『ロストジャッジメント』のドラマから受けた衝撃。語りたくなるストーリーのおもしろさとは?
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- キャナ☆メン
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セガが9月24日に発売するPS5/PS4/Xbox series X|S/Xbox One用ソフト『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』(以下、ロストジャッジメント)について、物語に焦点を当てたレビューを掲載します。
『ロストジャッジメント』は、木村拓哉さんが主人公の探偵・八神隆之を演じていることで話題になったリーガルサスペンスアクション『ジャッジアイズ:死神の遺言』の続編です。
ゲーム的には、バトルや調査アクションなど前作からの要素に広範で改良の手が入っている他、多くの新システムを搭載した内容で、プレイの幅が広がりつつゲーム性が深まった作品になっていると思います。
今回はレビューを2回に分けて掲載し、本記事では物語をメインに感想をお届けします。なお、物語の具体的な内容は公開済みの情報以上のことを載せませんが、感想としては、クリアまでプレイして思ったことも含めて書くつもりです。
また、今回のプレイはPS4版を用いており、掲載している画像についてもPS4版のゲーム画面となります。
趣の異なる2つのドラマが八神の人間性を掘り下げる
今作における物語は、大きく分けてメインストーリーとユースドラマという2本の柱が存在します。ゲームクリアに必須なのは前者だけで、後者は導入部分を除いて好きな時に遊ぶことができ、クリア後のプレミアムアドベンチャー(クリアに必須でない要素を自由に遊べるおなじみのモード)でもプレイできます。
メインストーリーは、痴漢で捕まった警官・江原明弘が、その実刑判決を下される法廷で、横浜で発見されたばかりの腐乱死体の身元を言い当てたことにより、物語が大きく動き出します。
死体に対して“イジメで自殺した息子の仇”であると発言しながらも、死亡推定時刻に痴漢を犯した江原に犯行は不可能。そこに隠れた真相があると睨んだ担当弁護士の城崎さおりは、元同僚である八神に、痴漢と殺人の2つの事件の関わりについて調査を依頼する……という流れです。
メインにおいては、桑名仁など新たな登場人物が前作に輪をかけて癖のある個性を放っていて、まずそこに惹かれました。新旧の癖と癖のぶつかり合いに、ニヤリとさせられるような。
しかし、そうした個性を一皮むいた先にあるものが、このシリーズの真骨頂です。どの登場人物も挫折の中で大切なものを取りこぼして生きる“哀愁”と、何をなくしても最後に残る“決して譲れないもの”があり、それを互いにぶつけ合う“熱さ”が、心にガツンとくるドラマを描き出しています。
一方でユースドラマでは、メインの物語とも関連して部活の外部指導員として高校に潜入調査をする八神が、メインとは異なる事件で高校生や若者を相手にする物語が描かれます。
ユースドラマはオムニバス形式で展開し、それぞれ主要人物が異なる10本のシナリオを任意に近い順番でプレイできます。そしてそれらが1つの大きなストーリーを形作っている、という凝った内容で、これがまたゲームの自由度とすごく合っている!
話の趣もメインとは異なり、若者の苦悩を描く青春のシーンと、その青春に刺激される八神の姿は新鮮です。
前作をプレイした人なら知る通り、八神は青春時代に悲しい事件に見舞われて、人生の転換を余儀なくされましたよね。でも、そんな彼だからこそできる若者たちへの寄り添い方は、優しさが胸に染みてくるドラマ性で胸が温かくなります。
また、ゲーム全体を通して木村さんの演技がすごくよくて、シナリオと相まって八神のさまざまな人間性を引き出していることも特筆しておきたいポイントです。メインとユースドラマの2つを通して、八神のことがますます好きになりました。
ストーリーに心動かされていく体験
上で書いた内容も踏まえて、メインストーリーの感想ついては、ここからが本題となります。
結論を先に書くと、エンディングを迎えた時、心の底からおもしろいと感じるゲームでした。ただ、そこにある感情が喜楽だけかと言うとそうではなく、『ロストジャッジメント』の物語には、喜怒哀楽すべての感情が渦を巻くように、大きく心を揺さぶられる体験があります。
順を追って書くと、まず本作の物語が扱うモチーフの1つに“イジメ”があります。しかも現代日本を舞台に、あの映像クオリティとフォトリアルな表現で描いている。物語中でどのように描写されるのか、筆者もずっと気になっていたし、同様の人も少なくないと思います。
ただ、例えるならイジメはストーリー全体の奥底に編み込まれた糸で、どこか一部分をたぐり寄せても物語という織物の形を歪めてしまう可能性があります。だから、ぜひ実際に自分の目と心で体験して、そこで感じたものを“エンディングまで”積み重ねてほしいです。
とはいえ何も書かないと記事にならないですし、体験の邪魔にならない(と思う)範囲で触れておくと、本作は物語として非常に丁寧かつ真摯にイジメを描いています。作品内には異なる経験、立場、考え方を持つさまざまな人間がいて、それぞれの視点から真剣に意見をぶつけ合っている。一面的な切り取り方ではないし、メッセージを押しつけられる感覚もない。
そのうえで、物語に描かれているものの主体は登場人物のドラマです。ドラマを表現するイベントシーンは、目に映る以上のすごみを感じるような迫力を放つ場面が幾度もあり、真剣味を帯びた“熱”や“痛み”、人間の生々しい“感情”が伝わってきます。
また、“法”も本作における物語のテーマです。法が密接に絡むことで話の緊張感を楽しめるのはもちろんですが、人を描くドラマの背景に社会が投影されることで、社会と人の間にある摩擦、考え方の違い、繋がりの違いが、それぞれの登場人物のドラマをさらに深めているように感じます。
端的に書けば、人間ドラマを強く心に焼き付ける物語のリアリティがあります。『ロストジャッジメント』は、ブレずにストーリーの中心に“人間”を据え、彼・彼女らを結びつける1つ1つのテーマを丁寧に描き、そのことが登場人物たちの織りなすドラマを際立たせているように思いました。その深いドラマ性には、否が応でも感情や想像力が刺激される。
シーンの1つ1つで感じること、その感情を積み重ねていく中で揺れ動く心、そして最後には何を思うか。ストーリーに心動かされていく体験を強く意識するゲームで、きっと1人1人どんな感想を抱くか違うだろうなと思います。『ロストジャッジメント』のプレイでは、単にゲームを遊ぶ以上の有意義な時間をもらえたと感じました。
エンターテイメントであるゆえに
『ロストジャッジメント』は、ストーリーからいろいろなことを考えさせられる作品ではありますが、作品全体を見た時には物語も含めたゲームの体験としておもしろく、その土台の上に話のよさがあると思います。
これは以前、同一のテーマを扱った映画を2本続けて観賞した際に強く感じたことですが、映画やゲームの内包する問題提起が受け手の心を動かすには、まずエンターテイメントとしておもしろい必要があると思います。
その映画の際は、ナチスを題材にしたある作品を観たものの、1本目は上映中限りの感動で翌日にはナチスの非道を深く考えることはやめていました。しかし、その翌週に観た『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』という映画はエンターテイメントとして非常におもしろく、だからこそ翌日以降もナチスについて調べたり考えたりしたのです。
『ロストジャッジメント』も同じで、エンターテイメントとしておもしろいからこそ、受け手の感情や想像力が刺激され、自発的に解釈を広げて、それにより体験が深まるし心にも刻まれる作品になっているのだと思います。
ちなみに、ゲームプレイを主体にした『ロストジャッジメント』の感想は、次回の記事で語っていきます。よろしければそちらもご覧ください。
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