『FF14』“YoRHa: Dark Apocalypse”完結記念鼎談、後編! ウィークリークエストの意図をヨコオ氏が語る

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 スクウェア・エニックスのMMORPG『ファイナルファンタジーXIV(以下FFXIV)』の拡張パッケージ『漆黒のヴィランズ(パッチ5.1~5.5)』において、新たなアライアンスレイドシリーズとして登場した、『FFXIV』と『ニーア』シリーズとのクロスオーバーコンテンツ“YoRHa: Dark Apocalypse”。

 パッチ5.5で完結を迎えたこの“YoRHa: Dark Apocalypse”について、齊藤陽介氏、ヨコオタロウ氏、そして『FFXIV』プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏の3名による鼎談インタビューを実施。前半に続いて後編ではコンテンツの深い分析や、“ヨコオタロウ氏が次に『FFXIV』でコンテンツを作るとしたら?”など、気になる言葉が満載なので一字一句お見逃しなく。

  • ▲左から齊藤陽介氏、ヨコオタロウ氏、吉田直樹氏。

※記事にはネタバレ要素があるので、未クリアの人はご注意ください。

コメラの村は見る人が見れば疑問に思えるところが満載!?

――では、“YoRHa: Dark Apocalypse”全体を通して、それぞれお気に入りのシーンやバトル、キャラクターなど教えていただけますか?

齊藤陽介氏(以下、敬称略):私はアノッグ、コノッグのふたりですかね。悲しい結末ですけど、ラストは捉え方によっては「よかったね」と思う方がいるかもしれません。でも、単純にあの世界からいなくなってしまったんだと考えてしまうとちょっと寂しいし、いつかあの世界に帰ってくるんじゃないかという気持ちもあります。

 逆にもしかしたらあのふたりが『ニーア』の世界に来るかもしれない。それも含めてあのふたりはいいキャラクターだなと思います。最後はちゃんと表情も出ましたし。

ヨコオタロウ氏(以下、敬称略):気に入っている部分はいっぱいありますが、一方で制作時にすごく揉めたことが印象的に残っている部分もありまして。コノッグが村人たちに詰め寄られるシーンなのですが、当初は村人たちがランダムでバラバラに配置されていたんです。でも、それをきれいな円状に並べて配置してほしいとお願いしました。

 その変更が異常に大変らしく「並べ直すのには時間的に無理です」と言われたんですが、「いや、そこをなんとか!」と(笑)。そんな議論がけっこうありました。無理やりねじ込んだ修正でしたが、その結果すごくいいものになったと思っています。

吉田直樹氏(以下、敬称略):あれは最後のパッチリリースまでのコストの問題ですね。カットシーンで単純に円にすること自体は可能なんです。ただ『FFXIV』のカットシーンの作り方というのは、たくさんのキャラクターを制御するためにポイントからポイント移動させるタイプなので、変更によってポイントがずれてしまうんです。

 並べ直すこと自体は簡単でも、それに付随して連動したポイントをすべて設定し直さなければならない。しかも、あのパートはカットシーンチームのエースが担当していたんです。ちょうど僕から他のヤバいカットシーンのリテイクも発注していたので、「さて、どうしよう……」となったのですが、最後は「どっちもやりますよ!」と言い切ってくれて、助かりました。

ヨコオ:あのときはすみませんでした……というくらい、印象に残っているシーンでした。たしか最初は半円で、そのあと真円になった感じですね。結果的にはそこにも意味を持たせることができましたね。あのシーンの会話には、このクロスオーバーの本質に近い部分があると僕は思っていて、そこが願った形になったのはすごくよかったです。

吉田:僕はやはり“複製サレタ工場廃墟”の最後のボスである9Sが出てくるところでしょうか。ある意味、本当にクロスオーバーした瞬間でもありますし、ゲームとしても分離合体を演出込みで実装できたりしたので、開発レベルが一段上がったなと感じました。単純に開発者として、ここは印象に残っていますね。

 あとはギミックで言うならば、“希望ノ砲台:「塔」”でビルが下からぶっ飛んでくるところでしょうか。僕自身が最初のテストプレイで、「何やってるんだ……」と思いましたので(苦笑)。あれはすごく印象に残っています。

