『グリムエコーズ』第二部直前特集:宿敵キルケゴールが求めた“滅び”と“新世界”とは?(ネタバレあり)
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- そみん
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スクウェア・エニックスのiOS/Android用アプリ『グリムエコーズ』でメインクエスト第二部の公開が迫っています。
【メインクエスト】
? グリムエコーズ公式 (@GrimmsEchoes_PR) August 31, 2020
8/31(月)メンテ終了後より、メインクエスト第一部最終章(後編)追加!第一部フィナーレへ!
―虚無の果てへたどり着く鍵となるウィズは扉をくぐる。
―虚無に呑まれれば、もう“図書館”には戻れない。
―だがウィズは主人公たちに希望を託し、一歩ずつ進むのだった…。#グリムエコーズ pic.twitter.com/L9QCd2uCzA
第二部をより楽しむため、第一部の重要人物となるキルケゴールについて紹介していきます。かなりネタバレを含みますので、第一部を未クリアの方はご注意を!
新世界の創造を目指して。主人公らと敵対したキルケゴールの真意とは?
自らの目的を果たすため、図書館と敵対し、主人公のエルたちとも幾度となく相対したキルケゴール。その目的や行動について振り返っていきます。
新世界の創造を目指して
“忘れられた流星のメルヘン”で初めて名前が明かされたキルケゴールだが、実際にはの“迷える子供たちのメルヘン”ラストの時点でシータの前に姿を現し、彼女の命を奪っている。
“忘れられた流星のメルヘン”でジブリールがその事件について語る際、キルケゴールは以下のように言及されている。
●ジブリール
…キルケゴール。
かつてこの“図書館”に所属していた、我々の仲間だった男です。
●エル
ジブリールたちの仲間?
そんな人がどうしてシータさんを…!
●ジブリール
キルケゴールはメルヘンを取り巻く世界に疑問を抱いていました。
そして、ついに自らの目的を果たすために“図書館”と対立する道を選んだのです。
●エル
ある目的?
●ジブリール
…新たなるメルヘンの創造。
絶望も苦しみもない新世界をキルケゴールは創りだそうとしているのです。
●ウィズ
メルヘンの創造?
そんなことができるの?
●ジブリール
わかりません。ですがキルケゴールは可能だと考えているようです。
そのためにボイドを発現させ、いまあるメルヘンの滅亡を目論んでいる。
ここで登場する“新世界”は、『グリムエコーズ』の第一部のキーワードとして頻出することになる。
キルケゴールとの出会い
エルたちがキルケゴールと初めて遭遇したのは、キルケゴールが鬼姫を絶望させてボイドを発現させようとした鬼ヶ島でのこと。
そこでキルケゴールは、絶望について次のように語った。
●キルケゴール
何者であれ、生きている限り絶望する。
肝心なのは、己の絶望をどこまで自覚できるかだ。
桃太郎…君の登場によって彼女の中の絶望はより深いものになった。礼を言おうか。
●桃太郎
何だと…いったい、どういうことでござるか!
●キルケゴール
そうだろう?鬼姫よ。打ち倒すべき仇敵に抱いてしまった感情に、君は苦しんでいる。
●鬼姫
や、やめろ…やめろっ…!
言うな…!それ以上は…!
●キルケゴール
彼を倒さねばならない宿命…。彼を失いたくない想い…どちらに従うべきか…。
●鬼姫
嫌だ…!やめてくれ…!
聞きたくない!知りたくない…!
●キルケゴール
君は悩み、苦しんだ。だが答えは出ない。
見つからない答えの先にあるもの、それが君の…、…絶望。
●鬼姫
あ……う……。
●キルケゴール
桃太郎がいなければ、桃太郎と出会わなければ苦しむことなどなかった。そうだろう?
