七福神関連のおすすめ書籍も紹介。ドット絵アドベンチャー『虹の降る海』開発者インタビュー【電撃インディー#28】

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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回はインディーゲーム開発の白黒羊が送るドット絵アドベンチャー『虹の降る海』の開発者インタビューをお届けします。

 『虹の降る海』は、現在スマートフォンで配信中の無料ゲームです。プレイヤーの選択・行動によって、いくつも用意されている結末に分岐するストーリーが楽しめます。先日英語版も公開された、本作の魅力をうかがいました。

 なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

開発者インタビュー:白黒羊

――『虹の降る海』の注目点を教えてください。

 プレイヤーの行動次第で過去も現在も未来もすべてが決まっていくストーリーです。

 先日電撃オンラインさんの特集記事でも書いていただいた通り、繰り返し遊んでも楽しく、それによってこの世界の本質に近づくことができます。

 過去が決まるというのは変な話ですが、プレイヤーの過去もプレイの分だけ存在します。プレイヤーは自分で選択肢を選んでいるつもりでも、実際にはその過去がプレイヤーにその選択肢を選ばせているのです。

 七福神との不思議な一年間という世界観も、シナリオ、ビジュアル、サウンドが調和して表現されていて他にないものだと思っています。

 ほとんどのイベントは七福神それぞれの個性を下敷きに作られていますが、プレイヤーが入り込むことによって考察の余地のあるストーリーになっています。

――開発で苦労していたところを教えてください。

 全体的な作業量の多さです。もちろん楽しかったので続けられたのですが、苦労しなかったところはありませんでした。やはり個人/少人数のゲーム制作は一人当たりの膨大な作業量が一番の壁になるのではないでしょうか。私はそれで何度も挫折しました。

 このゲームはマップを移動(ドット絵、音楽、効果音)、キャラクターと交流(立ち絵)、イベントが発生(シナリオ、音楽)、セーブロード(UI)などの要素があり、もちろんそれぞれにコードを書いていく必要がありました。タスク管理をしていたツールで見ても今後しなくてはならない作業が全然減らず、自分でテストプレイをしているとバグを発見してしまうのでむしろ増えていくといった状態で、いつになったらリリースできるのだろう……と思いながら作業を進めていました。

 ゲームを完成させるには規模を小さくするのは鉄則ですが、せっかく素敵なイラストや音楽をいただいている手前、それに見合ったものを作りたいという気持ちがあり、結果的に「すごく頑張る」という低次元の解決方法に陥ってしまいました。

 特にプログラミングでハマってしまうと時間がどんどん溶けていくことと、他の人にお願いしている分はその方が忙しいときなどは自分にはどうしようもできないことが大変でしたが、今回どの作業にどれぐらい時間がかかるのかが少しわかるようになったので、次回は手を動かす前にきちんと設計して少しでも先の見通しをよくしたいです。

 また、終盤の作業は終わりが見えているのにもかかわらず本当の終わりがなかなか来ない状態が結構きつかったです。自分自身もこれがアプリ初リリースということで無名で誰にも注目されていない中でテスターさんを集めることに苦労しました。プレイしてくれた友人には本当に感謝しています。

 完成まであまり見せたくないなと思ってそんなに情報を公開していなかったのですが、私程度の知名度の作者は死ぬ気で宣伝してやっと見てもらえるか見てもらえないかだと思うので情報発信はもっと頑張ろうと思います。

――開発をするうえで、特に気を付けている点などを教えてください。

 「時間」と「お金」と「妥協」の最適解を見つけることです。途中で終わってしまうプロジェクトにも何かしらの学びはあるとは思いますが、できることならば完成させてリリースしたいものです。

 完成させるにはこの3つの要素が重要だと考えています。全部あればあるだけ良いものだと思っています。
開発前段階にはどこまで妥協できるか考えました。絶対に妥協できなかったのは世界観を十二分に表現することで、そのためには大量のシナリオのその全てが必要でした。

 結果的に16万文字100イベント以上になったので、推敲、実機での確認作業や、つい先日リリースした英語版への翻訳が非常に大変でしたが、妥協できない点だったので時間を費やすことで解決しました。

 またキャラクターデザインにも世界観を反映させるということが自分にとって重要だったのですが、自分で満足いく品質のイラストは自分に描けるものではなかったので、ハラパさんにお願いしました。

