『どろろ』古橋一浩監督にメールインタビュー。最終回終了後の心境や名作リメイクについての印象を質問
- 文
- kbj
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TVアニメ『どろろ』で監督を担当された古橋一浩さんへのメールインタビューを掲載する。
『どろろ』は、マンガの神様・手塚治虫さんが描いた未完の傑作をTVアニメ化&舞台化したもの。2.5次元俳優として人気の鈴木拡樹さんが、アニメ・舞台両作品の主役・百鬼丸を務める。
古橋さんには、『どろろ』のイメージや設定を作る際に意識したこと、放送が終わって作品全体を振りかえった感想などをお聞きした。
――『どろろ』を改めてアニメ化することを聞いた時の印象は?
LD(レーザーディスク)BOXを所持していますので、先ず親近感があり。前年にも40年以上前の漫画のリメイクアニメを手掛けたので、企画に世の流れを感じたり。手塚作品は私が動画時代に1980年版鉄腕アトムや24時間TVの手塚アニメの動画を描いて以来なので、懐かしくもあり。巡りめぐっての縁なのかと思いました。
――『どろろ』という作品にどのようなイメージがありましたか?
今回まで原作漫画は読んでいなくて、1969年版アニメの印象ですが、百鬼丸が大人、両腕が刀の異形が怖いなどです。『ジャングル大帝』や『悟空の大冒険』とはかなり違う作品だったと。
内容はLDを観返すまで忘れていましたが、どろろが肩車しているOPの百姓一揆イメージは歌とともに記憶に焼き付いてました。
――1話目から、原作の流れを汲みつつ、オリジナルのエピソードが展開し、かなり楽しんで見させていただきました。物語についてオリジナル要素を入れることになった経緯は?
時代、場所、状況などの設定は原作のままですし、デザインのアレンジはあれどキャラも魔神(鬼神)も存在基盤はそのままのものがほとんどです。
フルオリジナルのお話は閑話的な7、8、10、17、19話の5本で。後は百鬼丸が無垢になることで、必然的に物語の進行手順、構成が変わったところと、後半、鬼神退治よりも醍醐一家に比重が掛かり、多宝丸、縫の方が軸になった部分がオリジナルっぽく感じる所でしょうけど、最後は原作通りにどろろと百鬼丸がそれぞれ旅立ちます。
奪われた身体の数を減らしてコンプした印象を持たせただけで、全体で見ればアレンジの範疇だと認識しています。
――原作との差異を作る際にこだわっていることは?
特に意識せず。これに限らないのですが、これまでの私の監督業の反省点として“こだわり”はエゴから発する場合が多いので客観、公平を旨とすべき監督としては排除を心掛けています。初期段階のつまづきもそれが原因ですし、嗜好と同じで完全排除は不可能なのですが。
――未完の作品を映像化する際に、どのようなことを意識されましたか?
初期段階では現状以上にアレンジを構想していて、手塚先生の自伝や『ブッダ』を通読したり、『火の鳥』を読み返したりしました。違和感なく再構築するには手塚作品の通低テーマ、モチーフを他から補填するのが最善だと考え、1、2話のシナリオの準備稿を自作しました。
ただエンタメとして考えると、中々うまくはまらないところもあり、世界観設定を一部残した形で、構成は小林靖子さんのお力をお借りし、以降は監督として監修的な立ち位置にいました。
――シリーズ構成を担当されている小林靖子さんとは、どのようなことを話されましたか?
先に記した世界観設定を書面にして、捕捉的な事柄を脚本会議でお伝えしました。それ以外だと記憶にあるのは、『火の鳥』では私は“鳳凰編”が一番好きとかです。
――百鬼丸は12カ所を鬼神に奪われ、それを取り戻すことになります。最初に取り戻すのはどの部位がいいですか?
最初はどこでもいいけど、痛覚は最後にしたいです。百鬼丸は2話で神経が戻って、それ以降どれだけ痛かったか。
――本作でもっとも見てほしいところ、ポイントをお話いただけますか。
過多な説明はしない作風ですが、キャラの心情の流れや変化を想像できるヒントを時に芝居にのみ、時に話数をまたいで散りばめています。
例えば、13話では、おかかの過去を、どろろを慈しむ手の芝居であらわしたり(生前の子どもの存在を暗示)、18話で隠し財宝の前で手を伸ばす百鬼丸、手を取りかけて財宝に戻るどろろ、1人で歩き出す百鬼丸の芝居は、これから己の成すべきことを優先させるであろうどろろとそれを直観する百鬼丸を日常の挙動であらわしています。これが最終話の別れの百鬼丸の心情に繋がっていくとか。
こういうのに気付いてほしいのも作り手のエゴですけども。
――すべての話が公開されましたが、作品全体を振りかえっていかがでしたか?
高名な原作のさらにリメイクという、高いハードルがいくつも立ち塞がる今回のアニメ化に対して、さまざまな意見があると思います。至らぬ点が多いのも自覚しており、初期で降板するべきだったと思うこと幾多で……。
お祓いはしたのですが、私が初期段階で迷子になったことをはじめ、“鬼神の祟り”かと思う程に大変だった今作ですが、何とかここまで形になり放送できました。
すでに『どろろ』を知る人の中には、程度の差はあれど理想の『どろろ』が存在します。それでも本作を観賞してほしいと願うことの意義は、万人の中にある『どろろ』の追確認の役割を担うと思うからです。改めて各個の中の『どろろ』を大切にしてください。作品とは丸々享受されるだけで終るものではないと思います。
そして、初めて『どろろ』を知る人には、唯一無二の『どろろ』になる可能性もあるかも知れません。不遜ではありますが、それを願うばかりです。
どろろ (C)手塚プロダクション/ツインエンジン
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