仲間を喰らい、力得る男の苦悩――。電撃文庫『君が、仲間を殺した数』は、求めていたダークファンタジー

セスタス原川
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 みなさんはコミカルな物語とシリアスな物語、どちらがお好みですか?

 筆者は、絶望の中で僅かな希望の光を追いかけるような、シリアス系の物語が大好物です。そんな筆者が、ノンストップで一気に読み切ってしまうような魅力的な作品と出会えたので、ご紹介します。

 タイトルは『君が、仲間を殺した数 ‐魔塔に挑む者たちの咎‐』(著者:有象利路、イラスト:叶世べんち)です。

 タイトルから既に不穏な雰囲気が漂う本作。内容は期待を裏切らない、読んでいて胸がキュッとなるようなダークファンタジーです。

 筆者と同じく、シリアスな物語が好きな方であれば、間違いなく楽しめる作品と断言しましょう。

 まずは、気になるあらすじをご紹介します。

あらすじ:最高の仲間。絆と友情、そして愛。彼は失った。その全てを。

 その日、ある少年が死んだ。

 仲間思いで心優しい、少しだけ照れ屋な……そんな彼はいなくなり、瞳に仄暗い光を宿した狂戦士のような男が、ただ一人立っていた。

 少年の名はスカイツ。彼は、幼馴染たちで構成されたパーティである《塔》を攻略するさなかに、魔の祝福を受けてしまう。

 「自分が死ぬと、その場に居合わせた仲間の“能力”と――“存在そのもの”を吸収して、時間を戻し復活する」能力。

 親しい友を意図せず自らの力で「喰らい」、失意の彼は次第に心を擦り減らしていく。そして、その身を削る苦しみの果て、彼は【鬼】へとその身を堕とす。

 《塔》に挑む者たちの異常な日々と、彼らの罪と咎を描くダークファンタジー。

 筆者は読破後にあらすじを見たので「あ、そこまでは言っちゃって良いのね」という感じ。ということで、これ以上のネタバレには配慮しつつ、本作の物語や魅力を紹介していきましょう。

RPGのような世界で少年は魔の祝福を受ける

 舞台は“塔”と呼ばれるダンジョンがいきなり現れた、魔法や剣技などの“技能(スキル)”一般的に使われる世界。

 “塔”は遥か天空に続くほどの階層があり、中には魔物が溢れています。そこに、ダンジョンに挑戦して名声や富を得ようとする“昇降者”たちが集まりました。

 “昇降者”が集まると、彼らと取引をする商人や、彼らの持ち帰る戦利品を狙う悪人たちなど、さまざまな人も集まります。やがて“塔”を中心にした大きな街が生まれました。

 その街で暮らす新米ギルドの“ストラト・スフィア”は、スカイツ、ベイト、アル、シア、クアラの幼馴染み5人で構成されたギルド。師であるアブラージュの指導を受けながら“昇降者”としての活動をはじめたばかりです。

 ある日“塔”で起きたとある異変をきっかけに、スカイツは“自身の死の代わりに周りの仲間の存在を消滅させ、その“技能”を手に入れる”力を与えられます。

 自分の代わりに仲間を犠牲にして生き残る能力。作中では、スカイツが望まずして手に入れてしまったこの能力に振り回され、苦悩しながらも向き合う様子が描かれます。

『君が、仲間を殺した数』はここが面白い!

求めていたダークファンタジーがここに!

 スカイツが手にした能力を見れば察しが付くかと思いますが、この物語では仲間が消える……ある意味での“死”を迎えます。

 そんな展開でハッピーな方向に話が進むわけもなく、スカイツが能力に目覚めてからは、読んでいるこちらまで苦しくなるようなハードな展開が続きます。

 仲間に降りかかる不幸は、スカイツの能力の影響だけではありません。“塔”の中では強力な魔物が待ち受け、それを乗り越えたと思えば、自宅までの帰り道では盗賊の“地這い人(ボーカー)”が彼らに牙をむきます。