 同様にサウンドにも「和風」「チップチューン」の雰囲気を出すことも最初に絶対に達成したいと決めていたのでAndyさんにお願いすることにしました。この辺りは自分の時間をいくら使ってもできないことだったのでお金で解決した例です。

 個人的にはお金で解決できるならばそうすれば良いという考えを持っているのですが、今回だいぶ良心的な価格でお願いできたにもかかわらず他の素材やストアへの出展費用なども含めるとまだまだ全然赤字なので、お金を使うと決めたらその後のことも考えないといけないですね。難しいです。

 一方でもちろん妥協したところもたくさんあります。例えば、ゲーム内で七福神からものをもらう表現や鍵を拾って開けるというイベントなどがあり、当初の想定ではそれを表現するためにアイテムを集める機能をつけようと思っていましたがテキストで簡単に表現するだけで省略しました。

 また、選択肢で嘘をつけるシステムをもっと活用するためにすべての選択肢で嘘をつけるようにしようとしていましたがシナリオが破綻してしまったので諦めました。

――ゲームタイトルにこめた想いを教えてください。

 日本では虹が七色であるということで七福神の「7」という数字と掛けました。そして舞台が海であること。基本的にはそれだけです。

 イベントのタイトルもゲームタイトルも、直接的に何かを説明するのではなく、何かを暗示するような言葉を使うことで神秘的な雰囲気を出したいと思ってつけています。

――今後、実現したい野望などありますでしょうか?

 『虹の降る海』について言えば、キャラクターとストーリーを徹底的に作り込んだのでゲーム以外の展開もできたら良いなと考えています。

 シナリオを書きながらずっと、アニメを作れたら面白いだろうと思っていました。ゲーム制作とは違う苦労があると思うので自分ひとりではできないと思いますが良いご縁を見つけられればぜひ実現したいです。
また、七福神を題材にしたゲームは珍しいと思うので「七福神巡りとコラボしたらどう?」という提案をしばしばいただくのですが、これもやってみたいです。

 七福神巡りの主催団体は自治体や寺社仏閣なのでインターネット上には連絡先が見当たらなかったり、電話番号しかなかったりと営業が大変そうですが、できそうなところからお声がけしようと考えています。

 このゲームに限らずですと(虹の降る海でも現在進行形で考えていますが)、コンシューマゲームの開発をしてみたいです。

――ゲームの開発に携わることになったきっかけについて教えてください。また、ここ数年でもっとも感銘を受けた、おすすめのインディーゲームについて教えてください。(インディーゲームでなくても構いません)

 まず、もっとも感銘を受けたインディーゲームは間違いなく『冠を持つ神の手』です。2009年にリリースされたゲームで、私が遊んだのも10年前ぐらいなので“ここ数年”に該当するか危ういのですが、このゲームのおかげでゲーム開発を始めることができました。

 無限に分岐していくイベント、ほとんど選択肢だけで難しい操作などはないのに非常に高い自由度、各キャラクターそれぞれの魅力など、本当に素晴らしいゲームでこのゲームのような創作をしてみたいと思っていたのですが、冠を持つ神の手自体が“二次創作キット”という形で手助けしてくれました。

 これはテキストタグをファイルに書き込むだけでかもかての世界観を使った二次創作ができるツールで、それだけではゲーム制作とは少し違うのですが、そこに簡単なスクリプトを追加することもできました。

 私のゲーム制作はここから始まりました。ここからさらにもっとこういうことをしたい! と調べていくことでプログラミングや開発自体が面白くなってきたことが本格的にゲーム制作を始めたきっかけです。

――公式の製作記を読ませていただきましたが、10年の時を経て本作をリリースしてみた感想をお聞かせください。

 リリースすることは私には無理だろうとずっと長い間諦めていたのですがリリースできて本当に良かったです。私の中にしかなかった世界が他の人に伝わるというのはとてもすごい体験でした。

 リリースができないと思っていた理由として、いくら作業しても終わらない状況に対して、ゲームを作るということ自体が自分には無理だと思っていたことがあります。

 また、ゲームをリリースしても誰もプレイしてくれないのではないかと思っていたため、どうもモチベーションが上がりませんでした。

 それをunity1weekという1週間でゲームを作ってリリースするイベントに数回チャレンジしたことで、全部自分で頑張らず、素材を使えば意外とできてしまうこと、規模をある程度小さくすればいつかは終わるということがわかりました。

