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2008年12月29日(月)

開発の苦労と秘話が満載!! 『フラジール』スタッフが語るクリエイターとは?

文:電撃オンライン

◇◆◇◆2時限目「なんでもいいから作る」◆◇◆◇


■最初は主人公が毛皮をかぶってた!?

 2時限目の座談会には、アートディレクターの原田恵子さんと、メインプログラマーの安井氏(トライクレッシェンド)も参加して、3人でのトークが行われた。原田さんは『7(セブン)』や『ヴィーナス&ブレイブス』にも携わってきたデザイナーで、安井宗史氏はゲームキューブの『バテン・カイトス』シリーズ2作などに携わってきたプログラマー。

『FRAGILE~さよなら月の廃墟~』
左から原田さんと安井氏。川島プロデューサーは、たくさんしゃべった後なので、くつろいでる様子。

 2人が参加してまずスクリーンに映し出されたのが、『フラジール』の企画書だ。今では初夏が舞台の『フラジール』も、企画当初は冬が舞台で、主人公は毛皮を頭に被り、毛皮のコートも着ているトレージャーハンターという設定だった。

『FRAGILE~さよなら月の廃墟~』 『FRAGILE~さよなら月の廃墟~』
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パッと見た感じでは、今とはまるで違うように見えるが、孤独で寂しい主人公の一期一会の出会い、人と人とが共感しあうすばらしさを描くというテーマは同じ。また焚き火のシステムや、Wiiリモコンを懐中電灯に見立てた操作などのゲームシステムも、この頃から根幹としてあったようだ。


■3Dのプログラムは初めてなのに……

 会議を通った企画書が送られた先は、開発のほとんどを担当するトライクレッシェンドの安井氏のもと。川島氏から「最初見た時にどう思った?」と聞かれると、「ユーザーとしてはやってみたかったですが、戦闘について何も触れられていないんですよね。(廃墟内を)調べるだけで終わっちゃってて、大丈夫なんだろうか? と思いましたね」という率直なコメントが。続いて「その時にプログラマーの1人が、(戦闘に関する記載がなくて)こんな企画書通ったんだ、と言っていたのが印象的でしたね(笑)」と言われてしまうと、川島氏も「通っちゃうんだよね~(笑)」と開き直るしかないようで、受講生からは笑いが起きていた。

 それから試作版(会社から開発許可を得るための簡易版)を作るという段になると、安井氏はその苦労を「無理だと思った」と一言。渡された仕様書が、マップやキャラクターはもちろん、廃墟内を調べて発生するイベント、焚き火など、「これさえ作れば、プログラマー的には作業の8割が終わるようなもの」というボリュームを詰め込んだ内容だったからだ。それを送った川島氏でさえ、「俺も無理だと思った、てへ」と言ってしまうほど大変な試作版の制作ではあったが、なんと4カ月で完成。しかも『フラジール』の試作版を専任で担当したのは、安井氏を含めて2人、さらに安井氏はそれまでに3D部分のプログラムを組んだことがない、という状況だったそうだ。

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安井氏が3Dのプログラムを組んだことがない、という話は川島氏も初耳で、「そうなの!? 怖っ!」とさすがに驚きを隠せず。

 しかし、なぜそんな状況にも関わらず4カ月で完成したのか? その答えは、Wiiのプログラミングがゲームキューブとほとんど一緒だったからだという。『バテン・カイトス』の遺産を生かした安井氏は、だましだましでちゃんと動いてるように見える試作版を作り、その試作版のおかげで、『フラジール』の本格的な開発は始まった。

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社内評価を受けるための、試作版で作られたトレーラーも上映された。これによって開発許可がおりた『フラジール』は、幾多の苦労を乗り越えて2009年1月22日に発売を迎える。


■コミュニケーションが大事です

 そこから『フラジール』に参加していったのが、アートディレクターの原田さん。廃墟を探索するというゲーム性がツボにはまった、という彼女は「他の人にやらせるのはヤダ!」と高いモチベーションでプロジェクトに参加したと話す。しかし前任のディレクターの後を受けてアートディレクターを担当することになった原田さんには、引き継ぎ作業がないまま『フラジール』に参加せねばならないのが、最初におとずれた一番の苦労だったという。

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まさに廃墟PCからデータを見つけ出すという作業から始まった原田さんの仕事。前任者の『フラジール』に対する思いを汲み取るのがもっとも大変だったと話していた。

 途中参加でディレクターというポジションに立ち、ダメ出しなどで気を使ったのではないかと川島氏より聞かれると、原田さんは「最初に感情を入れずに具体的なダメ出しをして、最後に感情を込めてよかった部分をほめました」とコミュニケーションのコツを語った。外注をしていたムービーの制作についても、お腹に気合を入れつつも、表向きは全面的に相手を立てて交渉に臨んだそうだ。そういったコミュニケーション能力は、大学時代に演劇をやっていたことも大きかったと話している。

