死にゲー初体験。息をするように死がサクっとやってくる『LIMBO』が私に教えてくれたこと【電撃インディー#76】

江波戸るく
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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は、Microsoft Game Studios/Playdeadより配信中の『LIMBO(リンボ)』のレビューをお届けします。

 本作が世に送り出されたのは今から11年前、2010年の7月21日です。当初はXbox360向けとしてリリースされましたが、今はさまざまなハードで遊ぶことができる作品となっています。

 なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!


※“PlayStation Now”のラインナップにも含まれています。

息をするようにサクっとやってくる“死”

 難易度が高い、またはゲームオーバーになりやすいポイントが多い、といった特徴を持つ“死にゲー”。私は今まであまりプレイしたことがなかったのですが、『LIMBO』でその魅力の一端を垣間見ることができました。

 アクションゲームは得意、と自信を持って言い切れはしないものの、プレイした経験が皆無というわけではありませんでした。なので、これくらいシンプルな操作の作品ならやりやすそう! というのが本作を手に取った理由なのですが、待ち受けていたのは……。

  • ▲そんな死に方、ある……? と思わず言ってしまいます。容赦なさすぎる。

 最初の1時間で何回やられたのか。おそらく20回は越えていたと思います。

 トラバサミに挟まれて文字通りバラバラになり、奈落の底に落ち、倒木の下敷きになってプチっと潰され、謎の巨大蜘蛛にサクっと刺されて放り投げられる(落ちたあとの体の曲がり方が恐ろしいことに)……。世界すべてが敵なのではないか? と思ってしまうほど、主人公である少年をあらゆる罠が襲います。

 “ガシャン!”という音がして、え、何事だ!? と思ったら、操作していた少年がバラバラにされている……このトラバサミは一体どれだけ鋭利なのか、というツッコミよりも先に、呆然とするほかありませんでした。「えっこれ……死……?」と、認識するのに数秒かかるほどです。

 本作にはBGMがないため、少年を襲うギミックや、ステージ内の仕掛けが動いた(動かされた)時に音が鳴るのも、絶妙に恐怖を煽ります。夜の道を歩いていて、何気ない物音にビクッとなった経験が誰にでもあると思いますが、それに近いものを感じました。

 その音もやたらとリアル。非現実な空気が漂う世界の中に、自分がいる現実に近いものがあると、画面の向こうのものがこちらへ来るのではないか、という奇妙な気持ちにさせられます。


  • ▲意外と運動神経よさそうな少年。蜘蛛の足を引っこ抜くアグレッシブさも。

 死んで覚えなければ、この理不尽な世界を進んでいくことはできない……。あそこが怪しい、と踏み入る前に気付いて死を回避できたこともありました。が、大半はバラバラになったりグッサリと刺されてから「そうすればよかったのか!」と突破方法に気が付く流れでした。少年、とても申し訳ない。

 ただ、なかなか越えられない場所で試行錯誤してようやく突破できると、達成感があります。それで気が緩んで警戒せずに進んでいくと、再び“死”が襲ってくるのですが……。

 また、同じ場所のギミックに繰り返し挑んでいたら徐々に集中力が切れてきてしまい、最初は越えられたところであっさりと死んでしまうことも。「あ」と、つい声に出た時には既に遅し、ということが何度もありました。

  • ▲いのち、なんとあっけない……。

 17歳以上を対象年齢としているだけあり、なかなかに凄惨な死を何度も迎えているのですが、モノクロで造り出されたグラフィックがうまくぼかしてくれています。グロテスクな表現が苦手な方でも、本作なら大丈夫……かも?

  • ▲でもやっぱりえげつない。

 少年の行く手を阻む仕掛けも手ごたえあり。パズルのようなものもあり、中にはギリギリのタイミングで飛び移ったり、駆け抜けたりするのを要求されることも。

  • ▲特に苦戦したのはここでした。何度感電死したことか……。

  • ▲何かに使えそう? と気にかけていたものが突破のカギになることもありました。

どこか幻想的、だけど残酷。美しさと恐ろしさが同居する世界

 本作はキャラクターの台詞がなく、オープニングに該当するものも特に存在しません。森で少年が目覚めるところから始まり、何が起こっているのかも分からないまま、死があちこちに転がっているこの世界を進むことになります。

 そんな少年の行く手に広がる光景は白と黒、或いはそれに近い色だけで構成されています。ある意味目の眩むような、それでいて懐かしさを感じるような、奇妙な世界だと思わざるを得ませんでした。

 そして周りが見えない暗闇の中でも、少年の命を奪う罠に慈悲はありません。一体なぜ、こんなものがあるのか? そもそもここは何なのか? 疑問は沸きますが、理由は語られず。

 ただ、ダウンロードページにはこのような一文がありました。

 運命に逆らい、妹を探して少年はLIMBOの世界に足を踏み入れる

 少年の目的は妹を探すこと。なるほど、大切な身内を探していたからこそ、あんな恐ろしいものにも怯まず立ち向かえたのだな……と納得。何の運命に逆らったのか、という部分が気になりますが、そのあたりの解釈はプレイヤーに委ねられている、といったところでしょうか。

 本作のタイトルである“Limbo”という単語には、辺獄という意味もあるようです。この言葉のない物語においてどういう意味を持つのか、というのも含めて、考察しがいのある作品だと感じました。

 あちこちで吊り下げられて絶命していそうな人間がいたり、池に浮いてぴくりとも動かない“誰か”を足場にして対岸へ渡ったりと、真っ先に抱いた感想は「じ、地獄……?」だったのですが、それに近すぎず、遠すぎず……というような場所なのでしょうか。


 少年にとって本来は立ち入ってはならない場所だったのではないか、妹がここへ来てしまったから連れ戻そうとしているのではないか、など、静かな怖さを秘めたような本作を前に、あらゆる想像をしてしまいます。

まとめ:『LIMBO』は諦めない精神を鍛えてくれる作品

 気になる部分を補完したい、という気持ちもあり先へ進んで行ったのですが、トータルで60回以上は少年を(さまざまな形で)大地に還してしまった気がします。……正確に数えられていないので、それ以上の可能性はありますが。

 慣れていない序盤のほうが比較的やられてしまった回数は多いのですが、中盤以降は同じポイントで10回以上ゲームオーバーになることも……いや、だいたい直前からやり直せるので、ゲームオーバー、よりは“死に戻り”という表現のほうがいいのでしょうか。

 どうにかクリアまで到達しましたが、本作を通して、諦めなければ突破できるという、忘れていたものを取り戻したような感覚が残りました。これが“死にゲー”の魅力……!

 独特な作風を持つ『LIMBO』。死にゲーが初めて、という方にもオススメできる作品だと言えるのではないでしょうか。

※画像はNintendo Switch版のものです。
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