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滅びゆく世界への郷愁に満ちた『Minute of Islands』に心が揺さぶられ、眠れないまま朝を迎えた【電撃インディー#31】

まさん
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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回はStudio Fizbinが開発、Mixtvisionが販売を手掛けるPC(Steam)/Xbox One用ソフト『Minute of Islands』のレビューをお届けします(国内のPS4/Switch版はH2 INTERACTIVEから今夏配信予定)。

※今回は“DIRECT GAMES”より手に入れたデジタルキーでSteam版をプレイ! ちなみに、ちょっとお得な価格でダウンロードできます。

 なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

死にゆく世界を背負わされた少女の旅路は、残酷で美しい

 プレイヤー自身が操作して体験することで、言葉にしなくても登場人物の気持ちに寄り添ってしまう。その運命がどんなに辛いものでも目を背けることができず、クリアするまで遊ばないと気が済まない。

 この『Minute of Islands』は、久々にそんな気持ちを抱く絵本のような作品でした。この原稿もクリアした余韻が残った状態で、一気に書き上げています。4時間から6時間程度でクリアできるボリュームですが、心にくる映画を見終えたような感慨がありました。

 そもそも、ゲームを始めたときに出る警告文に驚かされたので身構えてはいたのですが、悲しい場面はあっても大きくショックを受けるような残虐な描写や意地悪な表現は(個人的に)ないように見えましたし、とても真摯なメッセージが込められた作品だと感じました。個人的にも、遊んで良かったゲームです。

 本作の舞台は、人間や動物の心と体をむしばんで死に至らせる“胞子”によって滅びゆく世界。プレイヤーは、巨人が残した“胞子を浄化できる装置”を修復できるただ1人の少女・モーを操作して、彼女の旅を見ていくことになります。

 プレイヤーが操作するキャラクターではあるのですが、モーの心情や台詞は常にナレーションを通して語られるのも大きな特徴。物語を読み聞かせられているような感覚でありながらも、自分自身で操作することでモー自身にも感情移入できる不思議な一体感があります。

 メインストーリーだけを見ていくのも良いのですが、遊ぶうえで必ずやって欲しいことがあります。それは、世界の隅々まで歩いて調べられる場所を調べ、「思い出す」コマンドで“記憶のかけら”を集めていくこと。

 集めなくても物語を読み解くうえでは問題ありませんが、作品への思い入れが大きく変わります。このゲームの魅力でもある、詩的な物語を読み解きながら世界へ没入していく感覚を味わうためにも、じっくりとこの世界に起きた悲劇と人々の生活の跡を観察し、モーの冒険を見守ってあげましょう。

 有機的な生命体に見える機械の描写と、常に空気中を漂う黄色い胞子。人々が捨てて行った、捨てざるを得なかった生活の跡。

 自然と機械がごちゃまぜになった島々の風景を描いているグラフィックは、どのシーンもアートとして成立するくらい精緻で見ごたえがあります。このアートを見ていくだけでも遊ぶ価値のある作品です。

 インタラクトできる場所を“調べる”ことでわかる島の様子や、平和だったころの人々の名残。“記憶のかけら”を取ることで断片的に語られるモーの想い出。終わってしまった世界を懐かしむように、それでいて淡々と語られていく過去の出来事。

 テキストとビジュアルが紡ぎ出す終末の情景は美しさと物悲しさがあり、モーが体験する出来事と合わせて忘れがたいものになるでしょう。

 調べることで「何があったから彼らはどう思った」のではなく、基本的に「何があった」という事実だけを淡々と流してくるテキストが、逆にさまざまな物を想像させてくれます。

 世界を浄化するために働き続ける“4人の巨人”たちと、毒の胞子に覆われた世界という『風の谷のナウシカ』のような終末の雰囲気も絶妙です。

 世界を救えるわけではなく、ただ延命させるためだけに働くモーと、彼女と理解し合えなくなった家族との関係は、心に訴えかけてくるものを感じます。

 遊び続けながらモーと同じタイミングで涙を流している自分に気がつくくらい、辛いことも、やるせないこともあり、それでいて少しだけ温かな物を感じる物語に引き込まれました。

難しいゲームではないからこそ、話に入り込めてグッとくる

 本作をジャンルとして分けると2Dのパズル&アクションゲームに分類されますが、難しいゲームではありません。ゲームとして見ても目新しい要素はなく、パズルと言っても画面の指示に従って軽いギミックを解いていくので適度な難易度です。

 アイテムを差し込む場所や、次に行くべき場所も誘導してくれます。そういった意味では、非常にわかりやすいゲームです。

 ジャンプもできますし、ぶつかってはいけない物を避ける場面もありますがそこまで難しい操作や難解なギミックはありません。

 パズルもアクションも、プレイヤーが世界を掴んで“お話”に入り込むためのフレーバーとなっています。しかしながら、それによって生じる没入感が段違い。滅びゆく世界を歩きながら在りし日の人々を思い返していく……。

 自分が崩壊した世界を描く作品に弱いこともありますが、やるべきことをやるためにひたすら進むモーの姿にセンチメンタルな感情が呼び起こされ、心を鷲掴みにされそうです。

 ポイント&クリック型のアドベンチャーではなく、自分で動かせてある程度のギミックに挑めるアクションアドベンチャーではあるものの、基本的には簡単。行くべき場所、やるべきことも1本道で難しくないので、最後までお話に集中できる作りになっています。

 直接的にキャラクターが心情や現状を語るのではなく、考察しがいのある世界を自分の目で見て回りながら、最後に自分の中でテーマがわかったような感覚になる。こういうのをナラティブなゲーム体験と呼ぶのでしょうか。

 登場人物も、語られる出来事も少ないのですが、とても心に残る作品です。私は自分に近い立場として、モーを心配してくれる「おじさん」に感情移入してしまいました。いい人だ、おじさん……。

 本作は世界を救う物語ではなく、あくまでも滅びに抗いながら世界を延命させているモー個人に焦点を当てた物語。モーが抱える孤独感や家族との関係を描いているもので、人によっては納得がいかないままに終わるかもしれません。

 冒頭で紹介した“内容の警告”のように、万人に合う物語ではない可能性もあります。直接的な残虐描写があるゲームではないのですが、崩壊した終末の世界ということで描かれている物事はどうしようもなく、やるせないです。

 ですが、自分はやはりこのゲームは心に残る素晴らしいものだと思いますし、最後までモーの冒険を見守って良かったと思っています。

 アートとテキストが紡ぐ世界の美しさと物語が最大の魅力ですし、あまり具体的に語るとネタバレになってしまうのでこの辺りでやめておきます。残酷であり静謐な美すら感じる“死”の描写。どうしようもない世界に対して小さな体で抗うモーと家族の間にある絆と断絶。

 自分は美しいアートで描かれる残酷な物語に感情を揺さぶられているうちに、気が付くと朝になっていました。眠る時間を忘れて夢中になってしまうおとぎ話のような本作。

 実際に動かして遊ぶことでこそ成立する感情なので、ぜひその目で、その手で、その耳で、モーの物語を見届けてください。


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