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2006年8月29日(火)

日本のゲーム産業はどこへ向かう?経産省「ゲーム産業戦略研究会」記者発表会

 本日8月29日、東京大学本郷キャンパスにて経済産業省が設置した「ゲーム産業戦略研究会」の記者発表会が実施された。

 「ゲーム産業戦略研究会」は、日本ゲーム産業の関係者、有識者を中心に、産・官・学が一体となって今年4月に発足した研究会。コンシューマゲーム、アーケードゲーム、PC用ゲーム、携帯電話向けゲームアプリなど、各種ゲームコンテンツを対象に検討を重ね、その内容をまとめたレポート「ゲーム産業戦略 ~ゲーム産業の発展と未来像~」を8月24日付で発表している。

 今回の記者発表会は、「ゲーム産業戦略 ~ゲーム産業の発展と未来像~」の内容を公開し、その内容を広く知らしめるために実施されたもの。発表会には、「ゲーム産業戦略研究会」の委員長である東京大学大学院情報学環 教授の馬場章氏、経済産業省文化情報関連産業課 課長の小糸正樹氏、スクウェア・エニックス 代表取締役社長の和田洋一氏と、産・官・学から各関係者が出席。それぞれ下記のように挨拶するとともに、「ゲーム産業戦略 ~ゲーム産業の発展と未来像~」についての説明が行われた。

東京大学大学院情報学環 教授
馬場章氏
「日本のゲーム産業は、世界市場に冠する産業に成長していますが、この結果はゲーム業界自らの努力により導き出された結果です。しかし、近年は北米のゲームバブル、中国・韓国の成長により日本は窮地に立たされている現状があります。
これを背景として、今後は産・官・学が一堂に会して議論を行い、今後の方向性を模索していくことが必要となっています。「ゲーム産業戦略研究会」では、産・官・学が連携を取りながら活動を行ったことに意義があると思っています。」


経済産業省文化情報関連産業課 課長
小糸正樹氏
「現在日本のコンテンツ産業全体には、どうやって国際展開を行っていくか、ブロードバンド市場が立ち上がりつつあるなかでどうやってマーケットを確立するか、という2つの課題を持っています。ゲーム産業はこれらの課題について、他のコンテンツに先駆けて展開が行われている、いわばコンテンツ産業の優等生といえる産業となっています。ですが、なにも問題点がないかというと、必ずしもそうではない。
  コンシューマゲームでは欧米の市場が急速に拡大しており、オンラインゲーム市場は韓国が優勢で、これから国際市場は大競争時代に入っていくと考えています。一方、国内ではゲーム離れの進行によるシェアの減少、地方自治体が青少年育成条例によって特定のゲームソフトを「有害図書類」に指定するといった動きもあります。この他にも、「ゲーム脳」といった一方的な見方の説が、特段の科学的根拠がなく語られるという側面もあります。
  また、今年はいわゆる次世代ゲームハードの発売も予定されています。エポック的な年になりますが、ソフト開発のコストアップの問題、開発環境の変化への対応など、多くの課題を秘めています。このため、今後はますます国際的な競争が激しくなるでしょう。
  「ゲーム産業戦略研究会」では、会を通してこういった危機感を各方面の方と共有し、今後の方向性を見出すことができたと思います。」


スクウェア・エニックス 代表取締役社長
和田洋一氏
「今回の「ゲーム産業戦略研究会」は、産・官・学が一体となって、ゲーム産業について取り組んでいくという、今までなかった非常に画期的な活動として、非常に有意義なものだと思います。
  これまで“ソフトを作る”ということはモノ作りではない、エンターテインメントは学問や仕事ではないとされてきました。ゲームは、このソフトとエンターテインメントがあわさった、新しくできたメディアということもあり、偏見を持たれやすいコンテンツでした。また、我々も社会との会話、認知されるための活動をしてきたとはいいがたいところがあり、産・学の方に対して、我々がはっきりと意思を表明していなかったということだと思います。「ゲーム産業戦略研究会」では、産・官・学で噛み合った議論を交わすことができ、非常に意味がある会でした。
  しかしながら、今回発表するレポート自体が会の目的ではない。これからこの戦略を具体的に詰め、実行していくことが最終的な目的です。いわば本日の発表会が私どものキックオフミーティングであると考えています。」