 また、unity1weekでは開発者同士で相互で遊ぶ文化や、全ゲーム配信(毎回すごい量があるのですが)に取り組んでくださる配信者さんもいたりして、頼めば遊んでもらえるのではないか? という気持ちにもなりました。実際今回のゲームの宣伝ツイートもそこで知り合った方々がリツイートしてくださったりしてまた助けていただきました。

 それ以外にもTwitterで他の開発者の情報を見たり、Unityゲーム開発者ギルドというコミュニティに参加することで情報がたくさん得られるようになったり、インディーゲームを応援してくださる人たちがたくさんいることを知ることができたのも良かったです。

 最初に思い立ってからは10年間経ってしまいましたが、結局、今回こそ本当にやるぞと思ってUnityでプロジェクトを作ってからは1年半程度で完成しました。ストーリーはその期間に積み重ねたものではあるものの、決意は大切ですね。

――七福神を題材にした物語を作成するにあたって参考にされた資料や、本作を遊んで七福神への興味が湧いた人にオススメの作品などを教えていただいてもよろしいでしょうか?

 七福神を題材にした作品はそれほど多くはなさそうですよね。

 そもそも、このゲームを作ろうと思った理由のひとつは、神話として残っている彼らの元ネタは面白いものが多くて非常にコンテンツ性が高いのにそれほど作品化されていないように感じたからなので、正直なところあまり知らないです。もし面白い作品があれば私も知りたいです。

 参考にした資料は文献! 参考資料! という感じの堅め古めの書籍が多いです。私はそういう資料に興奮できる性質だったので楽しかったのですが、ゲームに興味を持っていただけたからと言って次に日本書紀とか古事記とかを読めというのも少し横暴ですよね……。Wikipediaを読むだけでも面白い人には十分面白いとは思います。

 出典がよくわからなかったので元ネタとして採用できなかったのですが、フクロクジュ(福禄寿)のWikipediaを読むと英語版にだけ「七福神の中で唯一死者を生き返らせる能力を持つ」という記述があったりして物語が浮かぶ感じがします。Wikipediaがとても面白かったら素質があると思うので書籍もお勧めします。

 ブログにも書いたのですが、このような資料が読みやすくてまとまっていて良かったです。

・七福神の謎77 (祥伝社黄金文庫)
・七福神信仰事典 (神仏信仰事典シリーズ)
・東洋神名事典 (Truth In Fantasy事典シリーズ)

 このあたりの話にプレイ前から興味がある方は虹の降る海に深くハマってくれる傾向にあります。ゲーム開発中はこれらの資料を読み漁ってひたすらエピソードを調べまくってイベントを作っていました。

――最後にユーザーに一言お願いします。

 私は作るほどゲームが好きです。遊ぶのももちろん好きなのですが、得意ではありません。一度遊び始めると他に気が回らなくなるので覚悟を決めないと遊び始められません。

 ですので、遊んでくださった方には褒めていただいたり、お礼を言っていただくことがしばしばあるのですが、私はゲームを楽しめるということの方がすごいと思っています。いくらでも良いゲームがある時代に誰だかも知らない私のゲームを見つけて遊んでくれてありがとうございました。

 有償支援の代わりに攻略サイトをお渡ししているのですが、その際にいただける、楽しんでいただけた方の感想や考察は本当に素晴らしくて、作った甲斐があったと思えます。私がよく考えていなかった部分の考察や、キャラクターに喜怒哀楽の感情、特に怒とか哀の感情を持ってくださっている方の感想、大好きです。

 機能的な面でもフィードバックがあればTwitterとかででも見えるようにしておいていただければエゴサしてできるだけ反映させます。

 まだ遊んでいない方はぜひ遊んでみてください。ほろ苦い物語が好きな方には特におすすめです。


※画像はゲームをキャプチャーしたものです。
(c) 2021 Shirokurohitsuji Studio

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虹の降る海

  • メーカー:白黒羊
  • 対応端末:iOS/Android
  • ジャンル:アクション
  • 配信日:2020年12月31日
  • 価格:無料/広告閲覧アリ

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