『僕の愛したジークフリーデ』魔術師と剣士…少女たちの愛憎劇を描いた松山剛先生へインタビュー

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 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、『僕の愛したジークフリーデ 第1部 光なき騎士の物語』を執筆した松山剛先生のインタビューを掲載します。

  • ▲本作の表紙イラスト(イラスト:ファルまろ先生)

 本作は魔術師の少女“オットー”が、眼帯の女性剣士“ジークフリーデ・クリューガー”に出会ったことで、運命の歯車が回りだす、ファンタジーバトルストーリーです。

 インタビューでは、松山剛先生が2人の少女の関係性を書くにあたって、設定変更をしたことや苦労したことなど裏話を教えてれました。ぜひ最後までお楽しみください!

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 本作は、タイトルにもある『ジークフリーデ』という盲目の剣士がヒロインなのですが、これは元々私が『盲目の達人』という設定が好みだったところから出たアイデアです。歴史上有名なのは『座頭市』ですが、そこを渋い男性ではなく可憐な少女でやったら面白いのではないか、と考えてプロットを出したのがキッカケです。

――本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 ヒロインが盲目の剣士ということで、主人公はそれとは違った属性にしようと考えていました。そこで『剣士』に対比する形で『魔術師』の主人公を配置しました。元々は小柄な少年という設定だったのですが、編集さんとも話し合って少女にしたほうが引き立つのではないかということになり、現状の形になりました。主人公が『僕』という一人称なのは少年時代の名残です。

――作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 著者としては『少女たちの愛憎劇』だと思っております。主人公とヒロイン、二人の少女が当初は反発しながらも、徐々にお互いに理解を深めていき、どんどん深い仲になっていくところがポイントです。そこに、かつて主人公の想い人だった王女や、切磋琢磨した後輩の少女騎士が絡み、少女たちが己の愛と憎しみを爆発させるクライマックスをぜひ見ていただければと思います。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 少女たちが激しく剣をぶつけ合う戦闘シーンも好きなのですが、旅慣れた主人公の少女が、物見遊山的に城下町を歩くような序盤の日常シーンもけっこう気に入っています。街角で大道芸人とかガマの油売りみたいに得意の治癒魔術で日銭を稼ごうとするんですが、さっぱり客が寄り付かず、ぼやいたりしょんぼりしたり、豊かな感情を披露するシーンが書いていて楽しかったです。

――作品を書くうえで悩んだところは?
 主人公とヒロインの距離感です。最初、主人公は自分の使命のためにヒロインを追い、どちらかといえば『攻め』の姿勢なんですが、それがいつの間にかヒロインの重力のような存在感に惹かれていき、気づけば引き返せない深みにハマっていく……そんな過程をどう描くかに苦労した覚えがあります。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 書いているうちにどんどん膨らんでしまい、初稿段階で三ヶ月か四ヶ月かかったような気がします。それから膨らんだ部分をどう修正するか、構成をどう組み替えるか……みたいな感じで試行錯誤し、けっこうお時間をいただきました。こう書いてみると、私の通常運転だったりするんですが……。毎度の反省点ですね。

――執筆中のエピソードはありますか?

 飼い猫が執筆期間中にちょっと体調を崩しまして、普段は食いしんぼうなのにエサをあまり食べなくなりました。心配になって獣医さんに診ていただいたら、「どこも悪いところはないですね」「歳ですね~」と言われました。家に連れ帰ったら急にモリモリとご飯を食べ始めて拍子抜けしました。執筆に関係ないエピソードですみません。ちなみに文庫本のプロフィール写真がその猫です。

――小説を書く時に、特にこだわっているところは?

 文章のリズムとか、なめらかさ、漢字とひらがなのバランスみたいなところを意識しています。作品の『面白さ』を上げるのはなかなか難しいのですが、『読みやすさ』は努力次第で上げていけるので、そこにこだわりというか、気を遣っております。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 お恥ずかしいのですが、書いているとすぐに肩や腰が痛くなってきまして、年々あまり集中力が持続しなくなっている気がします。音楽を聴いたり、コーヒーを飲んだり、マッサージしたり、休みを挟んだり……とにかくごまかしごまかしやっております。でも、そんなふうに休憩しているときに限って、ポンとアイデアが湧いたりするので不思議なものです。

――学生時代に影響を受けた人物――作品は?

 星新一さんのショートショートや、灰谷健次郎さんの児童文学などが好きで読んでおりました。星新一さんの作品には『博士』と『ロボット』の軽妙なやりとりが出て来るんですが、私も博士とロボットの話を書きたいなと思って自分でも書いたりして、電撃文庫での一作目となった『雨の日のアイリス』なんかもそういう経緯で生まれました。

――今現在注目している作家、作品は?

 二丸修一さんの『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』です。お互い第17回電撃大賞の拾い上げ組の同期で、今回の新刊も二丸さんと7年ぶりに同日発売になってとても感慨深いです。見事アニメ化を果たした二丸さんにはこの調子でどんどん駆け上がっていってほしいですね。私も刺激を受けて頑張ろうという気持ちになれます。

――最近熱中しているゲームはありますか?

(突然、遠い目をして昔話を始める松山)小学生のころ、兄弟でおこづかいをためて初代FCを買いました。そうしたら小学校卒業のときに母親が「中学生になったらもういらないでしょ?」と親戚の持ってるマッサージ機と勝手に物々交換してきました。マッサージ機を背中に当ててウィンウィンと金魚運動をしながら「ぼくの……ファミコン……」と人生の悲哀を味わって以来、なかなか新しいゲーム機を買うことができずにおります(昔話を終えてお茶をすする松山)。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 今は『ジークフリーデ』の続刊原稿を頑張って改稿しております。また、他社案件で恐縮ですが、ビジュアルアーツ〈Key〉様の新作キネティックノベル『Project:LUNAR』のシナリオを担当させていただいております。どちらもいずれ続報が出ると思いますが、よろしかったら両方ともご興味を持っていただけましたら幸いです。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 本作は、剣と魔法の王道ファンタジーでありつつ、少女たちの激情がぶつかり合う愛憎劇でもあります。己の誇りを懸けて剣を振るい、かつて愛した人とも戦わねばならない非情の宿命を背負った少女たちを、ときに可憐に、ときに残酷に書いております。盲目の少女剣士ジークフリーデの物語、ぜひご興味を持っていただけましたら嬉しいです。

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