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“劇場版 FFXIV 光のお父さん”ドラマから映画へ――マイディーさん&両監督に作品への想いを尋ねる【電撃PS】

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 『ファイナルファンタジーXIV』を愛する1人のプレイヤーが紡いだ、感動の実話企画“光のお父さん”――。マイディー氏が運営するブログ“一撃確殺SS日記”で連載されたこの物語がTVドラマとなり、『FFXIV』プレイヤーの間で大きな話題となってからはや2年……多くの視聴者が涙した『光のお父さん』が、ついに映画化! このたび6月21日に全国の映画館で公開となりました。

 今回はそんな『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』の封切りを記念して、原作者&キャラクターアクターのマイディー氏と、実写パート監督・野口照夫氏、エオルゼアパート監督・山本清史氏へのインタビューを実施。ドラマ版から引き続き映像制作を担当してきた彼らに、映画版制作時の試行錯誤や、ドラマ版からの変更点、映像に込めた想いなどを詳しく聞いてみました。ここでしか読めない話題が満載なので、ぜひ最後まで楽しんでいただければと思います!

(※本記事内には、劇中の出来事などが具体的に語られている部分がございます。クリティカルなネタバレはございませんが、可能であれば映画をご覧になったあとで見ていただくとより深いところまで楽しめるかもしれません)

 ちなみに、エオルゼアパートの撮影については先日公開されたマイディーさん&山本監督のコチラの動画で基本的なスタンスが紹介されていますので、あわせてご覧いただけるともっと理解が深まると思います。

 また、電撃PSでは“光のお父さん”ドラマ化の際にもこのお3方にお話をうかがい、インタビュー記事として掲載しています。ドラマと映画の違いについてより深く興味のある方は、こちらもぜひあわせてご覧ください!

⇒【電撃PS】『FF14 光のお父さん』原作者と監督に聞く、ドラマならではの挑戦とクライマックスを迎えての想い

【監督】野口照夫氏

 映像制作会社・主力会の代表。本作では、主に実写パートの監督を担当。多くのテレビドラマや映画の脚本・監督を中心に、ドキュメンタリー番組やプロモーションビデオなど幅広いジャンルの映像作品を手がける。

【監督(エオルゼアパート)】山本清史氏

 C.A.S.E株式会社・代表。エオルゼアパートの監督として、FC・じょびネッツアのメンバーを指揮。数々の映画やドラマに監督、脚本としてたずさわってきたほか、“呪怨-終わりの始まり-”などのノベライズを執筆した小説家としての一面も持つ。

【原作・キャラクターアクター】マイディー氏

 人気ブログ“一撃確殺SS日記”の管理人にして、『FFXIV』ゲーム内のフリーカンパニー(FC)・じょびネッツアのマスター。ドラマ&映画の原作である企画“光のお父さん”の仕掛け人であり、エオルゼアパートのキャラクターアクターも務める。

※本インタビューは6月上旬に行われたものです。

試行錯誤の末に誕生した、“映画”としての『光のお父さん』

――一般の方に初お披露目となった完成披露試写会では、『FFXIV』というゲームを知らなさそうな層の方々まで笑顔で視聴していたのが印象的でした。眼の前に観客がいるというのは、ドラマのときにはなかったシチュエーションだと思いますが、みなさんの手応えとしてはいかがでしたか?

山本清史氏(以下、敬称略):普通の試写会と比べて、ちょっと雰囲気が違いましたよね。

野口照夫氏(以下、敬称略):じつは、会場の様子をすべて観られたのはマイディーさんだけなんですよ。僕はちょうど取材を受けていたので、途中から後ろの席で観ていました。

山本:僕は、控え室のモニターで偉そうにふんぞり返って観ていました(笑)。

マイディー氏(以下、敬称略):試写ということもあってか、だいぶ暖かい目で観てもらえていましたね。僕は芸人をしていた頃があったのですが、舞台に立ったときはその日その日で“お客さんが硬い・柔らかい”という反応の違いを感じるんです。それにならうと、試写会はまさに何を話してもウケる日のことを思い出すくらい“柔らかい”お客さんばかりで、うれしかったですね。

野口:最後の方は、「そこ笑いを狙ったわけじゃないのになぁ」というところまで笑いが生まれていましたね。吉田鋼太郎さんが、ちょっと表情を動かせば笑いが起こる状態でした(笑)。

マイディー:あれ、じつは笑い声を本編の中に入れていたんですよね?

野口:入れてないですよ!? バラエティ番組じゃないんですから(笑)。

一同:(笑)。

マイディー:そう思うほどウケていたので、とてもありがたかったです。

――試写会に来られた方は、どういった層が多かったのでしょうか?

山本:キャストのファンの方が圧倒的に多かったですね。試写会が終わってから多くの人に声をかけていただきましたが、「ゲームはよくわからないんですけど」という方が多かったですね。しかし、みなさん必ず「でも、とてもおもしろかったです」と言ってくださって……非常にうれしかったです。むしろ、ゲームがわかる人は僕に話しかけてくれませんでしたね(笑)。「僕、『FFXIV』やっているんです!」という人がくるかと思ったんですが、けっこう遠慮されていたみたいで。逆に、キャストのファンや、すごく年配の方も感想を言いにきてくれました。

野口:僕も、キャストのファンに「まったく期待してなかったんですけど」と前振りされたときは、「すごい!よく言うな!」と逆に感心しました(笑)。ただ、「すごくおもしろくて、驚きました」と言葉が続いて、ホッとしました。

山本:これはある意味予想どおりで。じつは、『光のお父さん』という名前は、映画をよく観ている人からすると「完全に力抜けてるな、この作品」と思われても仕方がないんです。その「期待してなかったんですけど」というのは、正直な感想だと思うんですよね。ですが、だからこそ真実味があります。

――そのあとに続いた「おもしろかった」という感想は、お世辞ではないんでしょうね。

野口:そうなんでしょうね。なので、逆にうれしかったですね。

――映画では制作当初からそういった“普段ゲームをしない層”のことを意識されていたのでしょうか?

野口:やっぱり、映画となると意識せざるを得ないんです。

山本:その層に届かないとヒットは絶対にないので、そういった人たちが楽しめるようなつくりにはしています。ですが、そもそもその層に本作の情報が届くには大きな壁があるため、どうやって情報を届けるか・興味を持ってもらえるか……というところはとても重要でした。ですので、『FFXIV』をプレイしていない人に情報を届けるために“光の戦士たちを巻き込む必要がある”といった戦略は立てましたね。

 『FFXIV』プレイヤーさんの多くには共感してもらえるだろうと思っていますが……『FFXIV』プレイヤーでない方々に「つまらなかった」と言われたら終わりなので、ちゃんとそういった層の感情にも寄り添って作っています。

――ドラマから映画になるにあたって、初期の話し合いで最も重要な議題となったのは、どういったものでしたか?

