『GGアレスタ』シリーズ大鼎談! シリーズのキーマン小玉氏、並木氏、ナカシマ氏が裏話を語り尽くす
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2020年12月24日、PlayStation4とNintendo Switchでエムツーより発売された、『アレスタコレクション』。
本作は1988年にセガ・マークIII用として発売された縦スクロールシューティングゲーム『アレスタ』を皮切りに、コンパイル社が脈々と制作してきた人気作『アレスタ』シリーズから、複数タイトルをピックアップして1本にまとめたもの。
収録タイトルはセガ・マークIII、セガ・マスターシステム、ゲームギアにてリリースされたシリーズ4本に加え、本作のために制作されたゲームギア用の完全新作『GGアレスタ3』の、計5本がラインナップされています。
過去の4タイトルはどれも歴史的に価値のあることはもちろんですが、やはり完全新作となる『GGアレスタ3』も超注目作です。PlayStation5やXbox Series X|Sといった次世代ハードが発売された2020年(令和2年)に、まさかゲームギア用の完全新作『GGアレスタ3』が世に出ることになろうとは、一体誰が予測できたでしょうか?
そこで『アレスタコレクション』ならびに『GGアレスタ3』のリリースを記念したスペシャル企画が実現! 『GGアレスタ』『GGアレスタII』を代表して小玉大合体氏(小玉浩樹氏)、『GGアレスタ3』を代表して並木学氏、ナカシマカズユキ氏にご協力いただいた、3者鼎談の模様をお届けいたします。
四半世紀を越えてリリースされるシューティングシリーズ『GGアレスタ』。そこに込められた思いや、開発にかける情熱などを、たっぷりご覧ください。(鼎談実施日:2020年12月11日。インタビュー中敬称略)
お話を聞いた人
小玉大合体氏…
おもにグラフィッカー(世に出ていない複数のアーケード用シューティングゲームでリーダーも担当)。『GGアレスタ』では企画、グラフィックを担当。『GGアレスタII』ではプロジェクトリーダー、企画、グラフィックを担当。
並木学氏…
サウンドデザイナー。『バトルガレッガ』や『怒首領蜂最大往生』など、多数のシューティングゲームのサウンドを担当。『GGアレスタ3』では企画、ディレクション、サウンドデザインを担当。
ナカシマカズユキ氏…
『武者アレスタ』から『魔法大作戦』『バトルガレッガ』などシューティングゲーム育ちのデザイナー。『GGアレスタ3』ではリードデザイン、企画を担当。
『GGアレスタ』シリーズの制作はいつも突貫工事!?
――本日はよろしくおねがいします。鼎談を始めるにあたりまして、僭越ではございますが、最初はこちらから話題を振らせていただければと存じます。
まず並木さんへの質問となりますが、過去の『アレスタ』シリーズをどのように解釈したうえで『GGアレスタ3』を制作されましたか?
並木:そのお話の前に、どういう経緯で僕のところに『GGアレスタ3』の話が来たか、僕が企画を担当することになったか、をご説明しますね。ある日エムツーの堀井社長から私のところに「『GGアレスタ3』のサウンドを作って欲しい」という連絡が来たんです。
――最初はサウンド制作のお話だったんですね。
並木:はい。僕としては音楽を担当することは問題なかったのですが、よくよく話を聞いてみると、担当するディレクターも決まっていなかったんですよ。
――エムツーとしては、まず音楽担当から決めよう、というおつもりだったのでしょうか。
並木:そうかもしれません。ただ、まずゲームの企画や内容が決まっていないと曲や効果音の作りようがないんですよ。もっと言うと、サウンドドライバーなどもないわけです。要はゲームの内容が何も決まっていない状態で依頼をされたという……。
――プログラマーさんも決まっていなかったのでしょうか?
並木:プログラマーは“ふあう・らぼ”さんが担当されることは決まっていました。ただ、それ以外はまったくの白紙でした。少し話がそれるのですが、僕は今、別のプロジェクトのサウンドディレクターもやっているんですよ。それが決まったのは『GGアレスタ3』のお話が出るよりも前なのですが、そちらがなかなか前に進まなかったんです。
なので、サウンドディレクターの僕からもアイデア出しをしたりして、プロジェクトを前に進めようとしたんですね。ただそれでもなかなか進める状態にならなくて、フラストレーションがたまっていたんですよ。
――それは進捗の遅さに対してですか?
並木:進捗のこともありますけれど、さまざまな面で決断がなされず、“行き先の示されないプロジェクト”になっていたことに対して、ですね。
で、その後に『GGアレスタ3』のお話が来て、そのときに抱いたのは「これもそうしたプロジェクトになってしまうのでは」という危機感でした。せっかくこの時代に「ゲームギア用の新作シューティングを作る」という酔狂なプロジェクトが立ち上がろうとしているのに、同じことになってしまうのは避けたいと。
小玉大合体:それにしてもその流れにはビックリですね。
並木:しかし行き先を示すことの重要さを理解した上でちゃんと示せる人がディレクターをやらないと、いずれ『GGアレスタ3』もそうしたプロジェクトになるでしょうから、僕が手を挙げて立候補したんです。
小玉大合体:すごい!
並木:なかなか先に進まないプロジェクトは、巻き込まれた人全員がだいたい不幸になりますから、僕も不幸になりたくなかったんです(笑)。
ナカシマ:恨んでいるの?(笑)
並木:いや、恨みというよりも反面教師になってしまっているんです(笑)。あとは、自分が関わるからにはちゃんとしたプロジェクトにしたいじゃないですか。
――では、企画まで担当されたのはなぜでしょうか?
並木:企画とディレクターを任せていただくことで、プロジェクトの骨子となるものを作っておきたかったんですよね。そのために『GGアレスタ』の前2作をやりなおして、どういうゲームだったかを分析するところから始めました。
――なるほど。
並木:ここでようやく最初の質問の答えになるのですが、まず僕は、前2作は発売日に購入していて、ユーザーの1人としてプレイしていたんです。
小玉大合体:ありがとうございます(笑)。
並木:(笑)。この2作は小玉大合体さんがディレクターをされていましたよね。
小玉大合体:そうですね。社内で上から私に企画が降ってきたときはほぼ丸投げに近くて、自由にやらせてもらいました。そのへんのお話はあとでできればと思います。
並木:では話を戻させていただきますと、僕はユーザーの1人としても前2作の良さはわかっていたんです。ゲームギアという携帯ハード用のゲームには、色数や解像度、液晶の残像など、当時ゆえの制約がいろいろとあります。それでも『アレスタ』らしい面白さが盛り込まれていました。
たとえばメガドライブの『武者アレスタ』やスーパーファミコンの『スーパーアレスタ』などは、やり込みがいのある作り込まれたゲームで、難度の歯ごたえもあり、システム的にもやや複雑でした。そのためゲームギアの性能では同じようなものは当然作れない。
据え置きハードと比較すると、ずいぶんと制約のある環境下で、それでも十分楽しんでもらうために、『アレスタ』のエッセンスを再構築して盛り込んだゲームが前2作だったと思うんです。複雑なシステムはばっさりカットして、原作の面白い部分だけを盛り込んでいるんですよ。
――そう思います。
並木:それを踏まえ、改めて令和の時代に『GGアレスタ3』を作るなら、前2作にならってゲームギアで遊びやすい要素は継承しつつも、より良くしたいなと思いました。
とはいえ、前2作のシステムをそのまま引き継いだりするのではなく、取捨選択をした上で新しい要素も盛り込みたいとも考えました。何しろ前作から30年近く経っていますし、その間のシューティングの進化みたいなものを少しでも盛り込みたいと考えたんですよ。そうじゃないと今あえて制作する意味がないですから。
盛り込むアイデアについては前2作を何度もやりなおしながら考えていました。プレイの様子を動画に撮って、コマ送りしながら分析したりもしましたね。
――小玉さん、ここまでのお話を聞いていかがでしょうか?