■「ゲーム産業戦略 ~ゲーム産業の発展と未来像~」 ※一部抜粋

 本レポートでは、まずはじめに日本のコンテンツ産業においてゲームが持つ意義、および現状を確認したうえで、現在挙がっている課題を指摘。問題点を明確にした上で、“日本のゲーム産業が目指すべき未来像”を決定し、これを具体化するための3つの戦略を模索している(詳細は下記の通り)。なお、「ゲーム産業戦略 ~ゲーム産業の発展と未来像~」で出された戦略は、経済産業省が定めた方針であり、決定事項ではない。

■ゲーム産業の意義

・コンテンツ産業で最大の輸出産業であり、日本のソフトパワーの海外展開に貢献

  ゲーム産業は、コンテンツ産業のなかでも最大の輸出産業となっており、外貨を獲得して日本経済の発展に貢献。積極的な海外展開が行われており、新しい「日本文化」や「日本ブランド」の発信において、最も大きな貢献をしてきている産業のひとつである。
また、ゲーム産業は他のコンテンツ産業とは異なり、いわば「日本育ち」の産業として、これからも世界をリードし続けていくポテンシャル(潜在能力)を秘めている。

※家庭用ゲーム産業の総出荷額は1兆3,598億円。うち、海外出荷額の占める割合は71%。

・今後の市場拡大の可能性が大
  世界レベルでみた場合、ゲーム産業は北米や欧州の市場が年々拡大している。また、中国や韓国だけでなく、世界レベルで今後も市場が拡大していく可能性がある。加えて、オンラインゲームのような、新たなゲームの出現により、国内外の市場が開拓される可能性もある。
  また、インタラクティブ性というゲームの特性は、幅広い応用が可能であることから、エンターテインメント分野のみならず、教育、学習、医療・福祉などの他分野への展開が期待される。このため、海外ばかりではなく国内市場のさらなる拡大も考えられる。
・コンテンツ産業を技術面で牽引
 近年、音楽や書籍、アニメなどのゲーム以外のコンテンツもデジタル化されているが、ゲームはデジタルコンテンツの先駆けであり、3Dコンピュータグラフィクスをはじめとした映像表現の高度化、ブロードバンド環境の活用において、他のコンテンツ産業に先行している。ゲーム制作の基盤技術となっているAI、コンピュータグラフィックスなどは応用範囲が広い技術として、ゲーム開発で培われた技術やノウハウが、アニメ産業や映画産業などの他のコンテンツ産業、コンテンツ以外の産業で活用されることも期待される。このため、コンテンツ産業全体を技術面で牽引している産業といえる。
・ユビキタスネット社会の実現に貢献
  ゲームはコンピュータを誰でも触れられるようにし、身近に感じさせたことにより、現代の情報化社会においてユーザーの裾野拡大に貢献している。また、携帯型ゲーム機の普及やネットワーク化への対応により、今後のユビキタスネット社会においても、プラットフォームの提供やユーザーの拡大に貢献していくことが期待できる。


■ゲーム産業の現状

・ゲーム産業の国内市場規模は1兆1,442億円(2005年時点)

  2005年のコンテンツ産業の国内市場規模は13兆6,811億円で、このうちゲーム産業の国内市場規模は1兆1,442億円。オンラインゲームの市場規模が急速に拡大している。
  上記のうち家庭用ゲームのソフトの市場規模は4,965億円で、ソフトのみでは3,141億円。1997年のピーク時(5,833億円)と比べ、54%の水準となっている。規模衰退の要因としては、少子化によるプレイヤー人口の減少の他、PC・携帯電話の普及やテレビ放送の多チャンネル化など、ゲーム以外のエンターテインメントコンテンツの増加により、ライフスタイルが多様化したことが考えられる。
  ちなみに中古ゲームソフトの2005年市場規模は870億円で、新品ゲームソフトの約3割に当たる。
・欧米のゲーム市場は拡大傾向
  欧米のゲーム市場においては、2001年の時点で日本が世界最大の市場を持っていたが、2005年時点で北米が210%、欧州が304%の拡大を果たしている(2001年時点と比較)。一方で日本のゲームソフトの海外出荷は、海外市場が拡大しているにもかかわらず、金額ベースではほぼ横ばい(2001年:2,532億円、2005年:2,528億円)で、海外市場の拡大に十分に対応できていない。
  また、ゲームハードの動向に関しては次世代ハードのXbox 360が日本製ハードに先駆けて発売され欧米を中心に普及。しかしながら、世界全体で見るとPS2とGCが世界市場において2005年末時点で約82%のシェアを有しており、依然として高い競争力を維持している。