 キャラクターでいえばアノッグ、コノッグはもちろんで、最後のギリギリまでヨコオさんと解釈をつめさせていただきました。 

齊藤:私も参加して、セリフの1行1行まで落としどころを決めていった感じですね。

ヨコオ:僕が最初に用意したシナリオよりも、現在実装されているもののほうがわかりやすいです。当初はもっとわかりにくかったですから(笑)。

吉田:そんなシナリオのなかで、ちょっと気になったのはドワーフ族の親方ですね。彼は人の意見や流れにあわせる人物で、重大な決断についても、「じつは自分の考えがないんじゃない?」と思わせる場面が僕の中にはありまして。まあ、それは親方が集落のバランサーに徹していることが理由なのかもしれませんが……どうも引っかかる。

 結果、アノッグとコノッグが巻き込まれたあの状況で、「じつは親方がリーダーシップを発揮したことはなかったのでは?」と考えさせるあたり、ヨコオさんが狙っていたのか気になりますね。これが深読みなのか、そうじゃないのかということを考えること自体も、ゲームのいいところだと思っています。

 きっとヨコオさんは今回、いろいろなところにそういったメッセージを入れているので、まんまと術中にハマっていますね。他にも、「普通はこういう展開にしないだろう」と感じたことも多かったです。例えばウィークリークエストでは、村人みんながすごい勢いで手のひら返しをしてくるじゃないですか(笑)。

齊藤:「あのあと、どうなったんだろう?」と思った方は、けっこういたんじゃないでしょうか。

――この後日談的なウィークリークエストについては、ヨコオさんの発案ですか?

ヨコオ:これは僕ですね。ちなみに、先ほどの吉田さんのお話については“設計された意図があります“というのが正解です。吉田さん、なかなか恐ろしいなと思いながら聞いていました(笑)。

吉田:やっぱり(笑)。

ヨコオ:ドラマをよく見ているような人が今回の物語を見てみると、変な爆弾といいますか「本来こんなことはしないのでは?」と感じることがけっこうあると思います。それがどういう意味を示しているのかというところに、僕がやりたかったことが隠れて……(長考)隠れています。

一同:(笑)

齊藤:でもそのわからないことが正解なんでしょう? わかってしまうようには作っていないでしょうから。

吉田:あまり言いすぎると考察する楽しみを奪ってしまうことになりますが、“YoRHa: Dark Apocalypse”では『FFXIV』や『ニーア』シリーズのことをいったん忘れて、物語中の人物の心理を見ていくと、まったく違うポイントが見えてくると思っています。僕はプレイしていてすごくそれを感じました。

『ニーア』シリーズや『FFXIV』ではない、“あの村だからこその結果”だろうなという部分もありますし、それはドワーフ族がマスクを被っていたからこそ効果的だったと思います。これ以上の言及は控えますが、それがあっているか、間違っているかではなく、僕はこう解釈して楽しみました。

料理に例えると“YoRHa: Dark Apocalypse”は“漬物ひと瓶”!?

――ほかにも、クロスオーバーだからこそ描けた部分はありますか?

ヨコオ:それに関連した話として、じつは制作の初期段階で『FFXIV』チームから“これはしないでください”というルールのひとつとして、“ヒカセンに悪いことをさせないでください”と言われていました。

 そのとき「どういうことですか?」と聞いたら、“リターン・トゥ・イヴァリース”で偽物のワインを運ぶというクエストがあって、それに抵抗がある方がいらした、という話をうかがいまして。プレイヤーはそういった“結果的に悪く見える行動”を取ることに抵抗がある人もいます、と。

吉田:プレイヤー自身をヒカセンに投影しているからこそ出てくる意見ですね。僕は意図が明確なら、それは書き味だと思っていますが、感じ方は多様で当然ですので、そういう反応もありますね。ただ、それがエスカレートするのは、避けたほうが良いとは思います。例えば、強制的に一般NPCの命を奪ってしまう、みたいなものですね。

齊藤:自分の分身であるはずなのに、シナリオを進めるために悪事をやらされるのはやめてほしいと。

ヨコオ:それが僕のなかでけっこう大きく残っていて、今回の“YoRHa: Dark Apocalypse”にも、そのときに抱いたイメージが影響しています。

吉田:これが自分ではない第三者を操作するタイプのゲーム体験の場合は気にならない。そのキャラクターの行動が、“自分にとって好きか/嫌いか”に分かれるだけです。これに関しては『FFXIV』チーム内でもさまざまな意見がありますね。

