酒井戸はダークヒーローにしたかった。アニメ『イド』あおきえい監督インタビュー(ネタバレあり)

長雨
公開日時

 殺意を感知するシステム“ミズハノメ”が生み出した犯人の深層心理“殺意の世界(井戸)”に入り込み、事件を推理する名探偵・酒井戸たちの活躍を描くオリジナルSFミステリアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』のBlu-ray BOX上巻が4月24日に発売されます。

 発売を記念した本作の監督・あおきえい氏のインタビューを2回に渡ってお届け! 前編は企画の経緯や主人公である名探偵・酒井戸の魅力についてうかがいました。

ダークヒーローを描きたかった

――お約束の質問になりますが、本作の企画はいつごろ、どのように動き始めたのですか?

 7年か8年くらい前にプロデューサーの須田泰雄さんから、オリジナルアニメを作りませんかというコンタクトを受けて、2人で企画を練り始めたのが最初です。

 そのころは世界観の形はまだなく、某ハリウッド映画のヒーローや人間賛歌を描く人気マンガの主人公のように、ひょうひょうとしていてかっこいい、できればダークヒーローを作りたいという話をしていました。

  • ▲本作の主人公、名探偵・酒井戸(声優:津田健次郎)。連続殺人犯の“殺意の世界(井戸)”に潜って事件を解決する探偵役だが、現実の彼・鳴瓢秋人は複数の犯人を自殺に追い込んだ殺人者という業を背負っている。

――“殺意の世界(井戸)”などのアイデアは、どのような形で登場したのか教えてください。

 “殺意の世界”で謎を解く探偵ものという設定は、脚本を担当する舞城王太郎さんのアイデアです。

――小説家として活躍する舞城氏には、どんな経緯でオファーされたのでしょう?

 須田さんと企画を固めたあと何人かのライターさんにコンタクトを取ったんですが、上手くまとまり切らなかったんです。そんなとき舞城さんの大ファンだった須田さんから提案されて、最初はダメもとでお願いした形です。

――世界観などのアイデアは、舞城氏の方から?

 そうですね。“殺意の世界(井戸)”といった世界観、各キャラクターは、舞城さんが主導でアイデアを出してくれました。

――2月2日に東京メディアシティ TMCスタジオで開催されたスペシャルイベントで1度脚本が完成したあと、2周目の作業に入ったと話されていましたが、ここで大きく変わった部分などあったのでしょうか?

 1周目のシナリオは、“殺意の世界(井戸)”に探偵が挑むという事件ものの印象が今より強いものでした。

 またアイデアがたくさん盛り込まれていたぶん後半まとまり切らない部分があったり、キャラクターをもっと掘り下げたりした方がいいだろうと、いらない部分をオミットしたりアイデアを足したりしていきました。

  • ▲物語では酒井戸の活躍だけでなく、鳴瓢の過去も紐解かれていく。

――Twitterで公開された初期案に『ALIEN THURSDAYYY』というタイトルや“木曜日の探偵”という情報があり、初期段階から曜日へのこだわりなどが込めれていたんですね。

 これは設定が似ているだけで、本編とは実は違っています。

 またタイトルについても舞城さんが『ディスコ探偵水曜日』という作品を書いているので、そのシリーズに見えるのはよくないだろうという思いがあって変更しました。




  • ▲Twitterで公開された舞城王太郎さんのイラスト。

――『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』には、どのような想い、ニュアンスが込められているんでしょう? 

 “殺意の世界(井戸)”に侵略(INVADED)されていきますよという感じです。タイトル会議は1回だけしましたが、喧々諤々といった感じでもなく舞城さんが提案してくださった案でスッと決まりました。

『イド』は鳴瓢が傷を克服していく物語

――初期の段階からダークヒーローを作りたいと思われていたそうですが、あおき監督から見て名探偵・酒井戸、そして 鳴瓢秋人の魅力はどこだと思いますか?

 『イド』の話は、鳴瓢の物語になるといいなと思っていました。過去に傷がある人間が、自分のなかで答えを出し、克服していく。彼のそんな姿が、とても好きです。

 第9話と第10話で彼は自分自身の“殺意の世界(井戸)”に入り、家族と過ごせる幸せな時間を過ごします。

 しかし事件を追ったり、本堂町小春と出会ったりするなかで、自分の居場所はここではなく辛い現実の世界なんだと決断するんです。その姿が、魅力的に見えるといいなと思って描いていました。

――家族と過ごす鳴瓢を見て、こんな表情もするんだと深みが増した印象を受けました。

 そういってもらえると、嬉しいです。

  • ▲第9、10話で、ある事情から酒井戸はタブーとされている自分自身の“殺意の世界(井戸)”に入ってしまう。そこには、彼の家族との時間が待っていて……。それまでの鳴瓢の苦悩と、穏やかな家族の時間のギャップが切ない。

――酒井戸をはじめ、個性豊かな探偵たちが登場します。彼らの設定は、どのように決めていったのでしょうか?

