『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇』発売記念インタビュー。“黎明編”に込められた意味とは!?
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本日(9月27日)に発売された『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 ─アクエリアス・アルゴリズム─』。
本作は、気鋭のSF作家・高島雄哉氏がヤマトを深く愛するファン集団の協力を得て、謎が多い『完結編』と『復活篇』の間に起こった出来事を描いた新作小説です。
1974年の第1弾から50年近い歳月を経て、再び動き出すオリジナル版“ヤマト”の物語。作品の魅力と共に、“黎明篇”の副題に込められたヤマトファンの熱い思いが語られたインタビューをお届けします。
歴史的名作なのに。ファンがヤマトに抱く“居心地の悪さ”とは?
1974年から続くオリジナル版“ヤマト”の物語が再び動き出す──と言っても、残念ながらその重大性に気付く人は少ないのかもしれない。
『宇宙戦艦ヤマト』シリーズといえば70年代後半から80年代前半にかけ、社会現象とまで言われた一大ブームを巻き起こした歴史的名作アニメ。当時一般的だった“子ども向け”というアニメのレッテルを引きはがし、大人のアニメファンに市民権を与える礎となったことは、疑いのない事実である。
一方で“ヤマト”というキーワードに対し、今なおセンシティブに捉えるアニメファンが少なからずいることも、また事実だ。
《死んだはずの登場人物が何故か蘇る》、《宇宙空間なのに何故か“上下”の概念がある》、《『さらば』で終わったはずの物語が、いつまでも続く》などなど……。
ヤマトシリーズのユニークな特徴は“ロマン”の一言に尽きるが、ブームの渦中からたびたび槍玉にあげられてきた。『機動戦士ガンダム』をはじめとするSFアニメの多くが、先達となったヤマトに対するアンチテーゼを原動力に生み出されたといっても過言ではない。
《歴史的名作ゆえの一匹狼》──そんな思いも感じながら、ヤマトファンたちは、これまでずっと“居心地の悪さ”を感じてきたのだ。
蘇った沖田艦長と破壊されるヤマト。シリーズ最終作のはずだった『完結編』
「だからヤマトを愛する人々は、自分なりの解釈や考察を繰り返したり、時にまったく新しい物語を紡いだりしながら、今なお作品世界を補完し続けているんです」。
そう語るのは、2021年10月8日より上映されるリメイクシリーズ最新作『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち(前章)』の脚本を福井晴敏氏と共に担当する岡秀樹氏だ。当然、自身も“重度”のヤマトファン。2012年の『宇宙戦艦ヤマト2199』から始まったリメイクシリーズとは異なる世界線を描く新作小説『宇宙戦艦ヤマト黎明篇─アクエリアス・アルゴリズム─』の制作に深くかかわる人物でもある。
「『宇宙戦艦ヤマト2199』から始まったリメイクシリーズは、旧作の世界観を再構築しています。ヤマトファンが長年抱いていた“居心地の悪さ”のいくつかは解消され、アップデートした表現や演出は新たなファン層を獲得しました。時代は変わった。しかしそれでも、僕らのようにオリジナルシリーズからヤマトを観続けている人々にとっては、大きな“心残り”がある。それが、今回の小説を制作する動機となった『完結編』と『復活篇』という2つの作品です」(岡氏)。
岡氏が言及する『完結編』とは、オリジナルシリーズ開始10周年を記念し、1983年に上映された『宇宙戦艦ヤマト完結編』のこと。そして『復活篇』とは、2009年に上映された『宇宙戦艦ヤマト復活篇』のことである。
タイトルのとおり『完結編』は、当初オリジナルシリーズのフィナーレを飾る作品(劇場版第4弾)として企画された。
イスカンダルからの帰途、地球を目前に息を引き取ったはずの沖田十三が奇跡の再登場を果たしたことで話題を呼んだこの作品。地球を壊滅へと導く水惑星「アクエリアス」を阻止すべく、ヤマトと共に自沈(自爆)する道を選んだ沖田艦長の決断や、アクエリアスから伸びた水柱を破壊したことで生まれた《海》の中へと沈んでいく幻想的なヤマトの描写は、まさに『完結編』にふさわしいものだった。
