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数々のキャラソンを歌ってきた豊永利行さんが考える”歌での表現”とは? インタビュー企画“KEY”連載2回目

原常樹
公開日時

 ガルスタオンラインのオリジナルインタビュー企画“KEY”。

 今回の全4回の連載では、豊永利行さんにお話を伺っています。

 前回のお話では、『夢色キャスト』『ピオフィオーレの晩鐘』など、演じられてきたキャラクターについてお話いただきましたが、今回は女性向けコンテンツには欠かせない【キャラクターソング】についてお聞きしました。

豊永利行さんキャラクターソングを語る ~2回目~

──お仕事ではキャラクターソングを歌う機会も多いかと思います。収録でとくに強く心掛けているポイントはどんなところでしょうか?

豊永 まず最初に“そのキャラクターが歌を歌ったらどうなるのか”を考えるというのは、普段のお芝居のアプローチと同じ。とにかく役に寄り添うことが大事なので豊永利行がしっくり来る歌い方は一度リセットしてニュートラルな状態で臨むように心がけています。僕の場合はお芝居でも音から役を作ることはあまりなくて、“役のイメージからキャラクター像を作り上げて声を出した結果、自然とそういう声質になった”というケースがほとんどなので、これはキャラクターソングでも踏襲したいなと。やっぱりそのキャラクターが歌っていると感じていただきたいので。

──作品本編であまり歌うイメージのない役の場合、どのようなアプローチを?

豊永 ひねくれ者なんで「このキャラクターは歌うイメージがないし、歌唱表現力はそんなに高くないんじゃ……」みたいなことを考えることはよくあります(笑)。でも、拙さをにじませることがキャラクターソングの魅力につながったりすることもあるので、技術的に優れているだけではない振り幅も持っておきたいなとはいつも思っていますね。歌唱表現が独特という意味では『A3!』の有栖川誉さんなんかがまさにそうで、ほかの人とは違う濃い表現になったらいいなと思いつつ歌わせてもらいました。

──キャラクターソングも「うまい」以外のいろいろな理想のあるお仕事なんですね。

豊永 だからこそすごく楽しいです。ただ、最近いただく役は“歌唱力がトップクラス”というような設定を持っていることもあったりするので、そこはものすごいプレッシャーですね(笑)。設定を見たときに「歌がうまい」って書いてあったら「やめろ、そういうことを書くな~!」って(笑)。

──役に合わせてキーの高さもかなり高低差があるのでは。

豊永 先ほども“役のイメージからキャラクター像を作り上げて声を出した結果、自然とそういう声質になった”というお話をしましたが、キーチェックの段階で先方にお伝えしてすり合わせていきます。

──シンガーソングライターとして活動されているからこそ、ロジカルに捉える部分も?

豊永 そうなのかもしれません。実際、経験則に裏打ちされる部分は少なからずあって、完パケ(完成品)になった音を聴いたときに「あっ、このキャラクターでこの音を出したらちょっとブレちゃうんだ」と感じたりすることもあります。本当にわずかな部分であっても、ちゃんと分析しながら考えていかなきゃダメだなと思うようになりました。本当にここ最近のことなんですけど。いやー、この職業は日々勉強ですよ!

──何十年という芸歴になっても新しい発見があるわけですね。

豊永 本当にそうなんです。芸歴といえば、最近では若いディレクターさんがすごく気を遣ってくださることがあって、ありがたいし恐縮だなと思う反面、「そんなに偉いものじゃないんで、もっと気楽に言ってもらっていいんですよ」と伝えたくなる部分もあって(笑)。キャリアを積むっていうのはこういうことなのかなと実感しています。

──実は僕も駆け出しのころに『capeta』で豊永さんの取材をさせていただいたことがあります。職業の違いこそあれどキャリア的には近いものがあるので、周囲の方に気を遣われるお話はすごくよくわかります!

豊永 その節は大変お世話になりました!(笑) どの業界でも長年働いていらっしゃる方は気持ち的に通じるものがあると思いますし、僕らのようにモノづくりをする仕事では立場は対等。とくに最初のアフレコのときは、クライアントさんやクリエイターさんの方が僕らよりもキャラクターについての理解が深いのは間違いないので、深読みしきれていないときはぜひ遠慮なく申し出ていただきたいです。いやー、けっこう責めたお芝居をして「大丈夫ですか?」と聞いたときに「あっ、大丈夫です」と答えられると「えっ、本当に!?」ってなったりもするので(笑)。美容室で「かゆいところはありませんか?」と聞かれたときの「大丈夫です」と同じぐらいのニュアンスだったりすると不安になったりもしますね(笑)。

──たしかにそれは不安になりそうですね(笑)。豊永さんといえば、配信が始まったばかりの『ダンキラ!!! - Boys, be DANCING!』の影宮蛍役でも注目を集めています。

豊永 もともと僕は『beatmania』にハマっていたので「えっ、KONAMIさん(コナミデジタルエンタテインメント)のリズムゲーム? やったー! 「20,november」とかよくやったなー」と(笑)。初代から遊んでいた『ファイアーエムブレム』シリーズの最新作『ファイアーエムブレム 風花雪月』にクロード=フォン=リーガン役で決まったときもそうでしたが、自分が好きだった作品に出られるというのは感無量ですね!

