営業再開、ゲームセンターのいま――ゲームニュートン松田氏インタビュー

電撃オンライン
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 ビデオゲームの名門ゲームセンター“ゲームニュートン”の店長、松田泰明氏に、営業自粛明けのゲームセンター事情を伺った。

 2020年6月12日午前0時、東京都では“新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ”がステップ3へと移行。4月から約2カ月に及ぶ営業自粛期間を終え、ゲームセンターの営業が再開した。

 ゲームセンターは、自粛期間中も家賃などの高額な店舗維持費用がかかるため、お店によってはクラウドファンディングを実施するなど、さまざまな手法を用いて経営資金を集めながら自粛期間を乗り越えてきた。

 電撃オンライン編集部では、ビデオゲームの名門ゲームセンター“ゲームニュートン”の経営やeスポーツ関連イベントの企画制作を請け負う会社、ユニバーサルグラビティーの松田社長を直撃。どのように営業自粛を乗り越えたのか? また、営業再開後の経営状態はどうなのか? ゲームセンターの実情についてお聞きした。

松田泰明氏
 株式会社ユニバーサルグラビティー代表取締役。対戦格闘ゲームを中心としたビデオゲームの名門店“ゲームニュートン”を経営する。東京都板橋区の大山と志村に1店舗ずつ構える。ゲームニュートンは『ストリートファイターIII サードストライク』コミュニティの中心として有名で、大会動画などを通じて世界中にニュートンのファンが存在する。

 松田氏は、メーカー公式イベントから商談会、ユーザーコミュニティ主催のゲーム大会まで、あらゆるアーケードゲーム系イベントの制作の裏側にその姿があると言われており、年間50~100本のイベント制作を手掛ける。近年はアーケードゲームだけではなく、eスポーツ分野のイベント制作も請け負っている。

休業中に世界から700万円もの寄付金

――休業中はどのような活動を行っていたのでしょうか?

 「お客さんに、お店のことを忘れてもらいたくないよね」とスタッフと話していて、休業期間中に大掃除やリニューアルというのでは芸がないし、ということで週2回トークを中心とした生放送をやることにしました。

――資金調達の方法として、クラウドファンディングを行うお店もありましたが、そういった話は上がらなかったのでしょうか?

 いろいろなゲームセンターがクラウドファンディングをやっているから松田さんのところもやったほうがいいよと、お客さんに熱意を持って説明もされたのですが、僕らはふつうに寄付を集めようという方向になりました。

――クラウドファンディングを選択しなかったのはなぜでしょう?

 クラウドファンディングを否定することはまったくありません。ただ、クラウドファンディングの場合は、たとえばクレジット〇〇円分の無料チケットだったり、グッズだったりといった見返りを用意しなくてはいけませんよね。僕の場合は、そういったことよりも、自粛期間中にみんなが家で楽しめるものを提供したいと思ったんです。それで先ほど言った週2回の生放送と、過去に実施した全国大会系の動画をアップするという取り組みを優先しました。

――生放送や動画アップの反響はいかがでしたか?

 もうすごいですね。最初は自粛期間も1カ月くらいで終わると思っていたんですけど、最終的にはロードマップのステップ3になるまで店を開けられなかったので、生放送も20回くらいになりました。

 ふだん聞けないゲームセンターの裏側の話をしているので、すごく楽しいし、むしろ営業再開後もやって欲しいという声をたくさんいただきました。

――配信を行ったことで、投げ銭などを含めた寄付金はどのくらい集まったのでしょうか?

 700万円くらいですね。純粋な寄付でこんなに集まるとは予想していませんでした。応援してくれる方がいらっしゃるのはメチャクチャうれしいです。

 じつは海外からの寄付も多かったんです。ゲームニュートンは、いろいろなゲームコミュニティの全国大会を何年も続けているので、そういった動画のファンが世界中にいるんですよ。もちろん日本からの寄付がいちばん多いんですけど、アメリカや中国、韓国、カナダ、オーストラリアなど、世界中から寄付が集まりました。そこがほかのお店と違うところなのかなと。

――海外の方が寄付しやすい工夫を行ったりしたのでしょうか?

 そうですね。Twitchで生放送を行ったのですが、寄付のやり方を説明する動画を1本作りました。それにしっかり英語訳を付けたのがよかったのかもしれません。Twitchの生放送を見た海外の人が「ニュートンがピンチなの?」と知ってくれて、それで支援してくれる人が集まったんだと思います。

――英語の翻訳を載せたのはすごいですね。

 ニュートンのチャンネルページを見てもらえばわかるのですが、全部英語訳をつけているんですよ。新型コロナウイルスが流行してから「日本はどうなっている? ニュートンはどうなっている?」と、Twitterに海外からたくさんのリプライが来たので、これだけ反響があるのなら英語も載せるべきでしょうと。そもそも全国大会の生放送も全部英語を入れていたので、そこまでたいへんではなかったですね。

