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2003年12月16日(火)

「インタラクティブさを大切にしたい」――宮本氏と岩谷氏が「レベルX」でトーク!

 恵比寿の東京写真美術館において開催中の展覧会「レベルX」で、任天堂の宮本茂氏とナムコの岩谷徹氏によるトークライブが行われた。「レベルX」は、2003年9月で生産終了となったファミリーコンピュータ(以下ファミコン)の歴史を振り返る展覧会で、場内では歴代ハードの展示やさまざまなファミコンソフトの試遊などを楽しめる。12月14日までの入場者数は6,597人(開催者調べ)で、平日は300人、土日は1000人以上の来場があるとのこと。土日は相当な混雑を見せており、入場規制なども計画されているとか。また、入り口で販売中のムック「ファミリーコンピュータ1983-1994」も好調な売れ行きを記録。ファミコンソフト全1252本を収録した、非常に資料価値の高いムックとあって、当時を懐かしむ人やコアなファンに好評を博しているようだ。

 この日のトークライブでは、20年の歴史を振り返りつつ今後のゲーム業界の展望などについても話題が展開。ゲームキューブとGBAのコネクティビティが実現させた『パックマン vs.』の実演も交えて、トークを進めていった。

・パックマン談義
GCとGBAを接続することで、任天堂のコネクティビティを実現させたソフト『パックマン vs.』。最大4人でのプレイが可能で、モンスター役の3人はGC、パックマン役はGBA。モンスター役のプレイヤーはテレビ画面で、パックマン役は手元のGBAを見ながらのプレイとなる。パックマン役は迷路の全景を確認できるが、モンスター役の画面には部分的にしか迷路が表示されず、モンスター同士で情報をやりとりしながらパックマンを追い詰めていくというゲームだ。使用するのは方向キーだけという、シンプルな操作方法も魅力の1つ。この日は宮本氏と岩谷氏に加えて来場者からプレイヤーを募り、ステージで実演が行われた。
宮本氏「テレビゲームで昔の遊びがよみがえったように、GCとGBAの画面を両方見ながら遊んだら昔のゲームがプレイヤーによみがえらないかな、と思っていまして。いろいろ試している時に、やっぱりパックマンでいきたいということになったので、岩谷さんとお話させてもらったんです」
岩谷氏「宮本さんからお話をいただいた時に、「今パックマンを題材にゲームを作っているんだけど」と聞きまして、最初は「どうして任天堂の人がパックマンを?」と思ったりもしたんですが(笑)。詳しく話を進めていくと、すごくおもしろそうなので開発を進めました」
宮本氏「『パックマン vs.』を作る時に気をつけたのは、“ふくらまないように”という点ですね。今のゲーム開発を否定しているわけではありませんが、開発に膨大な金額がかかる状況で、ディレクターが本当にやりたいことをできているのか疑問だったんです。たくさんの人が関わると、どうしても分業化せざるを得ませんし、そうなると誰が作ったのかわからなくなってくる。逆に、豪華にしないとダメなんじゃないか、と作る人も縛られてしまっている。だから『パックマン vs.』では、シンプルさを損なわない開発を目指しました。このゲームは方向キーしか使わないので、AボタンとBボタンは空いています。でも、そこでAボタンを使うとパワーアップするとか、得点を稼ぐとアイテムが買えてBボタンで使えるとかにすると、遊び方を覚えるのに時間がかかったりするんですよね。『パックマン』は単体ですでに完成しているゲームですし、余計な要素を付け加えることでおもしろさを損ねたくなかったんです」
岩谷氏「宮本さんが『パックマン』の魅力の本質である、シンプルさを見抜いてくれたので、パーティゲームとして楽しめるものに仕上げてくださったことに感謝しています」

