虚淵玄さんら『OBSOLETE』制作陣がプラモを語る。3Dデータ配布の意図は?
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- セスタス原川
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現在YouTube Originalとして配信されている完全オリジナルフルCGアニメ『OBSOLETE(オブソリート)』。その原案・シリーズ構成の虚淵玄さん(ニトロプラス)、プラモデル開発担当の田中ヒロさん(グッドスマイルカンパニー)、メカニックデザインの石渡マコトさん(ニトロプラス)たちのインタビューの模様をお届けします。
本作は、『魔法少女まどか☆マギカ』や『PSYCHO-PASS サイコパス』などで知られるシナリオライター虚淵玄さんが原案・シリーズ構成を務めるロボットアニメで、制作はCGアニメーションスタジオ“武右ェ門”が携わっている作品です。
虚淵さんたちのインタビューでは、『OBSOLETE』のお話だけでなく、3人のプラモにまつわる過去話や、非常に珍しい取り組みとなる"プラモデルの3Dデータ配布"の意図なども語っていただきました。
■"プラモデルの3Dデータ配布"とは……?
インタビューの前段として、軽く"プラモデルの3Dデータ配布"について触れておきましょう。
現在、『OBSOLETE』の公式サイトでは、劇中の動きを限りなく再現可能な『1/35 MODEROID エグゾフレーム』プラスチックモデルの3Dデータが配布されています。このデータは、3Dプリンター出力によって実際にプラモとして遊べるほか、CG画像や、アニメーション、ゲームなどの製作に利用できるというもの。
プラモデルを無料で配布しているに近いとも思える施策ですが……? この企画の狙いについては、インタビューの後半で触れられていますので、ぜひ最後までご覧ください。
物語やキャラに頼らないロボットアニメ
――まず、虚淵さんに『OBSOLETE』の企画が立ち上がった経緯をお聞きしたいです。
虚淵さん:自分がグッドスマイルカンパニーの安藝さんのところにかち込みかけたのが、この企画のそもそものはじまりですね。その時には、自分の中のロボット絡みの思いの丈を吐き出したような形だったのですが、安藝さんも付き合いが良いので、話を聞いて乗ってくれました。
――その段階では、どの程度の完成度の企画だったのでしょうか?
虚淵さん:その時すでに「もう少し立体物などのアイテムとアニメの連携が取れているロボットを作りたい」という話はしていまして、劇中の動きや景色をロボットに落とし込めるような企画を立てられないものかなと考えていました。その段階で、ドラマパートすっ飛ばして15分の尺にしてしまう案は用意していました。
――虚淵さんのロボットに対する想いとは、具体的にどのようなものでしょうか?
虚淵さん:一番大きかったのは、ストーリーやキャラクターに頼らず、ロボットの魅力で乗り切れる作品が、ある時期を境に消えてしまったことに対する悔しさですね。
虚淵さん:昔好きだったアニメを見直すと、登場するロボットのおもちゃを売るためということもありますが、ロボットを1つのキャラクターとして売り込んでいます。最近は配信サイトで過去の作品を見られますから、それがきっかけで当時はロボット自体の魅力に惹かれていたことを思い出しました。
乗っている人間の顔が見えなくても、ロボットを見ているだけでおもしろい。そんな作品を作りたいという想いが発端でした。
――虚淵さんが感じたロボットアニメの変化は、どの辺りのタイミングで起きたのでしょうか?
虚淵さん:『銀河漂流バイファム』が放送されたあたりのタイミングでしょうか。当時は、あそこまでキャラクターに焦点が当たった作品が珍しかったなと感じていました。ロボではなく、キャラクターのドラマがおもしろいという作品ですが、今となってはそれが主流になってしまいました。
――当時は今とロボットの扱いが大きく違ったということですね。
虚淵さん:昔は何でもありでしたよね。主役メカが1クール目でほぼ出てこないこともあったわけですから。『機動戦士Zガンダム』とか、タイトルにもなっているZガンダムはOPではデザインすら違うのに、第1話に登場するリックディアスの描き込みだけはすごく気合いが入っていて、記憶に残っていますからね。
エグゾフレームのデザインと1/35スケール
――続いては、みなさんにエグゾフレームのデザインに関するお話をお聞きしたいです。デザインの際に苦労した点などはありましたか?