野口:なんというか、みんな“ドラマで完全燃焼した”という気持ちはあったと思うんですよ。僕も最初はその感覚があったゆえに「今回は引き受けられないです」と言って一度は断りました。……制作側のなかでも、脚本の吹原幸太さんはとくに大変だったと思います。

山本:普通、脚本家は“同じ物語をまた同じように書く”というのは、とても難しいんですよ。どうしても新たなエッセンスを足したくなってしまう。

――今回の映画版は、“光のお父さん”の核となるエッセンスが約2時間という限られた時間の中にキレイに詰め込まれつつ、映画ならではのアレンジがしてありました。原作やドラマを知っている身からすると「よく2時間に収められたな……」と驚いたんです。

野口:2015年の年末に、プロデューサーの渋谷恒一さんから「おもしろいブログがあるよ」という言葉とマイディーさんのブログのURLだけが書かれた謎のメールが届いたんですね。「これを僕に送ってくるということは、実写化を考えているのか?」と考えて、それを前提にブログを読んだんですが……じつは当初「実写化するなら尺的に映画が合うだろうな」と思ったんです。

――最初の印象としては、ドラマより映画のほうがイメージに近かったんですね。

野口:むしろ、“テレビドラマだ”と聞いたときはまだ話数も聞いていませんでしたので、「これを10話くらいにするとなると、どう膨らますのかなぁ」と軽く心配していました。ドラマの会社パートは原作にはないので、膨らませた+αの部分なんですよね。なので、もちろん制作時に苦戦はしましたが……物語を映画の尺に入れ込むうえでの予想外の苦労というのはありませんでした。

山本:ドラマ版のエピソードをそのまま入れてしまうと、見どころが盛りだくさんすぎて疲れてしまうんですよ。演出サイドからすると「全部は無理だよ! 全部クライマックスになっちゃうじゃん!」というところからのスタートでしたね(笑)。「これじゃ映画にならんぞ」というところでカットする形になるわけですが、とはいえ、どこをカットするかということについては、みんなの思惑を整理する必要がありました。なので一回落ち着いて「マイディーさん、どう思います?」「スクウェア・エニックスさんはどうでしょう?」と方々に意見をうかがって、そこからやっと話が動き出した気がします。

野口:マイディーさんと山本さんが脚本に参加してくださったのが年明けぐらいで、僕はというと昨年末から本格的に参加し始めていました。けっこうバタバタと動き出した感じですね。本当に、お2人が参加してくれたあたりから、制作陣全員が冷静になれた感じがあった気がします。なんというか……やはりみんな、ドラマ版の物語から離れようとするんですよ。実話がベースになっているにもかかわらず(笑)。クリエイターのサガと言いますか、「同じことを同じようにやるのは寒くない?」みたいになっちゃうんです。例えば、最初に僕が脚本を読んだときには、“クルザスで半袖”のくだりがなかったりしたんですよ。

――「恥ずかしいからゲームを辞める」「よしだあああ」と続く部分ですよね。

野口:そういったつまずきがないままお父さんがゲームをプレイしていき……「あれ、お父さんこんなに早くゲームにのめり込んでしまっていいんでしたっけ?」みたいに迷走してしまって。そんな状態になってしまうと、原作やドラマ版を知る『FFXIV』プレイヤーのみなさんが「それは入れないと変でしょ?」と思うようなことも見失ってしまうんですよ。

山本:こういうのは、どうしても迷走しちゃうんですよね。いろいろと議論していくと、元となる展開が1周回ってつまらなく感じてしまう瞬間が出てくるんです。こういうときは往々にして、「じゃぁ、1回なくしてみようか!」という話になってしまうんですよ(笑)。

野口:そうそう。

山本:そして、なくしたまま話が進んで、そのことを忘れちゃうんですよね。

――その結果、観ている人は「あれ、あのシーンがないな」となると。

山本:こっちは議論が終わっているつもりだから、「これでおもしろいはずなんだけど……なんか、しっくりこないな」となります。そこで、「これじゃ絶対ダメですよ!」と言ってくれる新しい血が入ると、リセットして再スタートできるんですね。何か1つの作品を作るには、やっぱりこれが必要なんですよ。

野口:そんなふうに迷走していたときに、マイディーさんが「『FFXIV』というゲーム内の世界が舞台なので、ほかのゲームでも成り立ってしまうようなストーリーにはしないでほしい」と言ってくださって。これが僕にとって、本当に目が覚めた瞬間でした。たぶん僕だけではなく、吹原さんをはじめとした全員が同じように感じたと思うのですが……全員「そうだよね」と。一番大事なところを忘れていたな、と。

マイディー:「別にそのゲームじゃなくてもいいじゃない」と言われるのが、僕的に一番ツライところなので……。実際に『FFXIV』だからこそ成り立ったお話であるのは間違いないわけですから、「そこがすり替えられても成り立つんじゃないの?」という意見が出てしまう内容にはしたくなかったんです。“『FFXIV』に紐付いたゲーム体験をお父さんが経験していく”ことがとても重要ですし、それでこそ『光のお父さん』足り得るのかなと強く思っています。さきほどの発言は、そういう感情からきているんです。

山本:「『FFXIV』は、もうひとりの主役」なんだと話していました。これ、2回くらい言ってましたよね?(笑)

マイディー:打ち合わせするたびに言っていたので、3~4回言っていますね(笑)。

野口:僕の中で、マイディーさんがこの話をされたときに「あ、もう大丈夫だ」という気持ちになりました。迷走していたときは「これどうなっちゃうんだろう」と内心ドキドキしていましたが、ここからはすごく楽観的になれたというか、そこを見失わなければいいんだと気づきました。

マイディー:あと、“お父さんの成長”という部分もですね(笑)。

山本:これは自戒も込めて言葉にしますが、我々のような作り手には“普遍的なテーマというのをどこかでダサく感じてしまう”瞬間が、絶対に訪れるんです。さらに「前にもやったことだしな」という気持ちがあると、どうしてもエッセンスを加えたくなってしまう。……なので今思えば、「お父さんの成長という物語には違いないよね」というところに立ち返る時間があって本当によかったです。

 ちなみに当時、「その日、その時間にしか打ち合わせのタイミングがないんです!」と、夜9時ぐらいにカラオケボックスに集合させられた記憶があります(笑)。大人が10人ぐらいで、淡々と打ち合わせしたんですが……あの時間は、必要なものでしたよね。

野口:ドリンクバー飲みながらね(笑)。

山本:「なんか、おっさんが10人くらいで難しい顔しているぞ」と、入ってくる店員がギョッとしていましたよ(笑)。

――歌も歌わずに(笑)。

山本:歌える空気じゃなかったですね。

野口:それが今年に入ってからの話ですからね。

山本:1月ですよ。

――劇場映画制作のスケジュールでは、通常考えられないですよね。試写会でも「こんなスケジュールで作れてしまうという、いけない前例を作ってしまった」とコメントされていましたが……。

野口:いやー、異例ですよ。

山本:本当によくないです(笑)。

野口:キャストさんも「来年の6月じゃなくて?」と驚いていましたね……。何人にも聞かれました。

――順序的には、1~2月ぐらいに脚本をまとめて、そのあとにゲームパートの撮影に入った感じですか?

山本:ゲームパートは、『FFXIV』の開発サーバーと同等の環境を用意してもらってログインしたのが2月18日だったので、僕ら的にはその日がクランクインですね。機材搬入が2月7日なので、渋谷プロデューサー的にはその日がクランクインという認識かもしれませんが……。撮影の順番としては、まず第一に“実写パートで使うゲーム画面”を撮りました。

(編注:“劇場版 光のお父さん”のゲームパート撮影は、スクウェア・エニックス社が特別に用意してくれた開発サーバーと同等の環境で行ったため、時刻やキャラクター移動速度などのコントロールが可能だった。ちなみに、ドラマ版の時は完全に普通のプレイヤーと同じ環境での撮影だったため、時刻に関してはかなりの苦労があったという)

野口:3月5日が実写パートのクランクインだったので、それまでにそれが必要だったんですよ。

山本:それが事前に必要だということはわかっていたので、我々が先に動くのは当然なんですが……。じつは、そのタイミングでまだ脚本ができ上がっていなかったんです。

――えぇ!?

山本:撮影と同時並行だったんですよ(笑)。

――おお……。その状況で、実写とゲームの両パートの兼ね合いによる撮り直しなどは発生しないものなのでしょうか?

