【おすすめDLゲーム】『夕鬼 零 -Yuoni: ゼロ-』少年の心理描写が絶妙なホラーテイストノベルゲーム

信濃川あずき
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 ダウンロード用ゲームから佳作・良作を紹介する“おすすめDLゲーム”連載。今回はNintendo Switch用ダウンロードソフト『夕鬼 零 -Yuoni: ゼロ-』をお届けします。

 本作は、もともとPC用VRゲームとしてリリースされました。Switch版では、ジャイロ操作で擬似的にVR体験を再現しています。「怖い……けど振り返りたい……」という周囲を自力で見回す感覚や、あたかも目の前に何かが迫ってくるような危機感を、充分に感じることができました。

 正直、ホラー耐性があまりない筆者にとって、本作はときどき「ヒエッ!」と声が出るほど怖いものでした。ただし、シンプルに怖いだけではなく主人公の心理描写など読ませる文章がおもしろく、怖さを乗り越えてでも読み進めたいと感じたのも特徴。それではさっそく、本作の魅力的な恐ろしさを紹介します。

怖い噂話の中に事実が混じっていたら……

 本作の舞台は、90年代の田舎町。小学5年生の少年シュウジは、いわゆる“大人の事情”で、頻繁に転校を繰り返していました。

 そんな暮らしは彼の心に影響を与えています。仲よくなっても、どうせ離れる……。

 シュウジの性格は非常にドライで、他人を一歩引いた目で評価するように見る傾向があります。


  • ▲プレイヤーは、夕暮れ時の学校のような場所にいます。光のない廊下側は不気味ですね……。

  • ▲目の前にはスケッチブックが一冊。これをめくると、ストーリーが進んでいきます。

 そんな内面を巧妙に隠して人付き合いをするシュウジには、よく行動を共にするゴトウという友人がいます。シュウジは、心の中ではゴトウの性格を冷静に分析して面倒が起こらないように付き合いつつ、表面上は子どもらしく話を合わせています。その日、ふたりは公園で怪談話に花を咲かせていました。

  • ▲スケッチブックに、イラストとストーリーが描かれています。
  • ▲ゴトウは活発な男の子。おとなしく絵を描くことが趣味のシュウジは合わないと感じていますが、労働感覚で付き合っているようです。

 そんなふたりがいる公園に、もうひとりの登場人物がやってきます。彼らと同じく小学5年生の女の子、ナミです。メガネの似合う学級委員で、しっかり者。シュウジは、世話焼きで少し口うるさい彼女のことが苦手なようです。3人は場所を近くの駄菓子屋に移し、怖い話を続けます。

  • ▲“ザ・学級委員”といった感じのナミ。学校の外でも男子たちを厳しく指導します。
  • ▲ゴトウが話し始めたのは、夕方の学校に出現するツンという幽霊の話。夕鬼という遊びに誘ってくるという噂です。

 ゴトウから、妙に生々しいツンという幽霊の話を聞かされますが、ドライなシュウジは表面上だけは興味津々のふりをしつつ、ツンの存在を信じませんでした。

 その翌日、シュウジが登校するとゴトウが学校に来ていません。体調不良による欠席か、寝坊か……。いずれにしても、学校を休むことをうらやましく思うシュウジでした。

  • ▲活発なゴトウは、いつも早めに学校に来てドッジボールをしていたようです。今日は姿がありません。

 ゴトウが欠席している以外は、いつも通りの学校の始まり……と思いきや。突然、廊下に悲鳴が響き渡ります。先生は、生徒たちに教室待機を指示して飛び出していきました。

 何があったのかと皆がざわついていると、そこへ遅刻したゴトウが登校してきました。そして、いつも通り明るく皆にあいさつをすると……その落ち着いたテンションのまま教室の窓ガラスを金属バットで割り始めたのです。