■ゲーム産業の課題

・国内展開、海外展開ともに顧客のライフスタイルの多様化に対応したソフト開発

  国内市場については家庭用ゲームの市場が縮小傾向にあるが、この背景には少子化によるライフスタイルの多様化といった、顧客の状況変化がある。しかし、日本のゲームやゲームデザイナーが世界のゲーム開発者から依然として高く評価されていることから、現在も日本の開発ポテンシャルは国際的に極めて高い水準にあると考えられる。
  このような高いポテンシャルを海外市場の獲得や国内市場の拡大に結びつけていくためには、顧客の多様化しているライフスタイルに対応したゲームを提供していくことが課題である。
・ゲーム産業を取り巻く環境の変化への対応
  開発費の高騰、ゲーム開発のビッグプロジェクト化、開発環境のPCベースへの移行が起こりつつある中、開発基盤、開発体制、ビジネスモデルなどにおいて、このような変化への対応が必要。このような変化にともない、開発者に必要な専門的技術・能力が高度化しているため、人材の育成・確保への対応も課題となる。
・国内において、社会との関係の向上が必要
  ゲーム産業は、社会にエンターテインメントを提供しているのみならず、海外での積極的展開により日本ブランドを発信しているといった役割を担っているにもかかわらず、社会ではそれに見合った評価を受けておらず、これがビジネス、人材確保などに障害となっている。青少年の健全な育成をはじめとした、社会との関係の向上のためのゲーム産業側の積極的な取り組みを行っていく必要がある。


■目指すべき未来像

・日本のゲーム産業が世界をリードしていくこと

  日本のゲーム産業が、世界に誇るエンターテインメントコンテンツとして、日本ブランドを支える存在として、今後も競争力を維持・強化し、輸出産業として発展し続け、世界をリードしていく。
・日本のゲーム産業が社会や国民に広く支持を受けること
 青少年健全育成などの課題に積極的に対応し、教育・学習、医療・福祉などのエンターテインメント以外の分野においてもポテンシャルを発揮して、これまで以上に社会や国民に広く支持を受けることを目指す。


■開発戦略 -ゲームの創造・開発力の強化-

・開発者のポテンシャルを引き出す環境の整備」

 開発者のインセンティブ、および社会的地位の向上のため、産業界は国内外において優れたゲームを創造したクリエイターに対する国際的な表彰を創設する。また、プログラマーなどの技術者に対して焦点を当てることは、優れたゲームの創出にもつながる。国は産業界による取り組みを支援するため、ゲーム産業振興の観点から特に意義の高い表彰に対し、大臣賞の付与を行うなど、当該表彰制度の認知度の向上に協力する。
  また、ゲーム開発者のコミュニティを形成し、シンポジウムや研修を通じて広く知識や技能を供給していく。
・優秀な人材の確保体制の強化
 優秀な人材を確保するためには、ゲーム産業を志望する者に対して、必要となるスキルやゲーム開発者のキャリアパスが明らかにされることが必要。国はこれらの調査を行い、必要なスキルやキャリアを明確化する。産業界はこのような調査も参考にしつつ、ゲーム開発者の検定制度の導入について検討していく。
  この他にも、インターネットを活用した人材発掘の場として、就職ポータルサイトの整備・運用を行っていく。
・産学連携による人材育成の促進
 インターンシップ制度を導入し、学界より人材を供給。実践的な仕事を通じて、人材の育成を行う。大学などの教育機関では、インターンシップ制度の導入に留まらず、ゲーム開発における専門的な教育も実施していく必要がある。産業界からは、専門的な教育カリキュラムにゲーム開発者を講師として派遣する。
・研究開発の推進システムの確立
 ゲーム産業における共通の技術課題を調査し、企業間の連携を行っていく必要がある。大学などの専門機関にて行われる研究については、、ゲームへの応用可能性の高いものを明らかにして、産学で連携をとっていく。ゲームの学術的な裾野の拡大のためには、産業界がゲームに関連する新技術や論文を顕彰する、といった取り組みを検討するべきである。


