ゲームシナリオライターよもやま話 その1。ゲームシナリオライターになる方法【電撃PS】

電撃PlayStation 、師走トオル
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 『僕と彼女のゲーム戦争』などで知られる作家・師走トオル氏によるゲームコラム“名前のないゲームコラム”。今後定期的に“ゲームシナリオライターよもやま話”をテーマにお送りします。

ゲームシナリオライターよもやま話
その1:ゲームシナリオライターになる方法

 今から数年前のことです。とある同業の方から次のような電話がかかって来ました(※1)。

【※1】守秘義務の関係上、このやり取りには意図的に多くのフェイクが入っています。でも大体この流れでした。

同業者:師走さん、ゲームシナリオの仕事しません?

 こういった形でのお仕事紹介は、フリーランスのゲームシナリオライターをやっていると珍しくありません。お仕事のご紹介ありがとうございます――と土下座して感謝すべきところですが、まずは次のようにお返事せざるを得ません。

師走:もちろん受けたいですけど。どんな案件でしょう?

 作業内容、ギャランティ、スケジュール。こういった条件を加味せずにお仕事をお受けするのはむしろ無責任です。

同業者:ちょっと急ぎの案件でして、締切りまであんまり日がないんですけど。
師走:え。具体的にどれぐらいでしょう?
同業者:あと5日です。
師走:いや無茶にもほどがありますよそれ!

 ゲームシナリオを書くにはそれなりに準備が必要です。シナリオライティングの時間はもちろん、“ゲームの仕様を把握する”という大変重要な過程が必要だからです。もちろん修正や打ち合わせの時間も必要ですし。

 そもそもフリーランスの場合、現在進行形で別の仕事を抱えていることがほとんどです。数か月先ならともかく、急に別の案件を入れた場合、ドミノ倒しのごとくすべてのスケジュールが後ろ倒しになって地獄を見るわけです。

同業者:ですよねー。私もそう思うんですけど、かなり訳アリ案件で。なんでもリリースまで1カ月切ってるのに、現在できているシナリオのほとんどがクオリティ不足で全部作り直すことになったとかで。
師走:あ、それ“あかんヤツ”では……?

 “あかんヤツ”とは業界用語で、きな臭いとか将来的にマズい事態になるのが明白とか、ようするに誰かがババ引くことが明らかな案件のことを指します(※2)。

【※2】すいません、偉そうに業界用語などと言いましたが、ひょっとすると私の近辺でしか使われてないかもしれません。

同業者:いやまだ大丈夫じゃないですかね? プロデューサーさんもやる気ですし、報酬は仲介してくれてる某社が支払ってくれる形になってますし。

 確かにリリース直前でのシナリオ全直しとか、なかなかできる決断でもありません。それに大手某社が仲介してくれているのも大変ありがたいことです。仲介というと“中間搾取”といった悪いイメージを抱く方もいらっしゃると思いますが、弱い立場のフリーランスからすると、ギャランティの支払いを保証してくれる会社の存在は大変ありがたいことでもあります。

師走:ちなみに5日でどれぐらいのシナリオ量が必要なんですか?
同業者:キャラクターシナリオ50体分を即席ライターチームで分担する形です。
師走:無理っ!

 いわゆるソシャゲをプレイされたことのある方でしたら、“キャラクターシナリオ”や“キャラクター個別ルート”といったシナリオをプレイされたこともあると思います。ゲームによってそのシナリオ量は増減しますが、キャラの仕様を正確に把握するだけでもかなりの時間が必要だというのに、50体分のシナリオを5日で、というのはわりと尋常な発注ではありません。

 もちろんライターさんを50人集めればなんとかなりますが、どのライターさんも現在進行形でなんらかの作業を抱えているのが普通ですから、都合良く手の空いているライターさん数十人を探すだけでも困難なわけです。

 私も5日で1、2キャラならともかく、それ以上となると他のお仕事に影響が出かねません。残念ながらこの案件を引き受けるのは難しいと、お断りしようと思いました。

 ところが、ここから事態は急変します。

同業者:ちなみにギャラは1ルートあたり○万円です。
師走:やらせてください、お願いします是非っ!