小玉大合体:原作の発売から二十何年が経って、ようやくまとまった感想を聞けて、感慨深いです。過去いろいろなところでお話したことではあるんですが、ゲームの製造ロット数のこともあって、『GGアレスタ』の2作はどれだけの人に遊ばれたのか、常に疑問に思っていたんです。
ところが『アレスタコレクション』の発売が決まってから、これら2作について語る方が続々と現れて。驚いたのと同時に「その感想は発売当時に聞きたかったな」と思いましたね(笑)。
――当時はインターネットもあまり普及していませんでした。
小玉大合体:そうですね。なので、今回そういった意見を聞ける機会をいただけたことや、前2作を参考にして並木さんが新作を作ってくださったことはありがたいです。『GGアレスタ3』をプレイしていると、そういう点も伝わるようになっていますし。
並木:『アレスタ』の先人にそういっていただけるのは、こちらとしてもうれしいです。
小玉大合体:『アレスタ』はすでにセガ・マークIII版の原作がありましたから、違うハードを使うとはいえ、原作から大きく外れた内容のものは作れないですし、制作者は制作中のゲームをずっと見続けることになるじゃないですか。なので『GGアレスタ』や『GGアレスタII』は制作者側の視点でしか見られなかったんです。
今回、私の知らない新作として『GGアレスタ3』を見られたのは、ファンの1人として新鮮でしたし、何より楽しかったしうれしかったですね。
――小玉さんが『GGアレスタ』と『GGアレスタII』を作った際には、原作の要素をどのように落とし込んでいったのでしょうか?
小玉大合体:『GGアレスタ』のときは、ほかの人の企画だったものが私のところに降ってきたうえに、私はそれまでコンシューマゲームの開発をしたことがありませんでしたから、ただただ驚いたんですよ。とはいっても「コンパイルとして恥ずかしいものは出せない!」という強い気持ちがありましたので、必死で作っていました。
――コンシューマゲームとして初めて作ったタイトルが『GGアレスタ』だったんですね。
小玉大合体:そうです。私が入社した頃はMSX2版の『アレスタ2』がすでに完成し、ポスターが刷り上がっていたような時期でしたね。新人の頃は“コンパイルのカラー”というものが良く分かっていなくて、いろいろなソフトをひたすらプレイして感覚をつかんでいきました。
当時はまだ『ぷよぷよ』の人気が爆発しておらず、“シューティングのコンパイル”として知られていたこともあって、そのエッセンスが何なのかを理解しようと意識していました。そんななか、「パソコンではなくコンシューマゲームでシューティングを作って」と言われたと。ちなみに、『GGアレスタ』の前任者は同期で入社した“森田ぷよ道”でした(笑)。
それは良いとして、私が企画を任された当時は『スーパーアレスタ』は開発中で、発売されていたシリーズ最新作は『武者アレスタ』でした。個人的には『武者アレスタ』は大好きでしたから、『アレスタ』らしさはこれをベースにしようと思って作りました。でも、未だにそれが正解だったかどうかはわかりません。
並木:小玉さんの初ディレクション作品が『GGアレスタ』なのですか?
小玉大合体:当時は広野さんの采配に頼っていましたから、ディレクションのほとんどをお任せしていました。私はコンシューマゲームの開発が初めてだったということもあり、ナカシマさんも含めていろいろな方のお知恵を拝借しながら作っていた感じですね。
並木:ということは『GGアレスタ』は企画とグラフィック関係のお仕事のほうが中心なのですか?
小玉大合体:そうですね。仁井谷社長も「ディレクションは広野がやってくれるから」と言っていたので私もお任せしていたのですが、結局誰もやってくれなかったという(笑)。しかも、『GGアレスタ』が自社ブランドで発売されることも後から知ったぐらいで。
並木:荷が重いお仕事だったんですね。
小玉大合体:ええ。開発が進んでいる途中で、コンパイルとして初めて自社ブランドで出すゲームになると聞かされて「今更そんなことを言われても……」という気持ちになりました。
ナカシマ:ほとんど丸投げですね(笑)。
小玉大合体:そうです(笑)。コンパイルらしいといえばらしいですが。なので『GGアレスタ』はディレクションらしいことはほとんどしていません。ステージの流れを考えたり、ドット絵のグラフィックを描くほうが多かったと思います。
並木:グラフィックは小玉さんがお1人で描いていたんですか?
小玉大合体:はい。ドット絵担当は私1人でした。ボスのデザインはナカシマさんに手伝っていただきました。覚えていらっしゃいます?
ナカシマ:『GGアレスタ』を作っていた頃は、僕は社員ではなく外注のスタッフになっていましたが、うっすらと覚えています。そういえば『スプリガン mark2』を作っていた頃から、僕は外注スタッフでしたね。で、たまたまコンパイルに伺ったときに小玉さんに捕まって「アイデアをください」とお願いされました(笑)。
小玉大合体:そうでした。
ナカシマ:僕が出したアイデアのクセと、『武者アレスタ』が好きという小玉さんのクセがうまいこと噛み合ったからなのか、『GGアレスタ』は『武者アレスタ』感が強いですよね。
小玉大合体:渓谷のステージなんかは『武者アレスタ』まんまやんという感じですね(笑)。
ナカシマ:そうそう(笑)。渓谷があったり、谷があったりして、なるべくバラエティに富んだ感じを出そうとしていますよね。でも、主軸となる部分に『アレスタ』らしさがあるから、『GGアレスタ』もちゃんと『アレスタ』なんですよ。
小玉大合体:その後、テストプレイを重ねて開発の終盤になった頃にようやくディレクションっぽいことができるようになって、そこから自分の感覚が変わっていった部分もありますね。ゲームギアのスペックに制限があるのはわかっていたのですが、何しろコンシューマゲームの開発は初めてで、開発がかなり進んでからでないと、できることできないことの線引きがわからなかったんです。
ナカシマ:具体的にはどんなことですか?
