクランブル』独自の楽曲を生み出した4人のお話は、印象深いものだったと思います。《アートユニット編》《プロデューサー&ディレクター編》も近日お届けしますので、ご期待ください!

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  • 発売日: 2020年2月20日
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  • 対応機種: Switch
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  • 発売日: 2020年2月20日
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