 こうして私も別の信頼できる同業者を紹介し、似たような会話が他のライター間でも無数に繰り返された結果、即席のライターチームはあっという間に完成しました。

 金に釣られたライターチームというと、聞こえは悪いでしょう。ですが自分の技術を売り物に生き抜くフリーランスがそんなことを気にするわけもなく、また一度引き受けた仕事は絶対に手が抜けないのもフリーランスです(スケジュールを守らない、成果物のクオリティが低い、といった評判が立つと次のお仕事を頂けなくなってしまうので)。

 即席のライターチームは「このキャラ終わりました、他に空いてるキャラありません?」と半ば奪い合うように作業した結果、5日で必要クオリティを満たす50体分の新シナリオが無事完成。ゲームは予定通りリリースを迎え、プロデューサーさんの熱意の成果でしょうか、これを書いている令和元年現在もサービスは継続しておりました。

 つくづく思います、世の中は決してお金がすべてではありません。ですが大体のことはお金で解決するよね――と(なおスケジュール的にはこのあと地獄を見ました)。

 すいません、長くて恐縮ですがここまでが前置きとなります。

 今更ですがこのコラムはゲームコラムです。しかし個人的な事情(※3)もありまして、生き馬の目を抜くゲーム系情報サイト業界で、他サイトに先んじたゲーム話をする――なんてことは簡単ではありません。

【※3】息子が2歳になりました。初めての子育ては、まだまだてんやわんやです。

 そこで「次のコラムのネタどうしましょう?」などと担当さんに相談したところ、「フリーのゲームシナリオライターやってるんですからその話をしてみてはどうでしょう?」というご提案を頂きました。

 自分の職業の話なんて大して面白みもないのでは――と思ったのですが、試しに「こんなエピソードとかありましたけど」と冒頭の話をしてみたところ意外とウケが良かったこともありまして。

 というわけで今後定期的に――言い換えると読者のみなさまの需要ある限り――ゲームシナリオライターよもやま話でもしてみようと思った次第です。

 差し当り第1回ということで、そんな“ゲームシナリオライターになるには?”というテーマで話をしてみたいと思います。

 以前の記事でも触れましたが、いわゆるソシャゲー、それも『Fate/Grand Order』といったシナリオを重視したゲームの大流行に伴ってゲームシナリオ需要が急増し、ゲームシナリオライターに投資するという動きが生じました(ちなみに需要が急激に増えた結果として様々な問題も生じてはいますが、その辺りのお話はまた機会があれば)。

 その結果、フリーランスが多かったゲームシナリオライターの働き方にも変化が生じ、近年では会社に正社員として勤務するシナリオライターさんというのも珍しくなくなりました。

 つまり今、ゲームシナリオライターには“フリーランスか社員か”という2つの職務形態があるわけですね(フリーのシナリオライターさんが一時的に契約社員として勤務するといったケースもありますが)。ちなみに筆者はフリーランス、ようするに“外部の雇われゲームシナリオライター”となります(※4)。

【※4】ついでに公平のため、この記事を書いているライターの素性について触れておきますと、これまでに携わったゲームシナリオは合計8本です。メインでガッツリかかわったものもあれば、サブライター、緊急ヘルプ、フリーシナリオディレクターとしてお声がけいただいたものもあったり、シナリオコンペで参加したこともありました(他にも開発中止といったトラブルが生じてお蔵入りになった案件が結構あり、これはこれでネタの宝庫なんですが、触れられるかは分かりません)。

 また、かかわったゲームの本数こそ1、2本であっても長年サービスが続いているソシャゲのシナリオにずっと携わっているというライターさんもおり、ようするに今やゲームシナリオライターも色々な働き方があるという点はご理解いただければ幸いです。

 ではそんなゲームシナリオライターになるにはどうすればいいのでしょう?

