2009年2月10日(火)
カプコンから2月12日に発売されるPS3/Xbox 360用FTG『ストリートファイターIV(以下、ストIV)』。このソフトを手掛けた小野義徳プロデューサーにインタビューを行った。
『ストIV』は、日本のみならず世界中で対戦格闘ゲームのブームを起こしたFTG『ストリートファイター』シリーズの最新作。アミューズメント施設で2008年7月からアーケード版が稼働中だ。移植となるPS3版とXbox 360版には新キャラクターが追加される。
インタビューは『ストIV』が立ち上がるまでの経緯や、見るものを圧倒させるビジュアル制作秘話について語ってもらう前編と、家庭用について鋭く迫る中編、今後の展望について語ってもらう後編に分かれている。本日は前編をお届けするので、全国で熱い戦いを繰り広げている人や、家庭用の発売を楽しみにしている人は、ぜひチェックしてほしい(※インタビュー中は敬称略)。
『ストリートファイターZERO』シリーズ→『ストZERO』シリーズ |
――小野プロデューサーは、これまでどういう作品にかかわってきたのでしょうか?
小野:近い作品だと、PC『モンスターハンター フロンティア オンライン』で、その前だと『デッドライジング』や『シャドウ オブ ローマ』、『新 鬼武者 DAWN OF DREAMS』や『CAPCOM FIGHTING Jam』ですね。『ストリートファイター』シリーズでかかわっていたのは、『ストZERO』シリーズのサウンドや、『ストIII』シリーズ。もともと、サウンドチームとして入社していたので、企画やディレクションとはしばらく無縁だったんですが、岡本さん(※元カプコン専務取締役の岡本吉起氏)にプロデューサーをやるように指示されたのがきっかけで、徐々にやるようになりました。
――どういう経緯でサウンドチームからプロデューサーに移ることになったのですか?
小野:社内で、サウンドを内部で作るのか外部と共同制作にするのかで、意見が分かれていたんですが、僕は外部との共同作業で仕事をしていたんです。それを岡本さんが見て「これができるなら、プロデューサーができる!」と単純に判断して、以後携わるようになりました。『鬼武者2』くらいまではオープニングCGの楽曲や、キャラクターテーマ楽曲のサウンドプロデュースで、それ以後は稲船(※カプコン常務執行役員の稲船敬二氏)と船水さん(※元カプコン第一開発部長の船水紀孝氏)のもとで修行しつつ、日々暮らしてきたという形ですね。
――格闘ゲームにプロデューサーとしてかかわるようになったのは、『CAPCOM FIGHTING Jam』が最初ですか?
小野:そうですね。あとは、PS2『史上最強の弟子ケンイチ 激闘!ラグナレク八拳豪』をやらせてもらいました。
――その後、『ストIV』にかかわることになると思うのですが、開発の経緯を教えてもらえますか?
小野:単純です。作りたいと言ったんです(笑)。なぜ作りたいと思ったのかというと、日本や海外のメディアのインタビューを受けた後に、雑談で「『ストIII』の続編を作らないの?」という話によくなったんですよ。最初は「あれでやり尽くしましたからね」と返していたんですが、熱狂的な海外メディアはユーザーの意見をプリントアウトして見せてくれるし、日本のメディアも「うちには『ストリートファイター』のイラスト投稿がいまだに来ますよ」という話をくれる。ファンが長きにわたって支えてくれている現状を耳にする機会が多かったんです。最新作をやった方がいいだろうなと思いつつ、なかなかやる機会がなく、そうこうしているうちに、あっという間に15周年になってしまった。何かしなきゃと思ったんですが、『ハイパーストII』を出す形で終わってしまいました。
――『ハイパーストII』が世に出るまでには、そんな経緯があったんですね。
小野:でも、やっぱりすっきりしなくて日々モンモンとしていたんですよ。それで、北米のメディアの人と話をしていた時に「どこの層が声を上げているのか?」って聞いてみたんですね。そしたら、SNES(邦名:スーパーファミコン)やジェネシス(邦名:メガドライブ)をプレイしていた層からの声が多いことがわかったんです。さらに、その人たちは『ストIII』を知らない可能性が高い。それであれば最新作の『スーパーストリートファイターII X2』を作ろうと思い立ったんです! そういうイメージで作って世に出れば、格闘ゲームのツールとしてプレイしていた人たちが、同じテンション、同じ気持ちで再びステージに立ってもらえると思いました。
その後、会社の中で提案したら非難ごうごうでした(笑)。『ストIII』シリーズからも10年経っているし、『ストII』からは16年、17年経っている。「それをやるなら、小野さんは他のタイトルをやるべきですよ」と言われたんですが、これだけの声があるということはビジネス面から見ても、支えてくれたファンのことを考えても死角がないはず。なんとかアイデアを出せる段階までこぎつけたので「原点回帰をテーマにして、『ストII』の最新版を出します!」と話したら、またダメ出しされましたね(苦笑)。「これまで『ストリートファイター』という名前が付くからには常に先鋭的なことをやってきたのに、原点回帰?」って。
――確かに先鋭的というイメージはありますね。
小野:もちろん、それはあると思います。でも、先鋭的なことをやったから『ストIII』シリーズの格闘ツールを支持してくれるユーザーしか残すことができず、海外に至っては『ストIII』が出たことを知らないユーザーも多いという状況も事実。しかし、『ストII』ならば多くの人が知っている。先人が作ってくれた偉大なる財産を利用しないのは、遺産をもらったのに使わずにドンドン税務署に取られているのと同じですよとアピールして、とにかく焼き直しでもいいから出させてくれと話をしていたんです。それでもなかなかイメージが伝わらなかった時に、稲船と話をしたんですね。どういう意図なのかを説明しつつ、「同窓会をしたいんです」と加えたんです。
――同窓会ですか?