小玉大合体:企画を渡された時点でハードのスペック表を見てはいたのですが、開発にあてられる期間が短くて「とりあえず始めてみて、怒られたら修正しよう」という考えでした。けっこう苦労したのは、液晶の残像がひどいことですね。
並木:グラフィックの仕様など示されたのはプログラマーのじぇみに広野さん(広野隆行氏)やアカベイさん(谷口行規氏)ですか?
小玉大合体:そうですね。谷口さんは大阪から来た方で、コンパイルで一時的に働いていたんです。『GGアレスタ』の開発中に初めてお会いした方だったんですよ。ゲームに「スペースコロニーを出そうと思うんです」といったら軽く「それならコロニー回そうか?」とか言うので「アクティブでいい人だな」と思ったことを覚えていますね。
ナカシマ:『GGアレスタ』の開発期間はどれぐらいでしたか?
小玉大合体:3~4カ月ぐらいなのですが、デバッグとかもろもろの作業も含めると半年ぐらいですかね。『GGアレスタ』も『GGアレスタII』も同じような開発期間でした。
並木:それなら『GGアレスタ3』とほぼ同じ期間ですね。
小玉大合体:そうですか。『GGアレスタ』のときは自社ブランドタイトルの第1弾という触れ込みがあったからか、広野さんが積極的にアドバイスをくれたので、物量があった割には半年でなんとか作れたという感じですね。忙しすぎて月日の移り変わりを意識できなかったですよ。
並木:わかるわー(笑)。
ナカシマ:そのあたりは令和の時代でも一緒ですよ(笑)。
並木:『GGアレスタ』と『GGアレスタII』の開発の時もそうだったと思うのですが、ゲームを作っている間はほとんどそのことだけしか考えられないんですよね。『GGアレスタ3』の時は、寝ても覚めてもゲームの内容についてずっと考えていましたから。
小玉大合体:そうですね。グラフィックの「この1ドットは残しておくべきか消すべきか」みたいな細かいことが夢に出てきたりします。キャラクターのパーツの一部の形が気に入らないけど、そこを納得してしまえばロムの容量を節約できるとか。
ナカシマ:夢に仕事のことが出てくるのはよくありますよね。作業が永遠に終わらない夢とか。
並木:お話をうかがっている感じだと、『GGアレスタ』は3作とも突貫工事で作られている気がしますね(笑)。
小玉大合体:そうですね。特に『GGアレスタ』は企画の立ち上げから絡んでいなかったので、なおさらそう思いますね。制作中も言われるままに作業していた部分もありますし、発売されて実際にゲームのパッケージを手に取るまで“ほかの人のプロジェクト”という感覚でした。
小玉氏が語る『GGアレスタ』『GGアレスタII』を開発していた頃のコンパイル
並木:確か『GGアレスタ』が発売された頃は、PCエンジンの『精霊戦士スプリガン』(1991年7月発売)の開発が終わっていたんですよね。
ナカシマ:そうですね。その頃はもう『スプリガン mark2』の開発が始まっていました。
並木:『スプリガン mark2』は発売が1992年の5月で、『GGアレスタ』は1991年の12月でした。
小玉大合体:『スプリガン』が終わってから『GGアレスタ』を作ったのでそうですね。コンパイルのシューティングゲームの開発ラインに私を引っ張り上げるために『GGアレスタ』を作らせたと。
その後、『スプリガン mark2』のキャラクターオーディションみたいなイベントがあったんですよ。それを担当してほしいと言われたのですが、その時に「まだ『GGアレスタ』の開発が終わらないの?」と聞かれたので、時系列としては正しいかと。
並木:なるほど。
小玉大合体:今考えると当時のコンパイルはまだまだ未熟で、開発のラインをちゃんと作って動かすということができていないですね。雑な感じがします(笑)。
ナカシマ:確かに雑でしたね(笑)。余裕がなくて、常に全員が何かしら作業をしている状態がずっと続いていましたし、手が少しでも空いた人から次のプロジェクトに組み込まれていくという。
並木:コンパイルさんは広野さんや藤島さん(藤島聡氏)たちがずっと一線で働いてきて、いろいろなプラットフォームの開発を手掛けるうちに新しい戦力が必要になったわけですよね。小玉さんをシューティングの開発ラインに入れたのもその流れだと思いますが、当時の小玉さんはおいくつでしたか?
小玉大合体:だいたい20か21歳ですね。高校の卒業時に、コンパイルの就職用再試験を受けに行っているんですよ。
ナカシマ:再試験というのは?
小玉大合体:実は高校の在学中にコンパイルの見学に行ったんです。そこで「ゲームの絵を描きたいんです」と言ったら、“もものきはうす”が作っていたディスクマガジンの初代編集長をしていた栗本さん と渡辺さん(渡辺孝行氏) に、「実際に絵を描いてみて」と言われたんです。
ところが、高校に通学中なので雇えないと言われてしまったと。で、卒業してから再度就職試験を受けて合格したんです。就職してからは“おヌード”の絵を描いていました。
ナカシマ:18歳でですか?
小玉大合体:そうですね(笑)。当時のパソコンゲーム業界はいろいろと緩くて、18歳以上がプレイできるゲームも意外と線引きがあいまいでしたね。
ナカシマ:それはダメだ(笑)。
並木:小玉さんと僕の年齢は近そうですね。僕は昭和46年生まれです。
小玉大合体:私もそうですよ。同級生でしたか(笑)。
並木:振り返ると、僕は大学受験に失敗して高校を卒業してから浪人をしていたのですが、浪人中にゲーム会社でドット絵を描くアルバイトを始めてしまったんです。会社や立場は違えど、同じようなタイミングで同じような働き方をしていましたね。
小玉大合体:そうですね。
並木:当時、小玉さんの周囲で働いていた方も同じような年齢だったのですか?
小玉大合体:若い人は多かったですね。
並木:作曲をしていた竹内さん(竹内啓史氏)も大学在学中にコンパイルで働いていて、大学卒業とともにお辞めになったんですよね。そのあと何十年もゲーム音楽から離れてしまったと。
小玉大合体:すごくいい曲をたくさん書いてくださったので惜しいですね。といっても、数回ぐらいしかお会いしたことがなかったですけれど。
並木:同じコンパイル社内でも、グラフィックと音楽のスタッフ同士ではあまり接点がなかったんでしょうか?