「同じ年に『クラッシャージョウ』や『幻魔大戦』が上映されたこともあり、一般的な評価はそこまで高くありませんでしたし、《なんで沖田艦長が生き返るんだよ!》といった批判も当然ありました。それでもファンにとって『完結編』は、ヤマトでしか構築できない世界をしっかりと提示して、そして堂々とフィナーレを飾ってくれた作品でした。しかし……」(岡氏)
遂に地球滅亡へ……? ファンを大いに悩ませた衝撃の『復活篇』
なんと、その26年後に『復活篇』が製作されたのだ。
「あれあれ?『完結編』で終わったはずでは……という気持ちはありましたよ(笑)。それでも、『復活篇』は10回以上映画館へ足を運びました。これが、ヤマトと向きあえる最後の機会になるかもしれない、と思ったからです」(岡氏)
『復活篇』の舞台は、『完結編』のエンディングから17年後にあたる西暦2220年。移動性ブラックホールに飲み込まれる運命にある地球から、人類を救う移住先を探す任務を受けた古代進は、それまで乗っていた貨物船を離れ艦長としてヤマトに乗り込む。このとき実に38歳。そして妻である雪(森雪)との間には、16歳になる娘・美雪がいる。
オリジナルシリーズを生み出した伝説のプロデューサー・西﨑義展氏が自ら監督を務めた『復活篇』は、石原慎太郎氏が原案を担当したほか、存続と滅亡という地球の命運が異なる2つのバージョンが制作されるなど、話題性は十分だった(地球が滅亡するディレクターズカット版は西﨑義展氏の死後に上映された)。しかし残念ながら興行成績は振るわず、西﨑義展氏が構想していた『復活篇第2部』、『第3部』の製作も中断を余儀なくされた。その4年後にリメイクシリーズがスタートしたこともあり、オリジナルシリーズは『復活篇』をもって事実上の終焉を迎えたと考えた人も多いはずだ。
映画館で『復活篇』を観たという『宇宙戦艦ヤマト黎明篇─アクエリアス・アルゴリズム─』の作者、高島雄哉氏は、当時をこう振り返る。
「劇場版を含め、主にテレビの再放送でヤマトシリーズを観ていた世代なので、初めて映画館で見たヤマトだったと思いますが、『復活篇』は面白く観ることができました。最初のイスカンダル編しか観たことがない人や、初めてヤマトに触れる人でも楽しめるように作られている、という印象があります」(高島氏)
「ウルトラマンやゴジラのように歴史あるコンテンツを最初に手掛けた人に共通するんですが、彼らのようなイノベーターって《変える/変わる》ことを、まったく恐れないんですよ。監督を務めた西﨑義展さんは、常にヤマトの未来を考えていたから、ファンよりもずっと先に想いが進んでいたんじゃないでしょうか。『初めてヤマトに触れる人でも楽しめる』という高島さんの指摘は、まさにその証拠ですよね。西﨑義展さんの中では、『復活篇』以前の物語を過去のものとして切り捨てた上で、新たなヤマトの世界を構築したんだと思います。だから、過去に捉われない人のほうが、むしろ楽しめたのかもしれません」(岡氏)
逆に言うと、岡氏のような長年のファンにとっては、西﨑義展氏が構築した『復活篇』の世界観には、ある意味で“追いつけない”要素が多々あったということでもある。
「正直、観れば観るほど頭の中にクエスチョンが増えていきました(笑)。《古代は何故、貨物船に乗っていたんだろう?》、《自沈したはずのヤマトが、どうやって再建されたんだろう?》、《なんで森雪がスーパーアンドロメダの艦長になったんだろう⁇》というように。そうした疑問は、西﨑義展さんにとって些細なことだったのかもしれないけど、やっぱり長年のファンとして気になるわけですよね。設定上では17年、現実世界では26年のブランクがあるとはいえ『完結編』と『復活篇』の間には、あまりに繋がっていない要素が多すぎました。それに対し何か“居心地の悪さ”を感じていたのは、僕だけではなかったということです」(岡氏)
ヤマト史上最大の“謎”を解き明かすべく“重度”のヤマトファンが集結
『完結編』と『復活篇』。2つの物語の狭間で、いったい何が起こっていたのか?
