『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』クラウドファンディングの意図とは? 反響や隠し要素に迫る

kbj
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 フライハイワークスから配信されているPS4/Nintendo Switch用ダウンロードタイトル『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』。本作を手掛けた、ハッピーミールの関純治さんへのインタビューを掲載する。

 『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』は伊勢志摩地方を舞台としたファミコン風サスペンスコマンドADV。プレイヤーは、後輩の刑事ケンと現場検証や聞き込みを行い、事件の解決に挑む。

 7月29日までサービスサイト“キャンプファイヤー”にて、続編の開発費支援を募るクラウドファンディングプロジェクトが実施されている。関さんにはソフトの反響やクラウドファンディング、新作についてなどをお聞きした。

 なお、インタビューにはゲームのネタバレが多少含まれる。

昔ながらのアドベンチャーゲームを受け入れてもらえたという手ごたえ

――『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』発売からしばらく経ちましたが、反響は?

 多くの方から「ちょうどいいバランスだった」や「アドベンチャーゲームとして楽しかった」という意見をいただきました。レトロなアドベンチャータイトルが好きな人にどのようにとらえられるか、不安もあったのですが、自分の感覚と近かったので、よかったと感じました。

 なんでしょう……一番よかったのは、荒井清和さんのイラストじゃないですか。

――イラストはずるいと思いました(笑)。他にユーザーから評判だったところはなんでしょう。

 やっぱり「旅行したくなる」などの“旅情感”については好評で、我々としてもうまくやれたと思っています。作っている最中は「これは観光だから、もっとシリアスに進めたほうがいいのでは?」と思った時期もありましたが、今の時代のゲームであれば、このようなバランスでもいいだろうと。

 例えば例えばケンはゆとり世代といわれるイメージでキャラにしつつ、締めるところは締めるようにしました。結果的に好意的に受け止めている人が多い印象です。

 あとは「ご飯を食べたくなる」や「1日のシメとなる居酒屋に早く行きたい」などの意見もありました。中には「居酒屋のシーンで一緒にビールを飲みます」という人もいて、それについては「そこまで感情移入してくれているのか!?」と思いました。

 お店限定で“オススメメニュー”をおまけとして入れました。「余計なことと言われるかな?」とも思ったのですが、「今日のオススメはなんだろう?」と、楽しんでいただいているようです。

――なかなか食べ物が出てこない日があったのには、驚きました。

 小さい店なので、混んでいる日もあるわけです(笑)。あとは、続編を希望する声も当然あります。

 一方で難易度は意識して下げたつもりでしたが、それでも「難しい」という声もありました。が、きっとそれは、若い世代の方でしょうね(笑)。

――個人的には、最初に簡単なものがあり、そのあとで応用がある“2段階”になっていると感じました。

 まさにそのような設計にしています。おそらく昔からのアドベンチャーゲームをプレイしている人だと気にならないのだと思います。

 コマンド選択式アドベンチャーとサウンドノベルの中間を目指しました。いまのユーザーは、サウンドノベルの方がプレイに慣れているので、その要素を強くしたかったのですが、完全なサウンドノベルにならないように、読み聞かせが主となる“ノベルパート”と捜査している感じがある“アドベンチャーパート”というように銘をうって、シーンを構成してメリハリをつけるようにしました。

――他には?

 「メッセージ表示速度を速くしてほしい」と言われました。ただ、ここについては変えるつもりはありません。

 『ダービースタリオン』を作られた薗部博之さんが「実況をしゃべっているように表現したいから、メッセージを流した」という、コメントを何かの記事で読んだことがあります。もしあれが違っていたら、自分も人がしゃべっているような感じは出なかった。個人的にはここに感銘を受けました。また、キャラの人間味を大事にしているという理由もあります。

――人間味ですか?

 例えば、おばあちゃんは遅いとか、早くしゃべる人は、確認したいのにもう言ってくれないとかは、現実世界でもあるじゃないですか(笑)。本来はキャラクターごとにメッセージ表示速度も可変させて、聞いている人がイライラするところも表現したかったんですが、さすがにやめました。

 ただ、文字表示でしゃべっている感じを再現したかったので、表示速度は自分が適正と考える速さで固定しました。さらに、音もキャラごとに設定することも考えたのですが、ファミコン風にこだわった結果やめました。

――こだわって設定したのではなくて、やめたのですか?

