『魔王学院の不適合者』の裏側を鈴木達央さん&大沼監督が語る。アノスのイメージは “理想の上司”
- 文
- セスタス原川
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現在放送中のアニメ『魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』。3章構成で描かれる本作は、第5話より第2章が開幕しました。
そこで、楠木ともりさん&夏吉ゆうこさんの対談に続き、今回はアノス・ヴォルディゴード役の鈴木達央さんと大沼総監督の対談をお届けします。主役と監督の2人だからこそ語れる本作の裏側について、とても深い話をお聞きしました。
第2章の予習のため、ファンはぜひご一読ください!
アノスのイメージは“理想の上司”?
――アノス役が決定した際の感想をお聞かせください。
鈴木さん:純粋に嬉しかったですね。実は、結構たくさんの声優陣がアノス役のオーディションを受けていて、そのときは「誰になるのかな?」という話を周りとしていたくらいです。
――実際に鈴木さんがアノス役の抜擢された後の周りの反応はいかがでしたか?
鈴木さん:その後、役が決まってからは、周りから「なるほどね。達(※鈴木さんのこと)だったらそりゃ合うね」という声を、声優仲間からもらいました。それが嬉しかったと同時に、小さな自信が生まれた瞬間でもありました。
――大沼監督にも鈴木さんの演技を聞いた感想をお聞きしたいです。
大沼監督:達央さんとは付き合いも長いので、オーディションのときに逆に困ってしまったというのが正直な感想です。監督として付き合いのあるキャストさんの声を聞くと、以前演じていたキャラクターがどうしても思い浮かんでしまうので……。もちろん、達央さんなら演じきってくれるという確信はそのときからありましたが。
――では、最終的な判断はどのように決めたのでしょうか?
大沼監督:私がそういう状態なので、オーディションの判断は他の方々のご意見を伺いつつ進めていきました。その結果を踏まえて「じゃあこのキャストでいきましょう」という形で決めさせていただきました。
――監督だけでなく、皆さんの総意で鈴木さんが選ばれたと。
大沼監督:そうですね。力強さだったり、雰囲気だったりが一致しているという部分が大きなポイントでした。もちろん自分もそう感じていましたし、他の方も同じ意見ならば何一つ問題はなく、そのまま達央さんにお願いさせていただきました。
――鈴木さんはSNSでも作品に関する呟きをよくされていますよね。
鈴木さん:自分の個人的な思い入れなのですが、これまで主役として電撃文庫の作品に出演する機会がなかったので……。過去には、電撃文庫の作品を紹介するラジオ番組をやっていたこともあり、こうしてアノスを演じられることに対しては特別な想いがあります。
――鈴木さんはオーディションからアフレコまでにはどのような準備を行ってきましたか?
鈴木さん:オーディションのときはまだ小説1巻くらいしか読めていなかったので、物語のおもしろさを探るためにも、アノスの魅力をどう落とし込むべきか理解するためにも、ずっと原作を読み込んでいました。もちろんすべてがアニメーションで描かれるわけではありませんが、その場面がどういう意味を持つのかを理解して、芝居に入れ込める状態を目指しました。
――原作の読み込みをしてアノスや作品の印象が変わったところはありましたか?
鈴木さん:原作を読み進めていくと1巻ではわからなかったところまで理解が進んだ箇所が多かったです。すべてを説明すると壮大なネタバレになってしまうので言えませんが、アノスがなぜ2000年後に再び生まれたのか、神様の存在、魔法という概念そのものなど、読み進めるほどに、細部まで練り込まれた物語だと感じました。加えて「これは俺もしっかり読み解かないと演じるときに困るな」と気合いを入れるきっかけにもなりました。
大沼監督:これまでのお仕事の中で鈴木さんがいろいろな引き出しを持っているのは知っていますので、第1話で改めて鈴木さんのアノスを聞いたときは「なるほど、そういうまとめ方で来るのね」という印象で、逆に新鮮でした。
鈴木さん:長い付き合いですもんね。監督にはいろいろな引き出しを見られてしまっています(笑)。
大沼監督:第4話くらいになってくると「ああ、もうアノスは達央さん以外ありえないな」という実感が生まれてきました。そう思えるのは非常にいいことであって、やっぱり演じるのならば唯一無二の存在になってもらいたいという想いがありますよね。
――アノスの演技に関して、大沼監督から鈴木さんに言葉をかけることもあったのでしょうか?
