記憶を呼び起こすきっかけの音楽になったら――吉野裕行さん新曲『アドレセンス』発売記念インタビュー
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吉野裕行さんの6thシングル『アドレセンス』が、2019年7月31日に発売となりました。
心に染み入るメロディが印象的な「アドレセンス」をはじめ3曲の新曲や、MV撮影時の裏話までたっぷりとお話しいただきました!
――まずは「アドレセンス」のMV制作時のエピソードについてお願いします。とても美しい映像に目を奪われましたが、撮影中に自身でご提案などはされたのでしょうか?
リード曲の「アドレセンス」のMVですが、曲のイメージからあのような形になっています。監督はUncle Bomb(浪川大輔さんと吉野裕行さんのユニット)の「手のひら」を撮っていただいた方にお願いしたのですが、紗幕に映像を映すという提案をしてくれました。
「アドレセンス」が人の記憶というか思い出にまつわる歌になっているので、僕自身も誰でも見たことがある、経験したことがあるような、ごく自然な映像を出してほしいとお話しをしていたところ、監督も同じイメージだったんですよね。例えば「こういうシーンがいいですよね」「象徴的なものがあるといいな」「老若男女問わず映ってくれると」と言えば「そうそう!」と返ってくるような。なので、細かい提案はしていません。ただ、僕も監督も紗幕のドレープ具合を気にしてました(笑)。
ロケ地も、何もないけどむかしここに人がいたんだろうなと、かすかな気配があるというか、人の想いがきっとあったんだろうなというものが見えるような。まったく何もないようなところやコンクリート打ちっぱなしの建物ではなく、時間の経過が見られるようなものがあったほうがいいと話をして、「それだったら、こういう場所がいいですよ」と廃屋を提案してもらいました。この場所を調べても、廃墟になってからのことしかわからないんです。
静岡まで行ったんですが、さすがに遠かったですね。
メイクや撮影準備する場所からロケ地まで、車で10~15分くらい移動しなければいけないほど離れていたし、その周りにも何もないんですよ。しかも当日は天気が悪くて……。幽霊が出るなんて話もあるくらい有名な場所でした。行ったという証拠のために写真は撮りましたが……細かくは見ていません(笑)。
――リード曲の「アドレセンス」はどのようなテーマで制作されましたか?
そもそも最初は曲名も違っていたんですよ。
いつもだと「こういうものをやりたい!」と参考の楽曲を用意してお願いするんですが、今回はタイトルから先に決めました。
コンセプトもいつものように設けていません。歌いたい曲とやりたいことを詰めていくパターンでした。
もう少し込み入った事情を言えばシングルにするかフルアルバムにするかという話もあったんです。でも、アルバムを制作するには時間も曲のアイディアも足りないので難しいなと。ミニアルバムを2カ月連続で出すとかいろいろなやり方があったんですが、シングルを出すことになりました。この後に5周年ライブもあるので、そこで歌いたいものもあるということで、今回は先にタイトルを決めることを伝えました。
5周年ライブのタイトルが“オモイデトリガー”なんですが、もともと「アドレセンス」は「オモイデトリガー」でお願いしていました。変更したのは、宮崎誠さんがあげてくれた曲を喜介さんの詞とともに曲をみたときに、非常にいいメロディでしたが「オモイデトリガー」という感じではないなと思いまして。
タイトルを変えようとなったとき喜介さんに案をいくつか出していただいて、その中から「アドレセンス」になりました。
僕が先ほどMVでやりたいと言った「誰もが経験したこと、思い当たるようなところをできるだけ入れてほしい」と、リテイクは何度かありました。5周年ライブで自分が歌うものですから、もっと自分に近いものを入れた方がよかったのかもしれませんが……ここは正直、悩んだ部分です。
「オモイデトリガー」という最初のタイトルもそうですけど、音楽が自分の記憶の呼び起こすような……景色、味、香りといったものを全部ひっくるめて「オモイデトリガー」という“きかっけ(トリガー)”になるような歌にしてほしい、曲を作りたいとお願いしました。
喜介さんが書いてくださった歌詞はすごく綺麗だったんですけど、今お話ししたように情報は目や耳、五感すべてから入ってくるわけだから、そういうのがわかるような詞にしてほしいといくつか変更してもらいました。
――では、2曲目の「モノドラマ」はどのように制作されたのでしょうか?