 “ゲームシナリオライターに必要な資質”という話になるとちょっと長くなるのでまた後日に回そうと思っているのですが、“ゲームシナリオライターになる方法”という形で見れば難しいことはありません。

 まず“会社に社員として勤務しているゲームシナリオライター”になる方法ですが……お察しの通り、ゲームシナリオライターを募集している会社(※5)に応募することです。もちろん、フリーのシナリオライターとして仕事を受け、高い評価を受けた結果、正社員としてのお誘いを受けるといったルートも存在しますが。

【※5】大体の場合、ゲーム製作会社か、ゲームシナリオを専門的に作っている会社のどちらかになります。

 すると当然ながら「じゃあ会社の採用基準はどうなっているのか」という疑問が湧くと思いますが、その点については長くなることもありまして、“ゲームシナリオライターに必要な資質”というテーマの回で解説する予定です。

 他方、“フリーランスのゲームシナリオライター”になる方法というのは非常に簡単です。

 名乗ればいいんです。

 その時点で誰だろうと“フリーランスのゲームシナリオライター”になれます。別に弁護士さんやお医者さんのような認定試験もありませんし。

 ただフリーランスにとって重要なのは“(継続的に)お仕事をもらえるかどうか”で、私も日々人知れず奔走しております。名乗るだけなら簡単な肩書きではありますが、長期間ゲームシナリオのお仕事ができていないと、自然と名乗るのに躊躇するようになったりもします……。

 ちなみに“フリーランスのゲームシナリオライター”としてお仕事をもらう方法ですが、個人的経験として大体次の3つがあります。

【仲介】誰かにお仕事を紹介してもらう。
【営業】自分を売り込んでお仕事をもらう。
【指名】「あなたに頼みたい」と誰かに指名してもらう。

 ようするにある程度のツテとかコネとか実績とか知名度といったものがないと、お仕事をもらうのは大変難しいわけですね。もしこのコラムをご覧になっている方の中にゲームシナリオライター志望の方がいらっしゃったとして、いきなり“フリーランスのゲームシナリオライター”になるのは決してオススメできません。この辺り、フリーランス全般に言えることですが。

 では実績や知名度もなにもない状態で、“仕事をもらえるフリーランスのゲームシナリオライター”にる方法はないのでしょうか?

 私の知っている限りでは、“著名なライターさんのもとに弟子入りする”、“ゲームシナリオに近しい業界(出版業界など)で経験と実績を積む”、最近うかがったところでは“業界の交流会に出る”といった道があるそうです。

 私の場合は、昔ゲーム会社にゲームクリエイターとして勤務していた後に作家になったという経緯があり、そのご縁で『ファンタシースターZERO』というゲームシナリオのお仕事を頂くことができました(一応“指名”にあたりますね)。

 最近はゲームシナリオ需要の急増もあり、人からお仕事をご紹介頂くことが多いですし、私も他の同業者の方を紹介することが少なくありません(仲介)。また、スケジュールがぽっかり空いてしまったときなどは「お仕事ください、なんでもします」と同業者に土下座することもあります(営業)。

 余談ながら、ゲームシナリオというのはジャンルによる向き不向きというものがあります。たとえば剣と魔法のファンタジーは得意でも、現代学園モノで女の子がたくさん出る話は苦手――とかですね。なので私も高いギャランティの案件を頂いても「私より得意な人がいる」と思えば、躊躇無く別の方を紹介したりします。その方がみんな幸せになりますし、きっと見返りがあるに違いないですから!(※6)

【※6】なお、仕事を選り好みするという意味ではありません。「自分よりそのジャンルが得意な人がいる」と確信を持って言える場合に限った話で、基本的に依頼があればなんでも書きます。

 なお、一度引き受けたお仕事については、絶対に手が抜けません。冒頭でも書きましたが、スケジュールを守らないとかクオリティが低いといった悪評が立つと、たちまち次のお仕事を紹介されなくなってしまうからですね。逆に自分の仕事が評価されれば、“指名”という形でお仕事をもらえるようにもなります。そこまでいけば“フリーのゲームシナリオライター”と名乗ってもあまり罪悪感がなくなります(注:個人の感想です)。

 ようするに“ゲームシナリオライター”と言っても、フリーランスという括りで見れば他の職業と大して変わりはないということですね。

 というわけで初回はこのような形で“ゲームシナリオライターよもやま話”をしてみました。次回更新は6月20日を予定しておりまして、より本格的にゲームシナリオライターならではのお仕事についてお話できればと思っています。ご期待頂ければ幸いです。

師走トオル氏プロフィール

 ゲームをこよなく愛する作家。主な著作に『火の国、風の国物語』『僕と彼女のゲーム戦争』『無法の弁護人』『バイオハザード7 レジデントイービル ドキュメントファイル』等。最新作『ファイフステル・サーガ 再臨の魔王と聖女の傭兵団』は富士見ファンタジア文庫より発売中。