『はたらく魔王』作者新作は池袋を舞台に吸血鬼&ポンコツシスターがバトル。『ドラキュラやきん!』感想・レビュー
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電撃文庫の吸血鬼ファンタジー『ドラキュラやきん!』(著者:和ヶ原聡司、イラスト:有坂あこ)のレビューをお届けします。
本作は、『はたらく魔王さま!』でおなじみの和ヶ原聡司氏による新シリーズ。
夜しか外出できない吸血鬼、虎木由良(とらき ゆら)を主人公に、日常と非日常が交錯する、どこか身近なファンタジーストーリーが展開します。
作者お得意の日常×非日常系のファンタジーで、こうした系統の世界が好きならたまらない内容となっております。現在3巻まで発売中ですが、これから読み始めたいと思っている人のため、第1巻について、その魅力を紹介していこうと思います。
『ドラキュラやきん!』とは!?
タイトルにある“やきん”とは、夜勤、つまり、夜働くことですね。吸血鬼であるが故に夜しか働けない主人公は、コンビニの夜勤で生計を立てているのです。
日当たり激悪の半地下物件で暮らし、昼間は遮光カーテンを閉め切って浴室で眠る彼の目的は、人間社会に紛れながら、ある吸血鬼を探すこと。
と、主人公の境遇だけを聞くと、現代社会で頑張って生きるマイノリティの孤軍奮闘ドラマのように思えますが、そこは『はたらく魔王さま!』の和ヶ原聡司氏です。
日常的な背景の裏側には、さまざまなモンスターが人間社会に紛れ込んで生きる、緻密に設計された“非日常的世界”があり、それらが日常とうまく混ざりあい、濃度の高いファンタジーストーリーが構築されているのです。
もちろん、池袋近辺で平穏に暮らそうとする吸血鬼の健気な頑張りもしっかり描かれ、日常も、非日常も、実に密度の高い内容となっております。現代ファンタジーが好きなら必ず気に入ると思います!
日常と非日常が交錯する身近なファンタジー
本シリーズの最大の魅力は、先述したように、身近な日常と、緻密に構築された非日常の融合です。
非日常に目を向けると、この世界は、古より吸血鬼や狼男、のっぺらぼうなど、さまざまな人外の者が存在し、人間社会に溶け込んでいます。日陰でひっそり生きる者もいれば、法を犯す者もいる。そしてそれらを統括する組織もあれば、組織ごとの縄張り争いもある。
そうした裏の世界が、コンビニでのバイト生活という日常的な生活と混ざり合い、実に不思議な没入感を与えてくれるのです。
また、情報の出し方もうまく、徐々に裏の世界のことがわかっていく展開に、思わずもっと知りたい、もっと読みたいという気持ちが止まらなくなります!
人間社会に溶け込む主人公のギャップがステキ
主人公の由良は、雑司ヶ谷の住宅街のアパートに住み、池袋のコンビニでアルバイトをしています。そして、バイト先の店長の愚痴に付きあって深夜まで飲んだりもする、どこにでもいる庶民です。しかし、じつはこの暮らしからは想像もできないほど、重くて辛い過去を背負っています。
というのも、じつはある事件により50年以上前に吸血鬼になっており、見た目は20歳そこそこですが、すでに70歳を越えています。そして、吸血鬼にされて以来、人間に戻るため、親にあたる吸血鬼を探しているのですが、物語が進むことで、そこにある絶望的な運命と壮絶な覚悟も見えてきます。
そのギャップがまたいいのです。そして性格面でも、極力面倒を避けようとする達観した一面と、危険を承知で見知らぬ少女を助けようとする情熱。その両面を持ち合わせているのが、一番の魅力といえるでしょう。
主人公の弱さも愛したい
吸血鬼としての力を持っている由良ですが、血を吸わないと本来の力が出せません。しかし本人は、決して人の血を吸わないと誓っています。
霧に変化して移動するなど、若干チート気味の能力はあるものの、戦闘能力ではスーパーヒーロー的な強さは持っていません。何より吸血鬼なので、太陽光を浴びると死にます。
現代社会では、太陽光を浴びずに暮らすのはなかなか難しいです。ちょっとした不注意で浴びることもあります。そんなときは、あっさり死んで灰になります。
物語のなかでも、びっくりするくらい死にます。まぁそのたびに、灰から復活するんですけどね。
個人的には、そんな弱さもまた惹かれます。実は人間の血を飲めば力を発揮できるのですが、性格上それは考えにくく、きっとこれからも何度も死ぬのでしょう。これだけよく死ぬ主人公って、なかなかいないと思うので、できればずっと弱いままでいて欲しいです。
続々登場するヒロインが可愛い!
由良のパートナーとなるのが、イギリスからやってきたシスターのアイリス・イェレイ。
秘密結社に所属し、人間に紛れて罪を犯す“ファントム(吸血鬼やヴェアウルフなどの怪物)”を狩るシスターですが、極度の男性恐怖症で、相手が男性だと足が震えて何もできなくなるというポンコツ。
相手が人外なら問題ないようで、吸血鬼の由良に対しては強く出れるツンデレヒロインです。行動は破天荒ですが感情は実にわかりやすく、由良との相性もバッチリ。
しかも彼女は彼女で、由良に負けないハードな過去を背負っていたりするので、この先物語が進めば、その絶妙な距離感がどう変わっていくのか、考えるとドキドキします。
また、ほかにも名家のお嬢様の比企未晴を始めとして、何人ものヒロインが登場。彼女たちと由良の丁々発止な掛け合いも、読んでいて実に心地いいです。
第1巻の見どころは?
そんな個性的な主人公とヒロインが織りなす物語ですが、第1巻での見どころはやはり、とある強敵との決戦シーンでしょう。
絶望的ともいえる戦力差をどう埋めて、どう戦っていくのか。また、その戦いのなかで明らかになる、主人公との過去とアイリスにまつわる疑問にも注目です。
ちなみに戦いの場となる豪華客船メアリ一世号へ由良を潜り込ませ、力を使わせるためにとったアイリスや未晴たちの計画も、なんだかこの作品らしくで好きです。
読みやすさも魅力です!
世界観とキャラクター性が優れているので、そちらの話ばかりになりましたが、軽快でテンポのいいセリフ回しと読みやすさも魅力の1つ。
とにかく読みやすく、バンバンページが進んでいくので、あっという間に読み終わってしまいます。活字が苦手でもきっと大丈夫。もしそれでも心配なら、PVや朗読劇もありますので、まずはそちらで予習してみて下さい。
ちなみにPVでは、虎木由良を逢坂良太さんが、アイリスを日笠陽子さんが演じています。また、朗読劇では、日笠陽子さんが担当しています。
『ドラキュラやきん!』PV(逢坂良太×日笠陽子)
『ドラキュラやきん!』(朗読/日笠陽子)【電撃文庫朗読してみた】
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『ドラキュラやきん!』
- 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
- 発売日:2020年9月10日
- ページ数:344ページ
- 定価:630円+税
『ドラキュラやきん!2』
- 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
- 発売日:2021年2月10日
- ページ数:312ページ
- 定価:630円+税
『ドラキュラやきん!3』
- 発行:電撃文庫(KADOKAWA)
- 発売日:2021年7月9日
- ページ数:344ページ
- 定価:715円(税込)