山本:ゲームパートは編集できる部分をあとで差し替えることも可能なんですが、“実写パートのゲーム画面”は撮ったらもうそれっきりですので……人物越しに撮影してしまうと撮り直しは難しいんです。なので、画面に関しては撮ったもので勝負してくれという形にしかなりませんでしたね。ただ、ここでちょっと問題がありまして。その画面の撮影でももちろんゲームにログインするわけなので、スクウェア・エニックスさんの開発サーバーと同等の環境に接続しないとならないんです。当然、事前準備として、キャラクターや、着用する装備が必要になるわけですが……“実写パートのゲーム画面”には台本がないので「あれ、このときの装備って何でしたっけ?」みたいになっちゃうわけです(笑)。

野口:山本さんとマイディーさんがゲームパートを撮影し始めた頃、こちらはロケハンが始まっておりまして。衣装合わせやキャストの調整といった実務が積み重なった結果、だんだんと打ち合わせする時間がなくなっていってしまったんですよ。

山本:“このゲーム画面がどういう芝居で使われる場所なのか”というのも、打ち合わせができなかったんですよ。シーンナンバーだけ振ってある状態だったので、とりあえず撮影して「あとはまかせました!」みたいな状態でしたね。

――そういう状況ですと、キャストのみなさんに必要事項を伝えるのも大変そうですね。

野口:なので、撮影現場から山本さんに何度も電話していました。死んだような声で電話したら、山本さんも死んだような声をしていて。「お互い大変な状況なんだな」と確認し合うみたいな(笑)。

――そうなんですね。映画を観た側としては、そんな苦労を感じさせないスムーズな流れに見えました。

マイディー:ドラマで培ったコンビネーションが活きたんじゃないですか(笑)。

野口:それは、じつは相当あると思いますね。

――ドラマ版と同じスタッフで制作できたのは大きかったんですね。

山本:あとは、実写パートの照明部のスタッフに光の戦士がいまして、「君にまかせた!」的なところはありましたね(笑)。『FFXIV』をやりこんでいる方なので。

――ブログの「光のでぃさん」で紹介された、光の照明さんのくまちゃんさんですか?

http://sumimarudan.blog7.fc2.com/blog-entry-3009.html

マイディー:はい、ドラマの撮影のときに『FFXIV』を始めてから、ずっと続けてくれているみたいで。

――ある意味、光の照明さんがいたからこそ、というところがあったんですね。

野口:現場ではもちろん本名ですが、「くまちゃんさ~ん!」と呼ぶことがあっても、だいたい照明についての相談じゃなく、ゲームとの兼ね合いについての確認なんですよ(笑)。

マイディー:坂口健太郎さんも、日本ファンフェスで「その人に教えてもらって~」とコメントしてらっしゃいましたね。

山本:本当に助かりました。

――ちなみに、ファンフェスの時点で、撮影はどのくらいの段階だったのでしょうか?

野口:もう終盤のほうですね。

山本:エオルゼアパートの第1次クランクアップが終わったあたりですね。

マイディー:3月23日にクランクアップしたので……ファンフェスでの制作発表は、その翌日だったんです。

山本:とりあえずホッとしていたタイミングですね(笑)。ちなみに、第1次というのは、実写パートのクランクアップがあったあと追撮があるかもしれないから“第1次”としていたんです。……しかし、“ファンフェスの盛り上がり”というのはゲーム業界の方や光の戦士のみなさんならば十二分に理解していると思いますが、おそらく、『FFXIV』をあまり知らない方々はどうしてもそれをご存じないんですよね。あの空気感を味わっていないと、「よしだあああああ!」の意味はわからないと思うんですよ。それを知らない制作関係者は「なんで吉田直樹さん(編注:言わずと知れた『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター)を、みんながこんなにフィーチャーするんだろう」と思うはずなんです。正直、彼らは最初「こんなセリフ、カットでよくない?」と内心では考えていたのではないでしょうか(笑)。それがファンフェスを経たことで、なんで我々が誰ひとり「よしだあああああ!」をカットしようなんて言わなかったか腑に落ちたと思います。

――「ひそかに、映画版でも残ってる! よかった!」と思っていました(笑)。実写パート撮影の現場としては、坂口さんと吉田鋼太郎さんが日本ファンフェスで壇上に立ったことはいかがでしたか?

野口:あの日もファンフェス後に撮影だったんですけれど、“高揚感をもって現場に戻ってきたな”と感じましたね。あの日、僕がビデオコメントで「早く帰ってきてください」みたいなことを話しましたが、あれは正真正銘の本音でした(笑)。

――そうだったんですね(笑)。

マイディー:事情を知っていたので、僕もそれを聞いて笑ってしまいました(笑)。

――1万5000人からの大声援を受けたら、テンションも上がりますよね。

マイディー:あの歓声は、坂口さんご自身が実際にヒカセンだったから……というのもある気がしますね。

俳優の個性と実力を活かした映画独自の演出が光る

――『劇場版 FFXIV 光のお父さん』はドラマ版とは異なるキャスティングになっていますが、演出の段階で、坂口さんと吉田鋼太郎さんのお2人にお願いしたこと・アドバイスしたことなどはありましたか?

野口:今回はとにかく時間がまったくなかったんですよね。リハーサルはおろか台本の読み合わせすらできておらず、坂口さんと吉田さんは一度も顔を合わせていないままクランクインしました。CMにはもちろんお2人とも出演しているわけですが、そのときは別撮りだったので、実際は本格的な撮影が始まってからの初顔合わせになってしまって。そういう状況で、かつ20日もない撮影日数内で撮りきらないといけないわけで、正直「これは怖いなぁ」と思っていました。

 しかし、始まってみれば、坂口さんは初めてお会いした段階でドラマ版をすべて視聴されていて、さらにはゲームのリテラシーも非常に高く、『光のお父さん』についてイチから説明する必要がありませんでした。とはいえ、彼はドラマ版のアキオ役である千葉さんとはまったく異なるタイプの俳優さんなので、どういった芝居をするのか初日までまったく読めない状況でした。リハーサルができたわけでもないので、ある意味出たとこ勝負というか、本人が持っているもともとの素材を活かしながらやっていくしかないと覚悟を決めた記憶があります。

 僕はドラマ版“光のお父さん”を愛しています。ですが、映画版をドラマと重ねて見るのは絶対にやめようと最初に決めていました。じつは僕はドラマ版のオンエアが終わってから、この作品を一度も観ていないんです。映画の監督をすることに決まってからは、より情報を遮断して、ドラマ版の記憶を追い出そうとしました。映画は映画として新たなものとして撮りたかったからなんですが……。

――俳優さんが違うと、雰囲気もやはり変わってきますね。

野口:いざ撮影を開始してみると、坂口さんは「ドラマ版のアキオよりもちょっと男っぽい感じで演じようとしているな」というのを感じました。そして、ドラマ版はけっこう笑いを取りに行っていた印象だけど、逆に坂口さんはそこの部分の欲がないなと感じたんです。そこからは……監督というのは本当にすさまじく頭を働かせるんですよ。「彼はこういう芝居できたか。それならお父さんはこういうキャラにしよう。それにあわせてお母さんはこう……」「坂口さんはツッコミに特化させたほうが活きるから、逆にお父さんは徹底してボケに……」などなど、撮影初日はすごく考えます。とにかく初日は気が狂いそうになりますね(笑)。

――いろいろな可能性とそこへいたる道筋が頭の中を駆け巡るということですね。

野口:そのあと、坂口さんには「普通であればあるほどいいよね。ごくごく普通の青年を狙っていこう」と話しました。普通の人を演じるというのはじつは芝居で一番むずかしいことなんですが、坂口さんならやってくれるだろうと。

