2008年4月30日(水)
4月27日、東京・新宿の「新宿ロフトプラスワン」にて、「無限の住人」アニメ化決定記者会見が行われた。
「無限の住人」は、「月刊アフタヌーン(講談社刊)」で連載されている沙村広明氏の同名コミックを映像化したもの。江戸時代の日本を舞台に、不老不死の身体を持つ隻眼の剣士“万次(声:関智一氏)”と、両親を殺した剣客集団「逸刀流」を追う少女“浅野凜(声:佐藤利奈さん)”の旅がつづられる。
本作の監督を務めるのは、「MADLAX」や「.hack//SIGN」を手掛けた真下耕一氏。シリーズ構成は、「神魂合体ゴーダンナー!!」や「ツバサ・クロニクル」シリーズの川崎ヒロユキ氏となっている。記者発表会では、真下氏と川崎氏、そして原作の沙村氏による会見が行われた。以下にその様子を掲載していくので、興味がある人はチェックしていただきたい。
写真は記者会見に出席者のもの。左から真下耕一氏、沙村広明氏、川崎ヒロユキ氏。 |
――まずは沙村氏に伺います。アニメ化決定の知らせを聞いて、どう思われましたか?
沙村広明氏(以下、沙村):アニメ化の話が最初に出た時には、「ふ~ん」という感じでした。というのも「無限の住人」の映像化のお話は、これまでに何度も出ては何度もポシャっているので、もうなんだか麻痺していまして(笑)。でも、監督とお会いしたり、川崎さんからシリーズ構成やシナリオが上がってくるにつれて、だんだん「ひょっとしたら本当の話かもしれない」なんて(笑)。今でもありがたいことだと思っております。
――もう第1話はご覧になりましたか? ご覧になっているようでしたら、感想を聞かせてください。
沙村:拝見しましたけれど、一言で言うとエロかったです(一同笑)。監督はきっと、僕よりも叙情派なんだなぁという印象を持ちました。斬り合いのシーンもそうなんですけれど、それ以外の部分でもそう感じました。1話は原作でいうと投稿作品の部分で、“万次”の妹との触れ合いが出てくるのですが、原作よりも丁寧に描かれていて、自分で描いたものだと思えないくらいいい感じになっています。原作の血なまぐさい部分が苦手な女性が見ても、感心していただけるんじゃないかと思える出来でした。
――では続いて真下監督に質問です。監督にとって「無限の住人」とはどんな作品でしょうか?
真下耕一氏(以下、真下):20数年前、まだアニメで時代劇がそうそうなかったころに、ある小説をアニメ化しましょうというお話もあったりしました。けれど、それから時を経て、やっとめぐり会えたという感じです。自分の中では本当に「奇跡のようなめぐりあわせ」……そんな作品ですね。
――やっとめぐり会えたというのは?
真下:アニメビジネスって「こういう作品を発表したい」と思っても、なかなか現実には映像化までたどり着けないことがあるんですよ。いいところまでいってもポシャっちゃったりとかね(笑)。そういうことって結構日常的にあります。今ではロボットものとかアクションものとか、さまざまなジャンルの作品がありますが、その中で時代劇は真空地帯に近いジャンルという時期がしばらく続いたんですよね。そんな状況でめぐりあえたのが本作だったわけです。さらにうれしいことに古典的な時代劇ではなく、「ネオ時代劇」といわれる非常にエネルギッシュな作品です。そんな本作をアニメとして、テイストやテーマを映像と音で表現していけることが奇跡に近い、まれなチャンスだと思います。
沙村先生も言われていたんですけれど、アニメだけじゃなくて実写でも、例えばハリウッドでやりたいという話があっても不思議ではない作品ですので、その意味でも奇跡的なめぐりあわせかもしれません。
――真下監督が、監督として時代劇にかかわるのは初めてのことだと思うのですが、本作でポイントにした部分を教えてください。
真下:ちょっと極端に言いますと、アニメと原作はそんなに変わっていません。見た印象は当然変わっていますけど。マンガを読んでいらっしゃる皆さんは「このシーンはいったいどうなるんだろう?」という具合に心配したり、期待したりしていると思いますが、その部分はあまり心配していません。主役はじめ、登場人物が非常に「変態」なんですよね。我々人類が持っている「変態」のDNAを、10数年前に20代で沙村先生が描いていたという……。本物の、純粋な変態遺伝子を持つ作品を映像化する。そこですね一番難しいのは。ジョーク交じりにSだのMだの皆さん言いますけど、本物の「変態」を描くのは本当に大変。その片りんを13話でご覧いただき、わからないところは原作を読んでいただく。そうすると、我々が何故この作品を作りたかったかがわかると思います。
――なるほど。では演出の面で最近の真下作品と比べて違う部分はあるのでしょうか?
