電撃文庫『統京作戦』渋谷瑞也先生にインタビュー。「『統京』はとにかく自分の限界に挑んだ話」

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 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、『統京作戦〈トウキョウフィクション〉 Mission://Rip_Van_Winkle』を執筆した渋谷瑞也先生のインタビューを掲載します。

  • ▲本作の表紙イラスト(イラスト:PAN:D先生)

 本作は、500年後の未来からやってきた“改変者”零と、500年前の過去から来た“くノ一”澪が、偽りの兄妹となって世界の破滅を阻止する超時空スパイフィクションです。

 インタビューでは、タイトルにもあるように渋谷先生が本作を書く上で一番大事にしたものや、企画が通るまでは順調だったという本作が世に出るまでに苦労したポイントなどを実感たっぷりに語っていただきました。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 “『つるぎのかなた』で学んだ技術をアップデートできるものを作りたい”、“疑似家族ものをやりたい”という欲求がまずあり、どうにか両立できないかな? と『つるぎ』の3巻を書き終えたぐらいのタイミングで考えていました。そんな折、担当編集さんとのチャット雑談が「スパイものとかどうですかね」という風に転がっていきまして。

 持ち帰り検討してみると、この題材こそまさに求めていた条件を完璧に満たすものだと気付きました。スパイなんだから当然オモテの顔とウラの顔がある。日常はオモテでやればいいし、バトルもウラでやればいい。青春でありバトルの亜流である前作の技術が使えそうだ。何より“正反対の性質のキャラ二人作ってぶつける”というスポーツものの定石は、スパイでは“オモテ面・ウラ面として一キャラにマージする”という風に変化できそうだぞ? なら後は疑似家族をうまいことハメればフックになるかな……?

 などなど、こういう風に順番に考えて企画を出すと、割とあっさり通りました。

 ……通るところまでは順調だったんです。本当に(遠い目)。

――作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 “未来から過去を変えにやってくる主人公”は割とよくある設定ですが、それが“過去からやって来たヒロイン”と手を組んで『現在』を攻略する、という図式はありそうでなかったので、そこは特徴としてあると思います。また、くノ一も美味しい属性なのですが、メインヒロインとなるとあんまり類例がない。タグとしてはこの二つが特徴ですね。

 セールスポイントとしては、もちろんアクションもあるけどそれだけじゃないこと。

 壮大な設定こそありますが、結局このお話は“教師として問題児の進路に向き合う話”であり“不器用な二人が互いに手を取り合って『家族』になっていく話”です。

 結局人間ドラマが一番やりたいんだな、と書き終えた今一番思ってます。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 これは間違いなく、自分の脳内で敵方を有能に想定しすぎたところです。

 「敵もスパイなんだから当然合理的な行動を取ってくるだろう、だったら主人公たちのこの行動一つからこういう情報を読み込んで、こういう手を打ってきて……あれ、詰むな……?」

 みたいに、勝手に脳内詰め将棋をして展開のダメ出しをしすぎました。お陰様で80万字ほどセルフボツを出しました。こういうデータを投入した場合、この機能設計は耐えうるか? みたいなことを考えてしまうSEの職業病みたいなもんなんでしょう。

 結局この無限に襲いかかってくる「ウルトラマンはなぜ登場即スペシウム光線を撃たないのか?」みたいな合理的行動問題は、文字通り『無限』を司る存在がウラで処理しているから好都合になる、というロジックを組んで相殺できたことにしました。

 「絶対読者さんそこまで考えてないって」みたいなことで悩む悪例中の悪例だと思いますので、これを読んでいる人に作り手側の方がいましたら、反面教師にしてください。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 企画が通ったのが2020年の1月で、ボロッボロの支離滅裂初稿が上がったのが6月頃。初稿に五ヶ月もかかりました。夏の間は担当さんに預けて、『つるぎのかなた』最終巻を書き終えて、9月から再着手したものの、気に入らないのでまたイチから書き直して、12月頭に入稿してもまだラストまで出来てないやばい……みたいなことを繰り返していて。

 結局完全にできあがったと言えるのは、2021年の1月ぐらい。

 企画通ってから、一年ぐらい延々と書き直してたことになります。

 控えめに言って二度と経験したくない地獄でした。正直、どうやってこの話書き上げたのか自分でも覚えてないです。再現性ないって技術者としてどうなんだ……。

――執筆中のエピソードはありますか?