――普通の青年のように……というと思い当たるのが、職場の女の子が『FFXIV』をやっていると知ったときのアキオの反応でしょうか。かなり親近感がわきました(笑)。まさに、『FFXIV』をプレイしている人が同僚に“自分も『FFXIV』を遊んでいる”と聞いたら、そう反応しちゃうよね……といった感じで。

マイディー:あれはすごいですよね(笑)。打ち上げのときに、吉田プロデューサーも「あのシーンの坂口さんがすごくよかった!」と話していました。

野口:あれは、坂口さんの素に近いと思いますね。最初からいきなりあの芝居をしてきたんですよ。それを見たときに、僕は涙が出るぐらい笑っちゃって(笑)。あの「え、キミも『FFXIV』やってるの?」と聞いてくるときの目が、びっくりするくらい真剣じゃないですか。「こわっ!」って言いながら、モニターを見て爆笑していました。

 坂口さんにあの芝居について聞いてみたら、「現場とかでも、休憩時間にこういうシチュエーションがあるんですよ。それを、ただ表現したまでです」と言っていました(笑)。彼自身もゲーム好きなので、同じようなことが実際によくあるのかもしれませんね。

マイディー:あれはもう、個人的に本当にストライクでしたね。とてもおもしろかったです。

山本:ゲーマーは、みんな心当たりがありますよ、きっと(笑)。

――たしかに、わかります(笑)。

山本:あの芝居を見たらいろんなことを思い出してしまって……。数あるゲームのなかで、たまたま同じゲームをしている人を見つけたときの“距離が縮まった感じ”と言いますか。それまではそこまで親しくもなかったから、どうリアクションしようとか。電車のなかで、ふと見たら同じゲームをしていてうれしくなる気持ちみたいなものが全部出てきて、なぜか非常に恥ずかしかったですね(笑)。

マイディー:『FFXIV』的に言えば、電車の中でジョブピンバッチをつけている人を見たときの胸の高鳴りというか(笑)。「あ、仲間だ!」という光の戦士らしい独特な空気が出ていましたよね。

野口:誰ひとり、坂口さんがゲーマーだと把握していた人間はいなかったので、いろいろな意味で幸運でしたよね。

――『FFXIV』をやっていたから今回の役をお願いした……というわけではないんですね。

野口:ぜんぜん、そんなことないんです。ましてや、吉田鋼太郎さんもゲーマーだなんてまったく知りませんでした。あれはビックリしました。

――吉田鋼太郎さん版のお父さんは、大杉漣さん版よりもさらに頑なな印象がありましたね。

野口:先に坂口さんの芝居を撮影していたので、先ほどお話したとおり、今回はお父さんをボケとして笑いを取る方向にシフトしました。もう、お父さんが頑なに黙っていれば黙っているほどおもしろいんですね。お父さんの演技については、“静と動”を内心でテーマにしていました。サッカーに例えると、中盤で山本さんにパスをしたら絶対に点を入れてくれると信じていたんです。お父さんはジーッと動かず、ゲーム内キャラのインディが代わりに激しく動く……ここのコントラストが出れば出るほどおもしろいものになるだろうなと。

マイディー:計算ですね(笑)。

野口:なので、現場の吉田鋼太郎さんには、「やらないでください」「動かないでください」というように引き算の話しかしていなかったかもしれないですね。なので、吉田鋼太郎さんがいろいろな場で「不安だった」とおっしゃっていましたが、「そりゃそうだよな……」と申し訳なく思っています。

――舞台挨拶でもおっしゃっていましたが、大杉さん版の“お父さん”と比べられてしまうという状況もあったでしょうしね。

野口:吉田鋼太郎さんは、どちらかというと大杉さんよりも強面ですよね。そんな吉田さんがお父さんのような寡黙なキャラで大きく演じようとすると怖さが前に出てしまうので、とにかく「声を荒げないような演技でお願いします。穏やかに」とかそういう話ばかりしていました。

――寡黙なお父さん本人と、ゲームパートのインディがはっちゃけていくギャップもおもしろいところなので、作品内でのリアルパートとエオルゼアパートの連携はとてもうまくいっていように思います。さすがは、ドラマ版から続いての監督タッグだなと。

山本:まぁ、勘ですけどね!「こういうことだろうな」という想像を撮影しているだけなんで(笑)。全部がつながって、ようやく「ああ、これでよかったんだな」と思ったぐらいですから。むしろ、やりすぎたかなとも思っていましたし。

――吉田鋼太郎さんは、今回はリアルパートでそういった“あえて動かない”芝居をしながらも、ゲームをやっているときだけは腕を伸ばした大きな動き芝居になっていました。あれは、ゲームパートのキャラの動きを見てそれに合わせておられたのでしょうか?

野口:いえ、そういうことではないです。じつは今回、本編のクランクインの前に、特報映像のためだけの撮影というのを先んじて行っていたんです。

マイディー:日本ファンフェスで流れたショートムービーですね。

野口:そのときに、マイディーさんが現場にいてくれて、“初心者の動き”などをアドバイスしてくれたんです。そのとき、吉田鋼太郎さんが「普段からゲームをやっているので、逆に難しい」と話されていましたね。

マイディー:そのときにおもしろかったのが、とりあえず実際に撮影してみましょうとなったときに、身体が移動方向に傾いていらして。「普段、どんなゲームされるんですか?」と聞いたら、「『グランツーリスモ』とかですね」とおっしゃっていて、なるほどなぁ、たしかにレースゲームだと体は左右に動くのはわかるなと(笑)。とりあえず、「『FFXIV』では体はあんまり動かないと思います」と話したのは印象深く残っています。きっとそんなやりとりから、あの独特なプレイスタイルが生まれた感じですね。

――ゲームの画面に吉田鋼太郎さんがアフレコされるときに、あらためてお願いしたことはありますか?

山本:これがですね……じつは吉田鋼太郎さんの声は、マイディーさんたちの声を録り終わったあと、一番最後に収録したんですよ。ですが、吉田鋼太郎さんの収録前にオールラッシュがありまして、そのときに無音なのはさすがにダメだろうということで、とりあえず仮として僕が声を当てていたんです。

(編注:オールラッシュ……台本に合わせて荒編集を施した映像の試写会)

マイディー:幻の、“お父さん・やまきよVer.”ですね(笑)。

野口:あれ、秀逸でしたよ(笑)。

山本:吉田鋼太郎さんもそれを見ていて、アフレコで同じように演じてくれるんですよ。僕に引っ張られていると言うより、僕のニュアンスをうまく汲み上げてくれたという感じですね。

――劇中でマイディーがお父さんに事実を告白するシーンが、ドラマ版とも原作とも大きく変わっていましたね。劇場版としていい変化だなと感じたのですが、あれは当初からああいう形にしようと考えていたのでしょうか?