虚淵さん:フレームデザインはそこまで迷走することはなかったよね? 考えたところは乗り方のあたりでしたっけ?
石渡さん:最初に決めたのは、事前に何パターンか用意していた乗り方でしたね。搭乗する人の足が邪魔になるかもしれないから、実際に採用した乗り方とは別の案も考えていました。それでも、他にない乗り方として、パイロットがエグゾフレームにおぶさっているような状態に決定しました。
虚淵さん:ロボが跨がれるのか、パイロットが跨がれるのかの2パターンだったのですが、ロボットが跨がれるパターンに舵を切って、そこから先はスムーズでした。素体はその段階でほぼ完成していたので。
石渡さん:エグゾフレームのデザインに関しては比較的かなり早い段階で形になっていましたね。
――では、1/35スケールのプラモのデザインについてはいかがでしょうか? これはプラモ開発の田中さんにお聞きしたいです。
田中さん:僕がこのプロジェクトに関わったのは3年前になります。実は、この企画自体は3年以上前から進んでいまして、自分が加入した3年前はまだ1/35のキットをやる流れはありませんでした。グッドスマイルカンパニーでは“figma”という1/12のフィギュアシリーズを展開しているので、当時は、『OBSOLETE』もそれと連動するような形をイメージしていたんです。
――1/35スケールで展開することになったきっかけはどこだったのでしょうか?
田中さん:1/12のサイズを検証してみたところ、思っていたよりもかなり大きくなってしまい、値段も高いものになってしまうことがネックになりました。それはそれでひとつの在り方なのですが、シナリオを読ませてもらうと「エグゾフレームは戦車や他の軍用兵器と並べてこそ意味のある商品なのか」と思いまして、そこからそういったジオラマ遊びがしやすい1/35の方向に進みました。
――ああ、そういう理由なんですね。
田中さん:1/12や1/18にすると、フィギュアと一緒に戦車などを並べるとなった時に、そのサイズにあった他の商品をこちらで用意する必要があります。ところが、1/35であれば世の中に同じスケールのフィギュアやプラモが多く出回っていますからね。それこそ、戦車から土嚢まで用意されており、すでにジオラマを作るためのインフラが整っている点が大きな理由ですね。
田中さん:それならば僕たちとしても参入障壁が少ないということで、最初から他の商品にお世話になる前提の1/35に決定しました。この商品が売れることで他の商品も売れるようになれば、きっと業界全体がハッピーになれるはずですから。
石渡さん:Twitterとかでは、実際に1/35スケールのAFVプラモデルと組み合わせた様子をアップしている方もいらっしゃいましたね。
虚淵さん:大変正しい遊び方ですね。「それでいいんだよ! それで!」と言いたくなってしまいます(笑)。
田中さん:『OBSOLETE』の世界観になぞって言うのであれば、我々がペドラーの立場ですよね。みなさんに素材を渡して、どう使うのか、何と組み合わせるのかはみなさんにお任せするという(一同笑)。
――1/35スケールのプラモを設計するにあたり、メカニックデザインの段階で意識した部分はありましたか?
石渡さん:最初の印象は、プラモ自体のサイズがかなり小さくなると思っていました。それも踏まえて、どんなスケールになっても大丈夫なように挟む込む間接は使わないなど、デザインの際に立体化しても障害にならないような設計を意識して作りました。その時はプラモのスケールが決定していたわけではないのですが、先ほどの周辺商品の理由などもあり「もうこれは1/35で出るだろうな」と思ってデザインを作っていましたね。
――『OBSOLETE』ならではのデザイン案などはありましたか?
石渡さん:デザイナーのさじ加減ではありますが、嘘のつき具合についてはよく考えました。まず、そもそも素体が地球外の技術という嘘のものなので(笑)。それであれば、素材の強度や溶接のしやすさなど、他の部分ではリアルを重視して、デザイン上で嘘をつかないように意識しました。
石渡さん:創作物のデザインはやっぱりカッコいいのが大前提なのですが、今回はそこをすべて取り払って、エンジニアとしてリアルなデザインを作った形ですね。なので、アニメで描かれるロボットにも関わらず。アニメ的な見え方に関してはほぼ意識せずにデザインをしましたね。
――アニメのデザインに関して、人がおんぶ状態で操縦する形になるあのサイズはどのような意図で設計されたのでしょうか?
