『返校』開発者に聞くインディーゲームの開発と映画化のポイント。制作時には映画に適した表現を監督と模索

キャナ☆メン
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 映画『返校 言葉が消えた日』が国内で7月30日より全国ロードショーを迎えることに合わせて、電撃オンラインでは、同映画の原作ゲームである『返校 -Detention-』(以下、返校)のプロデューサーを務めたヤオ・シュンティンさんにインタビューを行いました。

 『返校』は、台湾のRed Candle Gamesが開発したインディーゲームで、1960年代の台湾を背景にしたホラーアドベンチャーゲームです。当時の台湾は、1947年の二・二八事件を発端とした、40年の長きにわたって続く戒厳令の真っ只中にあり、国民党による厳しい監視と政治的な弾圧が行われていました。

 『返校』の物語は、架空の学校である翠華高校を舞台としながらも、その暗い歴史に焦点をあてたシナリオが展開。想像力をかき立てるストーリーテリングとホラー演出とが相まって、真に迫った人間ドラマがプレイ後も強く心に残る作品となっています。


  • ▲画像はゲーム版『返校』のもの。

 インタビューでは、ヤオさんに映画『返校 言葉が消えた日』についてだけでなく、開発中の新作を含むゲームについて、話をうかがいました。

 なお、記事の最後には原作や映画に対する筆者の感想(ネタバレなし)も添えておきますが、まっさらな気持ちで作品に触れたい方は、インタビューを見終えた時点でページを閉じていただけるとありがたいです。

  • ▲ヤオ・シュンティンさん

『返校』開発者のヤオさんにインタビュー。原作ゲームの開発から映画化の話まで

――原作ゲームは、ホラーと社会的な問題を内包したアドベンチャーであり、ある意味で2つのジャンルを融合した作品になっています。このようなゲームを開発しようと考えた理由を教えてください。

 実は最初、私はゲーム開発について勉強しながら、1人でインディゲームを作ろうと考えていました。勉強と平行してアイデアを練るうちに、ある種の“自分の考え”を表現できるゲームにしたいと思ったんですね。

 またゲーム中には、台湾の風習や文化も取り入れようと考えていて、それらはホラー的な恐怖を呼び起こす要素と相性がいいことにも気づいたんです。

 そうして開発を行っているうちに、チームが結成されることになり、仲間との議論を経て最終的には今のような形になりました。


  • ▲画像はゲーム版『返校』のもの。

――インディーゲームの映画化は、世界の中でもチャレンジングで素晴らしいことだと思います。ヤオさんは『返校』の映画にどのような形で関わっているのでしょうか?

 私が主に関わったのは、実際に撮影が行われる前の段階です。当然、権利の問題についての話し合いなどもありましたが、一番深く関わったことを挙げるなら、ジョン・スー監督と脚本を詰めていく段階でしょう。ゲームと映画は表現が違うので、監督とはさまざまな議論を重ねました。

 ただ、撮影が始まった後は監督にお任せしています。私たちRed Candleはゲームスタジオですので、映画製作には詳しくありません。私自身、撮影がどのように進むか具体的にはわかりませんので、そこに口を挟むことはしたくありませんでした。

――映画化の話が動き出した時、ヤオさん自身はどのように感じましたか?

 映画会社といろいろ連絡を取り合って、最終的にはジョン・スー監督がプロジェクトを担当することになったのですが、実を言うと、最初は少しだけ不安を覚えました。というのも、監督のそれまでの作品はキャラクターをコミカルに描くことが多く、作品のトーンが『返校』とは異なると感じたからです。

 ただ、監督は大のゲームファンですし、実際に彼と会って話してみると私たちのゲームを熟知されているだけでなく、映画化にあたって自身の考えを明確に持っていたので、不安は払拭されました。

 具体的には、『返校』は政治的・社会的なテーマを内包していますが、もし映画が公開されたらどのような影響をもたらすか、それについても監督は自身の考えを持って理解していました。ですので、実際に会ってからは話が順調に進みましたね。

――映画化に際して、監督とさまざまなディスカッションを行ったと聞きましたが、もう少し具体的にうかがってもいいですか?

 基本的に、ジョン監督と議論する内容は段階に分けて行いました。まずは監督がプロットを作って流れを考えます。それを私たちに送ってくれて、こちらで確認して返事をすると、その内容を盛り込んだ修正案がまた送られてくる……というやりとりを繰り返しました。脚本についてもほぼ同様です。

 議論の内容は主に、キャラクターの登場の仕方やストーリーの展開についてですね。ゲームの要素をどのように盛り込むかは、映画と表現の違いもあって難しかったですが、ゲームを構成する要素を細かく分解し、1つ1つ映画に適した表現を監督と探していきました。

――映画の中で、これを達成できたことが一番感慨深い、もしくはヤオさんの一番好きなシーンは?