大沼監督:方向性さえ決まってしまえば、あとは逆に達央さんにお任せする形でしたので、細かい指示は出しませんでした。絵はお芝居に対しての調整も後からできるので、想定を超えた芝居をいただいたときは絵を合わせたり、他にも調整したりしつつ制作を進めていきました。
鈴木さん:声優として、自分の芝居をそう受け取ってもらえているというのは、素直に嬉しいですね。
――アノスを演じる際に気を付けた部分はどこでしょうか?
鈴木さん:悪い意味ではないのですが、実はその辺りは何も気にせずに演じていました。ライトノベルをはじめとする『魔王学院の不適合者』のようなファンタジックな作品。言い方を変えると突飛に見られやすい作品に通ずることですが、そこに登場するキャラクターによってしゃべりづらいとか、感情が出る、出ないとかは、芝居に関係ない部分だと思っています。
――そう考える詳しい理由をお聞きしたいです。
鈴木さん:例えば、テレビで専門家の方が淡々としゃべっている様子を想像してみてください。そのしゃべり方って、無理をしているわけではなく、それがその人の普通のしゃべり方ですよね? 芝居の中で課題になる部分は、それと同じ状態をアノスでもできるかどうかです。「こんな感じかな?」という感覚で外側だけを作ってしまうと、どうしても一辺倒なセリフになってしまいます。
――鈴木さんが考えるアノスの話し方とはどのようなものでしょうか?
鈴木さん:アノスは、相手の人となりを見て話す様子が印象的でした。自分の家族、友だちと言ってくれたミーシャ、近い距離感で話しかけてくるサーシャ、それぞれに対しての話し方が明確化されていると思います。
それは2000年という時間が影響していると思っていて、僕が大事にしたのは2000年前のアノスの感情でした。当時の戦乱の世では人が傷つけ合い、大切なものが失われていく様子を想像すると、転生した先の平和な世界や人々は、アノスにとって大事な存在なはずです。
何のために言葉を口にしたのかさえ考えてしまえば、演技で困ることはそうありません。もちろん、アノスが持つ心象も相手に応じて変化するので、ある時はドライな考え方をしつつ、でも感情は大事にする……という演じ方でした。
――演じる際に苦戦した部分はどこでしょうか?
鈴木さん:「みんなと仲良くしすぎ」と言われていました(笑)。2000年後の世界を愛おしく想いすぎた結果、感情が出過ぎてしまっていたようです。音響監督からも「気持ちはわかるけど、ここは抑えよう?」となだめられたりもしました。
――大沼監督から見ても、鈴木さんのアノスへの理解の深さは伝わってきましたか?
大沼監督:ちゃんとキャラクターと物語を読み解いたうえで演じていただいて、非常にありがたいと思いました。我々も、当初はアノスをどう描くのかが課題になっていて、熱血だったり、スタイリッシュだったり、それぞれの頭の中にいろいろなアノス像がありました。そんなときに、ライターさんからいただいた“スマート”という言葉がしっくりきて、そこでこれから目指すアノスの描き方が“スマート”に決まったという経緯もあります。
――その目標はどのようにして鈴木さんに共有されたのでしょうか?
大沼監督:“スマート”というのは非常に合理的な考え方をしているとも言えるのですが、それが行き過ぎてドライになりすぎてほしくはないと思っていました。なので、鈴木さんには最初に「アノスは“理想の上司”のように演じてほしい」と。
鈴木さん:そうなんです。俺は“理想の上司”って聞いたとき、納得しつつも表現の仕方に対して爆笑していましたよ(笑)。「確かに! 水戸黄門っぽいよね!」って。言ってしまえばアノス自身が印籠みたいなものなので、そりゃ印籠を先に出したらおもしろさがなくなってしまうよね、と納得もしました。
大沼監督:アノスは自分が出ればすべて解決してしまうのに、最初はみんなにトライさせますよね。残念な上司は部下の仕事を奪ってしまいますが、みんなの挑戦を見守る立ち振る舞いは、まさに“理想の上司”ではないかと思います。その根底には、先ほど達央さんの仰っていた2000年後の世界への想いもあるはずです。
――こうして1つの単語でお芝居の方向性を決めることは多いのでしょうか?