 本作は、ファミコンをベースにして作っているため、音も同様です。使える4音の中で、3音は曲で、1曲をノイズにしてそのノイズの表現できるなかでメッセージを作ろうとしました。「珠海の音をもっとカワいくして!」と言ったのですが、SE作ったスタッフから「ファミコン仕様だと、ノイズでこれ以上、聞き分けできるレベルの種類は作れない」と言われました(苦笑)。

 嘘をつくこともできたのですが、そこはこだわりとしてやめました。結果として、ケンは一番しゃべるので、聞き心地をよくして、あとは男性、女性、老人くらいのタイプでわけています。

――キャラ性を考えた結果での仕様だったと。

 自分で遊んでいても、ボタンを押すとメッセージがパッと出たほうが遊びやすいとは思いますが、テキストをナナメ読みされたくないというか、ゆっくり遊んでほしいということもあり、そのままにしています。ただ、ここは開発者のエゴではあるのですが……。

――他にテキストでこだわったのは?

 小説のようにしゃべるのではなくて「なんだけど」とか「しちゃった」とか、普段しゃべるような言葉を使い、日本語的におかしいというものでも、日常で使われている方を採用しました。

 誤字脱字と言われてしまうものもあるので、検討はしました。もちろんチェックしている中で、直したものもありますが、キャラクター性を出す演出として入れています。

風呂の分岐にあったボツ要素とは!?

――個人的には、懐かしいアドベンチャーらしさと、ドラマのような雰囲気のBGMが印象的でした。

 ゲーム自体、見る気がなかったがちょっと見てたら、つい最後まで見てしまったというような2時間サスペンスドラマの雰囲気を目指しました。

 トリックについても、なんならツララの凶器とか入れて「死体の横が濡れている!」とか、ベタなものをあえて入れたかったんですが、なくなりました。メモ帳の白紙の部分をこすると上に書いてあった文字が浮かび上がるというものはなんとかねじ込みましたが。「トリックでもなんでもないだろう!」と思われたかもしれませんが、BGMをふくめて「わかるわかる」という、安心感を目指した。

 個人的には歌の力を信じていて、歌や声が入っていると、作品の価値が上がると感じています。そのため、タイトルの規模にかかわらず作ればいいだろうと。最近は多趣味な人が多いですし、機材も手軽に入ります。今回はサスペンスなので、それにふさわしいテーマ曲を作りました。メロディアスな曲にしたのは、ボーカルを入れるためですね。

――いろいろなところで流れますし、印象に残りました。

 刑事ドラマとしても全体的にちょっと明るい感じで、リアルさよりも雰囲気を重視してます。普通に考えたら「事件のカギが伊勢にあるから行きましょう!」ってならないじゃないですか。管轄が違うわけですし、ましてや現場をさわるとか絶対にありえない(笑)。

 ただ、ゲームはファンタジー。そこのバランスを含めて、遊んだ方には理解されたんだと思います。突っ込みつつ、楽しんでもらう。そのうえで、締めるところは締めて、現実感を出すことは注力しました。

――具体的にはどこでしょう。

 警察手帳であれば、昔の手帳のようなものではなく、二つ折りで首から下げるタイプになっています。知らない人もいるだろうと、グラフィックをそうしたり、「今はこうなんです」というテキストを入れたりしました。

 あと、仕事なので最終的にはデジカメで撮ると思うのですが、流れで携帯電話で撮りますよね。そこに“いいゆるさ”、“人間味”があると思っているため、入れました。「写真がぶれるからもう1枚」とかも「無駄なテキストでいらない」とか言われるかと思ったのですが、ちゃんと届いたので安心しました。

――そもそもになるのですが、携帯電話を入れようと思った経緯は?

 作っている時には「今の時代、連絡する時にわざわざ公衆電話まで移動するとかはありえない」ということがありました。検索もどう考えても携帯でします。そのため、入れました。

 そのうえで「検索は携帯に頼るに決まっているだろ」と思うのですが、あえて「携帯に頼ってはダメですよ」と言われると、「まあ、それもそうだな」と感じます。

――お店の評価を見るのもあるあるだなと感じました。

 そうですね。店を調べる時に、サイトで評価をチェックする。地図を見たら、いい加減でわからないこともある。そんなこともあり、それを入れました。

 今回での反応を見て、このような“遊びのバランス”も「ここまでは許される」というラインがわかったので……次回も用意します。ただ、もしかすると入れすぎてしまうかもですね(笑)。