 私たちはインディゲームの開発者なので、当然、コストや技術的な問題による制限がありました。ですが映画化する際は、私たちのゲーム開発よりも予算があって、技術的にもCGによる演出を使うことができました。

 例えば、原作ゲームとは異なる映画ならではの表現になっている点の1つとして、ゲーム中に登場する“地獄の使者”は、映画だとCGで表現されて迫力ある姿で描かれます。あのシーンを実際にスクリーンで観た時には感激しました。

 ただ、私が一番好きな場面は映画のエンディングのシーンです。具体的にどのようなシーンかを語ることはネタバレになるので控えますが、あのシーンは、特別な余韻を与えてくれると思いました。

――あのエンディングは私も同じように感じました。話はゲームに戻りますが、Red Candle Gamesの皆さんが、ゲームを開発する上でもっとも大切にしていることは何でしょうか?

 正直にお話しすると、私たちのゲーム開発は“混沌”そのものと言えます。設立当初のRed Candleは6人しかおらず、その全員が個人か小さなチームの開発者でした。そのように小規模なチームだったため、例えば誰かが特定の箇所だけを担当するであるとか、大規模なゲーム開発にあるような明確な分業を行っていません。

 けれどもゲームを構想する段階では、全員で議論してアイデアを出し合います。インディーのクリエイターが集まったチームなので、それぞれがゲームに対して独自のアイデアを持っていますし、私たちには、各自のアイデアを出し合うことが重要です。会社としてもそれを推奨しています。

 ですが、皆で次々にアイデアを出し合うと開発で苦労することもあります。事前に計画を立てても、実際に開発を進めると次々に問題が出てきます。時には、ある程度まで開発を進めた段階で、振り出しに戻って作り直すことが必要になるケースもあるので……。ですから、現場はカオスそのものですね(笑)。

  • ▲画像はゲーム版『返校』のもの。

――今年3月に、開発中と思われるゲームの動画が公開されましたが、次の作品も独特なストーリーテリングとホラー性を持つタイトルになる予定ですか?

 今は詳細を明らかにできる段階ではなく、また実は、私はこの新作に深く関わっていないのでお話できることは限られています。

 ですが、私たちRed Candleは第一にゲーム性を重視していて、新作は少なくとも今までの2作品と方向性が違うと考えてもらって結構です。そうした中で、私たちのストーリーテリングのスタイルも維持していこうと思っています。

 先ほどの話とも関連しますが、Red Candleは個人開発者が集まってできたスタジオですので、新しいゲームが生まれる出発点は、皆でアイデアを出し合うことです。議論の中で、みんなで「これがいいね」と思うアイデアが生まれた時、ゲーム開発が動き出します。

 それと1つ確実に言えるのは、「皆さん、このゲームにご期待ください」ということですね!

動画“Work in Progress”

――原作ゲームのプレイヤーもしくは映画に興味を持った方へメッセージをお願いします。

 『返校』のゲームと映画は、物語の主軸はいずれも同じですが、表現においてはかなり異なります。2つの作品はどちらも、皆さんに特別な体験をもたらすと思います。ぜひ映画を観て、ゲームもプレイしてみてください。

――本日はどうもありがとうございました。


戒厳令下の人間ドラマが心の奥底にまで届く物語

 原作『返校』は、恐ろしくも物悲しい世界観での謎めいた体験、その体験にともなう小さな疑問がストーリーとして繋がり始めると、まさかという衝撃的な展開に心奪われ、ひどく想像力をかき立てられるゲームでした。

  • ▲画像はゲーム版『返校』のもの。

 別の言葉にすると、物語を“見せる”のではなく、プレイヤー自身に“悟らせる”作品ということです。そのゲーム版の秀逸なストーリーテリングは、映画版にも通じるところがあります。

 映像的な表現は異なるものの、恐怖と謎に包まれた出来事の中で衝撃の真実が露わになると、ストーリーは一気に加速して登場人物らの内面が繊細に描かれていくのです。

 その展開に心が揺さぶられる感覚、言わば作品から得る“体験”は、脳裏にゲームの体験を想起させ、それを自覚した瞬間はハッとするものがありました。

 また、両作品ともストーリーが動き始めると、戒厳令下の台湾という歴史・社会背景が登場人物らの心理描写と結びつき、物語に対する解釈をいっそう深めてくれます。

 ゲームも映画もテーマは重いですが、心の奥底にまで届く物語は、人それぞれの胸に何かしらの糧を残してくれるはずです。

 そして映画版は、インタビュー中でもヤオさんが語っていますが、エンディングのシーンがとてもいい余韻を残して心にしみます。原作で結末を知っている自分の場合は、ラストで目にした“表情”に心を救われました。

 映画『返校 言葉が消えた日』は7月30日よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショーで、ゲーム『返校』の日本語版はNintendo Switch/PC/iOS/Androidでプレイ可能です。未体験の方はぜひ。

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