真下:今回の作品は、HDで製作しております。私たちはずいぶん前からHD作品はどうあるべきかと考えているんですけれど、単にハイクオリティなだけではダメだというのが、現場の結論なんですね。どのスタジオでも、どのスタッフでもそうなんでしょうけれど、映像表現で酔わせるディテールを持っていなければならないと思うんです。皆さんにどう見られるのかわかりませんが、撮影の手法についてはこだわりを持っています。最近だと、動画投稿サイトなどで小さな画面で見てしまう人もいるのでしょう。ですが、小さな画面だと魅力が伝わらない、HD画質で作るからには大きな画面で見ないと魅力が伝わらないという、入り口まではできたかなぁと。ぜひぜひHDで見てください。
――川崎氏は本作で脚本構成を担当されていますが、この作品に携わるにあたって、苦労された点はありますか?
川崎ヒロユキ氏(以下、川崎):昨年の6月くらいに、真下監督から「こういう作品があるんだけど、(スタッフに)加わってくれないか」とお話をいただきまして。……コレがいつも突然なんですね(笑)。突然やってきて原作を読むよう言われたんですが、その時すでに原作は膨大な量がありましたので、これをまず頭に叩き込むのが、これまでの仕事で一番キツかったですね。幸い時間はいただけましたので、しっかりと覚えることができましたが、今にして思うとその作業が一番大変でした。
――それは、アニメ化が非常に難しい作品だったということですか?
川崎:そうですね。表現的な意味でもそうですし、単純に原作のデータが多い点でもそう言えます。読者の方々もデータを持ってアニメをご覧になると思うので、読者に負けないくらい「無限の住人」を身体に入れておかなきゃいけない。ここも作り手としては大変なところでした。
――読者に負けないくらいとのことですが、具体的にどのような部分にこだわりを持って作ったのでしょうか?
川崎:キャラクターの持っているパーソナリティを少し強化している部分と、せっかくアニメ化することもあって、ほんのちょこっとですがキャラクターの背景を強くしています。“黒衣鯖人”の右肩には奥さんの頭が乗っかっているとか、“川上新夜”は女房に逃げられているとか、そういうところはふれていこうかなと。原作では、10数年も前にあったことなんですけれど、昔から読んでいた読者にも「そうそう、原作こうだった!」と思っていただけるくらいに、変に新しいことを混ぜ込むのではなく、原作を補完させていただく意味で個々のキャラクターの描写にこだわっているところがあります。また、各話完結的な部分がありますので、毎エピソードで続く時はバッチリ続く、終わる時はしっかり終わるといったように、メリハリをきちんと付けて書きました。
――では最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
沙村:新しいファンにも10年以上付き合ってもらっているファンにも「やっときたか」という感じの作品だと思います。きっとそれぞれに「ここはこうしてほしかった」とか、いろいろ思い入れがあるでしょうが、原作と異なっている部分を楽しんでもらいたいですね。原作者の立場からすると、わりと細かいチェックをそれほどしないで、監督や川崎さんが変えてくれるのを楽しんで見る立場だったので、読者や視聴者の皆さんにもそのように楽しんでもらえるといいですね。
川崎:できたモノを見ていただきたいのが正直な気持ちなんですが、例えて言うと、原作ってとても高級なモルトウイスキーの原酒のようなもので、そのまま出せないので冷やしたり暖めたりしていますけれど、できる限りそのままお客様に飲んでいただこうという意気込みで作っておりますので、その思いが届けばいいなと思います。
真下:私と川崎は、数カ月かかって沙村先生の作品を徹底的に分析して……こんなことを言うと怒られちゃうかもしれませんが、少し読みにくいところもあるんですよね。川崎にはシリーズ構成者として、この登場人物の変態たちを美しい形でまとめてくれとお願いしたんですが、その部分を彼は見事にやってくれました。あとは、私たちスタッフが「沙村変態遺伝子」をどうやって描ききるかが勝負になります。登場人物は、まさしく沙村先生の直系と言ってもいい子どもたちです。アクションはちょっと暴走しちゃったかなぁって部分もあるのですが、そこはそれとして楽しんでいただいて、一番見ていただきたいのは「登場人物の屈折」です。それでも彼らは人間なんだという部分をお届けしたいです。ぜひぜひ見ていただければと思います。
またこの日は、記者発表会見の後に「無限の住人」アニメ化記念イベント「浅野道場復興会歌舞伎町決起集会」が開催された。イベントでは、第1話「罪人」の上映や、真下監督たち3人に、飛び入りゲストの“万次”役・関智一氏と“浅野凜”役・佐藤利奈さんを交えてのトークなどが行われた。さらに大阪・名古屋・東京の3カ所で、抽選で約1,000名を招いての完成記念試写会イベントが開催される。応募方法などは、公式サイト内の「浅野道場復興会」コーナーを参照のこと。応募の締め切りは6月6日となっているので、興味があるファンは、日程と要項を確認したうえで応募してみてはいかがだろうか?
(C)2008 沙村広明・講談社/浅野道場復興会
■TVアニメ「無限の住人」