小玉大合体:竹内さんが大学の卒業を控えてお忙しかったのかもしれないです。あとは私がディレクションをしていなかったぶん、曲についてアレコレ言える立場ではなかったこともあります。曲については内容もディレクションもお任せしていたのは、コンパイルの諸先輩方に対して「根拠のない絶大な信頼をおいていた」からなんですね(笑)。
並木:効果音の制作は塚本さん (塚本雅信氏)が担当されていたんですよね?
小玉大合体:そうです。『GGアレスタ』と『II』の効果音を担当してくれました。当時はサウンドの迫田さん(迫田敏明氏)が辞めてスティングさんに行かれたので、塚本さんはサウンドの統括をされていました。サウンド制作部署のなかではわりとお話をした方で、「どんな曲にする?」とわざわざ聞きに来てくれたりしました。
並木:小玉さんは『GGアレスタII』の時はどうされていたんですか?
小玉大合体:『GGアレスタII』は『スプリガン mark2』が終わったあとに開発統括課長(当時)の谷田さんに制作を頼まれて、最初から私がディレクションを担当しました。なので、こういった曲が欲しいと紙に書いて塚本さんに渡しました。その後打ち合わせでサウンドの大矢さん(大矢知恵氏)と南さん(南智紀氏)と内容を詰めていきました。
並木:先ほどお話を聞くまで、『GGアレスタII』の効果音は塚本さんではなく南さんがやっていると思っていました。というのも『GGアレスタ』と『GGアレスタII』の分析をしているときに気づいたのですが、2つの作品に共通する効果音がほとんどないんですよ。なので担当者が違うのかなと思ったんですね。
小玉大合体:サウンドドライバーが変わったりしているのかもしれないですが、そのへんはちょっとわからないです。
並木:『GGアレスタ』から引き続き『GGアレスタII』を開発していたのは、小玉さんと塚本さんぐらいですか?
小玉大合体:そうですね。プログラマーは山下くん(山下巧氏)ですし。
並木:制作のタイミングとしては『電忍アレスタ』の前ですか?
小玉大合体:ええ。『電忍アレスタ』をやる前に山下くんの能力を開花させておきたいみたいな思惑もあったんじゃないですかね?
山下くんはおとなしい人なんですが、プログラムのことに関して意見が合わないと、他のプログラマーと取っ組み合いになりそうなぐらいに激しいケンカをしましたね。そういったこともあったんで『GGアレスタII』では自由にやってもらっていました。スタッフクレジットの企画に彼の名前があるのもそういった理由です。
並木:なるほど。
小玉大合体:たとえば、「3D画面風のボーナスステージなんて入れてみてはどうですか?」とか提案されましたから。
並木:あのボーナスステージはぜんぜん本編と関係なく始まりますよね(笑)。
小玉大合体:そうですね。ボーナスステージの内容を詰めているときも「画面の奥から大縄跳びをしている人たちが迫ってくるような感じで……」とか言って、「何を話してるんだ?」と驚きました。彼はアイデアの話をするときはだいたい「~みたいなのがあると楽しいですよね?」という部分が抜けていて、突拍子もないことを言っているように聞こえるんですよ。
並木:(笑)。
小玉大合体:座席が背中合わせだったこともあって、仕様書を作るよりも隣で話をしながら作っていきましたよ。
ナカシマ:結果的にボーナスステージは、広告の写真でキャッチーな絵になったからよかったんじゃないですかね。
小玉大合体:はい。制作中もほかのチームの人が遊びに来て、あのボーナスステージだけ遊んで帰るみたいなこともありましたし。でも、それを見て「けっこういけるかもしれない」という手ごたえは感じました。そのときはまだ、本編は見せられなかったですけどね。敵の硬さなども未調整でしたし。
敵が硬くなるのはシューティングゲーム開発の定め?
小玉大合体:シューティングを作っていると敵を硬くしてしまいがちなんですよ。最初の頃なんてナパーム弾を使っても全然倒せないバランスになっていて。
ナカシマ:ぜんぜんダメじゃないですか(笑)。
並木:『GGアレスタ3』を作っているときもそうだったのですが、まず敵の耐久力は高くしてしまいがちですよね。開発中は未完成なものが多いためか、謎のビビリというか”チキン力”みたいなものが働くんでしょう。開発中に何度も遊んでいると、何が硬いのかがだんだんわからなくなってくるんですよ。
小玉大合体:そうですね(笑)。
並木:とはいえ、最終的にはお客さんに遊んでいただくわけなので、調整をしなくちゃいけない。で、その段階になってようやく「なんでこんなに硬くしているんだ」とはっと気づくんです。
小玉大合体:開発途中でふと硬い敵だと気づいても、「あとで直せばいいか」と後回しにしちゃうんですよね。
ナカシマ:ええ。ところが、そのうちその難度に慣れてしまうんですよ。会社で一緒にプレイしながら意見を言い合っていると硬さに気づくんですが、今回は完全にリモートワークだったから、ほかの人のプレイの仕方がまるでわからないんです。その結果、正解がわからなくなりました。よく完成したなと思います(苦笑)。
並木:開発中の『GGアレスタ3』では敵キャラが多すぎて「『GGアレスタ』らしくないコッテリとしたシューティングになるから敵を間引いて」とか細かい調整が大変でした。アッサリ味にするための指示をスプレッドシートに細かく記入して、プログラマーさんに伝えたりとか。
ナカシマ:やりたいことを詰め込み過ぎました。
並木:もちろん、全部を詰め込むことはできなかったんですが、それでも普通のシューティングはこんなにアイデアを詰め込まないだろうというところまで入れていましたからね。そうなったのは、じっくりとアイデアを吟味している時間がなかったのも理由ですが。
そもそも『GGアレスタ』と『GGアレスタII』の時点で技術的にもハイレベルなことをやっていましたので、「それを下回るものは作れない」というプライドというか強迫観念みたいなものもありましたし。
ナカシマ:PS5が出る時代に”『アレスタ』風に作ったレトロゲームシリーズの最新作ですよ”と提示しても、お客さんは納得しないですよね。もっと突き抜けた何かがないと、作った側の僕らは大変な目に遭いますよ(笑)。
並木:インディーズでも良いシューティングゲームが出ていますし、過去の人気シューティングをリスペクトしたようなシューティングが海外からも配信されたりしている時代ですからね。プロである我々が作るものが、ゲームギアという制約はあっても、それらを下回る内容になるなんてことは許されないわけですよ。
ナカシマ:そうなんですよね。単なるノスタルジーを味わうゲームになってしまったらダメなんです。
『GGアレスタ3』開発のキーワードは「しれっとごまかす」。その真意は!?
――そもそもなんですが、ナカシマさんが『GGアレスタ3』のプロジェクトにアサインされたのはどういった経緯ですか?