桃太郎がいなければ、君は宿命に従ってさえいればよかったんだ。
絶望の元凶はすぐそこにいるぞ。よく見たまえ。君を苦しめる男の姿を。
その後、“永遠なる姫たちのメルヘン”では、キルケゴールは白雪姫に彼女を待ち受ける運命を伝え、未来への希望を消すことで絶望させ、白雪姫のボイドを発現させている。
パンドラとの関係
“永遠なる姫たちのメルヘン”の最後には、キルケゴールの娘を自称するパンドラが登場する。そこではパンドラの口から「絶望をくぐった先にこそ、希望は現れる。」という言葉が放たれ、キルケゴールの目的が単に物語の登場人物を絶望させてボイドを発現させるわけではなく、その先に何か狙いがあることが匂わされる。
また、“新世界の春”、“聖櫃の扉”といったキーワードも、この時点で登場している。
●???(キルケゴール)
白雪姫は新たな希望を得た、か。
●キルケゴール
これでまたひとつ、運命の流れは不確定となった。
この流れはどこに行き着くのか…。
●???(パンドラ)
もちろん、ハッピーエンドに決まってるよ。
●パンドラ
絶望をくぐった先にこそ、希望は現れる。
そういう意味だと、あのお姫様はもう少し絶望の中にいてもよかったと思うけど。
●キルケゴール
パンドラ、勝手に出歩くなと言ったはずだが?
●パンドラ
何言ってるの。これも大事な観測だよ。
それに、ずっと気になってた人たちにも挨拶したかったしね。
●パンドラ
エルかぁ。彼、面白いね。
これからどんな絶望をたどって、どんな希望を見出してくれるのか、ほんとに楽しみ。
ねぇ、新世界の春の到来まではあとどれくらいかかる?
●キルケゴール
まだ時間はかかる。だが、近づいてはいる。
お前が他者の絶望によって満たされた時、聖櫃の扉は開くだろう。
●パンドラ
そっかぁ。
早く春が来るといいなぁ。
ね、パパ?
●キルケゴール
ああ……。
“不思議の国”では、パンドラがキルケゴールからの伝言を届ける中でも“新世界の春”という単語が登場。また、絶望は希望を、希望は絶望を生むという循環により、図書館の役割に終わりがないという絶望についても言及されることに。
●パンドラ
そうそう、パパからキミたちに伝言。
『君たちはいずれ絶望する。己が見出した“役目”の虚しさを知り、絶望する』
『だが案ずるな。君たちがなにをしようと、いずれこの世界には新たな春が来る』
『絶望の冬を越えた、新世界の春のみが、君たちを絶望から救済するだろう…』
●エル
パンドラが、キルケゴールの娘…!?
●スカーレット
新世界の春って、なにワケわかんないことを言ってるのよ…。あたしたちがなにに絶望するって…!
●パンドラ
新たな希望は、新たな絶望を呼び込む。だからこの世界から決して、ボイドはいなくならない。
キミたちの“役目”には、終わりがないんだよ?
●エル
…………!!
●パンドラ
キミたちは、まだなにもわかっていない。
自分たちがいずれ味わう絶望も、本当に目指すべき希望も。
…この分だと宿題の回答は当分出そうにないね。
なお、パンドラの正体は第一部最終章で明かされることになる。
図書館時代のキルケゴールの言葉
“不思議の国”では、キルケゴールがまだ図書館に所属しており、シータとともに行動していた過去の出来事が描かれる。
そこで、ボイド化しようとするアリスに同情するシータに対して、キルケゴールは次のような言葉をかける。
ここで“希望”という言葉が使われていることを意識すると、のちのちのキルケゴールの真意を理解しやすくなる。
●シータ
……サイアクな状況ですけど、それがなにか?
●キルケゴールの声
そうか。なら、心配はいらないな。
●シータ
あのー、人の話を聞いてました?
●キルケゴールの声
本当に最悪な状況にある人間は最悪なんて言葉を口にしない。
●シータ
……でも、最悪な気分なのはホントです。
私、あの子になんて言葉をかけてあげればいいかわからない。
勝手に押し付けられた役割すらも歪められて、あの子は歩くべき道を見失ってる……。
この世界を壊すことでしかあの子の願いが叶えられないなら、そうさせてあげれば……。
●キルケゴールの声
そして最後に、あの子が虚無に堕ちてもかまわないと?