2曲目の「モノドラマ」も、最初は「ロンリーライフ」というタイトルでした。どちらも作詞を手掛けてくれたミズノゲンキさんが提案してくれて。曲は僕が発注したのではなく、ディレクターが持ってきました。これはバンマスの吹野クワガタさんの曲なのですが、いままで作曲をお願いしていた中で、過去に作った曲でいいなと思ってストックしていたものを引っ張り出してきたそうなんです。
最初にフルサイズで曲を聴かせてもらったんですが、メロディがずっと繰り返しで……。僕は繰り返されるとすぐ飽きてしまうタイプなんです。
なので、メロディを聴いた時、もし自分が詞をつけるなら、メロディを繰り返すワードが正解なのか、同じことを繰り返すのか、似ている韻を踏んで違う表現をするのか……いろいろあるけど、どうしたらいいんだろうと。
手法に意識がいってしまって、どうすればいいかわからなくなってしまったんです。ひとまず何かテーマを出そうとなって、いくつか考えたんですがそれでもスッキリしなくて。
そこでディレクターが「独身男性あるあるやりませんか?」と言ってくれて、それはおもしろそうだなと思いました。
歌詞については少し気になった部分があったんです……。最初にミズノさんからいただいたものはやはりというか、中身が若かったんですよ。自分もいい年になってきたから、そんな簡単じゃないんだぞと(笑)。もう少し年相応な内容にしたいということで、結果半分くらいは変わったかもしれませんね。
いいなって思う部分もあったのだけど、僕の中ではそうじゃないと。全部を否定したいとか、自分だけを肯定したいとかじゃなくて「現状、こうなってるんだ」というのを普通に言いたいだけなんですよ。モヤモヤとした、なんというのか……指示を出すときも、このモヤモヤしている感じがうまく言えないから、最後は「“あーあーあーあぁぁぁ……”みたいな気分なんですよ」というような抽象的な指示も出して。その結果、リテイクで変わっていきました。
ミズノさんは「手のひら」でも作詞をしていただきましたが、武蔵と小次郎をイメージした描写について「これだと全部同じ人に見えるから、変えてください」と細かく変えてもらったことがあります。「手のひら」も最初はあんなわかりやすくないものじゃなく、もっと難しい感じだったんですよ。
こうした過去のやりとりがあったから、ちゃんとオーダーに応えてくれると思っていましたし、調整をお願いしたらいい塩梅になって戻ってきました。Dメロとか変わるところも「うまいこと言ってくるな」と思いました。細かいことを言えば、僕はシャツを普段あまり着ないけど“干からびた襟のシャツ”とか入っています(笑)。1回リテイクした時点で「ああそうそう、大体こんな感じ」になったんですけど、最後のオチの一言がすっきりしなくて、さらに直してもらって「燻ってるんだ」になりました。
――3曲目の「正直」はいかがでしょうか?