虚淵さん:小さければ小さいほど良いという意識はありました。想像をふくらませやすいと言いますか、動きのワクワク感が出ると言いますか。逆に、大きいといろいろと考えないといけないことが出てきてしまいます。運用するコストだったり、そもそも道を歩けるかだったり。サイズを小さくしたことには、そういった嘘をできるだけ付かないようにする意図がありました。
虚淵さん:あとは、本体と一緒に人の顔が映るというのも大事だなと。人を映したらロボットはつま先しか映らないとなると、それはちょっと寂しいものがありますからね。そこで、座席に乗るというスタンスを保ちつつ、どこまで小さくできるかに挑戦しました。
小さくなってもあくまで乗り物であって、パワードスーツとはまた違うものになっています。景色を思い描きやすいこのサイズ感で、ジオラマ遊びが復権してほしいという想いもありました。
――アニメで動くエグゾフレームと、1/35スケールのエグゾフレーム。両方が揃った時の感想はいかがでしたか?
石渡さん:アニメはもちろん動くのですが、プラモでもこの可動域と言いますか、このサイズでこの動きを可能にしたことは驚きでした。
虚淵さん:最初の段階で1/35のスケールが決まり、いざ試作品を見て見たら「動くわ……これ」ってなりましたよね(笑)。
田中さん:外部の肉厚で可動が制限されると思いきや、しっかり劇中ポーズが取れる点は、自分たちも正直驚きでした。先ほどの石渡さんの“嘘のない合理性のあるデザイン”が、このサイズでも成り立つ形になっていて感動しましたね。
――みなさんにとっても予想外の完成度の高さだったということですね。
田中さん:我々作り手側も、デザインの際に嘘をつかずに作り上げています。本来であれば、動かして楽しんでもらえるように大きいスケールで用意するものだったところが、デザイン通りに作ったら意外と1/35で実現してしまったわけです。
――アニメで使用されたエグゾフレームの3Dデザインは、1体につきどのくらい時間をかけて作られたものなのでしょうか?
石渡さん:デザインにかかる時間は、今の状態になっているものを0から作っても、ラフの段階までは1日もあればできてしまうくらいの作業量です。
――その程度の時間でできてしまうんですか!
虚淵さん:今はもう、構想段階でツールを使ってしまいますからね。
石渡さん:第1話であった収納状態などでは、それとは別にフレームの収納状態もセット考えていて、そこは最初からすべて3Dで作っていました。
虚淵さん:逆に手で描いたところって、作品の中でほぼないんじゃない? ポリゴンのラフ作って、可動域まで検証して、これくらいのポージングができると決めて、ゴーサインが出たタイミングで細かいところを詰めていく感じでしたね。
石渡さん:今回はほぼ手描きしてないですね。今回と言うよりも、この作品以降は手描きなしの3Dオンリーで進めることが多くなりました。やっぱり、その後の工程とかを考えると、3Dで作業したほうが楽な部分が多いです。
――聞く限り便利な3Dデザインですが、逆に苦労する部分などはあるのでしょうか?
石渡さん:3Dでやりすぎると、段々と形がパターン化してしまうことでしょうか。人型の場合は問題ないのですが、それ以外の物のイメージ案が出てこなくなってしまいます。その時は手描きでラフの線を描いて、次の段階で3Dにして……といった使い分けをしていますね。
3人の少年時代のプラモ体験
――ちょっと作品からはズレるのですが、みなさんのご自身のプラモ体験について、エピソードなどがあればお聞きしたいです。
虚淵さん:僕は社会現象になったガンプラの直撃世代です。アニメで見ていたガンダムがあのカッコよさのまま手元に置けるようになり、それがきっかけで「プラモが欲しい!!」と言うようになったのは間違いないですね。散々親父にせびって、ようやく買ってきてもらえたのがゾックだった瞬間の気持ちは……今でも忘れられないです(一同笑)。
田中さん:当時はガンダムのプラモなんかは、買おうと思っても売っていなくて買えませんでしたよね(笑)。
虚淵さん:今思ってみれば、お父さんたちが仕事を終えたタイミングで買ってこられるようなやつは、ゾックとかアッザムとか売れ残っているやつばかりですよね。ガンダムとかは、学校が終わった瞬間に自転車を飛ばして急いで買いに行かないとダメでしたから。
――少年時代の苦い経験が今も思い出に残っていると(笑)。
虚淵さん:その後も、念願叶って買えたガンダムが外国製のパチモンだったりもして……。友だちにパッケージを見せて「それ海賊版だよ」って言われるまで大喜びしていました……。当時はそういった商品がたくさん出回っていて、次に買った1/100ガンダムでも、後から箱絵が違うのを知ってパチモンとわかり、何度も「しまった……」となった思い出があります(笑)。
田中さん:当時のおもちゃ屋さん事情ってどうなっていたのでしょうね。
虚淵さん:今思えば、パチモンを扱うお店とそうじゃないお店があったのではないでしょうか。偶然、僕の家の近くのおもちゃ屋さんが気にせずにパチモンを売っちゃう店だったのかもしれません。そうでないと。1/144と1/100の両方でパチモンを引かされるっておかしいですよね!?
