2008年4月13日(日)
【蟲の居所】木箱はいつできる? ギンコが語る木箱作成日記の続きを一挙公開
2005年10月にTVアニメが放送され、今年1月31日にはDS『蟲師 ~天降る里~』が発売された人気コミック「蟲師」。TVアニメやDSで主人公の“ギンコ”を演じた中野裕斗氏が、「蟲師」に携わった人を訪ねたり、「蟲師」にかかわったことをするコーナー「蟲の居所」の第6回をお届けする。
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題字・漆原友紀 |
「蟲師」は、「月刊アフタヌーン」(講談社刊)で隔月連載中のコミック。TVアニメが放送された後、幅広い層の支持を獲得し、文化庁メディア芸術祭「日本のメディア芸術100選」アニメーション部門で6位入賞を果たした。また、DS版『蟲師 ~天降る里~』では、ゲーム内で「蟲師」の世界が再現され、ゲームオリジナルのストーリーを楽しめることでも話題となった。
いつの間にやら、木箱制作が板についてきた中野氏。数々のアクシデントを乗り越え、無事に木箱を作ることができるだろうか? 木箱制作第3回目となる今回は、どんな事件が待ち受けているのだろうか?
■「身に覚えのないバチ」 3月某日
眼帯のとれたケンちゃんがやってきた。
引き出しの板は、9mmを使用する。まず枠を作ってから、底板を差し込む型を取ることにするが、これも骨が折れる作業である。両サイドの板に溝を作らねばならない。
やはり丸ノコか……だが、ここ「蟲籠中野分室」(これからは勝手にそう呼ぶ)では使えない。
かといって、ノコギリでやる自信はない。
「じゃあボクがやってこようか?」というのはケンちゃん。
「だ・か・ら! 俺は蟲師なんだよ!」と話す俺。会話もかみ合わない。
そうだ! ノボルさんがいたじゃないか!! ノボルさんとの付き合いは、かれこれ15年になる、いい意味での悪友だ。彼の家なら、一軒家で庭もある。そして丸ノコもあったはずだ。
早速電話をして、了解を得る。
そうと決まったら、材料の買い出しに行こう。前回も世話になったホームセンターへと向かう。
トミー・リーは元気だろうか?
彼と再会する前に材料を探したが、目的の物が売ってない。
参ったなあ。
仕方ない、少し値の張るものにするかな。
材料と隠し釘を購入し、工作室に……おや? トミー・リーがいない。
何でも休みなのだとか。代わりにいたメガネの青年にカットを依頼する。
無事にカットを終えたが、ここからが問題だ。
ノボルさん宅に到着した俺は、犬に挨拶して、加工台をセットした。
「よし、やるか」
と思った刹那……雨だ! 雨が降ってきた!!
なんてこった。つぎつぎとアクシデントやタイミングの悪い事件が巻き起こるが、俺が何か悪いことをしたのか?
あ然と空を見上げる俺に、ノボルさんは「お前には毎日バチが当たっているのだ」と語り、カッパを差し出してきたのであった。
釈然としなかったが、カッパを着込んで丸ノコをセッティング。この間も、雨足は強くなるばかり。気にしても始まらないので、墨出しをして、いざ!!
スパッスパッ
とはさすがに切れない。雨が作業の邪魔をする。
まず最初に行ったのは、底板をはめ込む溝作りだ。丸ノコが唸りを上げる。
感電しないことを祈るばかり。難しさよりも恐さが先行する作業だったな。
そんな時も容赦なく降り続ける雨。
そして犬と一緒に寝転んでいるノボルさん。
どうやら、昨晩飲みすぎたようだ。
溝作りはなんとか終了。と同時に一時撤退する。雨が身体を冷やす。頼むから止んでくれ!
一瞬、晴れ間が射したが、結局雨は止まなかった。
強行突破をして、丸ノコを再始動させることに。
結局2時間後、すべてのパーツを切り終えたが、俺はすっかりビショビショになっていた。
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ノボルさんからもらった紙袋に切ったパーツを詰め込み、電車に乗る。
雨は止まない。駅から家までは近いから、傘はないが小走りで行けば大丈夫だろう。
……否!
甘かった!!
水に濡れた紙袋が木の重さに耐え切れなかったのだ。
無情にも切ったパーツは水溜まりへと落下していった。
慌てて、パーツを拾い集める俺の脳裏に
「お前には毎日バチが当たっているのだ」
という言葉がよぎった。
オーマイガッ!
■「だいぶ形になってきた」 2008年3月某日
昨日の雨がウソのように、朝から日差しが強い。びしょぬれだった板も乾いている。
よしっ行くぞ! 気合を入れて材を取ろうとした時、携帯電話が鳴った。
「今から倉庫に行くけど、一緒にどうだい? 道具いっぱいあるよ」
ノボルさんからだ。
こいつは助かった。倉庫ならデカイ音も遠慮なく出せるし、いい道具も揃っているはずだ。ペースも上がるに違いない。
倉庫へ向かう車中に流れるのは「蘇える金狼のテーマ」。前野曜子さんの歌う曲で、俺もノボルさんも大のお気に入りの曲だ。
歌詞にあわせて、2人で仲よく口ずさむ。
「ウォーーオーオー♪ チェンジングライフ~~♪♪」
するとノボルさんがこっちを見て
「お前の生活は変わらないがな……」
とニヤリとした。
ノボルさんはいつも一言多い。
到着した後、「蟲籠中野分室」から持ってきた道具を広げていると奥の方から何やら聞こえてきた。
「これを使えば楽だぞ!」
とノボルさんが教えてくれたのは、コンプレッサーとフィニッシュという工具。
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おおっ! コイツらがいれば百人力、もう勝ったも同然だ(何に?)