ヨコオ:僕が何に対してすごいと思ったのかというと、基本的にソロプレイのコンシューマゲームの場合、開発者が作ったものをお届けして、遊んだ側も「そうだね」となって終わりになります。言ってしまえば“クリエイターの妄想を聞く”みたいなコンテンツです。

 でも「ヒカセンはそんなことをしない」という言葉にはクリエイターが不在であり、『FFXIV』はプレイヤーが中心であると知りました。コンテンツのボトムから中心が影響を受けているといった印象を受けて、これはMMORPGならではの独特の感性だなと。

吉田:それはスタッフにも口を酸っぱくして言っています。『FFXIV』の主人公はプレイヤー自身だからと。

ヨコオ:でも人間っていろいろな種類の人がいるじゃないですか。言い方は悪いですが、自分と同じ考えを持つ人もいれば、まったく同意できない考え方を持つ人もいます。みんな違うから、最小公倍数を取ることもほとんど不可能です。

 ならばそれに対してどうあるべきなのか、そこにどんな意味があるのかという部分に、今回のお話はけっこう食い込んでいると思います。

――深いですね。

吉田:僕は今回のストーリーに、「ヒカセンはそんなことをしない」という言葉を聞いたヨコオさんなりの皮肉も入っているとは思います(笑)。

ヨコオ:皮肉も入っているし、それに対する賛辞も入っています。僕はバランスが悪いのが嫌いなので、両方必ず入れるようにはしていて、そういう人たちへの皮肉と肯定を常に入れている感じですね。

 あとは“人形タチノ軍事基地”の制作中盤くらいまでに『FFXIV』をプレイしていて、なんとなく『FFXIV』というゲーム自体が理解できてきたというのもあります。“リターン・トゥ・イヴァリース”はプレイできていませんが、動画で見て松野さんはすごくちゃんとしているなと思いました。

そのうえで『FFXIV』や“リターン・トゥ・イヴァリース”をAランチ定食にたとえた場合『ニーア』というコンテンツでAランチ定食もどきを作っても仕方がないなと思いまして。隣がAランチならばこちらは“漬物ひと瓶“みたいな(笑)。

一同:(笑)

齊藤:でも漬物のわりには、まあまあ手間がかかっていますよ?(笑)

ヨコオ:まあ、この漬物が何を意味するかというと、『FFXIV』という全体の定食があるから漬物ひと瓶で許されるけれど、“YoRHa: Dark Apocalypse”だけを取り出してパッケージ商品にはできないということなんです。

“YoRHa: Dark Apocalypse”では、あくまで『FFXIV』という屋台骨がある前提の崩し方をけっこうしているので、そういう意味では味付けとかはハチャメチャなんですね。いろいろなことがムチャクチャですが、そういうものは本体があるから許されている部分だと思います。

――結果的には、コンシューマのパッケージ作品ではできなかったことが、今回できたというわけですね。

ヨコオ:はい。それが14時間生放送で言った「本気でやる」になります。“『FFXIV』があるからこそできる”というコンテンツを作らないとダメで、ちっちゃい自分のワールドをその中に作っても意味がないなと。

――先ほどお聞きしたウィークリークエストも、そういった一環になるわけでしょうか?

ヨコオ:そうですね。あのウィークリークエストには気持ち悪さを感じる方もいると思います。意味がわからないという意見もあるでしょう。自分としては『FFXIV』の世界にそんな“病が広がる”ようなことをやると、クロスオーバーした意味があるんじゃないかなと思って作りました。

――前回の14時間生放送では、ヨコオさんの口からは物語の真相を明言しないと語られていましたが、ウィークリークエスト後のエンディングには、表示される「アノッグ/コノッグ調査協力比率」など、いろいろ気になることが多いです。よろしければ若干でよいのでヒントをいただけませんでしょうか?