――あまり伝わっていないこだわり要素があれば、教えていただけますか。

 最後の廃工場ですが、とある昔のタイトルからのオマージュ的な仕掛け……仕掛けというか、要素を入れています。ぜひ考えてみてください。

 あと、ネタバレがひそかに含まれているセリフがあります。レイジ(浜月レイジ)の証言は地味に重要なことを言っているので、クリアした人は2周目をプレイする際に、いろいろと見てください。

――最初はお風呂の要素に気づきませんでした。

 あそこも普通に進んでしまうことが多いですね。お風呂の分岐も迷ったのですが「風呂であればもう1回やってくれるだろう」と思って入れました。実は当初の計画では、そもそも風呂に行かないという分岐がありました。

――それはなぜなくしたのですか?

 個人的には分岐を入れたかったんですが。不整合が発生したためです。

 仕事で伊勢に来ていて、女子大生に「撮影を少し手伝って」と言われても、普通の大人なら断わるべきでしょ?(笑) ケンが何度も誘うのを断り続けると、帰るようになっていましたが、その後で話に細かい不整合が起きて、直すのが大変だったのでその分岐は削除しました。

反響があったからこそクラウドファンディングを行った

――クラウドファンディングを行った経緯について改めてお願いします。

 配信後、ありがたいことに反響があったのですが、開発前には2つの疑問点がありました。このようなタイトルの需要があるのか、商売として成立するのかです。

 レトロゲーム風のアドベンチャーというと、皆さんが思い浮かべるレジェンドタイトルがあるので、ともすればお叱りを受けることも想定していました。ただ、タイトルアナウンス時や配信後の反響などもあり、需要があることがわかりました。先ほどあげたように「続編をお願いします」という声も寄せられています。

 もう1つの“商売”としての側面です。今回、配信をご担当されたフライハイワークスさんと相談して価格を1000円にしたのですが、単純にこの金額だともとをとるのは大変。少人数での制作とはいえ、1年近くかけて作っているので……正直、厳しいです。

――続編を作りたくても、作れないと。

 1作目は作りたいので作ったのですが、同じやり方を行っても当然ですが同じ結果になってしまいます。弊社は小さい会社だからこそ、リスクを考えておく必要があるんですね。いろいろな方にご意見をいただいていたところ、「タイトルの反響はいいから、クラウドファンディングをしてみては?」という案がありました。

 クラウドファンディングをすることで、続編を希望する声がどれくらいなのかを見極められますし、プロジェクトを走らせるスタート費用を集めることができます。

――開発全体ではなく、動き出すための費用にあてるわけですね。

 はい、ちょっと業界を知っている人であればわかるのですが、昨今のゲームは300万円では作れません(苦笑)。他の仕事をしながら続編を作っていくのではなく、しっかり動き出すために使わせていただくイメージです。

 あと、小規模のゲームなので、クラウドファンディングをすることで“自分がかかわっている”という愛着がわき、よりタイトルを好きになってくれるだろうとも思いました。

――ゲームに参加できる権利はすぐに売り切れて「買えなかった!」という声もあがっていました。

 ありがとうございます。もちろん、ゲームに登場する権利を増やすこともできます。ただ、それを増やしすぎて、出すためのキャラばかりになってしまうと、ストーリーや世界観が崩れて、遊びにくくなるんですね。そこのバランスは難しかったので、今回はこの人数にしました。

 ただ、PS4版でプレイしたタイミングのユーザーさんから、気が付いた時に、ゲームに絡む支援がもうなかったような声が多々ありましたので、ちょっとだけですが、追加募集をしました。

――なるほど。

 ただ、目玉となるものが売り切れてしまったので、バッカー(支援者)の数が伸びにくくなりました。そこでフライハイワークスの黄さんと相談して、パッケージ版を作るための新たなストレッチゴールを設定しました。

黄政凱さん。フライハイワークスの代表取締役で、多数のソフトを手掛ける。さまざまなゲームを遊ばれている。

――パッケージを作るとなると、クリアするための課題、問題があると思うのですが……。

 はい、その通りです。パッケージを作るための最低ロットなどを考えると、難しい面があることは把握していました。そのために悩んでいたのですが、むしろ、黄さんの方が「これは、お祭りだからやりましょう」と前のめりです(笑)。

タイトルを一緒に盛り上げたい

――話に出てきた続編ですが、どこまで構想が進んでいるのでしょう。

 物語や設定はもうできています。クラウドファンディングが成立しなくても作るつもりだったので、すでに取材は終えていて、東北のある地方が舞台です。

――前作のキャラは出てきますか?