3曲目の作詞・作曲はyouthKさん(佐伯youthK)ですね。最初にいただいた曲がすごくオシャレな曲だったんですけど、僕もディレクターも「これは僕が歌う感じじゃないね」って意見になって。もう1度お願いして、改めて届いたのがこの曲です。youthKさんは鍵盤で曲を作られるんですけど、これはギターの演奏がメインになると仰っていて、曲を聴いてもどういう仕上がりになるのか全然わからないまま歌っていました。
ジャンル的にもバラードなのか、ディレクターに聞いてもわからないねって話していて、そんな中でワンコーラス分の歌詞をつけていただきました。使いたいものがあれば使うし、そうじゃないものがあれば変えると仰っていただけたんですが……1番はほぼそのままじゃないですかね。
僕は「壊れた器に水を注ぐようなもの」というフレーズが好きだと、返したと思います。
もともとは「嘘と優しさ」というタイトルで発注していたんですが……実はそのことをすっかり忘れていて(笑)。これは僕がやらせていただいているラジオのコーナーの中で「A:嘘」「B:優しさ」という2択のようなシーンがあって、もう「嘘と優しさ」ってタイトルの曲みたいですよねと話していて、いつかどこかで実現しようと思ってメモしていたものなんです。フルサイズで作ってもらうとき、ディレクターへ「歌詞のテーマを決めないとまずいのでは?」と言ったんですが、「もう“嘘と優しさ”で発注したじゃないですか!」と返されてしまいました(笑)。
フルサイズになったとき、いくつか歌詞に気になる点があって……。意味が気になるところとか、こういう表現でいいのかなとか。ディレクターに「英語の歌詞が入るとちょっと流れがよくなる」と言われていたので、今回それがないけどとか。
自分が思ったことやわからない部分をyouthKさんにお伝えしたんですが、1つずつちゃんと答えてくれて。全部スッキリしたので「これで大丈夫です!」と進めました。
――「正直」というタイトルになったのは、どんなタイミングだったのでしょうか?
youthKさんがフルサイズにした時点で「正直(仮)」となっていました。発注してたからと言って別に「嘘と優しさ」で固める必要はないし、ちょうど歌詞の中でも正直という言葉は多くありますしね。
この3曲が集まってなんとなく感じたのは、「アドレセンス」はライブでもやるための曲というイメージがあって、「作りたい!」から始まっています。
でもほかの2曲は、そういった意味では「こういう音楽をやりたいんです!」というのではない。タイトルを先にお願いした部分もありますが、だいぶイメージが掴めず苦戦しましたし、やっぱりコンセプトはないよねって。いつもどおり思いました。
前にも男のワガママな歌として作った曲もありましたけど、今回は2曲目も3曲目もどちらもワガママだなって思うんです。オシャレだし綺麗な部分もあるけど、内容的にはワガママだよねと。皆さんからはどう見えるんですかね……男性目線の曲ですから、とくに女性はどう思うのかな。おもしろい組み合わせになったと思います。
――レコーディングでは、どのようなやりとりをされたのでしょうか?
レコーディング全般で言うと、今回はファルセットの部分が出てきて難しかったですね。やはり、まだ本格的なファルセットは出せないというか……出たり出なかったり、ファルセットぽいのしか出ないみたいな感じですね。「アドレセンス」「モノドラマ」「正直」という順で録ってたんですが、「正直」が一番イメージを掴みにくかったです。詞が分からないとかでなく、メロディとの寄り添い方が苦労しました。
「アドレセンス」はMVが必要だというのもあるので早めに作業して歌っていたんですけど、音が高かったですね。出だしから高い! AメロBメロからいきなり全開で歌うことないじゃんと。そんな苦労もありました。いつも思いますけどレコーディングって不思議なもので……前にやったことが生きてくるというか、それが必要になるんです。もちろんそれだけでは乗り切れないとか、今回は必要ないということもあるんですけど。
3曲とも仮歌とかの時点で「これは歌えるのかな?」と思うことがとても多かったです。とくに「モノドラマ」は最初にメロディを聴いた時は繰り返しで難しいし、歌詞が決定するまでスッキリしませんでした。「アドレセンス」で頭がいっぱいになってしまい、終わってから次の「モノドラマ」と進んだんですが、その時点では僕のやる音楽ではないし、イメージもわかないし、全然気持ちが入らないと思ったんです。
ディレクターにも「吹野さんが作ってくれているから嬉しいけど、僕はやりたくない曲はやりたくないし、自分がいいと思わないものは嫌だよ」と正直に言いました。それから「独身男性あるある」のアドバイスがあって、それがおもしろそうだとなって。ミズノさんも若い内容から歌詞を変えてくれて、ここから楽しくなってきて歌い方のイメージも掴めました。
3曲目の「正直」はキーが高くて、youthKさんが歌っていた仮歌より半音下げて歌いやすいようにしています。「正直」はAメロが低くて、Bメロとかサビになるとやっと少し歌いやすくなってくるというか……しかもリズムが跳ねていて、でもあまり跳ねを意識してしまうとちょっと違う……。仮歌を録った時はまだ鍵盤バージョンで、レコーディングの前にギターバージョンが来たんですけど、ギターになったら「全然違う曲だけど!?」となりました。歌いやすいところもあるけど、やっぱり出せない部分もあるし、なかなか自分の中に落ちてこなくて……どうなるのか最後までわからなかったですね。
――CDジャケットはどのようなイメージで制作されたのでしょうか?