ヨコオ:あの時も言ったかもしれませんが、あれについて僕が「意味がある」と言ってしまうと、「ヨコオは何も考えずに適当にやっているんだよ」という意見を否定してしまうから、そこに意味があるのかは言いたくないですね(笑)。

――なるほど(笑)。

吉田:僕も正直、あのラストについてはこれ以上説明すべきではないと考えています。でもさっきのヨコオさんのお話で、ほとんど語られていると思います。具体的な真相については、もしかしたら遠い10年後の『ニーア』シリーズで判明するかもしれませんし、わからないままかもしれません。

 でも僕はその手前のウィークリークエストの“気持ち悪さ”のほうが、ヨコオさんがやりたかったエンディングだろうなとは思います。

ヨコオ:あのウィークリークエストについては『FFXIV』でやる意味があると思っていました。メインストーリーのように大団円を迎えて終了という流れは僕の仕事ではないという考えから、あのウィークリークエストが存在します。

吉田:ウィークリークエストを含め、今回の物語は答えよりもメッセージ性を考えるほうがおもしろいと思います。答えを考えるから苦しいのかなと。急な災厄に巻き込まれたコメラの村を中心に物語を見ると、ちょっと違った見方ができる気がします。

ヨコオ:あとはほかのプレイヤーさんの反応、とくに「意味がわからない」と言っている人の意見を見てほしいです。同じプレイヤーでも「こうじゃないかな?」と想像する方もいるし、「意味がわからないし、これはダメだ」と言っている方もいる。それが“YoRHa: Dark Apocalypse”です。

『FFXIV』で別のコンテンツをヨコオ氏が手掛けるとしたら……?

――齊藤さんは過去・現在ともにオンラインゲームのプロデュースを手掛けていますが、改めて今回の“YoRHa: Dark Apocalypse”を通して『FFXIV』というオンラインゲームをどう見られましたか?

齊藤:最近また人が多く入ってきているというニュースもありましたが、そういった意味で世界を代表するMMORPGだと思います。『FF』ということにすごくこだわっているというより、やはり“『FFXIV』という世界”をちゃんと確立できてるのが魅力的ですね。

 だからこそ『ニーア』みたいな異分子が入ってきても、そこで遊んでいる方たちが違和感なく入ってきてくれるわけでしょうし。過去にも『妖怪ウォッチ』『牙狼GARO』『モンスターハンター:ワールド』とのコラボがありましたが、それぞれお客さんがちゃんと納得して遊んでくださっていたのは素晴らしいことだなと思いました。

吉田:最近『牙狼GARO』のコラボ復刻を求める声が多いんです。使用を許諾していただいている期間があるので、いったん報酬の排出を止めていますが、最近『FFXIV』を始めた方から欲しいという声がありまして。

齊藤:なんならこちらも一回公開を止めたら、また話題にしてもらえるんじゃないの?(笑)

吉田:“YoRHa: Dark Apocalypse”をですか? そうなったら一回バンカーをふさがないと(苦笑)。

齊藤:まあ話を戻しますと、これは『ドラゴンクエストX オンライン』のときからずっと言っていますが、MMORPGには強くなるというベクトルだけでなく、そこで友だちと話したり世界を旅したりする要素が必要で、それが『FFXIV』にはちゃんと用意されています。

 ゴールドソーサーでドマ式麻雀を遊ぶだけでも単純に楽しいですし、自分が遊びたい方向性に沿ったコンテンツがきちんと揃っているのがスゴイですね。あとは、意外とゲーム慣れしていない人たちも普通にレイドを遊ぶんだ、という点にビックリしました(笑)。

ヨコオ:なんか他のゲームと違う独自の学習曲線でヒカセンは育っていますよね。

――ではヨコオさんにうかがいたいのですが、今回は“YoRHa: Dark Apocalypse”でのご参加でしたが、それ以外に何かコンテンツを手がけられるとしたら、どんなコンテンツを希望しますか?

ヨコオ:やれることは全力投球して、今はもう燃えカスみたいな感じなので、とくにはないです。

齊藤:ヨコオさんはほら、ゴールドソーサーにピンボールを実装してもらって、それを手掛ければいいんじゃない?

ヨコオ:あ、ピンボールが実装されるならば台のデザインをします。

一同:(笑)

ヨコオ:ピンボールは大好きなので、齊藤さんにもずっと「ピンボールのゲームを作りたい」と言っているんですよ。

齊藤:ピンボール単体だと採算が取れないから、例えば『FFXIV』のなかで予算を持ってきてもらって、ヨコオさんにピンボール台をデザインしていただくとか(笑)。

吉田:ピンボールは考えたことがなかったな……。それって物理計算とかちゃんとやったほうがいいレベルですか?

ヨコオ:いえ、それっぽく遊べればいいと思います。ぜひ機会があれば。

吉田:ゴールドソーサーに実装するものはけっこう悩むんですよ。世界の法律のレギュレーションをクリアする必要があるので。

齊藤:ピンボールなら、いけるんじゃないの?