●シータ
…………。
●キルケゴールの声
忘れるな、シータ。絶望とは、希望へ至るための過程なのだ。
いま、あの子のそばにいられるのは君しかいない。あの子の希望を、一緒に見出してやるんだ。
ファントムとの共同戦線
多くの人物のボイドを発現させたキルケゴールだが、特にファントムとは自分と似た部分を感じたようで、長くともに戦っていた。
●ファントム
ぐっ………。
???(パンドラ)
あ、よかった。ちゃんと生きてはいるみたいだね。
●ファントム
…………っ!
ここは……。
●???(パンドラ)
≪虚無の回廊≫。あなたがいた世界、メルヘンの外側にある真実、かな?
●ファントム
…なんだ、貴様ら。
●パンドラ
あ、ひっどいなー。瀕死のあなたを助けてあげたのに。
そうだよね、パパ。
●キルケゴール
君が無事でよかった、ファントム。
それともエリックと呼んだ方がいいのかな?
●ファントム
なぜ、私の名を…?
●キルケゴール
私は君のことを知っている。
君のことも、クリスティーヌのことも、ラウルのことも。
君を取り巻く運命のすべてを……。
●ファントム
メルヘン…。私の生きていた世界が、物語でしかない、だと……?
●キルケゴール
人生は舞台。我々はその舞台を演じる役者に過ぎない…。どこかの詩人がそんなことを言っていたな。
君の運命はすべて、綴られた戯曲なのだよ。君だけではない。メルヘンに生きる者すべてが…。
●ファントム
……なぜ、私を助けた?
貴様らはいったい、なにを目論んでいる?
●キルケゴール
牢獄のような夢からの目覚め。そして、新世界への到達だ。
私はその術を知っている。そのために、君の力を借りたい。
君と私はよく似ている。私の言葉の意味を、君なら理解できるはずだ。
どうか君の感じた絶望で私を助けてはくれないか?
●ファントム
…クックック。
私の人生が戯曲というなら、貴様はまさに悪魔メフィストだな。
●キルケゴール
魂の隷属など求めはしないよ。私が欲するのはただひとつ。
絶望に抗う意志、そのものなのだから…。
ムジカ・マキーナの石像
ボイド・ファントムいわく「これこそは「究極の音楽」を奏でし天使、魂を真の自己へと覚醒させる、救済の装置。……すなわち、ムジカ・マキーナだ。」と表現された、天使の姿をしたムジカ・マキーナの石像。
ボイド・ファントム、ひいてはキルケゴールは、このムジカ・マキーナの力を使い、物語の登場人物たちをヴィランへと変えていった。
●ウィズ
二人に、なにをした。あの天使像はなんなんだ!
●ボイド・ファントム
…音楽や絵画、この世に存在するあらゆる芸術はそれ単体では完結しない。
作品を見た観客の心に感情が想起されて初めて、芸術は芸術として完成する。
つまり作品とは、「観客に任意の感情を想起させる媒介」であり……、芸術とは、「作品によって想起された観客の感情の動き」そのものと言い換えることができる。
ならば、だ。聴衆に任意の感情や気持ちを想起させられる音楽を奏でられるとしたら…それは「究極の音楽」と呼べるのではないか?
●スカーレット
なに言ってるのよ…。いったい、なんの話をしてるのよ、あんたは!
●エル
さっき、僕たちはこの音を聞いた人がヴィランになるところを見た…。
感情を呼び起こすことが、どうしてヴィランになることにつながるんだ…!
●ボイド・ファントム
真なる自己に目覚めたからだ。ムジカ・マキーナが呼び起こした絶望によって、な。
人間は絶望して初めて、己の姿を知る。己の器を、願いを、そして行き着く未来を。
●ウィズ
それは、もしかしてボイドの発現のことか…?
