早見慎司先生が『死なないセレンの昼と夜』を執筆したきっかけは時代小説!?

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 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、『死なないセレンの昼と夜 ―世界の終わり、旅する吸血鬼―』を執筆した早見慎司先生のインタビューを掲載します。

  • ▲本作の表紙イラスト(イラスト:尾崎ドミノ先生)

 はるか遠い未来の人類が滅亡しかけた世界をを舞台に、コーヒー屋台を営む吸血鬼の少女が各地を旅する物語。

 本作の制作のきっかけやヒロイン・セレンのキャラクターについてたくさんお答えいただきました。

──この作品を書いたキッカケを教えてください。

 『木枯し紋次郎』という時代小説があったんですね。ドラマや映画でも大ヒットを飛ばしました。ああいう、荒涼とした広野を主人公が旅する中で事件に巻き込まれて行く小説、なんていまは流行らないかなあ……と思ったんですが、担当のKさんに話してみたら、「それは電撃でなら書けるんじゃないですか?」と言われて、ラッキーにも本になりました。渡世人も少女になりましたし、吸血鬼ですし、出発点からはずいぶん離れてしまいましたが、だからこそのキッカケです。

──作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 この短篇連作に出てくるふたつのセレン(そこは本文を見てね)は、気さくな面やクールな面も持った少女です。その主人公の魅力や、それぞれのエピソードごとの個性的な街や人物が出てくる、各話のバラエティをお楽しみ下さい。また、尾崎ドミノさんの美しいイラストも、楽しくお読みいただけると思います。

──作品を書くうえで悩んだところは?

 ヒロイン(私的にはヒーロー)、セレンの口調です。私が少女を書くと、なーんか『スケバン刑事』になっちゃうんですね。「てめえら、許せねえ!」みたいな、ああいうの。でも、セレンは別にスケバン(チーマーみたいなもんです)ではないし、柄が悪いわけでもないので、そこで直しがバンバン入りました。後は楽しく書けました。

──執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 純粋に書いていたのは5ヶ月ぐらい、構想からは、2年ぐらいかなあ……。遅くてすみません。

──執筆中のエピソードはありますか?

 セレンの外見のイメージを考えているとき、TVで『紅蓮華』『炎』を歌っているLiSAさんのコスチュームを見て、「これだ!」と思いました。最終的には、尾崎ドミノさんの手によって、現在の形に昇華されたのですが、LiSAさんには感謝感謝です。もちろん尾崎さんも、ありがとうございます!

──本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 セレンは最初、宵闇のセレンしか描かれていませんでした。つまり、無感情な女の子が血を吸いながら荒廃した世界を走る話です。もしそれで通していたら、とても他人様にご提供をできる作品にはならなかったでしょう。担当のKさんに、そこを突かれて、黄昏のセレンを考えてみました。主人公は二択、まさに昼と夜です。

 書き終えてみると、ひと粒で二度おいしい感じになった、と作者は思うのですが、読んで下さった方も、同じように感じていただけたら幸せです。

──特にお気に入りのシーンはどこですか?

 第3話「桃源郷/遠眼鏡」で、セレンとイラクリ(幼女のようで、実は……)が会話するシーンが、見えない緊張があって、気に入っています。ちなみにこの話で出てくる「アフガニスタン・バナナスタンド」というのは、ドナルド・E. ウエストレイクの犯罪小説『ホット・ロック』に出てくる、一種の呪文です。

──今後の予定について簡単に教えてください。
 
 『セレン』の続きを書きたいのですが、いまの所、何も決まっていません(まだ9月だしな)。書ければいいなあ……商売繁盛をお祈りしに、お詣りに行きたい気分です。

──小説を書く時に、特にこだわっているところは?

 句読点をいくら減らすか、にこだわっています。私は肺活量が少ないので、「、」が増えてしまうんですよ。後はこまめに辞書を引きます。ニホンゴ、ムズカシイデス。

──アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 音楽を聴くことです。『セレン』ではブルガリアン・ヴォイス(ブルガリアの合唱曲)を使おうと思って、CDを買い漁りました。結局、ちょっとしか出てきていないんですが、セレンの雰囲気には合うと思います。続きがあれば、また出したいですね。

 最近は、ヨルシカやフィロソフィーのダンスといった、サブスク系の曲を聴くことも多いので、そういうふんいきの小説も面白いんじゃないか、と思います。YOASOBIは小説から曲を作るそうですので、その逆ですね。

──学生時代に影響を受けた人物・作品は?

 「人物」ということでいいのなら、女優のつみきみほさんで、作品は2本目の主演作『花のあすか組!』です。仕事場の壁にポスターを貼る所から始まって、なんと、ウィキペディアの「つみきみほ」のページに、私のことが載っている所まで行きました。断じて私が書いたわけではありません。小説家の世界は意外と狭いので、そういう自作自演というのは、必ずバレるものですから。

 『花のあすか組!』は、ショートカットの少女が男たちをなぎ倒して闘う、ハードな戦闘少女映像です。公開が私の作家デビュー年で、以来ずっと憧れを持って、強い少女を書いているので、影響は大きいです。

──今現在注目している作家・作品は?

 二月公さんの『声優ラジオのウラオモテ』ですね。ずいぶん前に、アニメの仕事をしていたので、興味深く拝読しています。あと、キャラの感情のコントロールが、すごくうまいとも感じています。

──その他に今熱中しているものはありますか?

 カクヨムに、『改訂版・少女ヒーロー読本』という連載をしています。それこそ『スケバン刑事』以前から『ガンガール・レディ』(予定)までの、少女戦闘映像を紹介する暑苦しい(自分で暑苦しい言うな)解説文で、熱量を上げて集中しています。これは紙の本で出したいんですが、膨大な量ですので難しいですかねえ……。書いてる自分は幸せなんですが。職業:文章、趣味:文章なので、話が広がらなくてすみません。

──最近熱中しているゲームはありますか?

 ごく最近のものだと、『ショートショートnote』というカードゲームをやっています。200枚のカードに書いてある単語(「鬼」とか「ふりかえると」とか)を2枚使って、短い小説を書いていくゲームです。短篇のネタ出しにも大変有効です。

──それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 今回は白早見が書いていますので、怖い所は一箇所しかありません。それも含めて、読み終えてみるとなんだか爽快な感じになっていればなあ、と思います。極限の環境でも、何とか生き抜いていく人間って、こんなに「豊かな」イキモノなんだ、という所を分かっていただければ、幸いです。

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