 緊迫したシーンでは、彼らが次の瞬間にどうなるのか、文章の一行一行を読むたびに息を飲んでしまうような緊張感を感じてしまいました。

 さらに、このハードなストーリーを際立てるのは、間に用意された束の間の穏やかなシーンです。

 “ストラト・スフィア”は、孤児院の仲間たちが集まった仲良しギルド。仲間同士で馬鹿な会話で盛り上がることもあれば、お互いを思いやる温かさを見せることもあります。

 ところが、そんな温まるシーンの数ページ先では、先ほどまでの温度感が嘘に思えるほどの災難が彼らに訪れます。

 その雰囲気の落差は、例えるならジェットコースターの軌道そのもの。不穏な和やかなシーンを読んでいる最中は、ジェットコースターの「カタカタカタカタ……」と、落下直前にゆっくりと高度を上げている際の音が聞こえてくるようです。

 後半になると、もう展開の落差が体に染みついてしまい、少し良い雰囲気が訪れた瞬間には「あ、この後は絶対に何か起こるぞ……!!」と身構えてしまうことでしょう。

 そして、準備をしていてもなお、我々の想像を上回る悲劇が訪れてしまい、読者は何度も心が締め付けられるような感覚を味わうことになります。

 どうすれば、ここまで読者のHPを削り続けるような展開を考えられるのでしょうか……? 著者の有象利路先生の感性が、いい意味で恐ろしいですよ……。

個性際立つキャラクターが物語に華を添える!


 “ストラト・スフィア”のメンバーは、同じくらいの年の少年少女たち。

 同時に複数人が居合わせる場面も多いですが、各々のキャラがしっかりと立っているので、会話が続くシーンでもセリフが誰のものか瞬時に理解できました。
 
 読者がキャラを判別できるように口調に特徴を持たせる手法は一般的ではありますが、本作はその場に居合わせるキャラ数も多いため、この魅せ方は相性抜群。会話の続くシーンでも、状況を想像しながらスラスラと読み進められました。

  • ▲何気ない会話のシーンでは、彼らが喋っている風景が自然と脳裏に浮かんできます。読みやすい!

 筆者のお気に入りキャラクターは“ストラト・スフィア”の中でも大人びた落ち着きのある少女であるシア。そのセリフの一部をご紹介しましょう。

「油断大敵。仲間のことを、常に頭に入れて」
「当然。もし反故にしたら、燃やす」
「ま、待って。歩ける、自分で……」

 このように、1つの端的な単語と冷静沈着な返事を組み合わせた、少し機械的なセリフが彼女の特徴です。ところが、その口調とは対照的に、彼女の本来の性格は思いやり深く優しい女の子なのです。

 セリフだけを見ると無感情に見えてしまいますが、3つ目のように、とっさの状況では普段のスタイルが崩れたセリフが出てしまうことも。時折見せる口調の変化や、外側のドライさと内面の優しさのギャップがたまらなく魅力的です。

 普段のドライな雰囲気もあり、感情が高ぶったときがわかりやすいシア。セリフから気持ちがヒシヒシと伝わってくるものですから、読んでいてニヤニヤしてしまうようなシーンもありました。

 ……というニヤニヤ展開は夢のひと時。すぐに悲劇が彼女たちを襲うので、その和やかさはすぐにまっ黒く上書きされてしまうのですが……。

 もう1人のヒロインであるクアラは、天真爛漫で元気溢れる女の子。彼女もスカイツが悩んでいるところに優しく寄り添ってあげる母性を持っており、シアとはまた違ったギャップが魅力的です。

  • ▲2人に慰めてもらっているスカイツ……。彼の置かれた状況を考えると軽々しいことは言えませんが、この瞬間だけは素直に羨ましい……。

こんなダークファンタジーを待っていた!

 作中は“塔”の中を探索するシーンが多く、彼らがそこで戦ったり、アイテムを獲得する様子は、まさにRPGそのもの。

 あとがきを読むと、有象利路先生は大のRPG好きとのこと。そのため、物語の各所には有名作品を彷彿とさせるような描写もちらほら。そのようなリスペクト部分にも注目すれば、本作をより楽しむことができるかもしれませんね。

 ご紹介した通り、本作は主人公のスカイツが襲い掛かる悲劇に立ち向かうダークファンタジーです。筆者と同じく、シリアスな展開の物語が好きな方に刺さる一冊であること間違いなし。ぜひ手に取っていただければと思います。

 ネタバレになってしまうため詳細は明かせませんが、本巻のラストシーンはとても後を引く展開で、この先の物語が気になって仕方ありません。続巻の発売が待ち遠しい……!

『君が、仲間を殺した数 -魔塔に挑む者たちの咎-』

  • 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
  • 発売日:2020年10月10日
  • ページ数:344ページ
  • 定価:630円+税