小野:『ストII』は、多くの人が購入している。さらに遊んだことがある人なら、その購入者数の2倍から3倍の人がプレイしている。その人たちを集わせる同窓会の場所と、メンバーを募集するためのハガキを配りたいと。そのためには、「『ストII』を焼き直す必要があるんです!」とアピールしたんですよ。それを聞いたら稲船が、「それは一理ある。それならやろう!」と言って働きかけてくれたんです。それでも内部には、「需要はないだろう」という空気はありましたね(苦笑)。そんなモンモンとした中で動き始めたというのが開発のスタート時です。
――『ストII』と『ストIII』の間の話だけど、『ストII』の続編として開発し始めたと。
小野:はい。先ほども言いましたが、『スーパーストリートファイターII X2』のつもりで作っていこうと思っていたくらいなので(笑)。当初は企画書もそう書いていました。当時やっていた人たちにカムバックしてほしいと思っていたところもありますし、その当時やっていた人がなぜやらなくなったのかもしっかり見てみたいと考えていましたね。『ストIII』が出てからも、弊社でも格闘ゲームを出しているし、他社さんも出しているのに、分母は決して広がっていない。しかし、その分母を最大限に広げた時期、『ストII』であったり『ストIIダッシュ』のようなゲームをもう一度出すことによって、「ゲームセンターに来てくれる確率が高くなるんじゃないの?」と考えたわけです。だから、『ストIV』で『ストIII』シリーズの上を行くというのではなく、しっかりした『ストII』の続編を作るというテーマでしたね。
――グラフィックが3Dを使った描写にしつつも、2D格闘にしているのも、先ほどのベースが『ストII』という理念があるからですか?
小野:あの当時の絵っていうのは、実際に今、大型のモニターなどで見るとガタガタのドットなんですが、昔楽しんでいたゲームのビジュアルって、プレイヤーの脳内で補正されてしまうんですよ。脳内では最近見たような絵の印象が残っていて、当時見たドットのガクガクとしたキャラも、生き生きとした姿で動いている。フィニッシュの演出がフラッシュだけだったとしても、自分の中ではカメラアングルがグルグル変わって、すごくなっているかもしれない。それを違和感なくするために、3Dを使うことにしたんです。『ストII』をアンチエイリアス(※コンピュータ内の処理で、画像のジャギーが目立たなくなる)していくとこうなるという、ユーザーの想像に近いものができ上がったと思っています。制作サイドからすると、3Dや新しい技術はもちろん使っているんですよ。でも、その技術をプレイヤーに見せ付けようと思って使っているわけではありません。むしろ、3Dであることに気付かれずに『ストII』と同じような目線で楽しんでほしい。それくらいのイメージです。
――具体的に苦労したところは?