――そういった海外を意識した取り組みを長年続けていたことで、多くの海外ファンを獲得できていたんですね。

 それをすごく実感しました。ニュートンは、『ストリートファイターIII』のコミュニティーが強いんですよ。それで、ニューヨークの『ストリートファイターIII』コミュニティから「ニュートンをコロナから救う大会を開きたい」と連絡があったんです。でも、ニューヨークは日本よりもたいへんな状況だから断ろうとしたんですけど……。

 結局、オンライン大会を開催してくれて100人以上集まったみたいなんです。そして、その参加費を全額寄付してくれました。そういう活動はやっぱり感動しますよね。

――FGC(格闘ゲームコミュニティ)のつながりですね。

 今回超ピンチだったんですけど、「ゲームニュートンは、世界のゲーセンター文化の中心だから」とか「このゲームセンターだけは潰してはいけない」と、世界中の人に言ってもらえたのはメチャクチャうれしかったですし、こういう風に思ってくれる人がいるなら、もう意地でも残さないといけないと思いましたね。ゲームニュートンのホームページに支援者一覧というのがあるので、ぜひそちらをチェックして欲しいですね。

――そのほかに、休業中に印象に残ったエピソードはありますか?

 休業している間に、僕らが店にいるのかいないのかもわからない状態でも来てくれるお客さんがいて、「たいへんですけどがんばってください」と、お見舞金を持ってきたり、お酒を差し入れてくれたり、とにかく応援してくださっている方々が何十人も来てくれて感動しました。

――それはうれしいですね。

 ほかにも、漫画家の吉原先生がYouTubeのサムネイラストを描かせてくださいと言ってくださって、お金には代えられない世界に1枚しかないイラストなので、とてもうれしかったですね。ぜひゲームニュートンのYouTubeチャンネルを見て欲しいです。

※貴重なサムネイラストを使ったゲーム動画が掲載されているゲームニュートンYouTubeチャンネルはこちらからチェックしてください。

  • 著名人のサインも。
  • 常連客が獲得した大会賞状などが飾られている。
  • 店舗大会が頻繁に開催されるなど、ゲームニュートンは多くのプレイヤーに愛されている。現在はYouTubeを通じて、その模様が世界に発信されている。
  • イベントに応じてゲームを入れ替えられるように、たくさんのゲーム基板が置いてある。

休業中も多額のコストがのしかかる

――かなりの寄付金が集まりましたが、そもそもゲームセンターの経営にはそれだけ大きなコストがかかるのでしょうか?

 うちの場合は、1店舗あたりのランニングコストは月150万くらいですね。おもな内訳は家賃、人件費、電気代、ゲームの従量課金の4つです。志村店と大山店の2店舗あるので、休業中は月300万円を垂れ流している状態でした。

――休業中も人件費を削ることはなかったんですか?

 アルバイトを含めた従業員には、休業中も絶対に給料を払ってあげたかったんですよ。やることをやって、ダメならダメで考えようと。持続可給付金(※)などの国の支援もあとからいろいろ出るようになりましたが、みんなからの寄付金があったおかげですので、本当によかったなと。

※持続可給付金
 売上が前年同月比で50%以上減少している事業者を対象に、中小法人等の法人は200万円、フリーランスを含む個人事業者は100万円を上限に、現金を給付するものです。(経済産業省公式サイトより)

――ニュートンさんの営業再開はいつからだったのでしょうか?

 換気や消毒、飛沫対策などは当然のこと、大声を出さないでくださいなどの細かい注意喚起も行い、できる限りのコロナ対策をしたうえで、ロードマップがステップ3に進んだ直後の6月13日に営業を再開しました。

――営業再開からしばらく経ちましたが、客足はいかがですか?
 週末は結構足を運んでいただけていますが、平日が以前の半分くらいだと思います。お客さんも自粛で我慢に我慢を重ねていたので、やっぱり楽しみにして来てくれる方が多いですね。ただ、まだまだ感染者が増加傾向にありますので、以前のように気楽には来店できないのが実情だと思います。

――コロナ以前より客足が遠のいている状態で、経営は大丈夫なのでしょうか?

 じょじょに戻っていくんじゃないかという浅はかな読みと、あとは自分たちの努力次第だと思っています。ただ、あまり大きなイベントは打ちづらいので、全国大会系の大規模なものはいったん全部やめて、店舗レベルの大会を少しずつ再開しています。

――まずは、店舗レベルの小規模なイベントで客足を戻していくんですね。

 ほかには細かいですけど、ゲームニュートンのことを思い出してよと、YouTubeに過去の大会動画などのアップを継続しています。あとは地道な努力というか、口コミですかね。

――営業再開後に訪れたお客さんからかけてもらった声で、印象に残っているものはありますか?

