電撃小説大賞《銀賞》『インフルエンス・インシデント』のキーパーソンが“女装男子”になったワケ

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 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、第27回電撃小説大賞《銀賞》受賞作『インフルエンス・インシデント Case:01 男の娘配信者・神村まゆの場合』を執筆した駿馬京先生のインタビューを掲載します。

  • ▲本作の表紙イラスト(イラスト:竹花ノート先生)

 本作は、山吹大学社会学部“白鷺ゼミ”の女教授“白鷺玲華”と女子大生“姉崎ひまり”が、人気女装配信者“中村真雪”に降りかかるインターネットを起点とした事件に立ち向かう新感覚ミステリーです。

あらすじ:SNSの事件、山吹大学社会学部『白鷺ゼミ』が解決します!(多分)

 人気女装配信者“神村まゆ”として活動する男子高校生“中村真雪”は、ある日SNSを悪用したストーカー被害に遭ってしまう。

 そこに手を差し伸べたのは、優秀だがエキセントリックな大学教授“白鷺玲華”と助手をつとめる女子大生“姉崎ひまり”だった。

 「お願いします。僕を守っていただけませんか」
 「任せて。お姉ちゃんたちが助けてあげるから!」
 「まずSNSの原理である『六次の隔たり』の考え方に基つけば――」
 「教授ストップストップ!」
 「……あ、あの。そもそも、なぜ僕はひまりさんの膝の上にずっと乗せられているんでしょうか?」

 女教授と女子大生と女装男子(インフルエンサー)が、インターネットを起点としたさまざまな事件(インシデント)に立ち向かう!

 インタビューでは、駿馬先生が本作を書いたキッカケや、キャラクターたちが生まれた経緯、好きなものについて語ってくださいました。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 “社会的に関心の高そうなもの”を“自分の得意分野”という切り口から取り上げた作品をひとつ作ってみよう、と思い立ったからです。

 余談ですが、第27回の電撃小説大賞には合計3作品応募していたんですけれど、選考を攻略するためにいろいろな観点から違う切り口の小説を書いてみました。ひとつは“自分の性癖をすべて突っ込んだヤバい小説”、ひとつは“不屈の主人公と挫折を味わったヒロインを主体とする王道のスポーツもの”、そして最終的に結果に結びついたのが上述した思考に基づいた『インフルエンス・インシデント』です。切り口をたくさん作るよう心がけておいてよかったです。

――作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 僕は『インフルエンス・インシデント』の筆者ではありますが、この著作については“ジャンル”を定義するつもりはありません。選考の段階で、この作品を“ミステリ”として読んでくださった方がおられれば、その一方で“ラブコメ”として捉えてくださった方もおられました。“おいしい部分”を読者さんの頭で好きなように解釈していただけるような、いろんな味が楽しめる作品になったのではないかと思います。

 こうして書物になったことで“竹花ノート先生の素敵なイラスト”、“デザイナーさんによるかっこいい装丁”という新しい味も付けていただけました。ぜひ一度ご賞味ください。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 『インフルエンス・インシデント』の受賞時原稿は出版されているものと内容がやや異なるので“この部分”と明確に指定しづらいんですけれど、クライマックスへの展開部分をどう膨らませればいいのかと少し手が止まって、起承転結の“転結”部分のプロットを5パターンくらい分岐させて考えていました。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 実際に筆を進めていたのは2カ月半です。ただ、『インフルエンス・インシデント』は一度2019年の春に2カ月使って初稿を完成させたものを丸一年寝かせてから半月ほど改稿作業をおこなったので、実質的には“一年と2カ月半”かもしれません。

――執筆中のエピソードはありますか?

 特にないですね……2019年の1月に「そろそろ生活基盤も安定してきたし、新しいことにチャレンジするか」と執筆に向き合うことを決めてから、平日は仕事して自宅に帰ってシャワー浴びてメシ食って原稿に向かう、オフの日は大音量で音楽を聴きながら競馬のレース映像や血統表を眺めつつ原稿やる、みたいなサイクルを繰り返していた記憶しかありません。たまに遊びに出かけていたけれど、それにしても無機質な生活すぎる。

――本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 経緯について記します。

 キーパーソンたるインフルエンサーを“女装男子”にしたのはただの性癖です。その魅力を補強するために“彼を全肯定する年上のお姉さん”と“登場人物と読者に知見を与え、ストーリーを円滑に進めてくれる有識者”という柱を立てました。

 またキャラクター設定について“〇〇なのに実は▲▲な◎◎”という“ギャップ”が肝要だと持論を持っているので、立てた柱に“男なのに女より女らしいインフルエンサー(かわいい)”、“ゆるふわ系っぽい見た目なのにめちゃくちゃパワフルな女子大生”、“すごく頭がいいのに私生活は超だらしない女教授”といった調子で肉付けしていきました。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 “死んだ”の名前の由来と目的が判明するところです。ネタバレになるのでこれ以上は伏せます。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 次作の執筆に取り掛かっています。もちろんいまの仕事を続けながら。

――小説を書く時に、特にこだわっているところは?