大沼監督:あんまり現場で細かく指示を出しても、みんなの向かう先がバラバラになってしまうので、自分はよく分かりやすい指針を1つ出しています。明確な目標さえあれば、キャストさんも絵を描く人も、1つの単語があればそれに向かって進めるのではないかなと。
――他にもアノスのキャラクター性を表す単語としての候補はあったのでしょうか?
鈴木さん:第1話のときに出たワードは“理想の上司”“水戸黄門”“暴れん坊将軍”でした。改めて見ると、昭和の人間しかいないようなチョイスですよね(笑)。でも、どれも言われて「確かに」と納得する部分はありました。
――鈴木さんは“理想の上司”という単語からどのような印象を受けましたか?
鈴木さん:自分がファンタジー系という部分に意識を持って行かれ過ぎた部分もあったので“スマート”“理想の上司”というワードを聞いて、現実の人間関係に近いようなカッチリとしたイメージが新しく生まれました。
――ちなみに、声優さんはこのように大まかなディレクションから演じるキャラクターを頭に描く機会は多いのでしょうか?
鈴木さん:ありますね。僕らの仕事で難しいと思う部分は、上の人になるほど端的な指示が出ることです。「1を言ったから、10を理解してね」と言われて、僕らはその1からどれだけ要素を引き出せるかの挑戦をするわけです。僕は、もし10を引き出すことが目標ならば、さらに15、20くらい引き出したいと思っています。それらの要素を理解した上で、それからお芝居に乗せていくという……難しいですが、おもしろいと思う部分です。
――収録現場の雰囲気はいかがでしょうか?
鈴木さん:アフレコをしていると、キャストだけでなくスタッフもみんな楽しそうにしていますよ。田村さん(監督)なんか、ニコニコしながら資料を毎回持ってきてくれます。さらに「よろしくお願いします……で、これが設定資料なんですけど!」と、1から100まで見せてくれるわけですよ。もうアフレコ始まるってタイミングなのに(笑)。
大沼監督:僕から見ても田村監督の熱量はすごくて、ちょっと行き過ぎなんじゃないかとも思うくらいです。
鈴木さん:田村さんはあれがいいんですよ! 僕は大好きです。聞いているこっちもすごく楽しくなって、この人をもっとワクワクさせたい、どうやってこの気持ちに答えてあげようかな、と考えてしまいます。みんながこの作品を盛り上げたいという想いは、フィルムが回っていないところでも感じられるので、それがすごく大切なことだと思いますし、嬉しくてモチベーションに繋がるんです。
大沼監督:確かに、田村監督の熱量が現場にもうまく伝わっていてるのは本当で、いい循環ができていると思います。逆に、自分は盛り上がりすぎた空気を抑えるような立場でしたね。
――盛り上がりすぎもいいわけではないと。
大沼監督:楽しさ一辺倒になってしまうと作風としても問題が出てきてしまうので、抑えるべき部分抑えるべきです。とはいえ、完成したフィルムを視聴者の皆さんに楽しいと感じてもらえるのであれば、それは田村監督から伝わった雰囲気がそのままフィルムとしても出せたからだと思います。
――他のキャスト陣の様子はいかがでしたか?
鈴木さん:この現場は、若手からベテランまで、分け隔てなくいろいろな声優が集まる現場でしたね。その様子を見るだけでもおもしろいですね。俺とキャリアが近い連中がひっそりした役で来たり、もっとキャリアが上の方が「この役で来るの!?」というぜいたくな登場をしたりするから驚きですよ。
――幅広い世代が集まると、収録現場にも何か変化があるのでしょうか?