野口:あれはかなり早い段階で決まっていました。ドラマは6話と7話で後半の大きな山場を2つ作らなくてはいけませんでしたので、映画のような形にするという発想はなかったんです。

山本:映画の場合、その告白が必要かどうかというところから考えないといけないんですよ。というのも、映画のセオリーとして、“目的が2つあると、観客は片方を忘れてしまう”というものがあるんです。今回で言えば、“お父さんと一緒に冒険をしてツインタニアを倒す”“そのあとに、正体を明かす”というように、作劇的には目的が2つになってしまうんです。とはいえ、この告白は本作のキモなので、そこをどう展開して解決するかというのがエオルゼアパートの山だと思っていました。がんばってツインタニアを倒して、ただ単に段取りで「僕はじつは息子です」と言ってしまうと、感動が台無しになってしまいます。そこで、全体的な流れとして“息子と言わざるを得ない状況”を作ってもらいました。

――なるほど。ラストへ向かう怒涛の展開は、そのための布石だったんですね。

山本:リアルパートも含めて、そこにいたるまでの関係を構築し終わってからツインタニアに行かないと、告白できないということですね。さまざまな出来事が積み重なり、本当はもう“自分が息子だ”と言える関係になっているんだけれど、そのきっかけがない……という状況を作りました。だからこそ、あの場面で告白ができるんです。ただ、ツインタニアに行く前に親子の関係づくりはすでに終わっているので、「はたしてこんなに仲よくなっていていいのかな?」という意見は出ました(笑)。

マイディー:原作者の感想としては、実体験から始まり、ブログ、書籍、ドラマ、映画と続けて、やっと父にストレートに気持ちが伝わったのかという想いになりました(笑)。

――ドラマ版との大きな違いとして、妹の存在があります。今回、妹というキャラクターが追加されたことで変化したところは何でしょうか?

野口:じつは、ドラマ版のときも“妹を入れたい”という話は出ていたんですよ。そのときは、僕が「父と息子の話なのだから、入れるべきではない」と頑なに反対をし、結局入れなかったんです。しかし今回は“アキオとお父さんの距離をできるだけ離れたところからスタートするための、中継器のような存在”として入れることになりました。個人的にも理屈としての必要性はとても理解できるのですが……その一方で「怖いな」とも思っていました。“父と息子”というフォーカスがブレてしまって「入れなきゃよかった」となる可能性もありましたので……。ですが、今こうして完成した段階で言うと、「入れて、正解だったな」とすごく思っています。

 そう思えた理由としては、妹役を演じた山本舞香さんが非凡な実力者であったことが大きいです。演出としてすごく難しかったのが“お父さんと妹の距離感と、アキオとお父さんの距離感が同じでは、アキオのキャラがブレてしまう”ということでした。かといって、近すぎても今度はお父さんのキャラがブレてくる……。そのさじ加減は、現場での山本舞香さんとの打ち合わせのなかで微妙なところを突くしかないなと思っていました。

山本:そうですね。今回は本当に、キャストさんに救われたと思います。妹役を自然に、しかもなくてはならないような印象を抱かせるレベルで成立させたのは、本当に山本舞香さんの実力ですね。

――ドラマからはまったく想像がつかないシーンとして、妹の彼氏絡みのエピソードがありましたね。

野口:あのシーンは、正直リスクでしかないと思っていました。ですが、佐藤隆太さんが初号試写(※)を観終わった際に、第一声で「山本舞香ちゃんがすばらしかった!」とおっしゃっていましたね。僕自身も、妹の彼氏の劇場ライブシーンも気に入っていて……その部分に関しても役者さんの力がなければ成り立たなかったと思います。

(編注:初号試写……すべての編集を終えた完成版を、出演者やスポンサーなどが観る試写会)

山本:いいシーンですよね。劇場を出て帰ろうとするお父さんを妹が呼び止めるシーンは、いわゆる“背中の芝居”なんですが、表情や口元がほぼ見えない状態であれだけ役の感情を魅せるというのは、本当にすごいことなんです。背中と距離感、そして微妙な口調の違いだけでシーンを成立させてしまった。もちろん、吉田鋼太郎さんも舞台経験などが豊富ですから、その実力でガッチリとその演技を受け止めています。いやー、あの歳でそんな演技ができるとは……。山本舞香さんは一種の傑物ですよ。

野口:ちなみに、あのシーンって脚本だけ文章で読むと「かなりクサイな」と感じてしまうんですよ。なので、このままではいけないなと“最後のいい話をしたあとにお父さんが振り返ると、舞台には次の演目の衣装であるバニーガールを着た彼氏が立っている……”というオチを用意していたんです。そこでちょっとクスッとさせて、次のシーンに行くという流れを考えていたのですが……そんなオチが必要ないぐらいに感動的なシーンとして成立してしまって。なので、そのオチは切りましたね。

山本:あれはあれで、いいシーンなんですけどね(笑)。

野口:結果的に、彼氏役の人はバニーガールの格好させられただけになってしまいました(笑)。試写会をどういう思いで観ていたかは、ちょっと聞けなかったです……。

山本:いいカットなんですよ、お父さんも絶妙な顔をしていて。

野口:DVDのオマケとかに入れたいですね(笑)。

――それは、ぜひ観たいです!

山本:彼女にも直接伝えましたが、あのシーンの「何しに来たの?」というセリフは、個人的にこの映画のなかで一番好きなセリフかもしれないですね。

野口:それ、ずっと言っているよね(笑)。ちなみに、山本舞香ちゃんの芝居に対するアプローチの仕方は、役者としてはかなり特殊でして。なんと、台本を覚えるときに、ほかのキャストのセリフはいっさい読まなかったんだそうです。つまり、自分のところだけ拾っていったと。これによって、“こういうセリフがきたら、こう答える”というのではない、予定調和を崩した演技になっていて、すごくナチュラルに観られるんです。

――それは、相手がどんなイレギュラーなことをしてきても、彼女はそれに対してナチュラルにスムーズに対応できるということでもありますよね。

野口:彼女は絶対に対応できますね。それができるから成り立つアプローチの仕方なんです。力のない人がやったら目も当てられないことになりますが……。

山本:たぶん、山本舞香さんは自分のポジショニングが上手なんだと思います。サッカーに例えるなら、いつのまにかゴール前に走り込んでいる、得点能力に優れたフォワードみたいなものです。ポジショニングの上げ下げと言いますか、1セリフの言い方で自分の立ち位置を操れるんですよ。今回の映画でいえば、“ここでちょっとおどけることで、家族間での自分の立場が明確になる”みたいな演技が、一瞬でできるんです。

――今回の“アキオの妹”という存在は、山本舞香さんだから成り立ったということですね。

野口:吹原さんはそう計算して導入していたのかもしれませんね。ただ、個人的には妹の存在はさきほどもお話したように諸刃の剣で、正直に言うと怖かったです。

山本:妹という役は、作中においては記号でしかないですからね。記号で置いた役柄は、往々にしていい活躍はしないものなのですが……今回は、彼女の存在によって、ストーリーが“父と息子の物語”というだけでなく“家族のお話”となってくれました。

――アキオの部屋に、妹がお父さんの伝言役としてやってきますが、お父さんとはまた違った距離感を保っているんですよね。それぞれの距離感が違っているのがおもしろかったです。

山本:お父さんが妹に「ここからどうしたらええんや、ちょっと聞いてきてくれへんか」とかお願いしているところを想像すると、ちょっとカワイイですよね(笑)。

――同じく劇場版では、佐久間由衣さん演じる“アキオの同僚”という役柄が追加されていますが、彼女が使うキャラがルガディンだったのは驚きました。

マイディー:Gorioですね。僕らのお気に入りなんですよ。

山本:佐久間さんがエオルゼアパートの撮影を見学にきたときに、「カッコよくて強そうなキャラがいい」と言っていたので……これは絶対ルガディンだなと(笑)。

マイディー:そこ、そうなるんですね(笑)。

山本:あんなかわいい顔して、試しにコントローラを渡したら「おりゃー!」とか言うわけですよ。なので、“この子がルガディンだったら萌えるな!”と思ったんです。“ララフェルだと当たり前すぎるし……やっぱりギャップ萌えだな!”ということで、ルガディンしかないなと(笑)。

マイディー:“キャラはカッコイイけど、リアルは残念な感じ”という描かれ方は定番ですが、それが逆さまになっている感じですよね。僕は、そんな部分も気に入っています。

山本:ルガディンの格好で佐久間さんの声というあの絵面は、とても素晴らしかったですね。キャラの外見は、いかつければいかついほどいいと思っていました。

マイディー:山本監督、ノリノリでキャラを作っていましたもんね(笑)。

山本:Gorioのキャラ作成は、この映画の仕事で一番面白い仕事だったかもしれないですね。アクションスターにしてやろうという気持ちで作りました。

――ちなみに、試写会時の舞台挨拶で、野口さんが「プロデューサーにはカットしろと言われたけれど意地で残したシーンがある」とおっしゃっていましたが……差し支えなければどのシーンなのか教えていただけませんか?