●ボイド・ファントム
ああ。だが、ほとんどの人間はそもそもボイドを発現することすらできない。
多くの人間は自身の絶望に耐え切れず、自分の願いの在処すら見失ったまま……、……こうなる。
●ダロガ
私は…わたしは……だれだ……、なぜ……なぜ……こんな、ことを……。
ぐ…ぐあああああああああああ……!
●ダロガだったヴィラン
クルルル……!
●エル
ダロガ、さん……?
●ボイド・ファントム
……残念だよ、ダロガ。
君は、君自身を「ダロガ」という役割以上の存在として定義できていなかった。
第一部最終章においてキルケゴールは、すべてのメルヘンに対してムジカ・マキーナを使い、滅ぼそうとした。それこそがボイド・ファントムとともにムジカ・マキーナという装置を作った目的だったのである。
だが、皮肉にもムジカ・マキーナは“希望の音楽”を流すべくジブリールたちに利用され、キルケゴールが用意した“滅び”たるハデス・グランディに立ち向かう手段としても使われることになった。
300年前のキルケゴールの真実
第一部最終章では、キルケゴールが“空白の書”の持ち主となり、図書館に所属することなった経緯が描かれている。
王であった彼は、自分のボイドが発現したことで自分の世界を滅ぼしてしまった罪に苦しむことに。そして、その償いとして図書館の“役目”を引き受けることになった。
●キルケゴール
ここは…?
●ジブリール
ようこそ、“図書館”へ。
私はジブリール…“図書館”の司書です。あなたの到着を歓迎しますよ。
●キルケゴール
…私をここへ導いたのは、君か?
なぜ、私はあそこで倒れていたのだ?
いったい、私は何者なのだ?
●ジブリール
…お忘れですか? あなたはかつて王になる運命にあった男なのです。
●キルケゴール
私が、王になる運命だった…? 君は何を言っているんだ…?
●ジブリール
あなたは三人の魔女の予言を受け、先代の王を殺し、自らが玉座に座るはずだった。
しかし、あなたはその予言を拒絶しようとし、それが叶わぬ運命に絶望した。
そして、それが原因でボイドが発現し、あなたの世界は滅びました。
●キルケゴール
私のせいで…世界が滅びた?
●ジブリール
落ち着いてください。私はあなたの記憶を取り戻そうと…。
●キルケゴール
…あっ、ああ…そうだ、思い出した…!
私はあの時、ああっ、ああああああ!!
●ジブリール
…報告。やはり急に記憶を取り戻させるのは、本人への精神的負担が大きすぎるようです。
…今後は本人が自発的に記憶を取り戻させる方向に修正することを提案します。
…申し訳ありませんが、あなたには知ってもらわなければなりません。
この“図書館”のこと、そして、メルヘンのことを。
…理解していただけたでしょうか。今あなたが置かれている状況を。
●キルケゴール
…ああ。
…だが、どうすればいいかわからない。どうすれば、私はこの罪を償える?
私ひとりの命では償い切れぬこの罪を…。私はどう背負っていけばいい…?
●ジブリール
償いを望むのならば、その書がきっと、あなたの役に立つでしょう。
●キルケゴール
…この書は?
●ジブリール
それは『空白の書』。新たな“役目”を担うあなたの魂の象徴です。
その書の力を使い、メルヘンに住んでいる人々を守る…。それが『空白の書』の持ち主の“役目”。
●キルケゴール
…それが、私の償い…?
●ジブリール
あなたがそれを望むのなら。
●キルケゴール
…わかった。少しでもこの罪が償えるなら、その“役目”引き受けよう。
その後、“役目”をまっとうして図書館の司書となったキルケゴールは、そこで世界の真実を知り、絶望することに。
●ジブリール
よくぞここまで“役目”を全うされました。あなたに最大限の感謝を。
●キルケゴール
…私は“役目”を果たしただけだ。
感謝するべきは、自分の命を賭けてでもその任を全うしたマイアだろう…。
●ジブリール
…あなたの功績を称え、あなたを“司書”に任命します。引き受けていただけますか?