鈴木さん:俺はアフレコのときは、できるだけ若手とベテランの掛け橋を作ってあげたいと思っています。夏吉くんやともりくん(楠木さん)たちが、ベテランと話す機会が多いかどうかで言えば、まだ少ないですから。
――それは昨今の声優界全体のお話ということですよね。
鈴木さん:そうですね。最近は世代が上の人とコミュニケーションが取れる場が少なくなっています。それが昨今のアニメーションのいいところでもあり、怖いところでもあります。上の人がいるときはどうするべきか、どう振る舞うべきか、それを学ぶことはスタジオの中で大切なことですから。
――鈴木さんが若手のときは、ベテランの方々とどのような接し方をされていましたか?
鈴木さん:俺は割と図々しい物言いをするタイプなので、おかげさまでいい意味で可愛がってもらいました(笑)。今の若い子たちも、同じようにとは言いませんが、ベテランのいろいろな話を聞かせてあげたいですね。
――実際に現場ではどのようなお話をされましたか?
鈴木さん:例えば、年齢にかこつけて「自分の年齢くらいのときって何していました?」とか聞くと、たくさんおもしろい話を聞かせてくれるんですよ。
――鈴木さん自身は若い世代のキャストさんとどのようなお話をされますか?
鈴木さん:俺は何かしらで若手を弄るようにしていますね。この現場だと、よく弄られているのはともりくんですが。
――楠木さん、弄られキャラなんですね(笑)
鈴木さん:ともりくんは、しっかりしているように見えますが、我々から見ればまだまだ可愛らしい二十歳の女の子です。しっかりしているところは他で見せてくれればいいから、現場ではおもしろい一面が見たいなって(笑)。
――ちなみに楠木さんのエピソードはどのようなものがありましたか?
鈴木さん:収録では、他の方の音声も聴けるようにレシーバーのようなものを持って行うのですが、ともりくんはそれを持っていることを忘れて、後ろでズルズルと引きずりながら移動していました(笑)。「壊れちゃうよ~」「使ったものは置きなさい~」と声を掛けたくなってしまうような姿だったので、印象に残っています。
――鈴木さんらしい接し方ですが、もちろん弄るだけではありませんよね?
鈴木さん:真面目な話もしますよ。彼女たちは勉強熱心ですし、他の子も勤勉ですからね。セリフの解釈をサポートしたり、「どうするべきだと思う?」と一緒に考えたり、意外とブース内ではとても真面目な話をすることが多いです。
――具体的にはどのようなお話をされていたのでしょうか?
鈴木さん:ちょうどそのときは、俺、寺島拓篤、あみっけ(小清水亜美さん)が居て、加えて後から登場する若手の女の子が一緒でした。そこでは“女性の個性とは”という話題で、自分たちの声をこれから先どうやって認識してもらうか、声を聞いた瞬間に名前を思い浮かべてもらえるかが大事で、さらに感情も乗せないといけない……という話をしていました。
――小清水さんがいらっしゃるからこその話題ですね。
鈴木さん:そのときはちょうどあみっけの演じるエミリアの出番が多い回で、アイツの芝居のパンチ力を改めて感じたときでした。あみっけとは十代の頃からの付き合いなので、俺も一緒にマイクの前に立つと楽しくなってしまいます。
さらに、そこに一緒につるんでいた拓篤も居たので、まるで同窓会のような雰囲気で話をしました。そこに先ほどの若手の子もいたので「あみっけの個性って何だと思う?」って感想を聞いたりもしましたね。
大沼監督:話を聞いていると、スタジオがコミュニケーションの場として収録現場以上の場所になっている印象を受けますよね。
鈴木さん:ええ。『魔王学院の不適合者』のスタジオの中は物語と同じで、アノスのようにキャリアの長いキャストが若い子に自分たちの姿を見せてあげる場でもあるんじゃないかなと。それを見て若い子がどう感じたのかは俺のほうから聞いて、積極的に自分で確認させてあげるようにしています。
大沼監督:達央さんの想いはブースで見ていても感じる部分があります。
鈴木さん:普段はこんな感じですけど、意外とスタジオでは真面目ですよ。
大沼監督:いやいや、意外とじゃなくて、達央さんは元から真面目ですって!(笑)
鈴木さん:パブリックイメージがアレなだけですかね? でも本当に若い子を交えて真面目な話をする機会は多いですよ。単純に、俺がアフレコで切り替えられない人が嫌いという理由もありますけどね。なぜマイク前にいるのかを考えて、固執している何かを持ってないと、ベテランに勝てるようにはならないと思っていますから。
――鈴木さん自身もベテランの方から影響を受けることもありますか?