 しかし、逆に演劇をやっていたことがアダになってしまったのがデモシーンのモーションキャプチャを録った時。演出を厳しく行っていたところ、役者さんたちの演技が固くなってしまったというのだ。このままでは……といさめられた原田さんは、本番の収録では和気あいあいのムードを作ることを意識し、これが功を奏して役者さんがやわらかい演技をしてくれたという。


■「体験」で格段にアップしたクオリティ

 1時限目でも触れたロケ取材だが、川島氏は2人にその感想を尋ねた。「非常に意味があった」と原田さんは即答。スタッフが実際に建物を見て感動した部分が、そのままマップに出るようになって、臨場感のスケールがバッチリになったそうだ。忙しい時期で、他の人を行かせたという安井氏も、行った人からは「行ってすごくよかった」という感想を聞いているとのこと。

 そうして格段のクオリティアップを果たしたというグラフィック。けれど、8月5日に安井氏のエントリーした開発者ブログにもある通り、重すぎて処理落ちしまくり、メモリ食いすぎて敵もアイテムも配置できない、などの問題にてんてこ舞いだったという苦労話も。

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安井氏がブログで苦労を語る2カ月後には、イベントで体験版をプレイすることもできた。抱えていた問題からして、いかに力を尽くしたかうかがえる。


■完成のためには早めの見切りも必要

 概ねスケジュール通りに制作が進んでいたという『フラジール』。その理由が、入れるのが無理そうな要素は制作中盤の段階で切っていたことにあると3人とも口を揃える。結果、原田さんは終盤にさらなるクオリティアップを重ね、安井氏も川島氏から来た膨大な修正依頼をなんとかこなすことができたそうだ。

 クオリティアップを追求した原田さんは、「できあがったムービーを直してもらうのは大変だったんじゃない?」という川島氏の質問に、「でもここさえ直せば、すごくよくなるというのがわかっていたんで、修正をどうしたらのんでもらえるか攻略するのを楽しみにしていました」との答え。出来栄えについては、12月26日の記事に掲載した店頭用PVで確認できるのでご覧いただきたい。

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完成を迎えられたことに、「よく間に合ったと。今回は本当に運がよかったです」と感想をもらす安井氏。彼の率いるプログラムチームは、試作版も作って中核となった自身ら2人が3D未経験だっただけでなく、本格始動後に加わったのもみんな新人だったとのこと。その話も、受講生たちにはよい刺激になっていたようだ。


■ゲームクリエイターに必要なものとは?

 最後の質問として川島氏から2人に投げられたのは、ゲームの開発者――もっと広くいえば、コンテンツクリエイターになるため「Q1、何が必要ですか?」、「Q2、今、何をすればいいと思いますか?」という質問。ここで2人の回答は――

・原田さん

A1:先ほど川島さんの講義にあった「なぜ」、「だから」に尽きると思います。いいものに出会った時、なぜよかったかを繰り返し考えることが必要だなと。その後の「だから」については、グラフィッカーであれば、それをアウトプットできないといけないので、ここがかっこよかったんじゃないか、と考えながらやってみる。あと自分の好きなもの嫌いなものを決め付けないで、例えば友だちにいいよ、と言われたら体験してくる。食わず嫌いせずになんでもやってみて、まずかったら吐き出せばいいですし。「なぜ」、「だから」の繰り返しをして、お仕事でアウトプットできればいいんじゃないかなと思います。

A2:なんでもやったらいいと思います(笑)。何をすればいいかは、人に聞かず自分で決めてほしいです。ゲームクリエイターでいいの? っていうのも思うし(笑)。決めないで、なんでも飛び込んでいってほしいですね。



・安井氏

A1:今、こうして『フラジール』も3Dの知識も経験もなくてやり終えたんですけども。インタビューなんかを読んで、その人がつまずいた経験は参考にしましたね。知識でも経験でも何でもいいからインプットして、見境なく吸収していけば、いつか役に立つ時が来ると思います。

A2:ここに来ている方たちは、吸収することについて積極的にやっている思うんですよ。なのでむしろ、吸収したものを外に出して、周りの反応を見る、ということをやってもらいたいですね。僕もこの業界入って、開発会社を長くやっている方を見ると、やっぱりいろいろなことに興味を持って、いろいろな発信をしているんですよ。だから皆さんも今日帰ったら、何か作って、人に見せてみればいいんじゃないかと思います。



『FRAGILE~さよなら月の廃墟~』
座談会の後には、50分ほどの質疑応答の時間も。ゲームで使用するBGMについてのこだわりを質問されると、環境音を大事にした結果、探索中はBGMを切ったという決断の話もしていた。デモシーンや探索を止めた時だけ、演出として控えめのBGMが流れるそうだ。

→次頁・キミは全問正解でBNG通になれるか!? おまけのクイズも掲載

(C) 2009 NBGI

データ

▼『FRAGILE~さよなら月の廃墟~』
■メーカー:バンダイナムコゲームス
■対応機種:Wii
■ジャンル:RPG
■発売日:2009年1月22日
■価格:7,140円(税込)
 
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【クイズの答え】
問題1:B 問題2:A 問題3:A 問題4:B 問題5:C
問題6:D 問題7:C 問題8:D 問題9:B 問題10:C