――プラモを作るという部分では、影響を受けた出来事や作品などはありましたか?
虚淵さん:MAX渡辺さんが出していたような、リアル路線のカラーリングやジオラマを作るといった作例には衝撃を受けました。それらに影響を受けまくったタイミングで『太陽の牙ダグラム』が来て、ヘリや飛行機と戦闘をするリアルの延長線というコンセプトにハマりました。当時はアニメの情報を得ていなかったので、アニメが放映していることも知りませんでしたが。
――『ダグラム』のプラモを始めて見た時はどのような印象でしたか?
虚淵さん:いきなりおもちゃ屋さんでキットを見せられて、最初の印象が「またザ・アニメージみたいなガンダムっぽい何かか!?」だったのですが、見ていると異常に作りがよかったことを覚えています。絵も高級感があって、思わずプラモを買っちゃって、それからアニメの存在を知りました。あれだけパチモンに染まっていたおもちゃ屋さんの中で、得も言われぬ風格を漂わせていた『ダグラム』に出会ったことは、不思議な神秘体験でした。
田中さん:僕もダグラムはアニメではなくプラモから入りましたね。プラモはガンプラが流行る前から作っていたとはいえ、80年代のプラモブームでのめり込み、色塗りを覚え、塗料を知らずに絵具で塗って失敗して、いろいろな体験をしてきました。その中で最も影響を受けたのは『戦闘メカ ザブングル』です。
――『ザブングル』はどのような部分が他の作品と違ったのでしょうか?
田中さん:『ザブングル』は、主人公機が10番目くらいの発売で、それまで作業用のメカばかり発売されていました。ところが、プラモのデザインは劇中よりも洗練されていて、ドラム缶とかポリタンクとか付属品もあり、世界観を楽しむようなキットでした。
あとは、“決まった色が無いから好きに塗ってください”というスタンスも衝撃でした。塗装例の部分にいきなり迷彩も載っていて、塗装も知らない小学生にとっては「ええ、何? ちょっと待って!」という感じでした(笑)。
作品の世界観は、ロボットは居るけど人々の生活の一部にも使われているという、『OBSOLETE』に少し共通点があるものです。ロボットのデザインを自由に決められて、それを作品の世界で人々に使われていることを想像するという、いわゆる“ザブングル体験”が『OBSOLETE』にもあって、エグゾフレームのいろいろな人の発想を広げている世界は、あの頃の現体験に繋がるものだと思っています。
――石渡さんはご自身のプラモ体験で何かエピソードはありますか?
石渡さん:自分はお2人と世代が違っていて、ガンプラの薫陶を受けてない世代です。初めて買ったガンプラは、セブンイレブンに売っていたドムでした。初めて見たガンダムは『機動戦士Zガンダム』で、そこから『機動戦士ガンダムZZ』から『機甲戦記ドラグナー』に入って……くらいの世代です。
――石渡さんの世代だと少年時代はどのようなプラモを作っていたのでしょうか?
