魔剣、学園、理想のヒロイン…『聖剣学院』×『ななつま』作家対談で探る王道ファンタジーの魅力

カワチ
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 MF文庫Jの『聖剣学院の魔剣使い』(著者:志瑞祐、イラスト:遠坂あさぎ)と、電撃文庫の『七つの魔剣が支配する』(著者:宇野朴人、イラスト:ミユキルリア)のコラボが実現しました。

  • ▲『ななつま』こと『七つの魔剣が支配する』は名門キンバリー魔法学校を舞台に、新入生の“オリバー”と、刀を持つサムライ少女“ナナオ”が織りなす、運命の魔剣を巡る学園ファンタジーです。
  • ▲『聖剣学院の魔剣使い』は1000年の時を超えて10歳の少年の姿になって目覚めた最強の魔王レオニスが、魔術の失われた未来世界で美少女たちと過ごす学園ソード・ファンタジーです。ボイスコミックでは、レオニスを田村睦心さん、リーセリアを東山奈央さんが熱演!

●動画:【ボイスコミック】『聖剣学院の魔剣使い』0話+1話

 このコラボは、少年エースで連載中の人気漫画の単行本2冊が10月26日に同時発売されたことを記念して行われたもの。蛍幻飛鳥先生が描くコミック『聖剣学院の魔剣使い』の最新2巻と、えすのサカエ先生が描くコミック『七つの魔剣が支配する』の最新3巻の発売にあわせて、限定リーフレットがもらえるキャンペーンが開催中です。
(配布対象となる店舗など、詳細は少年エース公式サイトでご確認ください)

 このコラボの一環として、『聖剣学院の魔剣使い』の志瑞祐先生と『七つの魔剣が支配する』の宇野朴人先生とのスペシャル対談をお届けします。

 対談の前編ではお互いの作品を読んだ印象やコミック版への思いなどを語っていただきました。この後編では、“魔剣”、“学園”などのキーワードをもとに各作品の制作秘話に迫ります。両先生の好きなゲームの話題も!?

 なお、発売中の少年エース2020年12月号には異なるテーマでの対談を掲載しています。ぜひこちらもチェックしてみてください。

学園が舞台になっている理由は? 世界観の誕生秘話にも迫る!

――両作品とも学園を舞台とした共通点がありますが、そこに至った経緯や狙いがあれば教えてください。

志瑞:魔王を学校に通わせたかったというのが大きな理由ですが、中世の時代から1000年後に目覚めたら世界が近未来になっていたということもやりたかったんです。

――学園ならではの四季折々のイベントもあって、楽しい雰囲気が伝わってきます。

志瑞:世界がヴォイドの脅威に襲われているので、本当はそんなことをしている状況ではないのですが、やっぱり学院ならではのイベントを描きたくなっちゃうんですよね(苦笑)。

宇野:自分の場合は、いわゆる『ドラゴンクエスト』ベースではないファンタジーにしようと考えたとき、最初に思い浮かんだのはトールキン先生の作品と、そして『ハリー・ポッター』シリーズでした。

 そのため魔法学校が登場することは自然な流れでした。また、もともと長いシリーズにする予定だったので、主人公たちの動きによってキンバリーの上級生や同級生、下級生との関係性が変わっていく、そういう立体的な人間関係が描きたかったんです。

 7年制の学園にしたのもそれが理由で、3年や4年だとそこまで立体的にならないと思ったんですよね。

――『聖剣学院』は魔術自体は失われつつ、魔導技術によって重火器めいた武器が登場するほか、ヴォイドが合成生物のような外見を持つSF的な要素も含まれていると感じています。そのような世界観を作っていった狙いについてお聞かせください。

志瑞:いわゆるファンタジーのモンスターではなく、SFのエイリアンのようなものを登場させたかったんです。

宇野:ファンタジーの怪物がSF的なエイリアンに侵食されているというのが、ゾッとさせられていいですね。

志瑞:『マブラヴ』に登場するBETAなんかは意識していますね。

宇野:あぁ、なるほど。わかります。

――一方で『七つの魔剣が支配する』は、ゴーレムの理論なども含めて徹底的に“魔法”を礎とした世界観である印象を受けますが、こちらも何か狙いや意図がありましたら教えてください。

宇野:あの世界には魔道工学というものがあるので、一般的な機械のイメージとは同じにならないように意識しました。結果としてSF作品の影響が強くなっていますね。

 とある巻で登場するナノゴーレムは、ある意味ナノマシーンですしね(苦笑)。ただ、SFの設定をそのまま持ってくるのではなく、『七つの魔剣が支配する』自身の魅力を出せるように、いつも試行錯誤しています。

両作家にとってのヒロイン像とは?