野口:これはですね、永遠の謎にしとこうかなと(笑)。

山本:あえて言わないやつですね。

野口:じつは、そこは吉田鋼太郎さんのシーンだったので、あとから吉田さんにだけは伝えました。そしたら「そこは切っちゃだめだろ!」っておっしゃっていたので、切らないでよかったと心底思いましたね(笑)。あれからいろんな人に「あそこでしょ?」みたいな感じで聞かれるんですよ。

山本:みんな答え合わせしたいんですよ(笑)。

野口:いろいろな方々にすごく聞かれるんですけど、意外とみんな外すんですよね。「ゴルフのとこでしょ?」とか。それを聞いて僕は内心ほくそ笑んでます(笑)。

――人によって“ここだ”と思うシーンがバラバラでなかなか正解に当たらないということは、そのシーンは映画の中にきちんと馴染んでいるってことですよね。

野口:そうだとうれしいですね。

マイディー:野口監督がオールラッシュの時プロデューサー陣から「いらないでしょ」と言われていて、監督自身も「今日で、このシーンを見るのは最後だなと思って見てました」とおっしゃってましたよね。

一同:(笑)。

マイディー:野口監督が「わかりました」と答えて終わったのに、その後で「って言っても切らないんだよなぁ……」とつぶやいていたのが、すごくカッコよかったです。「貫く漢だなぁ」と(笑)。まぁ、それぐらい重要なシーンですもんね。

――今から映画館へ向かう人は、それがどのシーンかを想像しながら観てほしいですね。

野口:ぜひ、そうしていただけたらと。

山本:劇場で10回観てくれたら教えてあげます(笑)。

過去の経験値が息づく超絶クオリティのゲームパート!

――今回、『FFXIV』のBGMもすごく印象的に使われていたと感じます。とくに、スタート直後にTHE PRIMALSの“メタル:ブルートジャスティスモード ~機工城アレキサンダー:律動編~”が使われていたことには驚きました。

山本:それは、『FFXIV』プレイヤーの心をつかむためだけに、狙って投入しました(笑)。まず前提から話すと、冒頭をエオルゼアパートにしたのは、プロデューサーが「志として貫こう」と言っていたからなんです。僕は、「エオルゼアパートから行くのは、ちょっと不安です」と反対していたんですが、「これは作品の志だから」と、僕以外誰も反対しなかったんですよ。それで僕も折れて、「じゃぁ、まかせてくれ」と言ってシーンを制作したわけです。で、そのシーンのBGMとして光の戦士が一番アガるのは何だろうと考えた結果、やっぱり“THE PRIMALS”の楽曲だろうと。

――ゲームを知らない方が観ても、“なんかスゴイのと戦っている”感が伝わりますよね。

山本:懸念としてはあったのは、ブルートジャスティスが『ファイナルファンタジー』のボスっぽくないことですね。最初は、『ファイナルファンタジー』感があるボスは何がいいかと考えて、ベヒーモスかなと台本に書いておいたんです。ベヒーモスやドラゴン的なものを使おうかとも思ったのですが、獣系やドラゴン系はツインタニアと被ってしまうので避けることに。こうして獣系とドラゴン系は候補からなくなったので、「なら機械系しかない!」と。それでブルートジャスティスと戦うことになりました。

 さらに、機械系ボスのBGMでヒカセンが最もアガるTHE PRIMALSの曲といえば……“メタル:ブルートジャスティスモード”をおいて他にないだろうと(笑)。ブルートジャスティス戦だったら、合体シーンもあるのでオッサン的にもうれしいですし(笑)。そういういろいろな要素があって、結果的にこんな感じになりました。評判はよかったですね(笑)。

マイディー:じつはもともと最初の段階では、“オープニングでツインタニアと戦って、そのときにみんなが感動したから、お父さんにもツインタニアに挑んでもらおう”というシナリオでした。そのシナリオをいろいろな人が見ていくなかで、まったくゲームをしていない人から「なんでラスボスを最初に倒したのに、もう一回倒しているのか?」と聞かれたんです。それを聞いて、ハッとしましたね。

――あぁ! そもそも“繰り返し倒せるもの”という認識がないのか……!

マイディー:そうなんです。僕らにとっては、すごく当たり前のことなんですけどね。

――そこは盲点でした。

マイディー:周回という考え方がない人たちも観ることを考えないといけませんから。

山本:『FFXIV』を知らない人からしたら、ツインタニアのラスボス感が刷り込まれていて、「ラスボスではない」と言っても伝わらないんです。その『FFXIV』的周回文化を冒頭の5分では説明できないので、ツインタニア案もナシになっています。

マイディー:撮影しているときは、「このシーンはいろんな効果があるんだろうな」と思いながら撮っていましたね。俳優さんのファンの方が期待して観に来たら、「なんだこれ」ってなるでしょうし(笑)。ドラマを観ていた人も同様だと思いますし。パッチ2.0までの物語ではない、その先まで含んだものなんだということがわかるシーンですよね。ドラマ版と比べても、世界の広がりみたいなものを感じられるかと。

山本:いちおう、そういう部分も考えていました。“パッチ2.0のボスじゃないほうがいいな”とも考えていて。なので、ニーズヘッグも頭の中にはあったのですが、やはり“ツインタニアと被る”という理由でやめました。また、最終的にブルートジャスティスにする決め手になったのが、“機工城アレキサンダーの近くから映画を始められるので、水辺を映せる”という点でした。

 『FFXIV』は水の表現がものすごくキレイで、実写に近いんですよ。なので水面から映していくと、一瞬“実写か”と錯覚するんです。そこからだんだんとカメラを引いていくとゲームの世界が見えてきて、観ている方が「あれ?」となった瞬間に、THE PRIMALSの音とともに“ブルートジャスティス”がジャーンと現れる。

――映像のクオリティ面でも、初っ端から度肝抜かれますね。

山本:観る人によって、坂口さんの「よし!」というセリフまでに考える内容はさまざまだろうなと思っているんです。例えば、『FFXIV』プレイヤーは「ここを使ったか!」という感想になり、ゲームを休止している人は「今、こんなことになっているんだ」と感心し、まったくやったことがない人は水面からの変化で「え? これゲーム画面なの?」となると思うんです。そんな感じで、いろんなことを思いつつ、冒頭の2分ぐらいを観てもらえればと思っています。

――さきほども軽く話題にでましたが、リアルパート用のゲーム画面撮影を撮影する際、とくに難しかったところはどこですか?