●キルケゴール
…無論だ。それで我が贖罪が叶うのならば。
●ジブリール
ありがとうございます。…今をもって、あなたは“司書”とします。
…それにより、あなたには権利が与えられる。この世界の成り立ちを…真実を知る権利が。
●キルケゴール
そんな…それが真実だと言うのか…!?
●ジブリール
…全て事実です。
●キルケゴール
ならば、私達が今までやっていたことは…! マイアの死に何の意味があった!?
私は…私達は…何のために…! 戦ってきたと言うのだああああああ!!
終わりがなく、すべてが無意味という“世界を覆う絶望”を知ったキルケゴールは、図書館に反旗をひるがえすことになる。
キルケゴールが求めた“新世界”
ボイドの先にあるイドラ、そして人々をヴィランに変えるムジカ・マキーナでの攻撃。これらはメルヘンを滅ぼすために使われたのではなく、図書館のシステムそのものに攻撃を行い、ジブリールにダメージを与えるためのものだった。
そしてキルケゴールはパンドラから“滅び”、あるいは“新世界への鍵”と呼ぶ怪物(ハデス・グランディ)を生み出し、図書館を攻撃するのだった。
その攻撃自体は図書館の結界に阻まれて不発に終わったが、キルケゴールを追って“虚無の回廊”へと進んだエルたちは、そこで世界の真実を知ることになる。
●ウィズ
この≪虚無の回廊≫が真実だって…? それはどういう意味だ…?
●キルケゴール
難しく考える必要はない。そのままの意味だ。
この≪虚無の回廊≫こそが、世界の真の姿。“図書館”の外に、世界など存在しないのだ。
●エル
世界の、真の姿…? この、≪虚無の回廊≫が…?
●スカーレット
“図書館”の外が存在しないですって…? ふざけたこと言わないでよ!
●キルケゴール
…信じられぬなら、順を追って教えてやろう。
●エル
その怪物は…。
●キルケゴール
『ハデス・グランディ』この世界を今の姿にした元凶そのものだ。
●ウィズ
なんだって…!? じゃあ、≪虚無の回廊≫は元々…!
●キルケゴール
そうだ、ここにはかつて、人間が存在した。文明があり、歴史があった。
だが、“滅び”と呼ばれる厄災によって壊滅した。人類は、滅びたのだ。
●スカーレット
ウソ…でしょ? 人類が滅びたなんて…。
●キルケゴール
…受け入れ難いだろう。だが、事実、この“滅び”は人類の命を悉く奪い去っていった。
だが、人々の魂だけは残った。その魂を保護したのが“図書館”だ。
●ウィズ
魂を保護する…そんなことが可能なのか?
●キルケゴール
何を言う。君たちはその魂たちを見てきただろう? メルヘンというゆりかごの中で。
●スカーレット
それって…まさか、メルヘンの住民たちのこと…?
●キルケゴール
そうだ、人間の魂に“役割”を与え、定められた運命を繰り返させることで保護する…。
それこそが、メルヘンの真の存在理由だ。
だが、万物に朽ちる時は訪れる。メルヘンの書も例外ではない。
メルヘンも同じ物語を繰り返しながら摩耗し、いずれは滅びていく…。
たとえ今は平穏を保てていても、メルヘンに住まう全ての魂は、いずれここへ落ちる運命なのだ。
●エル
そんな…! それじゃ、僕たちがどんなにメルヘンを守っても…!
●スカーレット
いずれ、滅ぶ…? 赤ずきんたちも、みんな…?
●キルケゴール
そうだ、“図書館”はそれを知りながら、何もしようとしなかった。
停滞という名の平和を、“滅び”を受け入れたのだ…!
●ウィズ
そうか…だからお前は「この世界そのものが絶望」だって言ったんだな。
●キルケゴール
そうだ、だから私はこの力でメルヘンを滅ぼす。人々を世界の真実と向き合わせるために。
多くの者は絶望するであろう。だが、それは始まりに過ぎない。
絶望とは、真の希望を掴むための過程。絶望から目をそらす者に救いなど訪れないのだから。
●スカーレット
絶望は、希望を掴むための過程…って。それって、まるでボイドじゃない…!