鈴木さん:ありますね。てらそままさきさんをはじめ、続々とベテランの方が登場しますが、その方々がしゃべるだけで強いキャラクターが完成するわけです。その技術がすごすぎて、自分に腹が立ってくるくらいですよ。それができる理由も会話をしていると何となく感じられるのですが、それと同時に、これができるようになるまでにいろいろとやってきたのだろう、という努力が透けて見えるんです。
――ベテランの方々と共演する際に鈴木さんが意識されていることはどこでしょうか?
鈴木さん:皆さんと自分を比べたとき「普通に生きていたら一生追いつかない」と感じるので、同じ現場にいるときは、何か技術を盗んで、それを実践でお返しするくらいの意気込みで臨んでいます。マイク前にたったらキャストはみんな同じラインに立っているので、同じ基準で比べられてしまうわけです。そうなった状態で何かを残したい、あえて強い言い方をすれば、何かをあの人たちに残して帰りたい、何かを盗んで帰りたいと思ってしまいますね。
先ほどのベテランのエピソードを聞くという部分でも、その話を1つ聞き出せただけでも、今日は勝ったな! と思います。その経験談を通して、俺や若手の子たちはベテランがベテランたる理由の一端に触れて、何かを得られるわけですから。
――お話を聞く限り、あまりベテランの方から話題を持ち掛けてくれるということは少ないというようにも思えます。
鈴木さん:よくも悪くもベテランの方は、放っていても芝居ができてしまうので、その奥にあるものを引き出すには、こちらから寄り添う必要があると思っています。少なくとも、俺が自分の座組で何かをするときには、ベテランの方にもコミュニケーションの輪に参加してもらうようにしています。
――どの現場でも主役を演じる方は現場の空気感を意識していらっしゃるのでしょうか?
鈴木さん:俺が現場主義でずっと生きてきて、自分の座組を頻繁に持つようなタイプではないから肩肘を貼っている部分もあるかもしれません。俺が大事にしているのは「こちらはオープンマインドで、若手でもベテランでも誰でも受け入れますよ」という姿勢です。
――これだけ鈴木さんが考えて動いていらっしゃると、若い世代のキャスト陣も何か感じとっているはずですよね。
鈴木さん:彼女たちがいい芝居ができるようになれば、それに越したことはありません。それこそ、ついこの前集まったときにはちょっと厳しい話もしました。でもそれって、昔に自分も良く言われていたことなんです。
大沼監督:厳しいことを言ってもらえるのは、やっぱり可愛がってもらえている証拠だと思いますよ。
――大沼監督も鈴木さんの作る現場の雰囲気は感じられていましたか?
大沼監督:感じましたね。アニメのアフレコでは、慣習的に主役を演じる声優のことを“座長”と呼んだりしますが、この座長次第で現場の空気は大きく変わります。達央さんとも長いですが、こうして改めて話を聞くと「立派な座長になったなぁ」と思います。
鈴木さん:いやいや!(笑)
大沼監督:達央さんは収録が終わると若手の方と飲みに行かれて、とても熱く語ることもあるようですが、今はそこにクールさが加わって、すごく座長っぽいと思いましたよ。
――大沼監督も現場での若手とベテランの関わりという点で意識されることはありますか?
大沼監督:現場で学ぶことは、技術じゃなくて精神を学ぶことが一番大切だと思います。技術はいくらでも勉強しようと思えばできますが、心構えは実際に接していかないとわからないところですから。それはフィルムの出来栄えにも繋がることだと思っています。
――総監督という立場から見て、ベテランの方々のお芝居はどう映りますか?