石渡さん:ガンプラに出会ったのはそのタイミングでしたが、祖父が造船所で働いていたので、その影響で幼稚園くらいの時には戦艦大和のプラモを買ってもらって組み立てていました。
その頃はもちろん塗装とかもできないので接着剤でくっつけるだけでしたが、そこから艦船模型にハマっていって、おもちゃ屋に行くたびにウォーターラインシリーズを買って、艦隊を作っていました。プラモ体験としては、ロボットよりもそちらのほうが影響を受けているかもしれません。
3人から見た現在のプラモ事情
――現在は気軽にプラモが買える時代ですが、少年時代にプラモ体験をした当時と比べた感想はいかがでしょうか?
虚淵さん:欲しいものが買えなかった少年時代を過ごした僕としては、パライソに来てしまったような感覚ですよ、もう。欲しいものは全部お店にありますから。
キットも進化していて、接着剤はいらない、色も塗らなくていい、塗りたくなったら塗料は臭くない……一体プラモの進化はどこまで行くのでしょうか。1歩間違えれば、自分でデータを組んで3Dプリンターで出力して、キットを自分で用意することもできてしまうわけで。まるでドラえもんの話を聞いているような感覚ですよ。
――逆に変化したことで寂しさを感じる部分などもあるのでしょうか?
虚淵さん:苦労に伴う思い出もあるにはありますが、それはやっぱりジジイの望郷に過ぎないので(笑)。やっぱり今のおもちゃのおもしろさが圧倒的に素晴らしいと思います。
それを踏まえた上で、『OBSOLETE』を改めて見ると、遊べるおもちゃとしてのおもしろさを持たせたうえで、アニメの映像とリンクさせられたということは作り手として幸せなことだなと思います。
――石渡さんから見ると、現代のプラモはどのように映っているのでしょうか?
石渡さん:やっぱり、昔から変わらず色を塗ることは面倒ですよね(笑)。今はエアブラシとかを使うようになりましたが、今度はそれを掃除するのが面倒になってしまって。そうなった時に、最初から色が塗ってあることは素晴らしいなと思います。昔はパーツの色は、緑がかった白だったりしましたから。
――先ほど虚淵さんと田中さん、石渡さんでプラモ世代が違うというお話がありましたが、製造側から見ても世代によるプラモ観の違いを感じることはありますか?
田中さん:僕らの製造している立場から、ガンプラ初期ブーム世代から10年ずつくらいで世代分けして見てみると、プラモの捉え方が違うと感じました。例えば、ホビージャパンさんの付録につけたエグゾフレームは1ヵ所だけ接着する部分がありました。それが実際に発売された際には「接着剤が必要なの!?」という声があがっていて、僕らにはそれがかなり意外でしたね。
――ホビージャパンというと、ホビー誌の老舗です。その読者でさえ田中さんたちの世代とはギャップがあるのは驚きですが、それだけ技術が進歩したということの裏返しかもしれませんね。
田中さん:ええ。昔は接着剤を使うのが当たり前だったので、まさかそんなことを言われるとは思いませんでした。時代の変化、技術の進歩ってすごいなと。
――最近は自宅にいる時間が増えたこともあり、自宅趣味としてプラモに触れる方も多くなっている印象を受けますが、みなさんから見た昨今のプラモ事情はいかがでしょうか?
田中さん:様々なプラモを展開している立場から見ると、この2ヶ月ぐらいの間で世間のプラモデルに対しての見方が変わってきていると感じます。家に居る間に何をしたらいいのかと悩んだ際に、プラモデルは“何かをしている感”が強く、自宅趣味として最適じゃないかなと。
虚淵さん:ゲームとかと違って、熱中しすぎて親に叱られた時でも、プラモは親にコンセント引っこ抜かれませんし、いきなり消えたりしませんからね(笑)。
田中さん:ゲームがいけないということは決してありませんが、ひょっとしたらモニターなどをずっと見ているのと比較してしまうと、創造的な時間を過ごしたように感じる方もいるかもしれませんね。屋内でできる趣味という点で、ここ2ヵ月でプラモの社会的地位が上がっているように感じています。
――確かにそういう点はありそうですね。ただ、プラモは塗装などをはじめ、深く楽しもうとすると、正直なところ初心者にとっては敷居が高いと感じる部分もある気がします。それに対してエグゾフレームのプラモではブレイクスルーになる要素はありますか?