山本:ドラマ版はマイディーさんがお1人で作っていましたが、今回はエオルゼアパートチームが全員そろって作っています。とくに気を使ったのが、UI周りの配置とチャット画面の文字の出方ですよね。撮影環境はWindows版なので、どうしても予測変換が出てしまうんですよ。ですが、お父さんが劇中で使うPS4版は本来予測変換が出ないので……まずは予測変換を出さない方法から探しました。

 チャット欄が大きく映ったときに、お父さんとアキオのチャット欄UIが同じでは、どちらの画面かがわからなくなってしまいます。なので、お父さんのチャット欄は透明度低め&予測変換なしで、アキオは透明度高め&予測変換アリというように、チャット欄のUIにも差をつけているんですよ。

マイディー:ゲームをしているのが2人だけだったからまだよかったですよね。それが3人4人となれば、そのぶんチャットの設定を考えなければいけませんでしたし。

山本:Gorioがチャットに参加しないで本当によかったですね……(笑)。とはいえ、いちおうGorioの画面もあるにはあるので、UI周りの設定は3人ぶん必要だったんですね。マイディーさんのUIはご自身で作ってもらいましたが、お父さんやGorioはどちらも素人っぽい画面にしなければならず、そこはけっこう考えました。

――リアルパートでのプレイ画面は、実際に動かしているわけではなく、動かしている画を撮って使っていたのでしょうか?

山本:そうです。そのあたりは、僕が素人っぽく動かしていたんですよね。

――外国人の女性の方が話している攻略動画をお父さんが見ていたのが印象的だったのですが、彼女はどなたなのでしょうか?

山本:Alexis Jassmin Broadheadさん(※)ですね。

(編注:Alexis Jassmin Broadheadさん……劇場版光のお父さんプロデューサーの勤める“あまた株式会社”に所属。VRゲーム『Last Labyrinth』のテクニカルアーティスト兼アニメーターを務める人物で、YouTuberでもあるという)

野口:大活躍だったね。

マイディー:レイド攻略では攻略動画を観るのが普通なので、お父さんがツインタニアを攻略するにあたって、その“動画を見て勉強する”という行動を再現することになったのですが……。もちろん既存のものは使えませんので、じゃぁ、その動画を誰が用意するのかという話になりまして。誰かにお願いするにしても、守秘義務契約などの問題がいろいろあるので、なんとか自分たちで動画を作らないとダメだろうと。そんななか、渋谷プロデューサーの会社にYouTuberさんがいるという話が出てきたんです。そこで、その子に作ってもらうことになったんですが……それがめちゃくちゃ日本語の達者な外国の方だったんですよね。

山本:すごい巡り合わせですよね。

マイディー:普通のシーンなのに、なぜか意味深な感じになっちゃいました。

――映像で海外の女性の方が写ったので、「海外の動画を見ているのかな?」と思ったら、流暢な日本語で話していてびっくりという(笑)。

野口:あははは(笑)。

山本:お父さんも、「なぜそれを見たのか」って感じですよね(笑)。

マイディー:ちなみに、その動画に映っている攻略メンバーは、じょびネッツアの人たちなんですよ。あれは公開サーバーで撮りました。

山本:じつは、画面にはほとんど出ないんですが攻略動画も2種類ありまして。お父さんが見ているもの以外に、アキオが佐久間さん演じる同僚女性に見せているものもあるんです。あれは、2人がかりでツインタニア戦を撮影しつつ、同僚の女性用(学者視点)と、お父さん用(吟遊詩人視点)の2つを作っています。

マイディー:僕らのキャラクターが攻略動画に映っていたらマズイので、それに参加するわけにもいかなくて……。撮影は、けっこう大変でした。監督にメンバー入りしてもらって、あとはじょびネッツアの面々に丸投げしています(笑)。

山本:撮ってもらった動画をインターネットで送ってもらって、それをチェックして……と、このあたりはドラマの頃の撮影方法に戻っちゃっていますね。

マイディー:そこだけは(笑)。

山本:吟遊詩人役と学者役の方が、「これで本当に大丈夫ですか!?」と不安がっていました。見ている側としては、「みんな、こういう画面でやっているんだなぁ」と新鮮でしたよ。

――攻略動画を見たうえでお父さんがツインタニアに挑むというのは、じつにライブ感がありますよね。

マイディー:実際に、うちの父も今は動画を見てコンテンツの予習をしたりしていますし、自分で情報を得ることができるようになると、成長したなと思いますね(笑)。

――ゲームパートの取材におうかがいして、これはドラマ版以上に撮影時間がかかっただろうなと感じました。撮り終えた今振り返ってみて、いかがですか?

山本:できることがドラマ版当時より多くなっているぶん、僕も含めて、みなさんそれぞれのこだわりが出ますよね。当然、スクウェア・エニックスさんの方からも要望が出てくるので、“ドラマ版ではスルーされたことが映画ではスルーされなかった”というのも多々ありました。先方もクオリティに対するチェックのレンジが上がっているので、それに応えていくことで、必然的に僕らのクオリティも上がっていきました。

マイディー:本当にそうなんですよ。もう1回撮りたいくらいです(笑)。

山本:やればやるほど、よくなっていくんですよ。「こういう表現は、なるべく映さないでほしい」という要望に、「だったら、こうしなきゃ」というのを何度もトライしていくうちに、どんどんよくなる。みんなの経験値も蓄積されていくので、撮り直したほうがさらにいい演技をしたりするんですよね。

――取材にうかがったときに撮影していた“砂漠を歩くシーン”も、映画内だと一瞬じゃないですか。それを何度も歩いて、視線も決めて……本当にこだわって撮っているんだなと感じました。

マイディー:僕が一番「よくできたな」と思ったのは、冒頭で、きりんちゃんがマイディーの膝に座るところですね。あのシーンは、収録の最後の方に撮ったんですよ。というのも、スクウェア・エニックスさんのチェックで、「きりんちゃんのポニーテールがマイディーさんの服にめり込んでいるのを、どうにかできないか?」という指摘が返ってきたんです。それを解決するためにした工夫が、もう僕らのなかでの集大成ですね。

山本:その工夫は、本当にビックリしました。

マイディー:きりんちゃんが歩いてきてマイディーの膝に座る瞬間、横にいるあるちゃんのほうを見ていますよね? これはなぜかと言うと、座る瞬間というのは背中をまっすぐ伸ばしているので、真っすぐ前を向いていると、背後にいる僕の服ときりんちゃんの髪が重なってしまうんです。なので、あえて横を向いた状態で座っているんです。

山本:僕のカメラが、ちょうどあるちゃん側にあるので、ポニーテールが見えないんですよ。

マイディー:そして、座ったあと自然と前かがみになった瞬間に視点をあるちゃんから外せば……真っすぐ向いていても、髪が重ならないんです。

――なるほど、ものすごく計算されている……!

山本:その間も、マイディーさんはマイディーさんで表情を動かしているんですよ。

マイディー:いくつかタイムラインがありつつ、複数の人間で操作しながら1シーンを撮る……という態勢にしているのは、そういうことなんですね。エオルゼアパートは、こういった作業の繰り返しでできているんです。今回はかなりいいところまでクオリティを上げられたと思います。

――じつは、ドラマ版でわずかにあったゲームならではの“行動と行動の間のカクつき”が映画版ではほぼ完全になくなっていて、かなり驚きました。

マイディー:そう言っていただけると、うれしいですね。ドラマ版から積み重ねてきた経験値が活きてきたということでしょうね。

――エオルゼアパートの撮影といえば、マイディーさんが羅刹衝でインディを助けるシーン。あそこで、主観視点のカメラとスプリントをしているマイディーさんが同じ速度で動いていることに驚きました。後ろに進むときは、前進するよりも移動速度が遅くなるはずですが、あれはどうやって撮影したのでしょうか?