 舞城さんは大枠を作るのではなく、物語に面白そうなピースやキャラクターを配置して、そこから発展させていくスタイルの作家さんです。

 どうしたらより面白くなるか自身でドライブをかけながら進めていくので、終わってみるまで誰がどうなるかはわかりませんでした。

 最初から最後まで役割が決まっていたのは、真犯人のジョン・ウォーカーくらいですね(笑)。

――探偵たちの衣装は、古今東西の名探偵といった雰囲気でしたね。それぞれのデザインについてのこだわりを教えてください。

 デザインは、キャラクターデザインの小玉有起さんの力が大きいです。

 舞城さんの脚本だけ読むともっとリアリスティックな等身の高い、骨格がガチっとした絵でもおかしくありませんでした。それを小玉さんが少年漫画のような、線が整理されてポップな雰囲気で描いてくれて、それがとてもよかったんです。

 設定やデザインについて密に打ち合わせをした印象はなく、シナリオを読んでもらって小玉さんが出してきたデザインが、名探偵・聖井戸御代(ひじりいどみよ)以外ほぼ一発で決まった気がします。小玉さん自身が自主リテイクされた部分はあった気がしますが。

――聖井戸御代は、どんな部分を修正されたんでしょうか?

 帽子をどうしようなど、細かい部分です。

 小玉さんがインタビューで僕から「アイドルっぽく」という指示を受けたと話していて、確かに言ったなと思いましたね(笑)。

 彼女はコスチュームチェンジに近いですし、本編に登場する3人目の探偵なのでどうしようか悩みました。最終的には、1番スタンダードな名探偵の姿になっています。

  • ▲外務分析官として活動していた本堂町小春(声優:M・A・0)が、物語の中盤から三人目の名探偵・聖井戸御代となって活躍する。

飛鳥井木記とは何者!?

――探偵たちと共に印象的だったのが、終盤のキーパーソンとなるカエルちゃんにそっくりな女性・飛鳥井木記です。話せる範囲で構いませんので、彼女が何者なのか教えてください。

 彼女は、“井戸”というシステムの核になる人間です。

 舞城さんが言っていたのは、確か“ドリーム フォビア(夢恐怖症)”。ある種のサトラレで、自身の夢を周囲に共有してしまう能力を持っています。

 その能力先行で決まったキャラクターでしたが、敵対する存在じゃないというのは最初から決めていました。あとは舞城さんがドライブをかけながら書くなかで、最終的に彼女のような人物像にまとまった形です。

  • ▲飛鳥井木記(声優:宮本侑芽)。謎の人物として名前だけが登場していたが、第9話で酒井戸たちの前に現れる。

――“殺意の世界(井戸)”のなかで酒井戸が彼女に出会ったことで、何故カエルちゃんが名探偵に協力的なのか納得しました。名探偵・穴井戸こと富久田保津などもそうですが、役割が決まっていなかったとは思えないほどしっくりくる終着点になっているのがすごいです。

 名探偵・穴井戸については、僕も第1話のシナリオの時点では「こいつ探偵になるんだ」と驚きました(笑)。確かに、なる資格あるんですけど。

 彼が、1番トリックスター的な感じがしますね。

  • ▲最初の事件の重要人物だった富久田保津(声優:竹内良太)が、名探偵・穴井戸に! 軽妙な立ち振る舞いや、生存率が著しく低い迷探偵ぶりがファンの間でも話題となる。

インタビュー後編は近日公開

 演出面やこだわりの挿入歌などのお話をうかがったインタビュー後編は、近日中に公開予定です。お楽しみに!

ID:INVADED イド:インヴェイデッド Blu-rayBOX 上巻

【BD2枚+CD3枚組】

収録内容:第1話~第6話
税抜価格:18,000円+税
発売日:2020年4月24日

Blu-rayBOX【毎回特典】

(1)キャラクターデザイン・碇谷敦描き下ろし三方背BOX
(2)監督・あおきえい絵コンテ集(第1話)
(3)脚本・舞城王太郎書き下ろし小説①(井波と数田の物語)
(4)設定資料集①
(5)オリジナルサウンドトラックCD Vol.1
(6)Making of ID:INVADED ①/メインスタッフオーディオコメンタリー(3話分予定)/OfficialTrailer01,02,03/ノンテロップOP/ノンテロップED

※店舗特典については別記事で紹介しています。

Blu-rayBOX下巻発売情報

ID:INVADED イド:インヴェイデッド Blu-ray BOX 下巻

【BD2枚+CD2枚4枚組】

収録内容:第7話~第13話
税抜価格:18,000円+税
発売日:2020年6月26日

Blu-rayBOX【毎回特典】

(1)キャラクターデザイン・碇谷敦描き下ろし三方背BOX
(2)監督・あおきえい絵コンテ集(第13話)
(3)脚本・舞城王太郎書き下ろし小説②(鳴瓢家の物語)
(4)設定資料集②
(5)オリジナルドラマCD
 (脚本・舞城王太郎書き下ろし小説②の内容を予定)
(6)オリジナルサウンドトラックCD Vol.2
(7)Making of ID:INVADED ②/メインスタッフオーディオコメンタリー(3話分予定)/他CM集収録予定

(C)IDDU
(C)2019「イド:インヴェイデッド」製作委員会

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

ID:INVADED Blu-ray BOX 上巻

  • メーカー: KADOKAWA アニメーション
  • 発売日: 2020年4月24日
  • 価格: 18,000円+税

関連する記事一覧はこちら