――ヒロインについてお聞かせください。リーセリアはちょっとポンコツな吸血鬼の女王、ナナオはちょっと天然なサムライ少女と性格的にはかなり違いますが、銀髪で強いという共通点も見受けられます。その誕生秘話や、彼女たちに理想のヒロイン像を重ねた部分などがありましたら、教えてください。

宇野:主人公の人格に対してガチッと噛み合い、その人生に対して救いとなる存在が理想のヒロインなんじゃないかなと考えています。

 そのため、自分の場合は理想のヒロインというのは単体ではなく、ふたりの関係性で考えています。

 オリバーにとっての理想のヒロインというのがナナオですし、『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』ではイクタ・ソロークにとってはヤトリ(ヤトリシノ・イグセム)だと考えています。

志瑞:自分は戦うヒロインばかり書いているので、理想のヒロインは戦うヒロインですね。『スレイヤーズ』の影響を受けているのも強いと思います。

――リーセリアはポンコツなところも可愛いですよね。

志瑞:もともと、そんなにポンコツにする予定はなかったのですが、なぜかポンコツになってしまいました(苦笑)。

――『七つの魔剣が支配する』のナナオのほうも、ちょっと天然と言いますか、どこか抜けている可愛い部分もありますね。

宇野:そうですね。設定自体はかっこいいキャラクターなので、親近感の湧くような部分を入れようと思いました。

 普段はポンコツなところもあるナナオが強敵のガルダなどと戦うときに、ふと武人の顔を見せるというギャップを意識しています。

 自分は男キャラ、女キャラにかかわらず、「この人は武人なんだ」とわかるシーンが好きなんです。

志瑞:ナナオの剣術の流派にモデルはあるんですか?

宇野:漠然と示現流やタイ捨流などを意識している部分はありますが、基本的にはオリジナルですね。

従来の概念とは異なる、両作品のユニークな“魔剣”はなぜ生まれた?

――両作品とも、いわゆる一般的な読者がイメージする“魔剣(持つと呪われるような剣や、闇属性の剣)”とは異なる魔剣像を描いている部分が特徴的だと思いますが、そのアイデアにいたった経緯や理由がありましたら教えてください。

志瑞:『聖剣学院』の“聖剣”や“魔剣”という言葉は、異能バトルの“特殊能力”に近い概念です。

 『とある魔術の禁書目録』に魔術サイドと科学サイドがあるように、『聖剣学院』も魔王の時代の魔法もあれば、未来には魔王の知らないSF的な異能力があり、その謎を解いていくのも『聖剣学院』の重要な部分になっています。

 人類が使う“聖剣”には銃や大砲の形をしたものもありますが、1000年前の世界にはなかったものでした。これらの武器がどのようにして生まれたのか、注目してもらいたいです。

宇野:剣という名前がついているのに、その形が剣に限らず重火器のようなものという設定はびっくりしました。

 また、ネタバレになるので詳しくは伏せますが、主人公が使う魔剣ダーインスレイヴの初登場シーンにもシビれましたね。普段は杖で戦うレオニスなので、どういう形で魔剣が登場するのかと思ったら……まさか、あんな形で登場するとは。

 レオニスの魔剣については、そもそもは彼が勇者で六英雄だった時代に与えられた聖剣で、反逆の女神によって魔剣に生まれ変わったというバックグラウンドも好きなんですよね。

――『七つの魔剣が支配する』の魔剣については、物理的な剣ではなく、剣術・必殺技的な意味合いが強いと感じましたが、いかがでしょうか?