■ビジネス戦略 -海外市場と新環境への展開の強化-

・「東京ゲームショウ」の情報発信力や機能の抜本的強化

 世界最大のゲームの展示会であった米国の「Electronic Entertainment Expo(E3)」の規模縮小を踏まえ、「東京ゲームショウ」を世界一の情報発信力とビジネス機能を有する場にしていくこと。このため、産業界は国が中心となって検討を進めている「国際コンテンツカーニバル(仮称)」と「東京ゲームショウ」との連携に取り組み、情報発信力や機能を強化していくべきである。

※この「国際コンテンツカーニバル(仮称)」とは、「東京ゲームショウ」をはじめとしたさまざまなコンテンツの展示会を同時期に開催し、海外への日本ブランドの情報発信力を強めるという試み。「東京ゲームショウ」の出展方法の変更などは、具体的にまだ決定されていないとのこと。

・海外市場におけるビジネス展開の推進
 市場規模が大きい、または今後の発展が見込める国・地域に展開し、現地でのゲーム開発体制の整備。加えて、海外企業とのコラボレーションを積極的に行い、海外のゲーム展示会への出展や海賊版の取り締まりなどに協力していく。
・ブロードバンド環境を活用したビジネス展開の推進
 オンラインゲームのサービスを行う企業が互いに連携し、ゲーム産業全体の活性化を目指す。オンラインサービスに伴う課題の整理も相互に行っていき、知的財産の取り扱いやリアルマネートレードといった問題点を共に検討する。
・中小、ベンチャー企業のビジネス展開の推進
 中小・ベンチャー企業にとっては、資金調達や専門人材を連携して行う共同事業(ジョイント・ベンチャー)が重要となる。このため、「有限責任事業組合(LLP)制度」やファンドの活用を国が促進し、さらなる活性化を図っていく。また、ゲーム開発に必要な機材の高度化に対応するため、大学など外部の機材を活用していくことが必要となる。


■コミュニケーション戦略 -社会とのコミュニケーションの強化-

・ゲーム産業による情報分析、発信の強化

 社会や国民に対して、ゲーム会社から情報発信を強化。CEROによるレーティング制度など、社会に貢献する活動をアピールする他、教育・学習、医療・福祉といった社会貢献の面が大きい分野でゲームを活用し、社会的地位の向上に努める。
  さらに、ゲームに関する科学調査、研究を進めることでその影響を科学的に分析し、「正の効果」と「負の効果」を検討していく。

・双方向のコミュニケーションに向けた取り組みの実施
 ゲームが社会や国民からの幅広い支持を受けるためには、双方向のコミュニケーションを図り、社会や国民のゲームへの期待を産業界が共有していくことが必要となる。そのためには、ユーザーやその保護者、教育関係者、メディア関係者とゲーム会社側が対話する場を設ける。国はシンポジウムを開催して、産業界の積極的なコミュニケーション活動を支援する。
・青少年の健全育成に対する取り組みの強化
 青少年健全育成という観点から、ゲームに対する地方自治体の関心は高く、特定のゲームソフトがいくつかの地方自治体から有害図書類に指定されている。こうした社会からの不安を取り除くためには、レーティング制度の普及、社会や国民への啓発の強化に努めるべきである。さらには、社会状況の変化を的確にとらえ、表現の自由にも配慮しつつ、メディアに対して広く情報を開示する。
  また、産業界により自主的に設置された「映像コンテンツ倫理連絡会議」に参画し、他の映像コンテンツのレーティングとの調和のため、マークの共通化も視野に入れて問題に取り組む。



■関連サイト
「ゲーム産業戦略 ~ゲーム産業の発展と未来像~」全文(pdf)
経済産業省