ナカシマ:今年(2020年)の2月頃に並木さんからダイレクトメールで「ゲームギアでシューティングを作りませんか?」と声をかけてもらいました。ただ、最初はネタだと思っていたんですよ(笑)。2020年に何を言っているんだと。
なので、僕も「あー、わかりました『GGアレスタ3』ですね?」と軽いギャグで返信したのですが、ネタではなく本当のことだった(笑)。
並木:あの時僕は「ゲームギアでシューティングを作らないか」とお誘いしただけで、作るゲームのことは何も言っていなかったんですね。ところがいきなり正解を突き付けられたのでビビりました。エスパーかと。
小玉大合体:何か予感のようなものがあったんじゃないですか?
ナカシマ:あったのかもしれないですね。で、お声がけいただいてから作るゲームがわかったのですが、並木さんがディレクターをやるなら大丈夫だと考えて参加しました。ただ、その時点ではゲームギアのスペックに関してはそこまで深く考えていなかったんです。そのぶん、あとで苦労しました(笑)。
並木:ところで、ナカシマさんはコンパイル時代にゲームギアの開発にはかかわっていなかったのですか?
ナカシマ:『GGアレスタ』のアイデアを紙ベースで提供したぐらいですね。なので、使えるパレットが背景とキャラクター用の2本で16階調しかないとか、スプライトの表示能力が低くて左右反転ができないとか……そういう制約のなかでどう作るかを考えたときに「しれっとごまかす」ことをしていました。
並木:「しれっとごまかす」は開発中よく言ってましたよね。キーワードだったかもしれない(笑)。
――たとえばどういったごまかし方ですか?
ナカシマ:画面の書き換えをやるときに、消すことと書くことをほぼ同時に裏でやるとかですね。演劇で次のシーンのセットを用意している舞台裏のような。1人が舞台からはけて、もう1人が舞台に上がっているうちに、はけた人が着替えているとか。こういった処理は、ふあうさんがいなかったら本当に実現できなかったですね。
並木:ふあうさんは『スーパースターソルジャー』など多くのタイトルでプログラマーを担当された方ですが、現在もご趣味で既存のゲームをファミコンやセガ・マークIIIなどのロースペックなハードで動かすことに挑戦されているんですよ。小玉さんが先ほど“根拠のない絶大な信頼”というお話をされていましたが、まさにその信頼感がふあうさんにはあるんですよね。
――なるほど。
並木:その信頼感はナカシマさんやもう1人のグラフィック担当であるヤマカワさん(ヤマカワシンスケ氏)にもあるんですよ。冒頭でもちょっとお話ししましたけれど、”できるクリエイターの方に最大限挑戦してもらって、それでできたものをお客さんに遊んで喜んでもらうこと”が一番幸せなプロジェクトだと思うんです。
音楽は手前味噌ですが、今までアーケードとコンシューマでやってきたノウハウがありますし、今回もゲームギアの音源をフルに使ってよいものができたと思っています。
――精鋭がそろっているんですね。
並木:ただ、僕らがお願いしたアイデアが多過ぎたうえに、やや無茶な内容でしたから、ふあうさんにかかった負荷はとんでもないものだったと思います(笑)。
ナカシマ:最初にざっとしたステージ構成や企画書をお渡ししたときにも、ふあうさんから「この内容はアーケードゲームじゃないんですか?」と言われたんですよ。で、ドキっとしたんですが、「まぁ、できますけど」とおっしゃってくださったので、力強い方だなと(笑)。
並木:「ここのシーンは背景のドットの星を縦長にして流せるといいよねー」とか、つい僕とナカシマさんが言っちゃうんです。でもそれをお願いすると、ふあうさんのすでに積み上がっている仕事がさらに増えることになってしまう。お1人でプログラムを担当されていたから分担できる人もいなくて、「最悪、ダウンされてしまうんじゃないか」とすごく恐れていました。
でも、お客さんが喜ぶかなと思うと、そういう事情を知っていても、どうしてもお願いしちゃうんですよね……。
ナカシマ:実際に顔を合わせながら作っていれば、その場の空気を感じながら追加したりあきらめたり、というのができるのですが、リモートワークでしかも文字ベースだと、感情が見えないのでやり取りをしていてもツラいですよね。変に気を遣ってしまったりとか。ディレクターが一番大変だったと思いますよ。
技術だけではない、プロフェッショナルならではの開発スキルとは
並木:いえ、ナカシマさんは文字でのやり取りがすごくソフトでしたから。
ナカシマ:えー?(笑)
並木:ナカシマさんはすごくいろいろなことを気遣ってくださる方なんですよ。人と人との文字ベースのコミュニケーションって、SNSでもそうだと思うのですが、トゲトゲしくなってしまったりとか、「言葉の裏を読まないと」と思ってしまったりとか、しがちだと思うんです。でもそれで疑心暗鬼になってしまうのが一番よくないと思うんです。
開発現場もトゲトゲしくなりがちなのですが、だけどナカシマさんはそのことをよくわかってくださっていて、なおかつゴールとなる目的がハッキリわかっているので、そのための言葉選びが上手いんです。
ナカシマ:なんか新しい褒め方ですね(笑)。
並木:僕もナカシマさんのようにしたいと思うのですが、なかなかうまく行かなくて衝突してしまうこともありました。ディレクターなのに(苦笑)。
でも今回のプロジェクトは、みんなそれぞれの立場がありつつも「こういうことをしてお客さんに楽しんでもらいたい」という意志を共通して持っていて。だからみんな「こういうことをしたいと伝えるにはどのやり方が最善なのか?」と考えるところまでしてくれたと感じています。すごくプロフェッショナルなものの考え方が出来る人ばかりでした。
ただ上手い絵が描ける、音楽が書ける、それだけじゃなくて、チームワークがなめらかに機能していましたから。そういう意味でプロジェクトとしてはハッピーだったと思います。僕は「またこの次もこのチームでやりたい」と思えましたね。
ナカシマ:楽しかったよね。今回は少人数のプロジェクトだったのでリモートワークの働き方についてもいろいろ試せましたし、得るものもありましたね。ボスの動きや演出を伝えるときは、文字や絵だけでなく、簡単なアニメーションを作ってプログラマーに見せるとわかりやすいんだなと実感しました。
――小玉さんは当時制作環境に関して注意したことや心掛けたことはありましたか?
小玉大合体:『GGアレスタ』の時は私がお世話をされる側だったのですが、『GGアレスタII』のときはプログラマーの山下くんの健康管理とかに気を使いました(笑)。
ナカシマ:健康管理?