 「ホントよかったですね」と言われるのがうれしかったですし、僕もお客さんに「お帰りなさい」という気持ちです。僕だけじゃなくて、お客さんも我慢に我慢を重ねたと思いますからね。

 要請であって強制ではないとよく言われますけど、東京都から「ゲームセンターは閉めてくださいね」と来てるわけですよ。それを無視して開けても、そこに来るお客さんは後ろめたい気持ちがあるはずだし、そういう気持ちでお客さんに来させたくなかったので、完全に解除させるまではしっかり閉めていたんですよ。

  • 1台置きに電源を落とすなど、ソーシャルディスタンスを保つ工夫がなされている。
  • 隣と距離の近いゲーム台には、間に飛沫対策のビニールシートスタンドを設置。
  • お店の入り口には消毒液を常備。
  • 来店客への注意喚起を即す張り紙も。

ゲームセンターの今後の課題は?

――今後ゲームセンターを経営していくうえでの課題はありますか?

 もともとゲームセンターの経営は、固定費を稼げるくらいでほとんど利益はありませんでした。ですが、かつて“闘劇”という全国規模の大会運営に関わらせてもらってから、そのノウハウを活かしたイベント制作案件を年に50本~100本請け負うようになりました。そちらで利益を上げていたので、ゲームセンターが多少赤字になってもなんとかなっていたんです。

 ゲームセンターは基地みたいなもので、ここが残っていることで新しい仕事が生まれますし、ちょっと高い倉庫を借りてるくらいの気持ちでやっていましたから、多少赤字でも気合で乗り切ってこられたんです。

――なるほど。ゲームセンターの赤字はイベント制作事業で補っていくビジネスモデルだったんですね。

 しかし、今年に関しては秋ころまでイベント制作の仕事が完全に飛んでしまっているので、かなり不安です。2021年1月、2月くらいの仕事はぽつぽつ入り始めているので、仕事が戻るまでの期間をどう乗り切るか? というところが一番の課題ですね。

――新型コロナウイルスの流行はすぐに収束しないという見方もありますし、きびしい状況が続きそうですね。

 そうなんですよ。コロナが完全に収束するのは2~3年はかかるとも言われますし、ずっと収束しないという見方をする専門家もいらっしゃいますし、さきの見えない不安が大きいですね。

 “ニューノーマル”という言葉が出てきて、ゲーム大会もオンライン化が進んでいますし、これからは新しい生活様式が取り入れられていくと思うんですよ。

 でも、僕らはオフで集まってみんなで楽しむという“ライブ感”を重視しているので、イベントのことを考えると、検温したり、マスクを義務化したりと、コロナ対策をした重々しいムードの中やらないといけないのかとか、イベントができるかもしれないという期待もがある一方で、そういった不安も入り混じってとても複雑な心境ですね。

 ただ、プロ野球が観客を入れて実施するという話もありますので、そういったプロスポーツやエンタメ系イベントの動向をチェックして、参考にしながらやっていこうと思っています。

――なかなか収束しないというところでは、7月に入って感染者が増加していて、新型コロナウイルスの第2波も心配されています。

 体力があるお店はもう少し休めると思うんですけど、ずっと続いたら仕事にならなくなってしまうので、どこかで線引きしてルールを作り、経済活動と両立するやり方を模索することになると思うんですが、いまの状況では先陣を切ってはやれないですよね。

――きびしい状況が続きますが、来年以降は通常通りになるといいですね。

 それが、イベントは1年くらい前にイベントホールを抑えなくてはならないので、そこがきびしいですね。来年のイベントの実施可否をいまジャッジしなくてはならず、やると決めたら決めたで前金を払わなければいけませんし。そのあたりは国の支援のガイドラインがまだ定まってない部分もありますし、イベントホールは非常に難しい世界です。

――そういった国の支援は早くハッキリして欲しいですね。

 うちは株式会社でやっていまして、顧問税理士や知り合いの社労士もいるので、そういった方々にアドバイスをいただきなら、もらえる助成金などはしっかりもらえるように手続きをしていきたいと思っています。

 健全な経営をしていないともらえないケースもあるんですが、うちはしっかりルールを守って経営していますので、そういった制度はしっかり使っていくつもりです。

――さきほどニューノーマルというお話が出ていました。ゲーム業界的には、大会やイベントのオンライン化が進むと予測されますが、そうした中でゲームセンターならではの魅力はどういったところにあると思いますか?

 オフライン特有のライブ感ですかね。年齢も職業もまったく違う不特定多数の人たちが、同じ趣味でいっしょに楽しめる空間というのはほかにないと思うんですよ。

 そこはやっぱりゲームセンターの超魅力なところだと思っていて、やっぱり文化として残したいし、ゲームセンターがこれだけ減っても、まだがんばってる店はたくさんあります。いま残ってる店はみんな気合が入っていますし、そういう人たちと協力しながらやっていきたいと思っています。

 ゲームイベントのオンライン化が進んで生放送の技術はドンドン進化していますから、それに遅れを取らないようにオフラインならではの魅力を出しながらやってきたいと思っています。

――松田さんはゲームセンターへの想いは人一倍ありますよね。

 もう30年近くやっていますから人生みたいなものですよ。カッコつけた言い方をすると、最後の1店舗になってでもやりたいと思ってます。いまゲームセンターは苦しいですけど、気合で乗り切りたいですね。

取材・編集:豊泉