小野:ただ写実的にするんではなく、ユーザーの中にあるイメージをゲーム用の絵にするところですね。スタッフは、僕が依頼するよくわからない表現を再現するために、相当苦労したと思います(苦笑)。個人的な考えなんですが、エンターテインメントはビックリさせたり、感動させてナンボだと思うんですが、『ストリートファイター』ってツールなんですよ。だから使われてナンボ。ツールであれば使われるために、変わってはいけないと思うんですね。変わってはいけないんだけれども、変わったことを感じさせない進化が我々には必要だった。それを実現するために、これまでにない見せ方をしたことが大変でしたね。
――変わらないことを表現するために、変わる必要があったと。
小野:ホントに、あの時のままのイメージで出したかったんです。アイドルで言うと松田聖子ですね。彼女は昔の雰囲気を保ち続けているんですが、髪型とかは今の時代に合わせつつ、理想のアイドルとして活動している。秋元康さんとかも同じですね。昔からやってきたアイドルプロデュースなんですが、今の時代に合う形にしている。僕らの世代の人間がAKB48を見れば「ああ、今の時代のおニャン子クラブだ」ってわかるので、共感できるし、入っていこうと思えば入っていけるんです。そういった流れがツールには必要だと思っています。
――ロケーションテスト(以下、ロケテ)で出た意見というのは、どの程度反映されているのでしょうか?
小野:全部読みますね。「特定のキャラが強い」と言われ始めたら、そのキャラクターを重点的にチェックしてバランスを見たり。ロケテのときは、筐体の横に目安箱を置いていたんですが、そこに入れてもらった意見で目を通していないのはありません。エクセルにして、統計も取りました。他にも、スタッフが台に張り付いていて、キャラの相性チェックやバランスを見たりもして、だいぶデータを取りましたね。ロケテに関してはギリギリまでやって、とにかくマスターの直前までバランスをいじっていました。なので、意見でチェックしていないものはほとんどないと思います。でも、まだ足りないところがあったのかなとは、今リリースされて多くのユーザーのプレイ状況をみると思うところはあります。
――原点回帰をうたって制作された本作ですが、アーケード版が稼働して半年。実感として実現できたと思いますか?
小野:背広を着たプレイヤーが戻ってきたというのは大きいと思っています。あとは、『ストII』や『ストIII』の有名プレイヤーがガンガン戻ってきてくれたのもよかったと思いますね。もちろん『ストリートファイター』という名前だけでプレイしてもらえる、ブランドの強さもあると思うんですよ。それを考慮しても、離れていった人がちょっと100円入れてなんとなくプレイできる。そういったところは成功だったと思いますね。
――逆に原点回帰できていないところはありますか?
小野:これは弊社だけでなく業界全体のことなんですが、アーケード店舗の縮小だったり、店舗に置く場所がなかったりと、マスがなかったというところです。置いてもらったとしても、奥の格闘ゲームやシューティングゲームがひしめき合う、一角にちょこんと置かれるとか。そうすると、メダルゲームやクレーンゲーム、プリクラで子どもたちを連れてきたお父さんにアピールできないんですよ! その世代の人なら、何かしら『ストII』に触っていると思うんですが、「波動拳!」の声が聞こえない。これは業界全体が、盛り上げる場所を用意できなかったと思います。パッケージに関しては、スタッフが頑張って今の時代にマッチするものができたと自負しています。でも、プレイするシチュエーションも混みで盛り上げていくとすると、もう少し努力が足りなかった。もしくは少し遅かったのかなと思っています。
――しかし、昨年は『ストIV』をはじめ、さまざまな格闘ゲームがリリースされました。それでも遅かったと?
小野:ビデオゲームが全盛期のころは、もっと色々なジャンルがあったんですね。普通のアクションゲームもあって、協力するゲームもあるし、シューティングに麻雀もある。でも今は、ビデオゲームのジャンルで何があるかと考えた時に、『ギルティギア』に『バーチャファイター』、『鉄拳』などの格闘ゲームがあって、協力プレイは『ガンダム VS.』シリーズくらい。取捨選択していったら、格闘ゲームで生き残るしかなくて、一斉にリリースされた。そんな見方もあるかと思っています。これがブームとして残っていくためには、メーカーが連鎖反応でどれだけ続けていけるのかという尽力が必要ですね。カプコンは昨年『ストIV』の他にも、『戦国BASARA X』や『Fate/unlimited codes』、『タツノコ VS. CAPCOM CROSS GENERATION OF HEROES』を出して、ムーブメントを止めないようにはしてきましたが、2月の“AOUアミューズメント・エキスポ”や9月の“アミューズメントマシンショー”でどれだけ発表されるのか? と考えてみると、一過性だったということも否めないと思います。格闘ゲームだけではなく、ビデオゲームの土台をもう少し作り上げていかないと、ステージである店舗がドンドン消えていってしまうので、まだそこは努力はできるはずです。
明日は、家庭用についてさまざまな角度から質問していく、中編を掲載する。
制作までの経緯を話してくれた小野プロデューサー。自身の気持ちや技術的な話を、熱く語ってくれた。 |
(C)CAPCOM U.S.A., INC. 2008,2009 ALL RIGHTS RESERVED.