 自分とケンはコンビなので出ますが、関係のない人は出しません。例えば、珠海は伊勢に住んでいるので、東北には来ないじゃないですか。一方で、カナは取材をしているので地方に来る可能性があります。ルポライターの西沢にしても、基本は伊勢を拠点にしているのですが、ジャーナリストなので事件があれば来る可能性があるわけです。

 ただ、基本的には一新したいと考えています。ファンサービス的にチラッとは出すかもしれませんが、そこはお楽しみってことで。

 例外としては、浜月レイジだけは、同じような役柄で再起用しようと思っています。

――そうなんですか?

 ドラマや映画でも監督の好みの俳優さんが、定番的に起用されるケースがありますよね。レイジは今回もダメな人間のような感じで、本作と同じように「明日、大金が手に入る」みたいな役回りで出したいと思ってます。「この役者、こんな役ばっかりだなあ……」なんて思われたい(笑)。

 世界観が崩れるかもしれないのですが、1作目をプレイした人に向けた要素で定番ネタとしてやろうと。なんならばドット絵を含めて、同じにしようかなと。

――ということは、新作は16bit風になるわけではなく、レトロなテイストはそのままで、物語を刷新した続編になると。

 そうなります。先ほども言いましたが、あの感じが個人的に一番落ち着くんですよね。

 想像力で補完できるのは、あれくらいのグラフィックが適しています。「アワビのステーキ!」と文字で書いてある場合、脳内で想像することで「なんだか、うまそう!」となる。グラフィックが進化して画像で表現すると、うまそうなんですが、想像の余地がなく、見たものそのものの情報になってしまうのです。

――最後にクラウドファンディングについて、改めてお話いただけますか?

 多くの方にご賛同いただき、開発費のご支援をいただきました。本当に感謝が尽きません。ありがとうございます。

 まだ、ストレッチゴールは残っていますが、現状では値段の低いものが多いため、「結果につながらないのでは?」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、弊社としてはご参加いただける方が増えて、スタッフロールが長くなることで作品の盛り上がりにつながると考えており、金額よりもそういった気持ちをご支援いただきたいと思っています。

 今回、金額の目標をクリアしたことで、うれしい反面、その責任の大きさをすごく感じています。『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』の開発当時は、我々としては他に優先度の高い仕事があったうえで、その隙間でやっていたのでリリースまで時間が大分かかってしまいました。

 そんな、うだうだしてた時に黄さんにお会いしたのですが、「これは早く出すべきです。協力できることはしますよ」と言っていただいたことで、なんとか出すことができました。黄さんに感謝です。

 もし、まだ『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』を遊ばれていない方はぜひプレイしていただき、さらに興味があるようでしたらクラウドファンディングに参加していただき、一緒に盛り上げていければと思います。自分でハードルをあげちゃいますが、第2弾について、おもしろくするアイデアはあります。適度な期待でお待ちください。

――ありがとうございました。

交流イベント“第六回ネタバレ雑談会 in 東京”概要
日程:2019年8月11日 19:30~(2、3時間予定)
参加料:4,500円前後(飲み放題コース予定)
会場:早稲田、新宿エリアの居酒屋
詳細ページ:https://bonusstage.net/campaign/190812tokyo2

“「ミステリー案内2(仮)」クラファン目標達成記念夏祭り! in 東京”概要
日程:2019年8月12日 13:00~18:00ごろ
入場:無料
会場:イズモギャラリー(東京早稲田)
詳細ページ:https://bonusstage.net/campaign/190812tokyo/
※申し込みは不要だが、混雑の場合入場規制や入場ができない場合がある。

Illustrated by Kiyokazu Arai
©Happymeal Inc.

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伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠

  • メーカー:フライハイワークス
  • 開発:ハッピーミール
  • 対応機種:Steam
  • ジャンル:ADV
  • 配信日:2019年7月23日予定
  • 価格:1,000円(税込)

伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠

  • メーカー:フライハイワークス
  • 開発:ハッピーミール
  • 対応機種:PS4
  • ジャンル:ADV
  • 配信日:2019年6月20日
  • 価格:1,000円(税込)

伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠

  • メーカー:フライハイワークス
  • 開発:ハッピーミール
  • 対応機種:Switch
  • ジャンル:ADV
  • 配信日:2019年1月24日
  • 価格:1,000円(税込)

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