田中さん:“特にこだわらなくてもいいよ”ということでしょうか。プラモ作りについて、例えば道具は必ずしもホビーショップでそろえる必要は決してなく、それこそ100均で一式をそろえることもできるでしょう。
プラモはどちらかというと男性の方が割合の多いコンテンツですが、女性向けのクラフトの100均の充実度を見ると、女性の方でも十分に楽しめますし、むしろ既存のものに捕らわれず柔軟な発想でモノを作れるかもしれません。こうしてホビーが多様化していく中で、僕らが提供するモノも1つの形にこだわらないようにしたいと思っています。エグゾフレーム、ひいては『OBSOLETE』は、その中の新しい1つの形としてお届けできればと思っています。
――プラモの今後を考えるにあたり、何かご自身の中に希望のようなものはお持ちでしょうか?
石渡さん:自分も含め、昔からデカールがうまく貼れない人が結構いて、それができるようになった理由には、ケーブルテレビの『プラモつくろう』という番組の影響が大きかったんです。モデラ―さんたちが毎回1人1人プラモを作って、そのやり方を見せるという番組だったのですが、それで学んだことはかなり多かった。新しくプラモを始める人にとって、道具ややり方がハードルの高い部分だと思うので、それを教えてあげるコンテンツがあれば、敷居が下がるのではないかと思います。
虚淵さん:僕はあまり詳しくないのだけど、プラモを作るYouTuberとか居ないのかな?
――ガンプラを組んでいる動画を投稿している方はいらっしゃいますね。
石渡さん:今こそ、MAX渡辺さんのような方に技術を見せていただいて、しっかりと工程を見せて、プラモ作りを学べるものに需要があるのではないかと思います。残念ながらプラモに学校はありませんから(笑)。
“俺エグゾ”で配布した3Dデータの真意
――この記事の冒頭でも触れているように、現在実施中の“俺エグゾ”の企画に絡んで、プラモデルの3Dデータを無償で配布しています。このデータを配布する意図についてお話しいただきたいです。
田中さん:昨今はテクノロジーが進歩して、作例も3Dプリンターで作る人が増えてきて、もはや改造の1つのモデルとして3Dプリンターを使った方法が入ってきていると思います。逆に、改造はできないけど3Dで何かを作ることはできる方も居るのではないかと。
これも1/35スケールの話と同じで「3Dデータという素体は提供したので、あとはみなさんご自由にお使いください」という、作中のペドラーと同じ方法です。作ったデータを共有して別の場所で出力されるもよし。世界中でカスタムデータが広がるもよし。遊び方の幅を広げるための実験場として、おもしろくなればいいと思い、データを提供させていただきました。
中には、データを拡大して1/12にしている人もいましたね。やろうと思えば1/1原寸大もできてしまうでしょう。
石渡さん:もともとは1/35向けのデータですので荒くなってしまいますけど(笑)。使い方は人それぞれですが、新しい時代になったということで、こういったプラモの楽しみ方もできるのではないか、という実験ですね。
――実際に3Dデータの配布を行ってからの反響はいかがでしょうか?
田中さん:反響については、まだ手探りの段階ではないかと思います。受け取ったみなさんも「どうすればいいんだ?」という状態で、まさしくペドラーからエグゾフレームを受け取ったばかりの人類と同じではないかなと(笑)。
我々も時間をかけつつ、みなさんがどのようにこのデータを活用してくれるのか変化を楽しみたいと思っています。反響というよりも、今はまだ戸惑いと言ったほうが正しいかもしれません。
虚淵さん:素材を提供したことで、その後みなさんからどんなアイデアが出てくるのかはやはり興味があります。僕も3Dモデルについて勉強はしたのですが、まだそこまで自由自在に動かせるわけでもないので、今となってはもう少し真面目にやっておけばよかったな~と……。
ところで今って、3Dプリンターを買うとしたらどのくらいで手に入るんだろう?
田中さん:安い出力機だと、10万円以内で買えると思います。石渡さんは確か持っているんじゃありませんでしたっけ?