 紙面で言えないことなら沢山ありましたが、すみません書けないです☆

――本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 ヒロイン兼主人公の澪は、生まれた経緯がちょっとだけ特殊です。

 担当さんにも話したことないのですが、企画書を上げる前は、教室に東西陣営のスパイヒロインが一人ずつ潜んでいて、主人公はその二重スパイとして関係構築するダブルヒロインの図式もどうかな? とか検討してました。主人公は実はどっちの陣営でもなく、滅びた未来から遡ってきてて戦争回避が使命……みたいな。

 まあラブコメとして三角関係を推すならこれでもいいけど、それはやりたいことからズレるしなんかやだなあ(どっちにも心中明かせないし……)なんて考えてたら、友人から連絡が来まして。

 その友人と言うのが、大学時代に仲が良かった韓国人の女の子でした。彼女は大学二年次に休学して国に帰っていたのですが、このたび復学すると言うんですね。でも当然私とか同級生はもう働いていて、当時とは大学回りの景色も変わっていて……。

 「なんか私だけ過去からやって来たみたいだね」と彼女が言うので、ああそれウラシマ効果だね………………あれ? これ使えるのでは!? 過去! 未来の逆……バディ! 日本のスパイ……過去……忍者! くノ一! 来た!!!!

 みたいに閃きが連鎖して、今のお話の型、引いては澪が誕生しました。サブタイトルの“リップヴァンウィンクル”もこの瞬間決まっています。

 余談ですが、四カ国語話せる彼女には作中会話で出てくる中国語も訳してもらいました。発売後、美味しいモノをごちそうしました。本当にありがとう。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 終盤は全部好きなのですが、ネタバレになるので回避するとして……。

 それ以外だと、個人的にはアーシャが澪を追い詰めていく章が好きです。

 今まで書いてきた中で一番えぐい詰め方する女を書いてしまったな、と思ったので。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 『統京』はとにかく自分の限界に挑んだ話だったので(本当に心身ボロボロです)、次は等身大の自分で創れるものを書いてみたいなーと思っていて、実際いくつか製造フェーズに入っています。

 1年間『統京』に挑んで完成させられたことで得られた経験値って、自分の体感では凄まじいものがあり(メタルキング複数体同時に倒した感じ)、この力で次を書いたらどうなるのか凄くワクワクしています。

 あとは個人的なことですが、『統京作戦』や『つるぎのかなた』で作ったキャラたちで気兼ねなく遊べる場を作りたいなあって欲求がありまして、パラレル世界の彼ら彼女らで遊べる世界をどこかのタイミングで作ろうかなーって思ってます。

 ただ現状、手が足りません……。時空影分身したいです。

――小説を書く時に、特にこだわっているところは?

 1周目2周目というスケールもそうですし、小ネタとして仕込んでいるオマージュ類もそうですが、観測する人によって解像度が変わり、年を取って読み返すごとに面白いと感じる部分が変わるお話を書けたらなあと思ってます。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 シーンが終わったら、字数を何字書いたら、ではなく、短期集中で時間を測って作業を区切っています。キリのいいところまでを作業単位にすると、だらだら考えている時間が長くなるし、次書き始めるまでの立ち上がりが遅くなります。

 決まった時間でどこまで進めるかを自分に課すこと、中途半端なところで執筆を区切って、早く書くのを再開したいと自分を思い込ませることがコツかなと思ってます。

 この仕事は好きだけど、書くのは面倒くさいので……。ずっとゲームしてたい。

――学生時代に影響を受けた人物・作品は?

 特定のこれという方はいないです(色んなものに広く浅く影響を受けるタイプなので)。ただ学生時代は、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、森見登美彦さん、田中ロミオさん、日本橋ヨヲコさん、冬目景さん、石黒正数さん辺りの著作をよく読んでいた気がします。

 よそで答えているのと違いがあったらすみません。

――今現在注目している作家・作品は?

 マイブームは連城三紀彦さんです。文章が美しすぎるのにあのトリッキーな話作りは一体何なんでしょう。凄すぎる。もう亡くなられていると知り、本当に悲しいです。

――その他に今熱中しているものはありますか?

 今は無いです……。この一年、『統京』にプライベートを食い尽くされてしまい。

 なので2021年は新たに熱中するものを見つけたいです。

 今のところ候補はギターが挙がっています。ドラムはもうやれるので他がいい。

――最近熱中しているゲームはありますか?

 『SEKIRO』をアップデートパッチが当たってからまたプレイしています。

 好きが高じて作品にもちょっと潜ませてしまいました。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 今までもこれからも、変わらない熱量で活動していきます。まずは『統京作戦〈トウキョウフィクション〉』、よろしくお願いします!

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