大沼監督:ベテランの皆さんがお芝居で訴えてくる説得力って、本当にすごいんですよ。こちらはある意味お芝居をチェックさせていただいているような立場ですが、こちらの想定を超える芝居を見せられてしまえば、それに従うしかかありません。これも1つの真剣勝負だと思っていて、スタッフとキャストで鍔迫り合いをしているつもりです。
鈴木さん:アノスの演技も引っ張られることがあるので、そのときはすごく悔しいですね。特に七魔皇老を演じている皆さんとアフレコしていると、自分が他のキャラクターと話しているときには出せなかったニュアンスを引っ張り出してくれて、しかもそれを肯定してくれるようなこともありました。
大沼監督:キャスト陣同士の勝負している感じも、ブースに居るだけでその雰囲気は伝わってきます。
鈴木さん:ミーシャとサーシャと話すときには抑えているものが、彼らと話しているときには勝手に引き出されますね。その瞬間は引き出していただいているという感覚がありますが、同時にキャラクターとしては自分のほうが強くなければいけないのに「何をやっているんだ俺は」と熱くなって、逆に何か引き出してやろうとも思います。
――具体的にどのような駆け引きがあるのでしょうか?
鈴木さん:例えば、語尾を上げる、下げるとか、半音でニュアンスを投げかけてみるとか、少し変化を加えるだけでセリフは全然違ったものになります。しかも、ベテランの方々はそれに反応して全部しっかり返してくるわけです。その引っ張り合いが本当に楽しくて……。一生やっていられると思うほどですよ。
――それは若い世代のキャストとは味わえないような感覚なのでしょうか?
鈴木さん:そんなことはありません。夏吉くんやともりくんたちも、ベテランには出せない芝居を持っていますよ。彼女たちも突然、今まで出せなかったような芝居を出してきたりします。しかも、ベテランが狙ってやるような表現を彼女たちは感性でやるので、想定できるようなラインを軽く飛び越えてきます。逆に、俺が彼女たちに新しいニュアンスを引き出されちゃったりすることもあるくらいです。
――サーシャとミーシャは特にセリフのニュアンスが重要なキャラクターという印象です。
鈴木さん:そうですね。そういったニュアンスは日常生活の中で生まれることもあるので、3人でアプリのトークグループを作って会話をして、なるべくお互いの距離感を詰められるような環境づくりを考えています。実際に彼女たちの芝居が大きく変わることもあって、その変化の瞬間は見ているこっちも驚くほどです。
――そのお話を聞いた上で本編を見ると、また違った発見がありそうですね。
鈴木さん:彼女たちのそういった細かいニュアンスの表現も、話が進むごとに変化してさらに見えるようになりますからね。そこも注意して見てもらえれば、作品全体がもっとおもしろくなると思いますよ。
――第1章にあたる第4話までの注目ポイントはどこでしょうか?
鈴木さん:個人的には第4話のオープニングでアノスverが採用されたことが嬉しかったです。
――あれは見ていて驚いた方も多かったのではないか思います。
鈴木さん:最初はカップリングの収録をしたいというお話でしたが、アーティストさんの曲をキャラクターが歌うなんてこと、普通はできないことですからね。何回かマネージャーに「これ本当にいいの?」と確認しました(笑)。実現したのはCIVILIANさんのご厚意でしかないので、ありがたいと思うと同時に、しっかりしたものを作らなければと思い丁寧にレコーディングさせていただきました。
――そのレコーディングにはどのような心境で臨まれましたか?