その疑問を解消すべく、ヤマトを愛する人々は、自分なりの考察や創作を繰り返した。『復活篇』の5年後にリメイクシリーズがスタートして以降も、ファンの探求が止まることはなかった。
「同人誌やネットで発表される、いわば“市井の人々”による考察や創作の中には、プロよりも深くヤマトを理解し、そして愛しているんじゃないか? と唸らされるものが、たくさんありました。そうしたファンの熱い思いを、ヤマトの世界に取り入れることができないだろうかと、常々考えていたところ、高島雄哉さんが『完結編』と『復活篇』の間を結ぶ物語の執筆を依頼されたことを知りました」(岡氏)
「岡さんが言うように、最初は僕個人へ向けられた執筆依頼でした。リメイクシリーズが進む一方で、中断したオリジナルシリーズの続編である『復活篇第2部』、『第3部』を再始動させるための道筋をつくっておきたい。そのための布石として『復活篇』の前日譚にあたる物語を作れないか、という相談を受けたんです」(高島氏)
創元SF短編賞(第5回)受賞作『ランドスケープと夏の定理』から最新作『青い砂漠のエチカ』まで、岡氏の言葉を借りれば《人間の吐息が滲む、ウエットなハードSF小説》という新境地を拓いた気鋭の作家である高島氏。東京大学理学部物理学科卒という経歴からもわかるように、サイエンスの領域にも造詣が深く、『ゼーガペインADP』や『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』にSF考証として参加するなど、『完結編』と『復活篇』の間をつなぐ物語の執筆者として、まさに適任の人物である。
「自分がヤマトの歴史にかかわることを光栄に思う一方、執筆を始めてすぐに、事の重大性に気付かされました。オリジナルシリーズの世界線を結ぶ物語を、自分の知識だけで紡ぐことができるのだろうか、と不安をおぼえるようになったんです」(高島氏)
「高島さんの気持ちを察したスタッフが、僕に第1稿を送ってくれたんです。一読して、高島さんのオリジナル小説としては非の打ちどころがない内容だと思いました。しかし同時に、これがヤマトの正史に組み込まれる──しかも『復活篇』再起動の呼び水となる作品にするためには、たくさんの課題をクリアする必要があるとも感じました」(岡氏)
そこで岡氏が提案したのが、かねてから構想していた《市井のファンが抱く熱い思いを、ヤマトの世界に取り入れる》というアイデアだった。
気鋭のSF小説家×ファン集団のコラボで生まれたヤマトの新たな世界線
アステロイド6。岡氏の呼びかけで結成された、“重度”のヤマトファンから構成されるブレイン集団だ。この名前は『宇宙戦艦ヤマト』の企画段階における仮タイトルのひとつに由来している。
《さたびー》氏、《我が家の地球防衛艦隊》氏、《扶桑かつみ》氏といった、ヤマト関連の私的創作活動の世界でその名を知られる著名なファンを中心に、怪獣&メカニックデザイナー西川伸司氏やイラストレーター梅野隆児(umegrafix)氏、そして岡秀樹氏を加えた6名が、各自の専門知識を総動員し、高島氏の創作をサポートする。
まるで映画やアニメ作品のような、小説ではあまり見られないユニークな集団創作体制を取ることで、『宇宙戦艦ヤマト黎明篇─アクエリアス・アルゴリズム─』は、ファンが長年抱えていた“居心地の悪さ”をスッキリと解消させる作品へと昇華されていった。
「ストーリーや設定考証はもちろん、たとえば結婚した古代と雪が互いを何と呼び合っていたのか? といった細かな表現に至るまで、アステロイド6のメンバー全員で話し合いながら決めていきました。個人で執筆するのとは勝手が違う点も多々ありましたが、その結果、ひとりの能力ではとても成し得ない充実した作品が完成したと思います」(高島)
「古代と雪が互いを何と呼び合っていたか? といった、外野から見れば些細な事柄こそ《ヤマトらしさ》を醸し出す上で重要なポイントなんです。そういったポイントを少しでも踏み誤れば、ファンは離れてしまいますから。アステロイド6というブレイン集団が必要だと感じた理由は、まさにそこです。ヤマト愛の深さは同じでも、視点が異なるメンバーが喧々諤々とやり合うことにより、《ヤマトらしさ》を出すための正しい判断ができたと思います」(岡氏)
※ここから先の記事には本書のネタバレを含んでおります。ご注意ください。
破壊されたヤマトの残骸が波動砲を撃つ⁉ 衝撃と感動の結末は必読!!