 原稿にとりかかる前にテーマを策定し、これをブレイクダウンしていくつか“ルール”をつくることです。だ・である(です・ます)と体言止めを交互に使う、モブキャラのセリフの文字数を揃える、作中で人間を殺さない、などがこれにあたります。『インフルエンス・インシデント』の中にも先述したものとは異なる“こだわり”を込めているので、興味の湧いた方はぜひ探してみてください。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 目的もなく夕方くらいにフラッと外に出て、電車に乗って、行き先も考えずに適当な駅で降りて深夜徘徊したりします。5年前に京都から東京に出てきたんですけど、まだ行ったことがないスポットがたくさんあるので適当にふらついてるだけで飽きないんですよね。昨今の情勢を鑑みてここ1年は控えてますけど。

 他には“サウナに篭る”。椅子に座った状態で一日が完結してしまう罪悪感を“汗を流すこと”で解消している感じです(スポーツは高校生の頃に懲りたのでやりたくないし)。賞金をいただいてからサウナに通う頻度が増えて“週8でサウナに入るバケモン”になりました。あとはたまにYouTubeで配信やって適当に喋ってストレス解消しています。

――学生時代に影響を受けた人物・作品は?

 “自らの人生観に影響を与えた人”を考え返してみたのですが、特定の人物からはおそらく影響を受けてないと思います。共感性や敬畏が僕には欠けているのかもしれません。

 執筆活動をおこなう上で影響を受けたとすれば『パタリロ!』など昭和の少女漫画や『るいは智を呼ぶ』、『天使の羽根を踏まないでっ』、『俺たちに翼はない』、『きっと、澄みわたる朝色よりも、』などのエロゲでしょうか。『るい智』などの作品にハマったせいで一時期女装少年でしか性的興奮を得られなくなりました。あのときは本当に危なかった。

――今現在注目している作家・作品は?

 すべてのコンテンツを均等に楽しんでしまう体質なので“どの作家さん・作品か”を指定できません。申し訳ないです。

――その他に今熱中しているものはありますか?

 音楽(HR/HMやヴィジュアル系)とお笑い鑑賞です。

 Galneryus、ANTHEMなどのジャパニーズメタルや、Killswitch Engage、As I Lay Dying、Memphis May Fireなどの海外のメタルコア・ポストハードコアが好きで、最近だとJILUKA、DEVILOOF、アクメなどのメタルコアやデスコア、Djentのエッセンスが入ったヴィジュアル系をたくさん聴いています。大学生の頃は音楽サークルでバンド組んで遊んでいましたし、たぶん、いまでも音楽に熱中しているんだと思います。

 お笑いはまんべんなく好きです。この一年は情勢的にライブに行けないのがキツかった。

 そもそも僕を構成している四大要素が“競馬”“音楽”“お笑い”“読書(執筆)”なんですけど、マジでこの4つで完結しているんですよね……しかも競馬と執筆がどちらも“仕事”になったので、挙げた2つしか趣味が残ってません。

――最近熱中しているゲームはありますか?

 『ウマ娘 プリティーダービー』です。仕事が休みの日には一日あたり800時間(体感)くらいプレイしています。いま29歳なんですが、このうち23年くらい競馬を観ているので作中に登場するアグネスタキオンやマンハッタンカフェ、ゼンノロブロイなどがドンピシャなんですよね。

 競馬好きが高じて現在は“競馬に関わる仕事”に就いているんですけれど、だからこそこのプロジェクトをきっかけに若い世代の競馬ファンが増えてくれたら嬉しいな、という期待も持っています。海外競馬や地方競馬にも魅力的な競走馬はたくさんいるので、そちらにもぜひ注目が向けばいいな。

 あとは学生の頃に『ポケモン』の対戦実況動画をニコニコ動画に投稿していたので、たまにふとSwitchを手に取ってYouTubeで配信しながら遊んだりしています。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 僕に読書習慣があるのは“小説が面白いから”です。少しの金銭で大容量の物語を楽しめるからコスパもいいし。だからこそ作家という立場から“小説の魅力”をたくさん発信していけるように努力していきます。応援してください。なんか要望があったら言ってね。

 著作の感想もお待ちしております。編集部さんのほうで常に受け付けていますし、配信活動していたときに全くしていなかったエゴサーチを作家になって初めて本格的にやろうと思っていますのでTwitterなどにどんどん書いてください。フォローもお待ちしております。ただし“いいね欄”はマジで漁らんといてね。

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