【おすすめDLゲーム】持たざるものの劣等感を描く心をえぐる物語『ベオグラードメトロの子供たち』

カワチ
公開日時

※『Children of Belgrade Metro(ベオグラードメトロの子供たち)』には
残虐表現と性的表現が含まれています。
18歳未満の方、流血表現が苦手な方は購入をお控えください。
ゲーム内の出来事はすべてフィクションです。

 ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回はPCで配信されている『Children of Belgrade Metro(ベオグラードメトロの子供たち)』を紹介します。

 本作は超能力を持つ少年少女の葛藤を描いたノベルアドベンチャーです。自分はいわゆるジュブナイルものの作品が好きなのでプレイしてみたのですが、キャラクターの劣等感やトラウマといった内面が想像以上に深く描かれ、閉塞感のある内容で驚きました。

 公式のジャンルが“サイキックバトル&サイコサスペンスノベルゲーム”とあり、ライトノベルのような軽快な内容を想像していましたが、とても重く心にズシリと来るものでした。しかし、それだけに心に残り続ける作品です。

 ここではネタバレを避けつつ、本作の魅力を語っていきます。




セルビアを舞台にした珍しい作品

 本作はセルビア・ベオグラードを舞台にしたノベルアドベンチャーです。現在の日本を舞台にしたジュブナイルが青春活劇の要素が強いのに対し、本作が暗く閉塞感のあるストーリーであるのは、この複雑な土地を舞台にしていることも少なからずあるのではないかと思います。

 補足するとセルビア・ベオグラードはセルビアの首都。2020年現在は平和を取り戻しており普通に気軽に観光もできる地域なのですが、過去2度の世界大戦や旧ユーゴスラビア内戦などがあったことで、どうしても内乱や紛争のイメージが強いです。

 また、作中にはベオグラードメトロが登場しますが、実際のベオグラードには地下鉄は走っていないらしいです。作中でも資金不足などが理由で完成しておらず、行き場を失った者たちの溜まり場になっているという特徴があります。

 本作の背景には、作者の隷蔵庫氏がセルビアで撮影した写真を加工したものが使われています。そのため、臨場感があり、行ったことがなくても雰囲気が伝わってきます。


 本作に登場するセルビアは架空のもので世界観も独特。このセルビアには超能力者がいますが、この能力を使うと法律で罰せられてしまいます。また、ベオグラードを牛耳る大企業のゴールデンドーン社による“能力者狩り”により、能力者は社会から弾き出されてしまっています。

 しかし、これまで能力者を狩ってきたゴールデンドーンが能力者を雇用すると宣言。ここから物語が大きく動き出すことになります。

能力を持たない主人公と特殊な思想を持つヒロイン

 能力者がストーリーのメインとなる一方で、主人公は能力を持っていない少年であるシズキ・ペトロヴィッチ。

 彼は家出をきっかけに、父親の仇を捜す超能力者デジャンや、少数民族の少女ネデルカとベオグラードでの日々を過ごしていたのですが、ゴールデンドーンの令嬢マリヤに一目惚れ。男卑女尊の思想を持っている彼女に近づくため、女装をすることを思いつきます。



 男女の出会いを描くという点ではボーイ・ミーツ・ガールですが、女装をしてまで近づくシズキも、特殊な思想を持ったマリヤも歪んだ人物だと言えます。ストーリーが進むに連れて、関係がさらに歪んでいき、取り返しがつかなくなっていく様子はとても惹き込まれます。

 ストーリーはエピソードごとに進行。エピソードごとにサイコキネシスや未来予知など、異なる能力を持つ超能力者にスポットが当たるようになっています。次はどのような能力が登場するのか、どんな悩みを持っているのかが掘り下げられる形で、興味深く読み進めることができます。


 超能力自体はフィクションであり、彼らが受けている理不尽な仕打ちには同情しますが、理不尽なこと自体は世界にたくさんありますし、決して彼らの境遇は他人事ではありません。悩みに共感しますし、考えさせられます。

 また、超能力者同士のバトルシーンもあり、そこは迫力があり息を呑みます。能力を持っていないシズキが能力者にどのように立ち回っていくかも気になるポイントで、読み進めたくなる魅力がありました。

懐かしさのあるグラフィックにも注目

 基本的にはテキストを読み進める作品ですが、テキストの中にはクリックすることで補足を読むことができるものも。ベオグラードや超能力について詳しく解説していることも多く、読み応えがあります。


 エピソードの間には手紙を読むことができます。シズキの脚本を読んだ編集からの手紙という形で、これを読むことで本編では明かされなかった事実や客観的な視点を知ることが可能。


 他にも新聞記事や日記などが用意されており、多角的に物語を楽しむことができます。

 また、グラフィックに関してはドット絵調のイラストが用いられており、古きよき時代のPCゲームを彷彿とさせます。1枚絵のグラフィックが多いうえに、アニメーションも多彩で視覚的にも楽しむことができます。

 さらに、本作のBGMは音楽系VTuberの“バーチャルねこ”さんが手掛けています。個性的で耳に残りながらもBGMとしてゲームの邪魔をしない絶妙な曲に仕上がっていると感じました。


 物語のネタバレは書きませんが、ベオグラードが女性の方が権力を握っている“男卑女尊社会”になっている背景の真実や、男性であり能力も持ってないシズキが劣等感に悩む様子など、後半にいくほど展開が濃密になり、加速していきます。

 一方で謎や設定が掘り下げられないまま退場してしまうキャラクターがいたり、後半の展開が駆け足だったりするところは残念だと思う部分も。しかし、自分はそんなすべてが語られない部分も本作の魅力に感じました。主人公・シズキの行動は「どうしてそういう方向にいってしまうんだ」と共感できないのですが、このような共感できないような行動をしてしまうのが物語の都合に縛られない生きたキャラクターなのだと思います。

 共感はできないものの、なぜそうなってしまうのかを考えることができるので、それまでのキャラクターの境遇、感情などを深く考察するのも楽しいと思います。

 値段は1,000円未満で7~9時間ぐらいのボリュームがあるため、アドベンチャーゲームが好きな人には手に取ってもらいたいですね。

(C)2020 Summertime

『ベオグラードメトロの子供たち』

  • メーカー:Summertime
  • 対応端末:PC
  • ジャンル:アドベンチャー
  • 配信日:2020年9月11日
  • 価格:980円