沖田艦長と共にアクエリアスの《海》に沈んだヤマトの“残骸”を探してほしい──。
時の科学局長官・真田志郎から密命を受けた古代進は妻の雪、そしてまだ幼い娘の美雪と共に、ヤマトの“残骸”が眠っているかもしれないというアクエリアス氷塊へと向かう。果たして、ヤマトは欠片ひとつでも残存しているのか? そしてアクエリアス氷塊で古代たちを待ち受ける、思いがけない存在とは……。
『完結編』から12年後、そして『復活篇』の5年前にあたる西暦2215年を舞台に繰り広げられる『宇宙戦艦ヤマト黎明篇─アクエリアス・アルゴリズム─』の世界。2つの作品の狭間を埋める物語として、コアなファンを納得させる内容になっているのはもちろん、特筆すべきは、たとえ『完結編』や『復活篇』を知らない人でも、『黎明篇』単体で十分にヤマトの魅力を堪能できる作品となっていることである。その鍵を握るのが、ヤマトの代名詞でもある《波動砲》の存在だ。
自沈して残骸となったヤマトが波動砲を撃つ!
高島氏が提案したアイデアを最初に聞いた岡氏は、思わず絶句したという。
「『こいつ何言ってるんだ⁇』っていうのが、最初の感想でしたね。だって『復活篇』のラストでヤマトは、船体が二つに折れるほど破壊されて轟沈しているんですから」(岡氏)
「破壊されたヤマトが波動砲を撃つという発想は、最初に依頼があった時点ですでに抱いていたんです。設定や状況はともかく、ヤマトの物語にとって波動砲は最大のカタルシスですから、結末には当然撃つだろうという意識があったんだと思います」(高島氏)
「この発想は、僕を含めヤマトを“知り過ぎた”アステロイド6のメンバーには、逆立ちしても出せなかったでしょうね。小説家としてヤマトの世界を俯瞰していた高島さんの、まさに面目躍如でした」(岡氏)
最初の瞬間こそ絶句した岡氏も、次の瞬間には《これで物語の軸ができた》と膝を打った。高島氏のアイデアを聞いた他のメンバーも、岡氏とまったく同様の反応を見せたという。
「高島さんのアイデアを共有した翌日には、《破壊されたヤマトが波動砲を撃つ》ためにクリアすべき技術的課題を解決するための案や《撃たざるを得ない》状況をつくるためのプロットが、メンバーから続々と提出されました。この瞬間から『黎明篇』は、『完結編』と『復活篇』の狭間を埋める物語という使命を超え、より広い範囲のヤマトファンを魅了する力を持つ作品へ舵を切ることができたんだと思います」(岡氏)
「波動砲を撃つという発想の起点は僕にありましたが、それが実現できたのはアステロイド6の皆さんの英知が結集されたからです。ロマンチックな表現をすれば、長年にわたりヤマトを愛し、ヤマトの世界を考え続けたファンの魂が、ヤマトが再び波動砲を撃つ力を与えたのではないでしょうか」(高島氏)
果たして残骸となったヤマトは、如何にして波動砲を撃つのか。そして、なぜヤマトは波動砲を撃たなければならなかったのか。そして『完結編』と『復活篇』の間に何が起こっていたのか──。
その答えは高島雄哉氏と、ヤマトを愛し続けるファンたちのコラボレーションにより誕生した本編で確かめてほしい。“居心地の悪さ”をまったく感じさせない見事な設定とストーリー展開が生み出すクライマックスは、現代SFのテイストを基調としながらも、ヤマトならではのロマンあふれるセンス・オブ・ワンダーを存分に堪能させてくれる。
かつて、一度でもヤマトの世界に魅了された記憶を持つ人々にこそ読んでほしい『宇宙戦艦ヤマト黎明篇─アクエリアス・アルゴリズム─』。一読すれば、『復活篇』から10年余りの歳月を経て、オリジナル“ヤマト”の世界が“黎明”を迎えたことの意義に奮い立つはずだ。
【取材・文:石井敏郎】
書籍データ
<発売日>
2021年9月27日 初版発行
※電子版も同時発売
<著者>
著:高島雄哉
協力:アステロイド6
イラスト:umegrafix 梅野隆児
メカニックファイル:西川伸司
原作:西﨑義展
著作総監修:西﨑彰司
<価格>
定価:1350円+税
©Yuya Takashima 2021
©ボイジャー
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