電撃小説大賞《銀賞》『忘却の楽園I』の土屋瀧先生インタビュー。執筆のきっかけはとある植物

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 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、第27回電撃小説大賞《銀賞》受賞作『忘却の楽園I アルセノン覚醒』を執筆した土屋瀧先生のインタビューを掲載します。

  • ▲本作の表紙イラスト(イラスト:きのこ姫先生)

 本作は、あらゆる争いの火種が管理・秘匿された忘却の楽園〈リーン〉を舞台に、少年“アルム”と体に猛毒の汚染物質〈アルセノン〉を宿す謎の少女“フローライト”が織りなす偽りの世界の物語です。

あらすじ:記憶を封じた少年と猛毒を抱いた少女の、残酷で美しい運命。

 度重なる争いの後、地表の大部分を海洋が覆う世界。

 滅びへ向かう人類を制御するため、武器、科学、そして信仰、あらゆる争いの火種が管理・秘匿された忘却の楽園〈リーン〉 。

 しかし争いが生み出した猛毒の汚染物質〈アルセノン〉は未だ人々を蝕み続けていた。

 ある日、少年・アルムが管理を命じられたのは体に〈アルセノン〉を宿す謎の少女・フローライト。

 不器用ながらも心を通わせてゆく2人。明らかとなる〈アルセノン〉の秘密。それは偽りの平和を揺るがす文字通りの“猛毒”であった。

 忘却の新世界を巡り幾重にも重なる謀略を超え少年たちが得るものとは――。

 インタビューでは、本作を書く上で悩んだ点やお気に入りのシーンに加えて、影響を受けた作家や、現在注目している作品まで丁寧に答えていただきました。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 近くの林に野生化したジギタリスが数株あって、春になると美しい花をたくさん咲かせます。ジギタリスは猛毒を持ち、古くは薬にもなっていた植物です。こんなにきれいな花を咲かせるのに毒を持ってる。そのギャップが不思議でついつい見惚れているうちに……人間がなにかのきっかけで毒を持ったとしたら世界はどうなるだろう? と思いました。

――作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 かっこいいおっさんがいることです。カルセドニーという人がわたしは大好きです。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 若い世代の熱量の調整に悩みました。です。どこまでひとのために熱くなれるものかな? こんなにピュアでいいのかな? など……。自分のなかではすっかり枯れてる感情を引っ張り出すのが大変でした。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 三年ほどです。とにかく身の回りのことで忙しく、書いては寝かせ書いては寝かせの連続で投稿を二度見送りました。根を詰めて書いたのは投稿前の半年くらいになるかと思います。受賞後は入稿直前まで調整が続きました。(巻き込まれたみなさま、ほんとうにごめんなさい)

――本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 主人公とヒロインには厄介ごとをたくさん背負わせてしまいました。制約も多いうえに大人たちに振り回されてばかりでしんどかったと思います。でもいつまでも大人の好きなようにはさせないつもりなので……いまはなんとか踏ん張っていてください、とお願いしています。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 夕陽をながめながら大人ふたりがごにょごにょと話しこんでいるシーンが気に入っています。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 JP Saxe ft. Julia Michaelsの『If the World Is Ending』という曲に何度も助けられています。この曲だけでなく、登場人物やエピソードに合いそうな曲を集めたプレイリストに頭をあずけると、ぽこぽこと情景や台詞が浮かびます。それをメモして、つなげて、物語にしていく感じです。あと初稿は必ず手書きです。いきなりWordで書きはじめるとミスタイプのたびに思考が停止してしまって、集中力が切れてしまうからです……。

――学生時代に影響を受けた人物・作品は?

 ジェフリー・アーチャーとジェフリー・ディーヴァーの大ファンです。翻訳ものが大好きで、海外ミステリをむさぼり読んでました。ほかに椎名誠のエッセイや私小説、横溝正史全集も熱心に読みました。もう大人でしたが奥本大三郎による『完訳 ファーブル昆虫記』には寝食忘れるほど夢中になりました。

 SFだとダン・シモンズの『ハイペリオン』。サイエンス系の読み物やノンフィクションも乱読しました。でもいちばん影響を受けたのは小説ではなく、柳田邦男の『犠牲(サクリファイス)』という本です。いまでもよく読み返します。

――今現在注目している作家・作品は?

 昔と変わらずジェフリー・アーチャーとジェフリー・ディーヴァーです。あとリチャード・ドーキンスの著作も必ず読みます。また北欧ミステリの『特捜部Qシリーズ』や『エーレンデュル捜査官シリーズ』も大好きで続刊をずっと待っています。あと太田垣康男の『MOONLIGHT MILE』もずっとずっと待っています……。

――その他に今熱中しているものはありますか?

 アゲハたちを育てること。春が待ち遠しいです。今年も完全無農薬のパセリと金柑の木を用意してお待ちしています。

――最近熱中しているゲームはありますか?

 『ダビスタ』の最新作をもらったのですが寝る前の十五分くらいしか時間がとれず、毎晩パドックを見ているうちに寝落ちしてしまいます……。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 勘のいい方はもうお気づきだと思いますが、わたしはいまのアニメやゲームに疎く、ライトノベルを読んだことさえない、ただの海外ミステリファンです。そんな奴の書いた作品を電撃文庫として世に出すなんて正気の沙汰とは思えませんでした。電撃文庫編集部にはとても懐の深い方たちがいるようです……。

 作品を読んでいただいたみなさま、ほんとうにありがとうございます。

 まだだよ、という方は暇つぶしをお探しの際に思い出していただければ……もうそれだけでも嬉しいです。このような機会を与えてくださったことに深く感謝しています。ありがとうございました。

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