小玉大合体:一部、先ほどの繰り返しになっちゃうんですけど、山下くんは基本的にはおとなしい人なんです。でもプログラムに対するこだわりや集中力がすごくて、プログラミングを始めるとずっと続けてしまって会社から帰らなくなったり、コードについて議論が白熱した結果、取っ組み合いのケンカになりそうになったり……言ってしまえば、”暴走“することもあったんですね。
その時は山下くんと初めて組んだので、そういう人だということがわかっていなかったんです。
並木:ところで『GGアレスタ』の時はグラフィック担当は小玉さんだけでしたが、『GGアレスタII』の時はスタッフが増えたんですか?
小玉大合体:いえ1人でした(笑)。ほかの人に助けてもらった部分はあるものの、コアメンバーは2人でしたから。
並木:確かにそうなるとマネージメントの中心は山下くんのお世話になってしまいますよね(笑)。先ほどお話に出た3Dのボーナスステージは、山下くんの暴走の結果なんですか?
小玉大合体:いえ、そんな感じでもないですよ。山下くんに「今までと同じようなものを作っても仕方がないからアイデアがあったら何か言ってね?」と話してから出てきたアイデアです。
並木:暴走させるのではなくて、暴走をコントロールすると。“Gストライク”もそんな暴走から生まれたアイデアですか?
小玉大合体:そうです。
並木:そもそも山下くんはそんなに暴走する人でしたっけ?
小玉大合体:プログラムに関しては暴走しますね。
並木:昔どなたかから、「山下くんを暴走させたままにしていたら、ボーナスステージをずっと作り続けていたかもしれない」というお話を聞きました。
小玉大合体:そのまま突き進んで『G-LOC』みたいなゲームが完成していたかもしれません(笑)。
並木:ディレクターとしてはひやひやしますよね。本編の開発がおろそかになりやしないかと。
まさかのデータ容量半減に泣いた『GGアレスタII』のウラ話
小玉大合体:まぁ、どちらかと言えば開発途中でロムの容量を半分にされたことのほうが肝が冷えましたよ。何しろ4メガビットから2メガビットに半減ですから。
ナカシマ:ひどいですね(笑)。
小玉大合体:その影響でザコのバリエーションがあまりなかったり、ボスキャラのやられた時のパターンが一部機能していなかったりするんですよ……。あとは、コンシューマゲームですから、もうちょっとアリスの絵を出したかったですね。
並木:なるほど。2メガと言えば、『GGアレスタ』も2メガですよね。続編なのに容量が変わらなかったんですね……。
小玉大合体:最初の頃はキャラクターの1枚絵をたくさん入れる気でいたんですよ。でも1枚絵はとにかく容量を食うんですよね。オープニングも泣く泣くカットしました。
ナカシマ:作っていたデータを削る作業も発生したの?
小玉大合体:わりと早めに発覚したので、そこまで削る作業は発生しませんでした。2~3面作った頃ぐらいですかね。それを聞いて「え?」って(苦笑)。やりたいことができなかった、という意味では悔いは残りますが、山下くんと僕の奇跡のコンビネーションで、なんとか面白いものができた、という感じです。
『GGアレスタII』で、知る人ぞ知る『アレスタ』ではなくて、もっと『アレスタ』をみんなに知ってもらいたいと思っていたんです。そこで当時参考にしていたのが、日本テレネット(RIOT)のゲームギア用アクションゲームの『グリフォン』です。あのゲームは女性キャラの1枚絵がけっこう出てくるんですよ。
それで「よし、うちも1枚絵いっぱい入れるぞー!」って思っていたんですが……。
(ここでインタビューに同席いただいていたエムツー広報の駒林氏が、小玉大合体氏から出た『グリフォン』という単語に反応!)
駒林:じつは僕、『GGアレスタ3』のパッケージイラストが上がったとき、描いていただいた高山箕犀さんに「いやーこのイラストは『グリフォン』を越える、全ゲームギアのパッケージの中で最もエッチなパッケージですよ!」って思わず言ってしまったんです。
小玉大合体:それは間違いないですよ(笑)。
駒林:でも、褒め言葉のつもりで思わず出た言葉だったのですが、高山さんにちゃんと伝わっていたのかな……(苦笑)。すみません、話に割って入ってしまいました。
並木:『グリフォン』というのは今はじめて知りましたが、戦車と女の子が出てくるゲームなんですね。スーツの露出度がけっこう高い。
小玉大合体:そうです、そうです。『グリフォン』を見たときに、「やりやがったな!」と思いつつも、「あぁ、これかぁー!」と間違ったひらめきを得てしまったんですね(笑)。
まぁ、そういう計画は容量の問題ですべてボツになりました。ボスキャラとギャルの1枚絵、どちらを優先するかと言われたら、ボスですからね。ボスや背景が芝居をしてこそ、シューティングゲームですから、そこは涙をのんで諦めて(苦笑)。
でも『GGアレスタII』は山下くんというスパイスも加わったので、ゲームとしての完成度という点では上げることができたなと思っています。
並木:なぜ『GGアレスタII』がああいう形になったのか、こうしてお話を聞くことでわかってきました。『GGアレスタ』と『GGアレスタII』を分析したときに、『GGアレスタ』は16×16ドットのサイズのスプライトを使ったザコ敵のバリエーションが多かったんです。
だけど『GGアレスタII』になるとサインカーブを描いて飛んでくる共通のザコが多くて、見た目のバリエーションも少なくなっていたんですよね。
小玉大合体:そのぶん、『GGアレスタII』はボスのサイズアップに容量を使っていますね。そういう割り切った作り方をしたので、3~4カ月ぐらいで完成したのかもしれません。容量がなければ、山下くんも暴走のしようがないですし(笑)。
並木:制約のあるハードでの開発だと、そういう取捨選択の積み重ねがゲームを形づくりますね。
小玉大合体:私の場合は『GGアレスタ』を開発する前にMSXで開発をしていたので、それほどスペック差を意識せずに済んだのかもしれないです。たとえばメガドライブの開発をしたあとにゲームギアに移ったら、その差に窮屈さを感じたかもしれません。
――このほか、なにかお互いにお聞きしたいことはありますか?
ナカシマ:小玉さんにお聞きしたいんですが、『GGアレスタII』の敵弾が赤や緑色なのはなぜですか?
小玉大合体:あれは視認性を上げるためですね。山下くんのほうからも提案があって、実験してみたところよさそうだったので採用しました。
ナカシマ:あれは見たことのない弾の大きさと色だったから視認性を意識したのかなとは思っていましたけれど、やっぱりそうだったんですね。最初は小玉さんが『R-TYPE LEO』が好きだと言っていたんでその影響かと思いました。
小玉大合体:(笑)。やっぱり液晶の残像がひどかったので、視認性を上げることを優先した結果ですね。
ナカシマ:小玉さんから『GGアレスタ3』について聞きたいことはありませんか?
小玉大合体:ロムの容量は何メガビットなんですか?