吉田:いけますね、たしかに。

ヨコオ:いいですよ、ぜひ!

齊藤:『FFXIV』ならば、ヨコオさんが想像しうる演出をすべて入れてくれるでしょうし(笑)。

一同:(笑)

ヨコオ:でも僕のピンボール、けっこう地味ですよ? ピンボールの楽しさは地味だけどずっと遊んでしまうということですから。

吉田:じゃあもし作るとしたら、最初にお願いしてもよろしいです?

ヨコオ:ぜひ。『FFXIV』ファンがそれを望むかはさておきですが、すごくがんばりますよ!

――まさかの展開に(笑)。

ヨコオ:あとはやってみたいこというよりも、できないこととして、僕にはMMORPGは作れないなと実感しました。今回の参加は、あくまでクロスオーバーの立場だからこそですね。じつは今日“YoRHa: Dark Apocalypse”のイラストが収録された『FFXIV』のアートブック(FINAL FANTASY XIV: SHADOWBRINGERS | The Art of Reflection - Histories Unwritten -)をいただいたのですが、それを見たら膨大な数のイラストが収録されていまして。

『漆黒のヴィランズ』だけのアートでもこれだけの物量で、さらにアート以外にもシナリオやバトルやBGがあって、よく吉田さんはそれらをすべて見ているなと(苦笑)。正気を疑う思いで本を読んで、そっと閉じました。僕はこれを仕事にはできないなと。

――先ほどピンボールの話に興味ありという感じでしたが、吉田さんがまたヨコオさんに参加をお願いするとしたら、ほかにもどういったコンテンツを依頼したいですか?

吉田:ピンボールはめっちゃ興味を惹かれていますが(笑)それ以外と言われますと、やはりヨコオさんにお願いするなら、お話を含めたものだとは思っています。それこそ「メインストーリーを書きますか?」といった話になるかと。

齊藤:メチャクチャになるよ、大丈夫?(笑)

吉田:逆にヨコオさんも、ヒカセンの扱いをどうするか改めて悩まれると思います(笑)。じつは僕、ヨコオさんにお会いする前は、クリエイティブに対して相当極端にこだわりがある方だと思っていました。「絶対にこれじゃなくてはダメなんだ!」という、強いこだわりをあらゆる方向に持つ方なのかなと。

 ですが実際にお会いしてお仕事をさせていただいて感じたのは、誰よりもコストとアドリブを考える方だなと。“この舞台とパーツしか使えない”となったら、それを使って何をしたら一番おもしろいか、何をしたらプレイした人の印象に残るのか、ということを考えながら作っていく。

 さらにそこに、ご自身が伝えたい要素を混ぜ込んで作っていくんです。だから、そういう意味ではワガママを言われたような印象はなかったですね。先ほどもご自身でおっしゃっていましたが、『FFXIV』のものづくりのルールはある意味“制約”なんです。

 そういった制約を全部確認してから、「だったらこうすればいいけれども、ここだけなんとかならないだろうか」といった提案いただきました。そういう意味では、これまでヨコオさんが作られてきたゲームの見方もちょっと変わりました。

「このカードしかないからこそ、このカードと予算でどう作るか」という考え方で、だから周回させることも「このマップ数でこのリソース数ならば、何回も遊んでもらえばいい」という発想だろうなと感じました。そこはあらためて勉強させていただいたところです。

 僕もどちらかといえばコスト制限のあるなかで仕事をしてきたので、改めて今の『FFXIV』はリソースを潤沢に使いすぎかもな、とちょっと思いました(苦笑)。

ヨコオ:それはもう、齊藤陽介率いる旧エニックスが、開発会社をいじめて安く作ろうとしてきたからですよ。

齊藤:そんなことないですよ(笑)。

ヨコオ:いかに節約していくかが根っこにしみ込んでしまっているからですね。

吉田:でも結果的に伝えたいことを表現するにあたり、ぜい肉をそぎ落とせるという効果はありますよね。だからプレイヤーに刺さるわけですし。逆に予算があったときどういうものを作るのか、ちょっと興味はあります。

ヨコオ:僕は予算があるゲームはもう作れないですね。もう貧しさが身体にしみついていて(苦笑)。たくさんお金をもらっても、駄菓子を買ってきてしまう子どもみたいなものです。