●キルケゴール
ボイド…か。その件に関しては、君たちにはとても世話になったな。
●スカーレット
何よ、自分がメルヘンを滅ぼすのを邪魔されたからって、嫌味のつもり…?
●キルケゴール
違う、純粋に感謝しているのだよ。君たちのおかげで、イドラの力を収集できたのだから。
●ウィズ
どういうことだ…? イドラは、ボイドの最終形態ってだけじゃないのか?
●キルケゴール
…イドラは『人間の絶望が具現化』した姿だ。
そう…絶望が“姿”を持っている。私はこれに可能性を感じ、実験を試みた。
●エル
実験…?
●キルケゴール
…本来、“滅び”という厄災には“姿”がない。故に、人々はこの絶望を目にすることが出来ない。
ならば、この“滅び”に“姿”を与える…。
そうすることで、人々は初めて絶望に直面し、希望を掴むことが出来る…とな。
結果、実験は成功した…。
イドラの力を使うことで、“滅び”は姿を持ち、この『ハデス・グランディ』となったのだ。
●エル
“滅び”に姿を与えること…。
その為に…パンドラを…? 自分の娘を…?
あなたは…パンドラのことをなんだと思って…!
●キルケゴール
…君こそ、パンドラの何を知っている?
●エル
…っ!
●キルケゴール
娘から話は聞いた。娘は君のことをとても気にかけていたよ。
“図書館”から救いたい…。その一心で君に語りかけたのだろう?
その声に、君はちゃんと耳を傾けたか?
●エル
それは…。
●キルケゴール
娘はメルヘンに住まう全ての人々を救うために、自らこの怪物の依り代になることを選んだ。
それに…この件で私を恨むのはお門違いだ。我々にこの選択をさせたのは“図書館”だ。
本来ならば、聖櫃…“図書館”の中枢システムを、パンドラが乗っ取る予定だった。
そうすることで、“滅び”に直面する準備を整える手筈だったのだ。
だが、“図書館”に張られた結界により、それは叶わなかった。
だから、この手段をとらざるを得なかったのだ。
●エル
“図書館”の…僕たちのせいで…パンドラが…?
●キルケゴール
…メルヘンの住民は世界の本質から目を背けた者たち。それを強制する“図書館”は絶望そのものだ。
ムジカ・マキーナによるメルヘンの壊滅は失敗したが、こいつが顕現した今、遅かれ早かれメルヘンは滅ぶ。
魂の大半はヴィランになり果てるだろうが、中にはハデス・グランディに抗い、希望を掴む者もいるだろう。
そのとき、世界は「滅び」を克服し、新たな秩序を取り戻す。
●ウィズ
…それがお前が言っていた、「新世界の扉」か…!
キルケゴールが語った真実。それはすでに世界や人類は滅び、図書館が管理するシステムのなかでメルヘンという世界に魂のみが保護されているというものだった。
いつかはすべてのメルヘンの住人が“虚無の回廊”へ落ちるという事実を覆すため、図書館の中枢システムである“聖櫃”をパンドラが乗っ取ることで“滅び”に対する準備を行うつもりだったキルケゴールだったが、図書館の結界にはばまれたため、それを断念。
パンドラを依り代として、かつて世界を滅ぼした“滅び”そのものであるハデス・グランディを顕現させることで、荒療治的にメルヘンの住人に“滅び”を克服させ、新たな秩序を持つ新世界をつくろうとしたのだった。
たとえ大半の住人がヴィランとなったとして、ハデス・グランディに抗い、希望を掴む者もいるだろうという考えのもとで。
メルヘンの本来の在り方
第一部最終章の泉の女神アルマによって、メルヘンは魂を守るためだけのゆりかごではなく、いつか“滅び”が現れた時に、立ち向かえる人間を生み出すための場所でもあったことが明かされる。
このことをキルケゴールが知っていたかどうかは定かではないが、チェシャ猫が語っているように、強制的に絶望を味わわせることで人々を“滅び”立ち向かえるようにするというキルケゴールの計画は、ある意味で泉の女神アルマらの考え方と共通していたと言える。
●泉の女神アルマ
では、始めましょう。我々の最後の戦いを。
…この時を待っていました。メルヘンが本来の在り方を取り戻すこの時を。
●エル
メルヘンの本来の在り方…?