ジャケットを見てもらってもわかるとおり、「アドレセンス」というタイトルの意味に近づけているんですけど「曲と全然違うじゃん!」みたいになってます。そういう人なんですよ、僕って(笑)。
今回のジャケットをどうするか話したとき、世の中に合わせて「ジャケ買いしたい」とか「インスタ映えするようなものにしたい」と。そういうところから、歌詞のイメージとかは完全に無視してやりたいことを優先しました。
こういうのだと「“Do it”みたいなのものがくる?」って感じですけど、曲は映画のラストシーンみたいだし、MVもそうだし、全然違うでしょーっていう。僕はそういう、ちぐはぐなのが好きみたいでニヤニヤしてみていますね。結果としてそうなったんでしょうけど、それでいいなと。そういう意味では、Uncle Bombのほうがまだコンセプトがちゃんとあるかもしれないですね。
「dimension」も、あえて映画音楽というところでいろいろなものを集めたという結果ですから。
――最後に、読者へメッセージをお願いします!
6枚目のシングルとなりましたが、浪川さんも6枚目のシングルが出たので並びましたね。今回もやりたいことをいろいろやらせてもらいました。吹野さんの曲だったり、youthKさんの曲だったり……とくに吹野さんの曲は、ディレクターがずっと温めていたものをアレンジしたものですし、同じように歌詞のアイデアもディレクターからですかね。
もちろん中身についてはいろいろ意見しましたが、全部自分でイメージして「こういうことをやりたい!」と作れる場合もあれば、与えられたもののなかだけでも、楽しくなったりいい曲に仕上がったりもするんだなと感じた1枚になりました。少し不思議な出会いですよね。
「次にこういう音楽やりたい」とか「こういうタイトルの曲を作りたい」といったことを、できるだけ早いうちにディレクターに言うようにしてるんですよ。ディレクターもそれをメモしてくれていて、新作を作るときには「前に言ってたあれを進めますか」と言ってくれます。そういうのはディレクターのおかげですよね。
デビュー5周年ですし、ライブもあります。「アドレセンス」は、もちろんそういうところをイメージしている曲ですが、それ以外はいつもどおりやりたい曲というところで始まったのと、不思議な縁で歌わせてもらった曲なので、僕自身も少し不思議な1枚になっていると思います。
リード曲「アドレセンス」を聴いてもらったらわかると思うんですけど、人の記憶や思い出……何かを思い出すきっかけになるような曲を作りたいと作ったので、皆さんの日常の中で過去にあったいろいろなシーンがよみがえるような……助けになるというか、そういう1曲になってたらいいなと思います。
カップリングの2曲もだいぶ雰囲気の違う曲になっているので、それぞれ楽しんでほしいですね。皆さんもこのジャケットに騙されて(笑)、聴いて衝撃を受けて、MVを見て衝撃を受けてくれたらいいなとニヤニヤしています。
――ありがとうございました。
商品情報
発売日:2019年7月31日
タイトル:「アドレセンス」 【豪華盤】/ 【通常盤】
価 格:
【豪華盤】2,000円+税
【通常盤】1,400円+税
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