宇野:『七つの魔剣が支配する』は魔法が存在する世界なので、必然的に魔法剣という技術が生まれてきます。

 作中では、かつて高名な大魔道士が普通人の剣士に斬り殺され、その原因が間合いにあること、つまりどんなに優れた魔法使いでも、間合い次第では呪文を唱えるよりも早く剣で斬られてしまうことに対して生み出された、魔法と剣を合わせた術理が“魔法剣”とされています。

 その魔法剣のなかで最大の一芸はなにかと考えたとき、確実に相手を絶命させる技だろうと考えました、魔を追求するのがあの世界なので、秘剣ではなく、より魔と一体化した魔剣という表現になりました。

※『七つの魔剣が支配する』において“魔剣”とは“躱(かわ)す方法(みち)なく、受ける技術(すべ)なく、以て死を逃れること何人にも能(あた)わず。一足一杖(いっそくいちじょう)の間合いにてこれを満たさば、即ち魔剣と称する物也(ものなり)”と表現されている。それは相手を必ず絶命せしめる剣技であり秘剣となり、作中世界には六つの魔剣が存在するのだと言う。

手間を惜しまないことで王道が生まれる

――少年エースでは両作品を“王道ファンタジー”としてプッシュしています。両先生が考える王道とは、どういったものになりますでしょうか。

宇野:『七つの魔剣が支配する』が王道かどうかはさておき、ファンタジーの王道は、読者に魅力的な世界と、その世界で活躍するキャラクターを見せることではないかと思います。

志瑞:自分としては面白さを外さないことこそ王道だと思いますが、では面白さとは何なのかと考えると難しいですね。長く書いていても答えは見つからないです。

 ただ、『聖剣学院の魔剣使い』の場合は、あまり突飛な面白さにはしないようにはしています。突飛なことが面白いこともありますが、無理に突飛なことはせずに自分が面白いと思ったことを書くようにしています。

宇野:自分の場合、王道とは手間のかかる面白さなんじゃないかと思っています。

 例えば、“粗末な食事”とだけ書かれていても「ふ~ん、粗末な食事か」と思うだけですが、“塩味のスープと硬くぼそぼそしたパン”と書かれていれば、より具体的に想像できると思うんです。

 そういった手間を惜しまないことで王道の面白さに繋がっていくんじゃないかなと思っています。

 逆にここで手を抜いてしまうと王道ではなく、ありきたりの作品になってしまうのだと思います。しっかり書けば面白いけど、しっかり書くのにコストがかかるので結果として避けるというケースもあるのかなと。

――やはり王道は一夜にしてならずといった感がありますね。ちなみに、この対談で実際に対面してお話をするというこの機会に、お互いに聞いてみたいことはありますか?

志瑞:では、自分から。宇野先生は怪異のシーンなどでおどろおどろしい雰囲気を出すのが上手なので、どうやって書いているのか気になっています。

宇野:そこはたぶん、ネタ元がかぶっている部分もあるかと思っていますが……ぶっちゃけ、お互いにクトゥルフの影響を受けていますよね?

志瑞:あぁ、確かに! でも、今ってクトゥルフの扱いが難しいですよね。10年ぐらい前はよかったのですが、今だとネタとしてかぶっちゃうという。

宇野:確かにかなりメジャーになったので、みんなクトゥルフネタを使いますからね(苦笑)。

 ちなみに自分がクトゥルフを知ったのはニトロプラスさんのゲームの『斬魔大聖デモンベイン』からで、それ以前はクトゥルフのクの字も知りませんでした(苦笑)。

志瑞:そうだったんですね。あと、作品のタイトルについてもお聞きしたいですね。宇野先生は、『七つの魔剣が支配する』というタイトルをどうやって決めましたか?

宇野:魔剣や学院といった言葉は他の作品でも使われることがあるので、そのまま使うと埋もれてしまいそうだなと感じて、動詞で終わるものにしました。

 “七つの魔剣”という単語は最初から使おうと思っていたので、そのあとに続く言葉はなにがいちばん格好いいかを考えましたね。

――逆に志瑞先生はいかがでしたか?