●泉の女神アルマ
…本来、メルヘンは魂を保護するためのゆりかごではありませんでした。
いつか“滅び”が現れた時に、立ち向かえる人間を生み出すための場所…。
そして今、あなた方の繋げた絆によって、形を成そうとしている。
メルヘンの住民たちが、自分たちの居場所を守るため、絶望に抗いつつあるのです。
そして、それは守るべき場所、帰るべき場所を自覚しているからこそ為せたこと。
彼らが今こうして絶望に抗えるのは、あなたがたが、彼らを絶望から立ち上がらせたからこそです。
●チェシャ猫
そう、やり方は違えど、根本はキルケゴールと同じだったりするんだよね。
●エル
ち、チェシャ猫…!? もしかして、君も女神さまに呼ばれて…?
●チェシャ猫
呼ばれた、とは少し違うな。ボクは元々、アルマの使いなのさ。
●泉の女神アルマ
そう、彼女もまた、私と共にメルヘンを見守り続けてくれたひとり。
●チェシャ猫
キルケゴールの動機は君たちと同じ。つまり、間違ってはいなかった。
ただ、彼は手段を間違えた。メルヘンは守らないといけなかったんだよ。
まあ、何が言いたいかっていうと、キミたちはいつも通り、自分たちの戦いをすればいい。
さあ、≪虚無の回廊≫へ向かおう。ハデス・グランディは虚無の果てにいる。
●ウィズ
それはわかってるけど…。ただ≪虚無の回廊≫を進むだけではダメなんだろう?
オレたちはまだ虚無の果てへ向かう手段を知らない。いったいどうすればいいんだ?"
●チェシャ猫
大丈夫さ、必要な鍵はもう持っている。キミだよ、ウィズ。
●ウィズ
オレが、鍵? それはどういうことだい?
●チェシャ猫
…虚無の果てへ進む資格を持つのは、帰る場所を失った“真なる漂流者”のみだ。
●エル
帰る場所を失った…それって…。
●ウィズ
なるほどね…自分のメルヘンを失くしたオレは、それに当てはまるってわけだ。
●ジブリール
…ウィズさん、あなたのメルヘンは、まだ滅びたと確定したわけでは…。
●ウィズ …いいよ、ジブリール。なんとなくわかるんだ。オレはもう、そこには戻れない…ってね。
なら、それは失くしたのと一緒だろうさ。
●スカーレット
ウィズ……。
●ウィズ
そんな顔するなよ、スカーレット。この場において、これは喜ぶべきことだろ。
…それで、オレは何をすればいい?
●チェシャ猫
難しいことはないよ、キミはただ進めばいい。
そうすれば、自ずとハデス・グランディへたどり着く。あとは、キミが通った道と“図書館”を繋ぐだけさ。
●ヨリンゲル
この愛のこもった花を、道にひとつずつ落とすんだ。
●ヨリンデ
そうすることで、次に続く者の道しるべになるの。…あの暗い道では役に立つはずよ。
●ウィズ
…オーケー、わかった。時間も惜しいし、さっさと行こう。
キルケゴールの最後
ハデス・グランディと一体化したキルケゴールは「“滅び”に命はない…ゆえに死は訪れない。」と豪語するが、魔女であるリシュリュー(オーロラ姫)が“モイラの花”と“呪い”を使うことにより命を与えられ、エルたちに討たれることになった。
これにより、“滅び”という概念自体にも死が与えられ、長い時間をかけて“虚無の回廊”は消えていき、世界は再生を目指していくことにつながっていく。
ハデス・グランディに取り込まれたキルケゴールとパンドラは肉体を失ってしまったが、ジブリールは2人の魂を救い、新たな生を与えることを決意する。
だがキルケゴールは「私には≪虚無の回廊≫が消え去るそのときを、見届ける責任がある。それが…全てを始めた私に出来る、せめてもの償いだろう。…おめでとう。諸君は絶望に打ち勝ち、新たな世界の扉を見つけたのだ。」と、救いを拒否。
だが、「……なら、娘を頼んだ。」と、パンドラの魂を救うことを願うのだった。
●キルケゴール
ぐっ…!は、ははは……! よくぞ、“滅び”をここまで追い詰めたものだ…!