  • ▲皆やシュウジの反応から、ゴトウは普段こんなことをしないことがわかります。異常事態です。
  • ▲ゴトウはおびえる友人を気にもとめず、ランドセルから何かを取り出します。どちゃりと音を立てて机に乗せられたそれは……。

 そんなことがあり、学校からはクラス全員に早退が指示されました。ナミとともに帰路についたシュウジ。しかし、無事に帰宅することはできませんでした。いつも、通学路に立って明るくあいさつする“おはようオジサン”と呼ばれている男性が、突然奇声を上げて襲ってきたのです。

  • ▲“おはようオジサン”は小学生から気味悪がられていたものの、暴力を振るう人ではありませんでした。

 襲われるシュウジとナミを助けてくれたのは、昨日も立ち寄った駄菓子屋のおばあさん。通称“ミヤガワの婆さん”です。おはようオジサンを追い払い、シュウジのケガを手当てしてくれたミヤガワの婆さんは、どうやらおおよその事情を察しているようでした。

 そして、一連の出来事がツンのしわざであることと、ツンの存在を知ってしまったシュウジとナミは次のターゲットになるであろうとを語ります。

 そんな話をしている最中、静かな駄菓子屋の奥の部屋に、子どもの声が聞こえてきます。

「――あそぼ」

 最後に、ミヤガワの婆さんは言いました。「友だちを信じろ」と。次の瞬間、ふたりは不思議な空間へととらわれてしまったのです。


  • ▲ここからは、心拍数と体調に注意して読み進めることをおすすめします。ふたりは、この不思議な世界から帰れるのでしょうか。

プレイヤー自身も恐怖におそわれる!

 恐怖体験におそわれるのは、シュウジとナミだけではありません。油断していると、プレイヤーにも謎の存在がアプローチしてくることがあります。

  • ▲突然、スケッチブックから目線が外れたと思ったら……。
  • ▲ヒタヒタという足音が聞こえ、周囲を見渡すと駆け抜けていく子どもの影が!
  • ▲ほんと許してください。

 スケッチブックに描かれている美しいイラストも、場面の想像がしやすくなって恐怖を誘いますが、そこに熱中しているとプレイヤーがいる教室内の変化にゾクッとさせられることも……。

  • ▲イラストが美しく、文章の情景描写も的確なので、場面がハッキリと想像できます。

 また、本作にはおまけ要素として“用語集”があります。主にゲーム内用語や90年代用語が解説されているので、わからない言葉が出てきた時には見てみてください。

  • ▲地デジ時代に生まれた人は、“テレビの砂嵐”がわからないかもしれないですね。
  • ▲本文とあわせて、日本の伝統について学べる要素もあります。

 本作は、イラストやSE、要所で発せられるボイスなどのホラー表現が巧妙で、筆者としてはしっかり恐怖体験ができました。とはいえ、アクションホラーのように戦わなければ先に進めないこともなく、先が気になるストーリーも手伝って、怖くはあるけれどリタイアしてしまおうとは思いませんでした。

 そして、もうひとつの見所は主人公シュウジの心理です。大人の事情に付き合わされる格好で転校を繰り返し、友人を得る機会を失ってきたシュウジは、どうせ離れるのだからと心から人を信じることがありません。

 でも、駄菓子屋のおばあさんが言っていた「友だちを信じろ」という言葉。彼が、この恐怖体験を通じてどのように変わっていくのか。小学5年生の多感な少年をとらえた心理描写も楽しんでいただきたい要素のひとつです。

 ホラー耐性のある方、勇気のある方はぜひ、休日の夕暮れ時にプレイしてはいかがでしょうか。ジャイロセンサーで周囲を見回した際、画面外も夕暮れなら雰囲気倍増ですよ。

 ただし、ヘッドホンを外した時に「ヒタヒタ」という足音が聞こえるかもしれませんね……。

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『夕鬼 零 -Yuoni: ゼロ-』

  • メーカー:トライコア
  • 対応端末:Switch
  • ジャンル:ノベル
  • 配信日:2020年2月6日
  • 価格:1,280円

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