電撃小説大賞《大賞》『ユア・フォルマ』菊石まれほ先生を直撃。夢の中で主人公たちに怒られたことって?

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 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を執筆した菊石まれほ先生のインタビューを掲載します。

  • ▲本作の表紙イラスト(イラスト:野崎つばた先生)

 本作は、人の記憶にダイブして事件を捜査する天才捜査官“エチカ”と人型ロボットの相棒“ハロルド”の凸凹バディが贈るSFクライムドラマです。

あらすじ:孤独な天才捜査官。初めての“壊れない”相棒は、ロボットだった

 脳の縫い糸――通称〈ユア・フォルマ〉ウイルス性脳炎の流行から人々を救った医療技術は、日常に不可欠な情報端末へと進化をとげた。

 縫い糸は全てを記録する。見たもの、聴いたこと、そして感情までも。そんな記録にダイブし、重大事件解決の糸口を探るのが、電索官・エチカの仕事だ。

 電索能力が釣り合わない同僚の脳を焼き切っては、病院送りにしてばかりのエチカにあてがわれた新しい相棒ハロルドは、ヒト型ロボット〈アミクス〉だった。

 過去のトラウマからアミクスを嫌うエチカと、構わず距離を詰めるハロルド。稀代の凸凹バディが、世界を襲う電子犯罪に挑む!

 インタビューでは、

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 “人間の脳は、インターネットの膨大な情報を処理するために理解力と集中力を犠牲にしている”という内容の記事を読んだことです。

 「これが事実なら、人間はいずれ情報処理に特化した“機械”になってもおかしくないのでは?」と思い、複合現実デバイス“ユア・フォルマ”と融合した人々が暮らす世界を作っていきました。

 また「人間が機械に近づくのなら、ロボットが人間に近づいたらおもしろいな」と考えて、ヒト型ロボット“アミクス”を登場させるに至りました。

 そこから、人間とロボットのバディによる特殊捜査もの、という骨格ができていった形です。あとは個人的に、アンドロイドなどのヒト型ロボットが大好きでして……作中でも言及していますが、アイザック・アシモフ著の“鋼鉄都市”にはやはり影響を受けています。

――作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 特に推したいのは、主人公の捜査官エチカと、ロボットの相棒ハロルドの関係です。

 本作はSFですが、それ以上にバディ作品でもあります。

 主人公エチカは過去のトラウマで機械嫌いなため、ロボットのハロルドに対してツンツンした態度を崩しません。なのにハロルドは、図々しいくらいにぐいぐい距離を詰めていく。凸凹な二人のやりとりを少しでも楽しんでいただきたいと、特に心血を注ぎました。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 事件の整合性です。大きな欠陥がぼろぼろと出てきて、「もうこれ八方塞がりでは……」と血の気が引いたのを今でも覚えています。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 初稿完成までは約一ヶ月です。

――執筆中のエピソードはありますか?

 夢の中で主人公二人に、「もっとおもしろく書いてくれ」と怒られました。

――本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 構想初期の頃から、“機械のような人間”と“人間のような機械”を主役に据えようと考えていました。

 結果的にできあがった主人公エチカは、“ユア・フォルマ”に記録される記憶を閲覧できる捜査官(電索官)という立場で、機械のように並外れた情報処理能力を持っています。加えて、とにかく無頓着な性格です。服は真っ黒、食事もおなかがいっぱいになれば何でもいい、という感じで。

 一方、相棒のハロルドはヒト型ロボット“アミクス”です。なのに性格はエチカよりも人間らしく、休みの日はおしゃれしますし、食事に対しても「これが食べたい」というこだわりがあります。(アミクスには飲食機能が存在します)
二人の対比が物語の中で変化していく過程は、特にお見せしたい部分のひとつです。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 幾つかありますが、そのうちのひとつが終章のとあるシーンです。

 イラストレーターの野崎つばたさんが、このシーンにも素晴らしい挿絵をくださっているのですが、主役二人の関係性がハッキリと表れているとても可愛いイラストで……ぜひ注目してご覧いただけたら、と思っています。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 現在、第二巻を鋭意制作中です。

――小説を書く時に、特にこだわっているところは?

 技法というより観念的な部分になりますが、本作に限らず、綺麗事になりすぎないように作りたいと考えています。説明が難しいのですが、たとえば物語は現実とは違うので、主人公の悩みを全部解決させてハッピーエンドに持っていくことも可能です。でも私たちの日常では、悩みが解決しても心に傷が残ったままなことや、傷の深さによっては人生観すら決定的に変わってしまって、解決したからといってもう元には戻せないことだってあると思うんです。そういう、単純に「よかったね」だけでは終われない“瘡蓋”のような部分は、大事にしたいです。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 色々な媒体から刺激を受けるよう心がけていますが、ぼうっとお風呂に入っている時に思いつくこともあります。集中力を高めたい時はヘッドホンをつけます。基本的に、周囲の音が聞こえると考えたり書いたりできず……音楽もしくはノイズなんかをずっと流しています。

――学生時代に影響を受けた人物・作品は?

 沢山ありますが、森博嗣先生の『スカイ・クロラ』シリーズは間違いなく転換点でした。ネガティブな感情を書くことを避けなくてもいいんだ、と教えてくれた小説です。

 また、『DRAG-ON DRAGOON』や『NieR』シリーズを手がけたゲームクリエイター・ヨコオタロウ氏にも大きく影響を受けました。どの作品も衝撃的なストーリーで、創作物で人の心をここまで粉砕できるのかとひれ伏しましたし、何よりエンディングに向かっての構成が壮絶です。尊敬しています。

――今現在注目している作家・作品は?

 注目といいますか、個人的に楽しみにしている作品のお話になってしまいますが、マーサ・ウェルズ先生の『マーダーボット・ダイアリー』です。続編の邦訳発売を、首を長くして待っています。主人公がヒト型警備ユニットなのですが、いわゆる“コミュ障”的なキャラクター付けが新鮮で、独特な語り口が癖になるSF小説です。

――最近熱中しているゲームはありますか?

 最近はあまりゲームができていないのですが、定期的にやり続けているのは『Blood borne』です。今年で発売から六年も経つのに、あらゆる要素がツボにはまりすぎて、何周しても飽きません……切実に続編が欲しいです。

 また、四月下旬に発売される『NieR Replicant』のバージョンアップ版には、間違いなく熱中するだろうと思っています。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 SFと聞くと、「何だか入りづらいな……」とお感じになる方もいらっしゃるかも知れないのですが、本作をとてつもなく簡単に言えば、“機械嫌いの少女捜査官が、相棒アンドロイドに振り回されながら事件を捜査しつつ、過去の傷と向き合うお話”です。

 作中には現実と地続きな部分がたくさんありますので、SFがお好きな方はもちろん、SFをあまり読んだことがない方でも、すんなりとお話に入っていってもらえると思います。
少しでもご興味を持っていただき、本棚の片隅に迎えてもらえたのなら、これ以上の喜びはありません。

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