一夫多妻、職場恋愛…。漫画『常夏の国で、君と。』が教えてくれた16通りの愛
- 文
- 長雨
- 公開日時
マレーシア人作家のファクルール・アヌールさんが描く漫画『常夏の国で、君と。 マレーシア16篇の恋』が、9月30日にKADOKAWAより発売されました。
本作は常夏の国マレーシアを舞台に、さまざまな形の恋に翻ろうされる若者たちの物語をオムニバス形式で描いた全16篇の短編集です。
漫画好きのライターが、国境を越える面白さ&恋の説得力を持った作品の見どころをレビューしていきます。
※ネタバレが含まれますのでご注意ください
人生哲学も考えさせられる16篇の恋
古今問わず国内に読みたい作品が溢れていて、海外まで手が伸ばせずにいた筆者。日本とは逆で左から読み始めることにちょっと戸惑いましたが、線がすっきりしていて読みやすく、おしゃれな絵柄も好みでスルスル読み進められました。
マレーシアと日本という国の違いから宗教観などに差はありますが、普遍的な“恋”がテーマなので恋愛作品が好きなら誰でも楽しる短編集になっています。
ここから先は、各話を主観を交えて紹介していきます。新鮮な気持ちで楽しみたい方は、ぜひ本編のあとに読んでくださいね。
心の鍵
青年・リンゴは、チンタに5年間も告白の返事をはぐらかされ続けています。どんなに愛していると伝えても彼女は、“大切な友達”としか答えてくれません。それでも思い続けているリンゴが健気、それだけチンタがステキな女性ってことですよね。
彼女の気持ちがわからないと悩む彼のもとに、誕生日プレゼントとしてある箱が届いたのでした。
チンタが“友人”だと言う理由がわかったとき、言葉の持つ意味がまったく違うもの感じられます。現代日本にはあまりない感覚で、こういう恋の形もあるんだなと考えさせられます。
窓辺の少女
学友のナフリに頼まれて、文学少女のラティファへのラブレターを代筆しているカイユム。
ラティファは一緒に通学するカイリムに詩で告白されたことを嬉しそうに話しますが、告白には乗り気じゃない様子です。そんななか、カイリムはある行動を起こします。
誰が贈ったかではなく、どんな想いが込められたかって言うのが大事なんだなと感じさせられるエピソードです。
孤独の海岸
ダーランは、海辺で天使の羽根を付けた仮装をした美女アナに出会います。彼女は一族と一緒に、賑やかな宴を開いていました。その様子を見て、ダーランは……。
恋をするのに時間はいらないし、相手を想った行動ができることの尊さがわかる一遍。
上司の素顔
友人の個展で、研修先の厳しい上司セハと出会ったリザル。彼は自分の立場を隠して彼女とデートを重ねて親密になりますが、セハが職場恋愛に否定的なことを知ってしまいます。
恋を取るか仕事を取るか、または……リザルの出した結論が最高にかっこいいです。
無口なビンロウ
店が心配でなかなか踏み出せないリタのために、イクヮンが投資をして1年後に結婚することになります。すべては、ある人物の考えで……。
タイトルのビンロウはアジアに生息するヤシ科の植物で、夫婦の象徴とされているそう。恋人たちを見守るビンロウの存在が印象的です。
エイプルの愛
人気作家のエイプルを口説く成金の青年。自分こそが彼女にふさわしいという青年に、エイプルは無名のことから応援してくれた恋人こそが大事なのだと語ります。
彼女の愛の形と“最高の贅沢”がとても深い!
低く飛ぶ鳥
恋人同士のアマルたちですが、アマリナの提案で学期末まで別れることに。自由を手に入れたアマリナは講師に好意を持ちますが……。
第三者だから見えるもの、離れたからわかるものの大事さを再認識出来る物語です。
ねがいごと
富豪の娘で実業家のエマは、何でも欲しいものが手に入る女性です。そんな彼女が婚約者したのは、家族でお店を切り盛りする家の青年アリでした。
エマのささやかな願いとそれを叶えようとするアリの関係が、微笑ましくて最高!
声なき恋
サウジアラビアの都市マディーナに留学することになったマンは、毎晩何か言いたそうにしている幼なじみ・シダの夢を見るようになりました。
日本の平安時代にも“自分を想ってくれる人が夢に出てくる”という考え方がありましたが、夢と恋の関係は国を問わないんですね。
花と罰
フィラリア症の専門医ラーに見初められたオダは従兄弟と婚約していましたが、兄が結納金を受け取ってしまったため無理やり結婚させられます。ひどい!
しかもラーには、裏の顔があって……。
家族のために、従うしかないオダ。彼女に、少しでも多くの幸せな時間があって欲しいと願わずにはいられません。
また、“イスラム法では4人までの妻帯が認められている”という、一夫多妻なカルチャーショックも受ける作品です。
幸せの星
人気ユニットだったのに、プロデューサーの意向で解散されられることになった2人。
彼らは解散公演で、とっておきのサプライズを用意していて!
本当に大事なものに気がついている彼らはステキで、ファンが応援する気持ちもよくわかります。
チンタとサクティ
チンタは、幼いころの写真に写っている運命の相手・サクティを探し続けています。
実はサクティも、名前しか知らないチンタのことを探していて……。
運命を信じているのに運命的にすれ違っている2人が、読者としては面白くもじれったくてジリジリしてしまいます(笑)。
気づかぬふり
アヤは荷物を詰めすぎて、いつもカバンを破いてばかり。しかし友人のジムがくれたものだけは、長持ちしていました。
実はアヤはジムに告白されていましたが、傷つくことを恐れて断り、友人の関係を続けていたのです。
友人の提案で、彼女はジムに電話をかけて……。
恋に臆病になってしまうアヤの弱さ、その弱さを知りつつ友人として側にいたジム、2人のその後は必見です!
川のほとり
水辺で待っている少年の前に、羽の生えた美しい少女が現れます。
時は流れて成長した2人は結ばれますが、子どもを残して女性は天寿を迎え、男性も元の世界へと戻ることに。
循環する命そして愛、いろいろなとらえ方が出来る幻想的で美しい物語です。
手紙
幼なじみのアキムから、パントン(マレーシアの伝統的な四行詩)が書かれた手紙で告白されたヌルル。彼女が悩みながら出した返事は……。
気持ちを手紙で伝えることって、よいことだなとじんわりきます。
ある書店の話
ティラは、書店オーナーのタハから店長になってほしいと頼まれていますが、断り続けています。
そんななか、タハが1冊の古い漫画を渡してくるのでした。
店名に込められたタハの想いを知ったとき、ニヤニヤしてしまうこと必須です。
まったく違う16通りの恋物語が、1冊で楽しめる本作。
秋の夜長の読書のおともにいかがでしょうか?
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