コンプレッサーオン! モーターがうなりを上げる。
パーツを組み合わせ、フィニッシュを発動!
素晴らしい……なんて加工が楽なんだ。
しかし、ちょっとだけ気になった。
こんなに楽をしていいのだろうか?
「蟲師」は近代兵器などに頼らんはず。
長濱博史に確認すべきか?
俺は史上最強の「蟲師」を目指すことを、目的としている(のか?)。
とはいえ、先日の雨の中での作業で、身も心もレッドゾーン、危険区域に達しているのも事実だ。
戦士(蟲師)にも休息は必要だ……ということにして文明の利器を使用することに。
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長々書いたが、楽をする言い訳だ。
パシュッ! パシュッ!
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エアーの音が気持ちいい。このペースならさほど時間はかかるまい。
ところが、3個目の引き出しを組みかけたところで、空打ちの音が聞こえてきた。
ピンがなくなったのだ!
楽をしたから「バチが当たった」のかもしれない。
困っているとノボルさんが
「ホームセンターに行くからついでに買ってくるよ」
と言ってくれた。
戻ってくるまで玄能で作業を進めておくか。
これまで楽な道具を使っていたため気が進まなかったが、始めてみると、作業は案外快適に進む。
この引き出しの材は表面がやわらかく、加工が楽だったのだ!
天気はいいし、作業ははかどる。
気分は最高だ。
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残すところあと半分という時、ふたつ先の倉庫に軽トラックに乗ったおじいさんがやってきた。
荷物を降ろし終えると、俺に話しかけてきた。
おじいさん「ずいぶんと手のこんだ事やってるね?(タバコに火をつける)」
俺「はい、面倒くさいです(トントントン)」
おじいさん「何作ってるの?(プカー)」
俺「“ギンコ”の木箱です(トントントン)」
おじいさん「……そうかい。タバコ飲むかい?(プカー)」
俺「蟲煙草をもらえると助かります(トントントン)」
おじいさん「……そうかい。あっ、これあげるよ。オモチャみたいなものだけどね」
見ず知らずのおじいさんはそういうとカンナをくれた。
「助かります。ありがとうございます」という俺を後に、おじいさんは
「じゃあ、頑張ってな。あそこの蕎麦屋、やっているかのぉ?」
と言い放ち、消えていった。
この辺りの“ヌシ”だろうか? そういえば俺の腹も減ってきた。
よし、もう一仕事したら、メシにしよう。
隠し釘を打ち終えた箱をデジカメに収めていると、ノボルさんが戻ってきた。
「蟲師よ、はかどっているかい?」
ピンを渡してきたノボルさんは
「よし、俺が面を取ってやる! 面取りポックンとは俺のことだぁ」
と叫んだ。
そういえば先月、免取りをくらって教習を受けていたっけ(笑)。
ノボルさんの買ってきてくれたピンによってフィニッシュ復活!!
ここからは早かった。あっという間に残りは完成。
見てくれはそこそこだが、上出来だろう。
箱はできたが、表面にもう1枚板を張る必要がある。大きさが異なるため、ノコギリで切らなくてはいけない。
さらに、真四角ではないから、調整をしなくては……。
きっとそこで、おじいさんからもらったカンナが大活躍するはずだ。
あとは、取っ手がないので彫り込むこともしなくては。
これも難関だ。何で彫るか?
……頭が痛くなってきたので、とりあえずメシだ! そうだ! メシにしよう!!
そして、腹がいっぱいになって落ち着いてから、ケンちゃんに相談だ!
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・中野裕斗氏近況 |
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以前にお伝えしたショートムービーですが、監督・脚本は、「捨て犬」の監督・浅生マサヒロ氏……なんですが、ハードボイルドではなく、ファンタジーの世界です。乞うご期待! そしてついにアニメ版「デトロイト・メタル・シティ」のキャストが公開に! 力さんを筆頭に、山口祥行、野村祐人、勝矢、そして中野という、RIKI PROJECTの侠たち、漢が出演します! もちろん、俺も“アレキサンダー・ジャギ”役を担当! さらに監督は我らが長濱博史!! 実写に負けぬ勢いで迫り来る熱き魂を体感してほしいです。 |
(C)漆原友紀/講談社・「蟲師」製作委員会
(C)2008 Marvelous Entertainment Inc.
- ▼『蟲師 ~天降る里~』
- ■メーカー:マーベラスエンターテイメント
- ■対応機種:DS
- ■ジャンル:SLG
- ■発売日:発売中(2008年1月31日)
- ■価格:5,040円(税込)
- ▼『蟲師 ~天降る里~』の購入はこちら
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- ▼「蟲師 二十六譚 DVD Complete BOX」
- ■発売元:マーベラスエンターテイメント
- ■販売元:エイベックス・マーケティング
- ■発売日:2008年3月28日
- ■価格:29,400円(税込)
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