並木:8メガビットですね。『GGアレスタ』と『GGアレスタII』の4倍ですが、当時は8メガビットのロムを使ったゲームは『バーチャファイターMini』などのごく一部しかないそうですね。
小玉大合体:潤沢な容量でうらやましい限りです(笑)。
並木氏が語る少人数開発のポイント
――今作で並木さんがされたように、ディレクターが複数の役割を兼ねる場合、開発の効率は良くなるのでしょうか?
並木:僕の場合、普段はサウンドの制作を担当するわけですが、今作ではそれに加え、企画とディレクションも担当していますよね。正直に言うと全体としての効率はあまりよくないと思っていますが、部分的にはよいところもあって、一長一短ですかね。
――よい部分はどんなところですか?
並木:たとえば僕以外の方にディレクターの僕が作曲を依頼するとしたら、作って欲しい曲の要望や制作する上での制約などを全部説明する必要があるわけですよね。ところが、今作はディレクターとサウンド担当が自分ですから、説明が省けてラクなんですよ。ただ、そのぶん自分1人でずっと考え続けなければならないんですけどね。
――1人で完結するからコミュニケーションコストが少なくて済むと。
並木:そうですね。特に僕の場合は、誰かに頼むよりも自分でやってしまったほうが早いと考えてしまう気があるんですよ。
小玉大合体:あぁー(笑)。
並木:依頼する内容が自分でできることだと、なおさらそう思ってしまうんですよね。しかも、今作はコストを掛けられないという問題もありましたので。
――なるほど。
並木:誰かといっしょにトライアル&エラーをすると、少なからず相手を巻き込むことになりますよね。しかもそれを繰り返しても答えがなかなか出ない場合もあります。試行錯誤の回数が増えるほど、時間もコストもかかるわけです。
本作は開発期間も限られていたので、急ピッチで開発を進める必要がありました。すると、試行錯誤に誰かを巻き込むわけには、なおさらいかないんですよね。でも、それは、ゲーム開発において避けてはならない、絶対に必要な工程です。なので今回は、まず自分の頭の中でトライアル&エラーを行い、その結果を踏まえて相手にリクエストを投げる形で進めました。
それが顕著なのは、先ほどお話に挙がった敵の硬さ・挙動・配置といった敵設定です。マップのレイアウトもそうですね。僕がまず1人で考えてから提案しています。なるべくプログラマーさんを試行錯誤に巻き込まないようにした分、ふあうさんの負担も減らせていると思います。
――3役をこなせたのはプロだからこそなんでしょうか。
並木:それはあるかもしれません。
――シューティングゲームの制作現場はいつも人数が少ないように思うのですが、これは当たり前なんでしょうか?
並木:昔はプログラマーさんが1人でゲームを作っていた時代もありましたけれど、グラフィックやサウンドの機能の向上、使える容量の増加に伴い人が増えていった印象ですね。
とはいえ『GGアレスタ3』は8メガ規模のシューティングですが、基礎的なシステムは小玉さんのときのように、1~2人で担当していますよね。このあたりがギリギリ制作の成り立つ人数で、少ないことには変わりないかもしれません。
――たとえばインディーズゲームでも少人数で作られることが多いですが、制作に関してプロの立場からアドバイスできることはありますか?
並木:これは難しいですね。同じ少人数のゲーム制作でも、インディーズとプロの最大の違いは、インディーズのほうが制作時間をかけられる点なんですよ。
たとえばサラリーマンよりも学生さんのほうが、自由にできる時間が多い分制作時間をかけられるので有利です。一方、僕らプロはそういうことができないので、何で勝負をするかといえば、決断力の速さや明確な決断内容、あとは現場で経験した成功や失敗から獲得したノウハウですね。
――なるほど。
並木:インディーズゲームのクリエイターさんのなかには、作りたいゲームの明確なイメージを持っていても、例えばグラフィックやサウンド担当が足りなくてなかなか完成させられないといった場合があると思うんですよ。でも、一方でそうした壁を乗り越えられる人もいるんですよね。『UNDERTALE』のトビー・フォックスさんみたいに。
壁が技術的なことでも、本人にどうしても完成させたいという強い意志があると、意外と乗り越えられるものなんですよ。また、そういうことができる人は強いと思うんですね。
――確かにマルチな才能を発揮されている方は一生懸命勉強されている方も多いですね。
並木:僕も本職は音楽関係でしたから、企画を考えた経験はあまりないんですよ。それでも、企画担当をやることを厭わないぐらいビデオゲームやシューティングゲームが好きなので、それが強い原動力になっていますね。その結果、ゲーム制作上の役割分担を超えることができるんです。
――今回のプロジェクトは並木さんの中で点数をつけるとすれば、何点ぐらいになりますか?
並木:あくまで僕個人の、ディレクターとしての感覚でいうと、200点ですね。この鼎談はゲーム発売前に行っているため、まだ皆さんのお手元にゲームが届いていませんので、それを待って採点とするべきとも思いますが。
現時点では開発のコアメンバーではない、たとえばイラストを描いてくださった高山さんやエムツーの堀井さんたちから、ありがたいことにとてもよい評価をいただけているんです。自分達のやりたかったことをやって、それだけの高評価をいただけたのは、やっぱりありがたいし、うれしいし、自己評価にも結びつきますね。
あとは、プレイヤーの皆さんが遊んでいただいた結果、「またこのチームの新作を遊びたい!」とおっしゃっていただけるのであれば、これほどありがたいことはないですね。
令和の時代にシューティングゲームの多彩な魅力を求めて
並木:小玉さんもこの辺りでゲーム制作に復帰してみてはいかがですか?