・これまでとこれから
宮本氏「ファミコンの生産終了は、単に部品を調達できなくなったから申し訳ない……ということだったんですが。なんだか大ごとになってしまって恐縮しています(笑)」
岩谷氏「1958年、45年前にアメリカでビデオゲームが誕生して、20年前にファミコン。20年くらいの単位で、この業界は動いているのかなと感じます。今後また、20周年くらいで大きな節目が繰るかもしれないですね」
宮本氏「ハードが出ることでゲームが変わることを求めてきましたが、高性能なハードが出ればゲームも変わるのかといえば必ずしもそうではない。昔からの遊びをゲームに取り入れていきたいですね」
岩谷氏「若いクリエイターには、プレイヤーが何を求めているのかを常に考えなさい、と言っているんです。複雑なゲームを買って、解く“苦しみ”を味わわせなきゃいけないのか、と。遊びが進化すると、演出などで驚かせる方に注力されがちですが、おもしろさの本質は変わっていませんよね。海外のゲームなどで、血がドバーッと出るものが評判になったりもしていますが、僕は正直そういうのはあまり好きではありませんで(笑)。何十年かあとに、「これはお父さんが作ったんだよ」と胸を張って誇れるものを作りたいですね。映画でもそうですが、いい著作物は腐りませんよね。「七人の侍」などは、今観てもおもしろい。そういうもの作りをしていきたいです」

・遊びで一番重要なことは?
宮本氏「ゲームにとって重要なことは、インタラクティブ性が全てだと思ってるんです。ビデオゲームは刺激を与えることで進化してきてますが、プレイヤー自身が自発的に“感じる”ことってとても大切ではないかと。たとえば、『ゼルダ』のリンクが壁のレバーの前で、Aボタンを押すとしますよね。高スペックのゲームでは、豪華なデモとともに門が開きます。でもボクは、Aボタンではつかむだけで、方向キーを下に入れることで開く、という仕掛けにしたい。そんな、ユーザーが起こしたアクションに対してゲームが反応を返していく、インタラクティブさを大切にしていきたいんです」
岩谷氏「今の若い人は、映画にしてもテレビにしても、情報をシャワーのように浴びていて、自分でイメージすることに慣れていません。少ない情報で自分からイメージを膨らますような、そんな部分はなくしたくないですね」

 会場で実演される『パックマン vs.』を見ていると、そのシンプルさに強烈な魅力を感じた。細かい操作説明もなされていないのに、初めてこのゲームに触るプレイヤーたちがどんどんおもしろさを見つけていく。高スペックなハードによって、ゲームが豪華な方向へと進化していくのも、喜ばしいことに違いはない。しかし、そんなゲームがあふれている昨今だからこそ。老若男女誰にでも理解できる楽しさとシンプルさを持ったタイトルが、待ち望まれているのかもしれない。

『パックマン vs.』をプレイする、岩谷氏(左)と宮本氏(右)。迷路の全景は宮本氏の手元にあるGBAでしか確認できないという、微妙なさじ加減が複数プレイの楽しさを演出している。

今後のゲーム業界について、さまざまな見解を聞かせてくれた岩谷氏。メーカー同士のコラボレーションについても、「自分のところだけ儲かればいいというのではなく、業界全体を引っ張っていく考え方が必要になるのではないでしょうか」と語った。

黎明期からファミコンを支え、今日においても「ゲームの楽しさ」を追及してやまない宮本氏。「レベルX」で最も印象的だったものは? との質問に対しては、工業デザイナーとしての観点から「こんなん作ってたなぁー(笑)」という懐かしさも含めて「専用ロボット&ブロックセット」と答えていた。

握手する岩谷氏と宮本氏。ファミコンが20年の歴史を終えようとしている2003年に、2大ビッグネームによるコラボレーションが実現したのも、印象的といえる。

「レベルX」の見どころの1つ、懐かしのファミコンソフト試遊台。せっかくなので取材班も『ドルアーガの塔』に挑戦し、隠しコマンドをブチ込んでアイテムを全部獲得しつつ59階までスッ飛ばしてプレイさせてもらった。

場内には、歴代のハードや周辺機器も多数展示されている。写真は、足で操作を入力するという「ファミリートレーナー」。これを持つプレイヤーの家は、パーティの類があるたびにたまり場と化すことが多かった。

「レベルX」会場入り口で販売中の「ファミリーコンピュータ1983-1994」。すべてのファミコンソフトを、箱つき写真で紹介した稀有なムックだ。


データ

■「レベルX」 開催概要
【開催期間】2003年12月4日~2004年2月8日 10:00~18:00(木・金曜は20:00まで)
※年始は2004年1月2日より開館。1月2日~1月4日は11:00~18:00
【開催場所】恵比寿ガーデンプレイス・東京写真美術館 地下1階映像展示室
【入場料】一般250円/学生200円/中高生、65歳以上120円
【休館日】毎週月曜日 ※ただし1月12日(月曜)は開館、1月13日(火曜)は休館となります。

■関連サイト
「レベルX」詳細ページ
東京都写真美術館