鈴木さん:CIVILIANさんの曲に泥を塗るわけにはいかないという考えはもちろん、アノスらしさもしっかり出さないといけないという、まさに“前門の虎、後門の狼”状態でした。いいモノ出さずに済ますわけにはいかないという思いが強かったですね。最終的にミックスまでしっかりチェックさせていただいて、おかげさまですごくいいモノができたと思います。
その結果として、「いいものができたので第4話のオープニングで使わせていただきました」という思いもしなかった展開になって、アノスって本当に理(ことわり)を変える存在だなと思いました。まさかリアルでもこんなことが起こるとは思わず、驚くと同時に素直に嬉しかったです。
――本編については、第4話ではミーシャとサーシャの物語がひとつの大きなポイントを迎えます。
鈴木さん:そうですね。第4話で姉妹のお話は一区切りつきますし、収録を完全に一緒に行えていたのもそのタイミングまでだったので、我々としても第4話が1つの区切りのタイミングかなと思っています。姉妹の関係性が明らかになるのは第4話ですが、そこに至るまでの積み重ねが第1話から第3話にも詰まっていますので、ぜひ振り返りつつ第4話も楽しんでいただければ嬉しいです。
大沼監督:第4話が原作1巻の区切りでもあり、お話の区切りとしても盛り上がるタイミングです。アノス様語録も第4話で更新されて、素晴らしくカッコいいセリフを聞けます。この対談が掲載されるころには第4話の放送は終わっていますが、配信などでも楽しんでいただければと思います。
――アノスのセリフは回を増すごとにスケールが大きくなっているような気がします。
大沼監督:第4話の「時間を止めたぐらいで、俺の歩みを止められるとでも思ったか?」というセリフは「じゃあどうしたら止められるんだよ!」って感じですよね(笑)。とはいえ、今後はさらにすごいセリフが飛び出すことになりますが……。
――アノスが毎週どんなセリフを放つのかも注目のポイントですよね。
大沼監督:それがこの作品のカッコよさの1つでもあります。変に脚色せずに、真面目に向き合って作らないとダメだと思っています。その描きたかったアノスのカッコよさは、第4話でより結実していると思いますし、これから先もよりカッコよくなるように作っています。内容としても第4話はいい区切りのタイミングと思うので、ぜひそこで第1話から改めて見返してもらえると嬉しいです。
――区切りとなる第1章の放送を終えて、周りからの反応や感触はいかがでしょうか?
大沼監督:放映まで緊張していたので、まず第1章を無事お届けでき、さらにいろいろと反響もいただけたので、ホッと胸をなでおろしているところです。『魔王学院の不適合者』は勢いを殺さないようにブレーキをかけてはいけない作品だと考えていましたが、逆に突き抜けすぎなのではないかと心配もありました。
――視聴されている方もお話のスピード感は感じられているところがあると思います。
大沼監督:フィルムとしてはピーキーな形でまとめてしまっているので、反応も極端なものが出ると予想していました。と言っても、そこでマイナスの意見が出るのを怖がっていたのではなく、いいも悪いも含めていろいろな反応を見られたことに対しての安心感です。
――賛否両論はあっても、どちらも大切な反響ということですね。
大沼監督:もし騒がれていないのであれば、そもそもの突き抜け具合が弱かったことになりますから。一定の反応をいただける程度には見ていただけていることがわかって良かったです。
鈴木さん:中にはカオスな反応を示している人も居たりして、そういう濃い反応をしてくれると嬉しいですよね。
大沼監督:逆に「放映したけど静かだった……」ということが一番怖いですから。
鈴木さん:本当にそれです。やっぱり反応がないというのは、何も残さなかったということですからね。
大沼監督:キャストの皆さんに命を吹き込んでもらって、現場も寝ずに頑張ってもらったのに、その努力が人目に留まることなく静かに消えてしまったら、それはもう監督の責任です。何よりまず見てもらうことが重要で、それに対する反応は人それぞれでいいのではないかと思います。
今のアニメは全体的に突き抜けたものが増えてきていて、だからこそ賛否も増えているのですが、何より反応してくれる方が増えていることは非常にいいことだと思っています。
鈴木さん:“喜劇かどうかは見た人が決める“という言葉とまさしく同じで、こちらは大真面目に作っているので、それを笑っていただけるのであれば、我々はもう最高です。逆に「なんだこれ! 頭おかしいな!」と言ってもらえるのも褒め言葉ですけどね(笑)。
――第2章となる第5話以降の見どころはどこでしょうか?