●エル
…終わりだ、キルケゴール。僕たちのメルヘンが、お前の絶望に勝ったんだ。
●キルケゴール
…終わり、だと? いいや、まだ何も終わっていない…!
私がメルヘンを滅ぼしたその時こそが、全ての終わりだ…!!
●オーロラ姫
逃げろエル! そいつにはまだ力が残っている!
●エル
…っ、だめだ、体に力が入らない…!
●ジブリール
エルさんっ!!
●パンドラ
……やめて、パパっ!!
●キルケゴール
…パン、ドラ…?
●エル
パンドラ…どうして…? 君はあの時、消えてしまったはずじゃ…。
●パンドラ
わたしもそう思った…でも、エルたちの声が聞こえて、目が覚めたの…。
まあ…それも長くないと思うけど…。“滅び”が…崩れるから…。
●スカーレット
パンドラ…あんた、体が…。
●パンドラ
うん、わたしの肉体は虚無に呑まれてもう存在しない。もちろん、パパも…。
●キルケゴール
……なぜ邪魔をした、パンドラ。
●パンドラ
…たしかにわたしは邪魔をしたけど、パパはそのまま攻撃することも出来たハズ。
…パパだって、もうわかってるんだよね? わたしたちが、間違ってたことを。
メルヘンを壊さなくても…。ママとの思い出を壊さなくても、世界は救えるんだって。
●キルケゴール
…………。
●パンドラ
メルヘンと共に絶望に立ち向かう。それがエルたちの…希望への答え。
そしてそれは、“滅び”に打ち勝った。メルヘンとの絆が、希望を掴み取ったんだよ。
…もっと早くに気づけばよかった。そうすれば、パパだって止められた。
そしたら、メルヘンのみんなと一緒に、暮らせたかもしれないのに…。
●エル
パンドラ…。
●パンドラ
…でも、しょうがないよね。わたしたちは、答えを間違えた。
これは…その報いなんだから。
●エル
…違う、君が報いを受ける必要なんかないんだ。だって、誰にだって間違える時はあるんだから…。
…ジブリール。パンドラたちを助ける方法を探してほしい。
●ウィズ
…まあ、エルくんならそう言うと思ったよ。
●スカーレット
まったく…本当に甘いんだから。
●ジブリール
……残念ですが。魂だけとなったふたりを助ける方法はありません。
●エル
そんな…本当にどうにもならないの?
●ジブリール
はい…私にはアルマさんのように、代わりの器を用意する力はありません。
ですが…魂をメルヘンに連れて帰ることで、新しい生を得ることは可能でしょう。
無論、メルヘンの住民となった場合、これまでの記憶が失われるでしょうが…。
●エル
…でも、ふたりは助かるんだね。よかった…。
●キルケゴール
……なら、娘を頼んだ。私はこのまま虚無へと還るよ。
●パンドラ
パパ…どうして…?
●キルケゴール
私には≪虚無の回廊≫が消え去るそのときを、見届ける責任がある。
それが…全てを始めた私に出来る、せめてもの償いだろう。
…おめでとう。諸君は絶望に打ち勝ち、新たな世界の扉を見つけたのだ。
●パンドラ
……さよなら、パパ…。わたしを生んでくれて、ありがとう…。
●エル
…“図書館”に帰ろう。僕たちの帰るべき場所へ…。
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