石渡さん:僕は自前のものを持っていますが、2台持っているので一般的な例にはならないかなと(笑)。
虚淵さん:話を聞こうと思ったら、かなり入れ込んでいる特殊な例だったね(笑)。
石渡さん:一応自分のやつの説明をしておくと、FDMのやつが25万円程度。今使っているやつが20cmで、もうひと周り大きい30cmまで対応していると35万円くらいになります。もう1つ持っているのがDLP方式の光造形のやつで、そちらは3万円以下で手に入ります。
田中さん:エグゾフレームの1/35の大きさであれば、お手頃な小さいサイズのプリンターでも大丈夫ですね。
――その他にも今は、3Dプリントを依頼するサービスなどもありますね。
石渡さん:DMMさんの3Dプリントサービスは強度がしっかりしているので、自分は強度が必要なパーツを作る際には、DMMさんに注文して出力したりしています。
虚淵さん:いや~、時代は変わるもんだなぁ……。ちょっと前までは、こういう進歩をするとはまったく思わなかったよ。
田中さん:もちろん、立体化しなくてもデータ上でバーチャルとして楽しむ遊び方もあります。データを開いて見るだけであれば、Windows10などに最初から入っているツールでも問題ありません。
――配布したデータについて、何か特徴や工夫を凝らした部分などはありますか。
田中さん:今回は敷居を低くしたいということもあり、STLといういわゆるポリゴンデータでお渡ししているので、出力する分には扱いやすいものになっていると思います。本気でCADとかを使いたい人からすると拍子抜けかもしれませんが……まだCADのデータをそのままお渡しするにはハードルが高いと思ったので、今回はSTL形式にしました。
石渡さん:STL形式になっていればどんなツールでも基本読むことができるので、敷居は低くなっていると思います。
――こういった企画はプラモ業界でもかなり珍しいのではないでしょうか。
田中さん:確かに言われてみると数は多くないかもしれないですね。
石渡さん:外装をSTLで配布というのはありますが、フレームをそのままSTLで配布は珍しいと思います。本当にやっていることがペドラーですよね、これ(笑)。
田中さん:本来であればこちらからもう少しお題を出したほうがやりやすいのでしょうけど、今はとりあえずみんなが何をするのかを楽しませていただこうかなと。
――実際のところ、このデータを使ってどこまでやっていいなど線引きはあるのでしょうか?
田中さん:一応、レギュレーションは公式サイトに記載があるので、基本的にはそれに則っていただければと。とはいえ、公共良俗に反せず、誰かの著作権を侵害せずの範囲で自由に楽しんでいただければと思います。サイズを拡大するのも問題ありませんが、それを販売したりしてしまうと問題になるので、現時点では1/35のスケールの中で遊んでもらうことが前提です。
虚淵さん:実際にやるのはNGですけど、作り手としてはパチモンが作られるくらい人気になってほしいという気持ちもありますが(笑)。
田中さん:海外の露店でパチモンが50円くらいで売られていたら、それはそれでいろいろな意味で衝撃的ですけどね(笑)。
石渡さん:データを渡すという行為がとてもリスキーなので、最初に企画を聞いた時は驚きました。弊社でも3Dデータを渡してほしいと言われると「むむっ」ってなりますから。
――実際に配布しているデータを使って何かして見たというエピソードはありますか?
石渡さん:サイズの拡大と言えば、実は先日段ボールで1/1スケールのトードのポッドを作ってみました。人が乗り込むところだけ再現して乗ってみたら、これがすごく落ち着くんですよ。
虚淵さん:そんなことしているなんて、本当に変なデザイナーだね(笑)。ある意味ガチのデザイナーって感じもするけど!
石渡さん:データがあるから、そのデータを元に段ボールをカットして作ったんです。両サイドと正面の枠を作って、中に小さい椅子を置いて座ると、これがちょうどいいフィット感で体が挟まって、意外と乗り心地がいいんですよ!
虚淵さん:このように、著作権を侵害しない形でいろいろと楽しんでいただければと。作って怒られるようなものを作らなければ大丈夫ですよ(笑)。
第2シーズンは本編が“俺エグゾ”状態に!?
――エグゾフレームの商品展開が始まり、実際にみなさんの反応はいかがでしょうか?