小玉大合体:お声がけがあれば時間は作りますよ(笑)。
ナカシマ:また戦場に戻ってくるんだな?(笑)
小玉大合体:老兵もいいところですよ(笑)。ゲーム業界から離れてもう20年で、ブランクが長いですから……。
並木:ブランクと言えばナカシマさんもけっこうゲーム制作から離れていた時期があったと思うのですが、でもそれはまったく感じませんでした。
ナカシマ:やった、またディレクターに褒められた(笑)。でも自分の場合はゲーム会社をやめて15年ぐらい経ちますけど、じつはイラストレーター的な仕事をやりつつ、ちょこちょこゲーム制作には関わっているんですよ。意外とドット絵も描いていたり。
ガチンコでゲーム制作に関わったのは久しぶりでしたけど、そこまでブランクは感じませんでした。でもゲーム制作の経験値って、ブランクがあるとダメになってしまうものではなくて、どちらかというとカンを取り戻すという感覚に近いと思いますけどね。
並木:そうですね。勘所が抑えられていれば、あまりブランクは関係ないと思います。
ナカシマ:若い頃みたいな必死さの代わりに、物事を俯瞰して見ることができるようになってもいますしね。好きだったら大丈夫、ってことかな?(笑)
小玉大合体:自分の場合、ドットを打つとしてもまずツールの選定からですよ(笑)。
ナカシマ:ツールねぇ。フリーソフトだよ(笑)。
小玉大合体:なかなか腰が上がらないんですよね。
ナカシマ:漠然とドットを打つのはなかなか難しいよね。やっぱりゲームに組み込んで機能して、はじめてやってる感が出てくると言うか、実感が出てくるので。
小玉大合体:何も予定がないのに光る弾を打つのは、なかなかむなしいですよ(笑)。
ナカシマ:自機の傾ぎパターンを延々と作ったり(笑)。
小玉大合体:ああ、自機を打ったらとりあえず傾ぎパターンは作りますよね(笑)。
ナカシマ:自機を打ったら、とりあえず傾がせてしまう(笑)
並木:ツイッターを見ていると、今の若い子たちもドット絵が好きな人はいるみたいですね。当時とはまったく違う描き方をしてる子たちもいます。
小玉大合体:ドットにどう触れてきたのかにも寄ると思いますが、イラストのトレンドも変化しているので、ドットの打ち方も近代的と言うか、令和的なものになっているんじゃないですかね? そんななか、『GGアレスタ3』は遊んでいて凄く興奮しましたよ。
ナカシマ:こ、興奮……? そうか、小玉くんを興奮させたかぁ。
並木:やった、実績解除!(笑)
小玉大合体:久しぶりの”ナカシマゲー”が見れましたし。
ナカシマ:そんなゲームはない(笑)。
小玉大合体・並木:ありますよ!
小玉大合体:”外山(外山雄一氏)ゲー”と並んで”ナカシマゲー”はありますよ(笑)。
ナカシマ:でも個人で作られているシューティングって、インディーズもそうですけど、刺激的ですよね。『GGアレスタ3』を作る前に、個人制作のシューティングとかもけっこう見て意識はしましたけど、そうするとけっこうプレッシャーなんですよね(笑)。やっぱり『デビルブレイド』ですよ。
並木:ああ、シガタケさんの。
ナカシマ:こういうものが個人で作られているとなると、手は抜けないと言うか、「これを越えていかねば」と思いますよね(笑)。まぁそのあとルール無用のものまで、いろいろと見て……見すぎた結果、こういうゲームになったのかもしれない(苦笑)。みんな自由なんだもん!
小玉大合体:みんな縛りがないから、やりたいことをやってますよね。だからさっき、並木さんもおっしゃっていたことですが、終わらないんだと思います。いい方向で着地点がないと言うか、決断力がないというか(笑)。「これが完成するんだったら、すごいものが出来るだろうなぁ」と感じるものはありますね。
ナカシマ:でも完成させる人は完成させるよ。すごい。
並木:シューティングゲームは人それぞれこだわりポイントが違うし、それを感じやすいジャンルですよね。
ナカシマ:男の子の好きなものを込めやすいジャンルなのかも(笑)。
並木:こだわりが込もっているゲームを見ると、うれしくなるんですよ。
小玉大合体:テキストがなくても伝わるものがあるシューティングゲームはやっぱり興奮しますよね。
並木:ケイブさんのシューティングゲームで弾幕がメジャーになってから、弾幕じゃないシューティングゲームはけっこう見過ごされて来たようにも思うのですが、今回の『GGアレスタ3』でもう一度そこにスポットを当てられたのはよかったかなと思います。
ナカシマ:バリシューですね。
並木:バリシューの復権……みたいなことは開発中まったく考えていなくて、結果論ですが(苦笑)。
ナカシマ:いろんなシューティングゲームがあってもいいと思うんですよ。はにわが主人公のシューティングゲームとか、もっとあってほしいんだよね(笑)。
並木:そうそう(笑)。間口や幅の広さみたいなものは、シューティングゲームというジャンルがもともと持っていた魅力だと思うのですが、なくなっちゃったんですよね。でもそういうのを、僕らはなんとなく楽しいと思っていて。もう一度そういう要素を味わってほしい、みたいなことは、開発中思っていましたよね。
ナカシマ:そうですね。
並木:バーっと敵が花火のように弾を出してきて、それをかいくぐるシューティングって、もう世の中にたくさんあるし、じゃあ僕たちが改めて作る必要もないし、そもそもゲームギアじゃそういうことできないし(笑)。
小玉大合体:チラつくチラつく(笑)。
並木:時代を逆行させたいということではないのですが、いろんな味を提供したいですよね。
ナカシマ:ですなぁ。
俺たちのシューティングゲームにかける熱意を食らえ!!
――最後にこの記事を読んでくださった方に対してコメントをお願いします。
ナカシマ:じつは2020年12月20日は『武者アレスタ』の発売30周年なんです。そのタイミングで再び『アレスタ』シリーズの1本を発売できるのは、格好よく言うなら“運命的”だと思うんですよ。別の言い方をするなら“因縁”を感じます(笑)。
実は『武者アレスタ』を作ったあとも、いっしょに作ったスタッフとの縁も含めて、当時からいろいろとつながっていまして、『武者アレスタ』が好きという方と友達になったりもしたんですよ。
なので『アレスタコレクション』を発売してくれたエムツーさんや『GGアレスタ3』の制作に誘ってくれた並木さんには感謝しています。あとは本作を遊んでくれた人から「こんなに熱量を持って作り込んで、おバカだな」と思ってもらえたら幸せです。
小玉大合体:私の立場としては、さしずめ“過去からの刺客”といったところですが(笑)、何十年も前に作った作品が現代に蘇って、多くの方に遊んでいただけるのはうれしいです。過去の『アレスタ』作品を通じて当時スタッフがゲームに込めた熱量を感じていただき、そして驚きに満ちた『GGアレスタ3』をぜひお楽しみいただければと思います。
並木:制作者の我々が言葉で説明するつもりはあまりなくて、実際にゲームをプレイいただいて、楽しんだり何かを感じていただければと思っています。お客さんに押しつけたくないという思いから、物語もゲーム中では説明していませんし、想像の余地を埋めるように自由な解釈で楽しんでほしいですね。
できればまたこのチームで新作を作りたいと思っていますので、もし『GGアレスタ3』を遊んでいただいて、このチームの新作を遊びたいと感じていただけたのならば、エムツーさんに伝えていただいたり、SNSに投稿していただきたいなと思っています。それだけ気持ちを込めた作品です。今は「俺たちのパンチやキックを食らいやがれ!」という気持ちでいます。
ナカシマ:「初老のパンチを食らいやがれ!」と(笑)。
並木:加齢臭キック!
ナカシマ:五十肩パンチ!
小玉大合体:フィフス・ショルダー・パンチ(笑)。
並木:そんな感じですよね(笑)。
――本日は長時間のお話、本当にありがとうございました!
©SEGA ©2020 M2 Co., Ltd.
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