鈴木さん:う~ん……。もちろんあるんですけど、どういったらいいか難しいですね。監督、どこまで言っていいんでしょう?(笑)
大沼監督:それ聞いちゃう(笑)? まあ達央くんがそう悩むのもわかるんですよね。本当にこと細かに伏線が張られている作品なので、うかつに触れると全部手繰り寄せられてしまいますから……。そのため具体的なところは言えませんが、その伏線を見つけていただくためにも、隅々まで見ていただけると、よりお話を楽しめると思います。
――では、第5話以降登場するキャラクターについてはいかがでしょうか? お話しいただけることがあればお願いします。
大沼監督:キャラクターに関しては、レイがようやく第2章から登場します。オープニングにはもう出ていますが、主要キャラクターも増えて、より深いお話に突入するので、そこも見どころですね。
鈴木さん:この後はファンユニオンも出てきて、大問題な人物が続々登場します。原作を読んでいる方々が一番気にしているというか、どうするのか気になっているところだと思います。
大沼監督:アニメから入った方々だと「えっ?」ってなるかも知れませんね。登場することで作品の質も変わるようなキャラクターたちなので……(笑)。
鈴木さん:キャスト陣で言えば、寺島拓篤たちが参加したタイミングですよね。寧々丸(稗田寧々さん)は最初ガチガチに緊張していて、見ているこちらにまで緊張が伝わってきたくらいでしたよ(笑)。
――そこまで緊張するということは、本作の収録は一段とプレッシャーが大きいのでしょうか?
鈴木さん:この作品のシビアなところって、初登場のキャラクターがめちゃくちゃしゃべることですよね。助走なしでいきなりトップスピードを求められるので、そりゃあ緊張します。
大沼監督:スピード感は相当なものになっていますからね。
鈴木さん:寧々丸はもうそりゃガチガチの芝居を作ってきましたよ。もちろん音響監督の納谷さんに緊張を見抜かれ、そこで丁寧なディレクションをもらいながら収録をしていました。
鈴木さん:ミサは今後のお話で重要なキャラクターなので、演じる彼女の“物語を背負っている感”もすごくおもしろかったですね。
大沼監督:作る側として言うのもなんですが、緊張するのも仕方のないセリフ量だと思いました。もちろんキャラクター自体も重要な立ち位置なので、それも緊張の理由だったかもしれませんね。
――まだ本作を視聴していない方に向けて本作の魅力を伝えていただきたいです。
鈴木さん:『魔王学院の不適合者』を端的に伝えるのであれば、見ていてとてもスカッとするアニメです。30分に収められたお話がまるでジェットコースターのような速さで進んでいき、そのテンポ感だからこそのおもしろさがあると思います。
例えるなら、炭酸飲料を飲んだ時の爽快感に近いですよね。しかも、それを味わう暇もないくらいの速さで過ぎてしまうから、また味わいたくなってしまうわけです。噂だけ聞いて「本当におもしろいの?」と思っている方は、気になった時点で見たほうがいいです。
――それでは最後にアニメを楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。
鈴木さん:ここまで見てくださっている方に言えることは「このあともっとおもしろくなります」に尽きますね。まるでアノスの力と同じように、作品のおもしろさもインフレを起こしますので、ぜひ期待していたただきたいです。もちろん、我々もその期待を超えているものをお届けできると自負しています。
大沼監督:見てくださった方の反応にもある通り、速度感がある自覚はありますが、それは同時に繰り返し楽しみやすい作品としても仕上がっていると感じています。これから先は速度感もさらに上がっていって、物語も広がっていきます。我々も、達央さん演じるアノスにどれだけカッコいいことを言わせようかと、楽しみながら考えておりますので、視聴者の皆さんにも一緒に楽しんでいただければと思います。
鈴木さん:あとは、皆さん注目している登場するキャスト陣ですよね。若手もベテランも含めて幅広いキャスト陣が出演しているので、皆さんにはそのお芝居を堪能していただければと思います。この作品、不思議なくらいに本気でうまいと言える人しか出てこないので、そちらもぜひ楽しみにしていただければと思います。
――ありがとうございました!
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※放送日時は編成の都合等により変更となる場合があります。
魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~
- 著者:秋
- 出版社:KADOKAWA
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©2019 秋/KADOKAWA/Demon King Academy
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