──『ダンキラ!!! - Boys, be DANCING! -』はダンスをテーマにしている点も特徴的です。

豊永 僕が演じている影宮蛍はバレエを得意とするチーム「エトワール」のメンバー。ヒップホップやジャズダンスといったわりとイメージしやすいジャンルのダンスももちろん出てきますが、そこにバレエを持ってきたのはすごい着眼点だなと個人的には思っていて。最近だとダンスの授業が教育課程に入れられたり、現代社会に浸透している中で「そもそもダンスってどんな種類があるんだろう?」と知っていただくキッカケにもなりうるコンテンツです。リズムゲームとしてもいろいろな種類の音楽にも触れられるので、単純にゲームとしても楽しんでいただけるのではないでしょうか。ちなみに影宮蛍くんは厭味ったらしい部分がある皮肉屋。でも、単なる嫌なヤツというわけではなく、彼なりのこだわりやプライドがあってそういう態度を取る人物なので好感が持てますし、バレエ業界がそうならざるをえない厳しい世界だということも想像できます。

──蛍のように物事に対するこだわりの強い役を演じるというのは、役者としてはどのような感触なんでしょうか?

豊永 考えていることがわかりやすいといういい面もある一方で、融通が利かないともいえます。なので、感情の機微だったり遊びの要素を入れたりするのがちょっぴり難しいですね……。どのシーンにおいても、その人のこだわりが優先されてしまう部分があるので一辺倒になってしまいやすいんです。そこに人間味をうまくにじませることで、いかに「彼なりにいろいろ考えているんだな」と思ってもらえるかがポイントかなと。実際、現実でもこだわりの強い人はいますけど、年がら年中そのことばかりこだわっているわけではないでしょうし。

──かといって、ブレすぎても役の個性を壊してしまう。

豊永 そうなんですよ。そのあたりは微妙なさじ加減で調整しつつ。

──ダンスといえば、昨今では声優も歌って踊るのが自然な流れになりつつあります。豊永さんはそういった声優業界全体の風潮をどのように捉えていらっしゃいますか?

豊永 声優というカテゴライズに焦点を当てるのであれば「最近の声優業って大変だなぁ」とは思いますよ(笑)。文字どおり“声が優れているからこその声優”という価値観が少しずつ変わってきているのかなぁと。もともとは顔出しのない世界だったのが、イベントやライブをやるようになって、生で歌うようになり、ついには踊るようになったわけですから……。

──とてつもない変化ですよね。

豊永 ただ、先ほども話したとおり、現代社会にダンスが浸透してきているという変化もあるのかなと思います。おそらく声優志望の方や若い声優さんはそういう時代の影響も少なからず受けているでしょうし、声優がそういう活動もすることを自然な流れと捉えている方が増えてきたんじゃないでしょうか。

──たしかに若い役者さんにインタビューしていると、そういった流れを感じる部分はあります。
豊永 需要と供給を考えれば自然なことだと思います。僕の時代はそうではありませんでしたが、僕自身がもともと声優だけをめざしてこの業界に入ったわけでもありませんでしたし、とくに困惑するようなこともありませんでした。「やる必要があるならがんばります!」というスタンスは昔からずっと変わっていません。これまでにやらせていただいたいろいろなお仕事の経験値が役に立つことも多いですし、自分なりの表現をなるべく品質の高い状態でみなさんにご提供していくためにも日々の研さんを怠ってはいけないなと常日頃から考えています。

──キャラクターソングを歌うときは“役としてどう歌うか”を意識されているというお話がありました。それはダンスパフォーマンスなどでも変わらない部分でしょうか?

豊永 これまでずっと舞台でやってきたからこそ、役としてステージに立つことにまったく違和感はありませんし、その役として動くことが自然と身についているんでしょう。逆にそういうときにふと豊永利行が見えてしまうと「俺、なに格好つけてるんだ……」って恥ずかしくなっちゃうので(笑)。なるべく、その人物であり続けようとは心がけています。

 インタビュー第2回、いかがでしたでしょうか。次回は、豊永さんが感じる、“ガールズゲーム”についてお聞きしましたのでお楽しみに。

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