山本:じつは、コンフィグでカメラ側の移動速度を上げているんですよ。しかも、ただ上げて移動すればいいだけではなく、主観なので後ろが見えない状態でバックしているわけです。柱とかにぶつかっても、マイディーさんと足並みがズレても失敗なので、かなり気を使いました。移動するときは、地面の模様などを目印に動いていましたよ。

マイディー:ここでのスプリントが切れる描写も、こだわったんですよ。

――劇中、マイディーが落ち込むセリフの切れ目でシュンとスプリントが消えていて、フフッてなりました。

山本:わかる人にはわかっていただける感じかなと(笑)。スプリントが消える音でマイディーの凹んだ雰囲気が出るような。

マイディー:移動の撮影としては、ウルダハの移動は比較的ラクでしたね。足元のタイルが一定なので、目印にしやすかったです(笑)。

――声の収録は、エオルゼアパートを全部撮り終えてからだったのでしょうか?

マイディー:今回はそうですね。

山本:ちなみに、そのときは声だけでなく、SEやBGMも入ってなかったんですよ。

――なるほど、映像だけ録って、あとから音をすべて当てたんですね。……でもSEがわからないと、どれだけ声を張ったほうがいいかというのもわからないのでは?

山本:ですね、声優さんは難しかったんじゃないかと思います。音を全部あとで録っているので、エオルゼアパート自体はドラマ版のときよりもさらにこだわって作れました。無音の状態で編集をしたあと、この撮影場所に行って時間帯を合わせて録音しています。

――それは楽しそうな反面、かなりの作業量ですね。ちなみにドラマ版ではサウンドチームにご協力いただいたと以前お話しされていましたが、今回はどうだったのでしょうか?

山本:今回は『漆黒のヴィランズ』直前でサウンドチームのみなさんもお忙しい最中でしたが、「こういう音はどうですか?」というリストをいただいて、それを参考に収録しました。

――ちなみに、サスタシャ突入直前のシーンBGMは『FFXIV』の曲にはなかったように思ったのですが……書き下ろしの曲もあったのでしょうか?

野口:あそこは劇伴(※)ですね。

(編注:劇伴……映画やドラマなどで流れる伴奏音楽)

野口:コミカルなシーンに流れている曲など、今回は7~8曲ぐらいは劇伴が入っていると思います。

山本:音については多くのシーンに、すごくいろいろな音が入っておりまして、劇場の5.1chサラウンドで聞くと、たぶん次々と新しい発見があると思いますよ。

――音楽といえば、GLAYさんが手がけたテーマソング“COLORS”は、いつごろに完成したものなのでしょうか?

マイディー:あれは、かなり早い段階でできていました。まだ、脚本が完成していないタイミングだと思います。

野口:そうでしたね。

マイディー:早い段階からプロデューサーさんからもらっていました。

――TERUさんはドラマ版の頃はまだ『FFXIV』プレイヤーではなかったですが、今回は『FFXIV』のプレイヤーとしての想いがかなり込められているように感じました。

マイディー:ドラマ版のときは原作を読んで湧いてきたものを曲にしていただいていましたが、今回はご自身で『FFXIV』を体験し、酸いも甘いも噛み締めた状態で作られているように感じますね。

――『FFXIV』プレイヤーからすると、またひと味違う歌詞だと感じました。いいですよねー……。

マイディー:そうですね。今回もいい曲ですよね。

野口:ですね。

山本:GLAYファンからもかなり評判がいいとお聞きしましたよ。「20年ファンをやっていますけど、すごくいいです!」みたいなコメントをお見かけします。

――それではインタビューの締めくくりに、“劇場版 光のお父さん”についての想いの丈など、ぜひお1人ずつお聞きできるとありがたいです。

山本:僕は……ドラマ版を観ていた人に観てほしいんですよね。『光の戦士』でこの映画を“意図的に観ない”という選択をする方は、おそらくドラマ版のファンだと思うんです。千葉さんと大杉さんの『光のお父さん』が好きだという人は、どこかで拒否反応を持ってしまうのかなと。これは、この企画が始まった頃からの懸念だと思っています。なので、そういった、ドラマ版を好きだった方々も十分納得できるものにしないとダメだろうと考えて作りました。ドラマ版とはまた違う『光のお父さん』に仕上がっているので、ぜひ観てもらえたらうれしいです。

野口:山本さんのおっしゃったことは、もっと前面に出して言ったほうがいいことなんでしょうね。完成披露試写会のとき、「ドラマ版の時点から監督を担当している」ということは、あえて言いました。思いを受け継いでいるというのは本音ですしね。ですので、試写会の壇上で吉田鋼太郎さんが大杉さんのことをお話してくれたのは、とてもうれしかったんです。僕らからは言いにくいところではあるので……吉田鋼太郎さんはそれも織り込み済みで言葉にしてくれたんだと思います。僕もドラマ版光のお父さんをすごく愛しているので、そう思ってくれる方々の気持ちもわかりますが、そういう人にこそぜひ劇場版を観てもらいたいですね。

 また、この物語のテーマの話になってくるのですが……自分の歩いてきた道にドンと大きな壁が立ちはだかったとき、マジメな人であればあるほど「自分の進む道は終わりなんだ」と思いがちです。それこそ、『FFXIV』を始めた当初のお父さんがそうですよね。僕自身も、お父さんとは違う次元ですけど、「僕って、もう作りたい映像を作れないのかな」みたいなときがありまして。でも、そういうときに、パッと横を見ると、意外と別の道があるものなんです。そして、一見すると真正面ではないその道が、自分が本来進もうとしていた道につながっている瞬間があったりするのですよね。もし、お父さんにこの先新しい物語があるとしたら、自分がもともと進みたかった道に戻るかもしれません。そんな感じで、“行き詰まったときにはパッと横を見てほしい、そうすれば、見えていなかった道が見えるかもしれない”ということは、この作品を通してのテーマとして持っていました。

 そして光のお父さんは、“そうして横を見させてくれたのが、実の息子だった”という、すごくいい話だと思っています。さらに……マイディーさんを隣にして言うのはハズかしいですが、“その息子自身が夢中になっているものが、お父さんに新しい道を与えた”というのは、本当に素敵な話です。

 なにかに夢中になることって、自分だけでなくほかの人もハッピーにすることがある。僕自身も、この物語から勇気をもらいましたし、映像に夢中になってきてよかったと思いました。いろいろ感じ取れる普遍的な物語だと思うので、なにかの壁に直面している人に観てもらえたらうれしいです。

マイディー:この作品を完成させたことで、自分の中に1つの大きな旗を立てられたかなと思っています。これは僕がいつも言っていることではあるのですが……「光のお父さん」は親子の物語でもあり、オンラインゲーム賛歌でもある作品ですから、1人でも多くのオンラインゲームを知らない人に観てほしいと思っています。いろいろとゲームが槍玉に挙げられる事件もありますし、オンラインゲームというのはまだまだ世の中からいいイメージを持たれにくいジャンルであると、日々実感しています。だからこそ、この映画を通して「ゲームを使った1つのいいお話が実際にあったんだ」ということを、1人でも多くの人に知ってほしいという想いが、今でも、これからも強くあるんです。

 ですので、ぜひ光の戦士の方々におかれましては……。この記事が掲載される頃は今最も忙しい時期ではあるかと思いますが、とりあえずメインストーリーが終わり、メインジョブがカンストしたぐらいのタイミングで構いませんので、ぜひ映画館に足を運んでいただけたらと思います。光の戦士同士で行くのもいいですけど、両親を誘ってみたりだとか、ゲーム好きな友だちを誘ってみたりだとか、そういう形で『FFXIV』を知らない人と一緒に観てほしいなと思います。

――ありがとうございました!

(C) 2010 - 2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
(C)2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 (C)マイディー/スクウェア・エニックス

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