志瑞:自分は、帯のキャッチコピーに悩みました。“見た目は子供、中身は魔王”というキャッチコピーなら、興味を持ってもらえるんじゃないかと考えたんですよね。

宇野:そうですね。タイトルだけでなく、イラストとタイトル、キャッチコピーの総合の情報が大事ですよね。

2人ともヘビーゲーマ―!? もしも自分の作品がゲーム化されるとしたら、どのジャンルがいい?

――電撃オンラインはゲームのメディアということで、ゲームにちなんだ質問もさせていただきます。おふたりはどんなゲームをプレイしますか?

宇野:好きなのは『ダークソウル』などの死にゲーというか、フロムゲーですね。

 最近プレイしてハマッたのは『SEKIRO』でした。アクションが得意というわけではないのですが、世界観の作り込みがすごくて、細かいオブジェクトまでこだわって作られていて、好きですね。

志瑞:自分の場合は、キャラクターになりきってロールプレイをするのが好きで、とくにボードゲームやアナログゲームが好きですね。自分でも作っています。

宇野:確かにキャラクターになりきってプレイするのが一番楽しいですね。最近はなんだか斜に構えちゃって、そういうふうにプレイすることが減ってしまっていました。

――もしも自分の作品がゲーム化するとしたらどんなジャンルがいいですか?

志瑞:『聖剣学院の魔剣使い』は女の子キャラクターが多いので、やっぱりギャルゲーですね。基本的にはアドベンチャーで、申し訳程度にシミュレーションRPGパートが入っていてば完璧です(笑)。

宇野:自分はアクションRPGがいいですね。剣や魔法が存在しますし、キャラクターを自由に動かしながら戦えるアクション性があるゲームだと楽しいのかなと。

――もし、お互いの作品でコラボ的な短編小説を書くとしたら、どういったテイストのどんな作品を書きたいと思いますか?

宇野:サムライ同士など、お互いの作品の似たようなキャラクター同士で会話をさせたら面白いんじゃないでしょうか。オリバーとレオニスも、今はもういない女性に縛られ続けているという意味では共通していますしね。

志瑞:レオニスやリーセリアがキンバリー魔法学校にお邪魔したり、逆にオリバーやナナオに第〇七戦術都市(セブンス・アサルト・ガーデン)に来てもらったりと、学園モノっぽいノリで書けると楽しいのかなと思いました。

――最後にお互いの作品について改めてコメントをお願いします。

志瑞:同業者の作品をチェックするときは勉強するような気持ちで読むことが多いのですが、『七つの魔剣が支配する』は、ただのファンとして中高生のころに戻ったように熱中してしまいました。これからも応援していきます!

宇野:主人公が強くて真っ当に面白いのが『聖剣学院の魔剣使い』の強みだと思っています。主人公が強いことと面白いことが別ではなく、このふたつがつながっていることがポイントで、ケチの付け所がなく、万人にオススメできる素晴らしい作品になっていると思います。

 志瑞先生、本日はいろいろとお話ができて楽しかったです。ありがとうございました!

志瑞:こちらこそ、ありがとうございました!

『聖剣学院の魔剣使い』×『七つの魔剣が支配する』コラボについて

 10月26日にコミック版『聖剣学院の魔剣使い』2巻と『七つの魔剣が支配する』3巻が同時発売されたことを記念して、どちらのコミックを購入すると、両作品が掲載された特別な限定リーフレットがもらえるキャンペーンが開催中です。

 片方の作品しか読んでいなかった方も、この機会にもう1つの作品を楽しんでみてはいかが? どちらもオンリーワンな魅力を持ちながら、王道ファンタジーとしてしっかり楽しめる作品という意味では共通しているので、両作品とも気にいるはず!

 配布対象となる店舗など、詳細は少年エース公式サイトでご確認ください。

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『七つの魔剣が支配する』

  • 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
  • 発売日:2018年9月7日
  • ページ数:408ページ
  • 定価:759円(税込)

『七つの魔剣が支配する』(コミック)

  • 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
  • 発売日:2019年10月10日
  • 定価:682円(税込)

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