吉田:もっと制限してくれ、みたいな(笑)。そういった意味では、MMORPGはまず制限なしでアイデアを考えてから、それを決まったコストの中でどういった形なら再現するかを考えていくので、作り方の手法はすごく違いますね。今回の制作スタート時も、ヨコオさんから「ルールを全部教えてくれ」と言われた際、僕からは「まずはヨコオさんに一回好きなように書いてもらって、それをどう実現できるかを決めたいです」とお伝えしたのを覚えています。

 そうしたら「いやいや、それは無駄じゃない? だってできないことがあるかもしれないから」「だからできないことをとにかく最初に全部教えてほしい」と言われました。

ヨコオ:そこから制限をうかがって条件を満たしていったのですが、できないことが他にも大量にあって、それに苦労した感じです。BGMについても、いまだになぜサーバーで同期をとっているのかわからないですし。

齊藤:MMORPGは、基本的にクライアント側にデータを持たないんですよ。

吉田:コールを鳴らすタイミングをクライアント側にしてしまうと、コールでギミックを処理している場合、鳴らすタイミングを書き換えることでチートできてしまうんです。“全員が同時に同じ曲が流れ始める”ことで体験を担保しているため、BGMの切り替えも基本的にすべてサーバーで同期しています。MMORPGの場合、描画以外はほぼサーバー側ですね。

ヨコオ:だから大変だな、と思いながら見ていました。

“コンテンツを遊ばない自由度”もMMORPGの魅力

――では最後に、まだ“YoRHa: Dark Apocalypse”をプレイしていない方に向けて、それぞれ本コンテンツの魅力などを語っていただけると幸いです。

齊藤:私はたとえば「ヨルハの衣装が欲しい!」というような動機で始めてもいいと思います。逆に『ニーア』シリーズ未体験の方は、ヨコオさんの世界を“YoRHa: Dark Apocalypse”で触れていただくことで、「おもしろそうだから『ニーア オートマタ』をやってみよう」と思っていただけるとうれしいですね。最近発売した『ニーア レプリカント ver.1.22474487139...』を含め、ぜひその先の世界も見ていただければと思います。

ヨコオ:“YoRHa: Dark Apocalypse”は『ニーア』シリーズのお話と『FFXIV』の世界が混ざったものですが、僕が最初に感じたのは「これ、とくに『FFXIV』のプレイヤーさんが遊ばなくてもいいや」ということです。遊ばないことにも意味があってほしいなと考えていまして。

 たとえばドマ式麻雀だけをプレイしている人がいるのも『FFXIV』じゃないですか。さらに“YoRHa: Dark Apocalypse”は必須のコンテンツではなく、そもそもレベル80が条件ですので、みんなが遊ぶわけではないと思っていました。

 そんななか、遊ばずに遠くから見ていることにも意味があると思っていまして。コンテンツを遊ぶのではなく、コンテンツがあるなと遠くの街から見続けるというプレイもある。それがコンシューマゲームにないMMORPGのおもしろさであり、豊かさであると僕はすごく思います。だから結論から言うと「“YoRHa: Dark Apocalypse”は別に遊ばなくてもいいですよ」になります(笑)。

――オススメのコメントをいただくはずなのに「遊ばなくていいですよ」と(笑)。

ヨコオ:ええ、遊ばなくていいと思いますよ。それがMMORPGのよさだと思っていますから。

吉田:でもそれは的を射ていますね。MMORPGとして新生『FFXIV』をスタートさせてあと、横に広がる要素を膨らませて、いろいろなコンテンツを並べていった理由はまさにそこにあります。

 別に全部を網羅しなくてもいいんです。いろいろなものが用意されていて、“それぞれのプレイヤーが好きに楽しんでいる世界のなかに自分がいる”、ということが大切なんです。図らずもヨコオさんがおっしゃっていただいたことは、MMORPGの真理だと思います。

齊藤:でもスタッフのことを考えたら、あれだけ一生懸命に作ってくれたんだから、遊んでほしいと思うよね?(笑)

吉田:まあ、そうですよね(苦笑)。

ヨコオ:でもそれはお客様には関係のない話ですから。“お客様ファースト”が、スクウェア・エニックスのモットーですし。

吉田:「何かすごいコンテンツがあるらしいから、いつかやってみよう!」と思える豊かさが重要ということですね(笑)。

※インタビュー前編はこちら

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※画面はPC版、PS4版のものです。

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