田中さん:現状では、大方予想通りの反応をしていただいています。ただここがゴールではなく、今後も時間をかけて様々な商品を展開していくことで、多くの人が楽しめる土壌が広がっていくような気がしています。
――『OBSOLETE』はまだまだこれからも続いていくコンテンツということですね。
田中さん:誰かが自分の作品を作例としてネットに挙げて、それを見た人が「これどうやったの?」と聞いて、また別の人が作品を作って……のように、多くの人に広がっていってもらいたいです。商品展開を長くすることによって、みなさんの共通認識が広がって、もっとおもしろいことになってくるんじゃないかなと思います。今はまだ、その可能性を感じている段階です。
――2020年冬に配信予定の第2シーズンのお話もお聞きしてよろしいでしょうか。
虚淵さん:アニメ第2シーズンは、アニメ本編が“俺エグゾ祭り”みたいな状態です。
――えっ、そうなんですか!? 予告映像を見てみると、ドラマとしてめちゃくちゃおもしろそうな展開になりそうだなと思っていたんですが、メカ方面もとんでもないことになると……?
虚淵さん:もはや、アニメの企画会議自体が「このフレームで何して遊ぼうかな?」を話し合っているような場になっています(笑)。アニメでもいろいろなバージョンのエグゾフレームが出てきますよ。
田中さん:6話まで配信されているアニメでは、いわゆる男臭い戦場で使われている兵器としてエグゾフレームがプッシュされていますが、来シーズンになるとその枠を飛び出すような使われ方をするようになります。
そうなると次に想像する世界は、ペドラーが現代ではなく、戦国時代、古代ローマ時代にペドラーが来たら? もしくは異世界のようなファンタジーの世界にペドラーが来たら……? など、いろいろな妄想が広がるのではないかと思います。第2シーズンからは「公式そこまでやっちゃう!?」と思ってもらえるようなエグゾフレームが登場するので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
――第2シーズンが気になるところですが、最後にアニメやプラモで『OBSOLETE』を楽しんでいるみなさんへのメッセージをお願いします。
虚淵さん:まずは、第2シーズンをみなさんにお届けする時期が先になってしまっているのが申し訳ないと思っています。第2シーズンでは、“エグゾフレームが世界にもたらした混沌”という部分に踏み込んでいきます。物語が完結するというよりも、これからさらに問題が深刻化するような流れで、我々のアイデアが持つ限りは続きそうな企画になっているので、第2シーズン含めて気長に見届けていただければと思います。
田中さん:今後はさらに“たくさん並べて遊びたくなる”ようなシチュエーションが増えてきます。1/35でお手頃に集めやすく、実際に隊列を再現できるという部分を狙った演出もありますので、何なら「今のうちにたくさん集めておいてくださいね」と言っておきたいくらいです(笑)。長く続けていきたいタイトルですので、今後も楽しんでもらえるように商品も用意していく予定です。
石渡さん:ちょっと視点を変えて第2シーズンのお話をすると、吹き替え声優ファン大盛り上がり必至のキャスティングが行われています。自分は映画を吹き替えでよく見るのですが、また第2シーズンもそういった人たちのツボを押さえた声優陣が演じてくださっているので、アニメではそこも注目いただければと思います。
――ありがとうございました。
3Dモデルデータ配布記念“俺エグゾ”募集キャンペーン開催!
そんなエグゾフレームは、立体化され、プラモデルとしてリリースされていますが、現実でどう使われるか……? そんな設定やカスタマイズの案を募集するキャンペーン“俺エグゾ”が開催されています。
現実世界にこんなエグゾフレームがあったら、うれしい、楽しい、恐ろしい……、など、あなたの考える“俺エグゾ”をTwitterにて、ハッシュタグ“#俺エグゾ”を付けて投稿すると、抽選でプラスチックモデル『MODEROID 1/35 アメリカ海兵隊エグゾフレーム』や、スタッフサイン入り台本などの豪華賞品がプレゼントされます。
応募作品の形式は自由。例えば、3Dプリンターでプリントアウトしたものをベースに改造するでもいいですし、3Dデータをもとにイラストを描いてみるというのでもOKです。
さらに優秀作品は、月刊『ホビージャパン』で公式連載中の“OBSOLETE REDUNDANT(オブソリート リダンダント)”に掲載される予定となっています。
募集期間は6月30日まで。無償でエグゾフレーム素体プラモデルの3Dデータを手に入れられるで、参加するしないは置いといて、データをダウンロードしてながめてみるところから始めてみてはいかがでしょうか?
(C)PROJECT OBSOLETE
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