2009年2月10日(火)
本日2月10日に発売された、第15回電撃小説大賞・大賞受賞作『アクセル・ワールド1 -黒雪姫の帰還-』の作者・川原礫先生のインタビューをお届けしていく。
▲写真は川原礫先生(写真左)と、受賞作『アクセル・ワールド1 -黒雪姫の帰還-』の表紙(写真右)。 |
『アクセル・ワールド1 -黒雪姫の帰還-』は、五感をサポートする携帯端末“ニューロリンカー”を人間たちが持っているという、近未来の架空世界を舞台にした青春エンタテインメント。デブでイジメられっこの中学生・ハルユキと、校内屈指の美貌と気品を備えた“黒雪姫”と呼ばれる少女の物語が描かれていく。黒雪姫との出会いをキッカケに、仮想世界で繰り広げられるゲーム『バーストリンカー』の戦いに身を投じていくハルユキ。そんな彼が、葛藤しつつも成長していく姿が見どころだ。
そんな本作を書いた川原先生と、電撃文庫編集部の担当編集・三木一馬のインタビューを掲載していく。
――本作の主人公は“太った少年”ということなんですが、これには何か理由があるのでしょうか?
川原先生:作品のキーワードが“加速”ということもあって、スピード感と真逆のイメージを主人公に持たせると、メリハリが出るかなと思いまして。
――作品を読ませていただいた感じだと、この主人公はコンプレックスの多いタイプのように見えたのですが、その部分に説得力を待たせるためではないんですね。
川原先生:そうですね。コンプレックスを持たせるために主人公を太らせるのは、ちょっとかわいそうかな、と(笑)。そういった意図はないですね。やはり加速と正反対で、重量感があって動きの遅い主人公を作ろうという狙いです。
――確かに、仮想世界で戦う時のハルユキの姿はシャープですもんね。
川原先生:そうですね。
三木:ちなみに、仮想世界で戦うハルユキの姿は、川原さんがデザインされているんですよ。川原さんは、絵も描く方なので。
――そうなんですか!
川原先生:昔ちょっぴり、くらいですけどね。そっちはあきらめました(笑)。
三木:天が二物を与えた大賞受賞者! って感じですね。
川原先生:イエイエイエイエ!! とんでもないです!
――それでは、本作のイラストを担当しているHIMA先生とのやり取りなども、イメージを描いて行う感じだったんですか?
三木:そうですね。HIMA先生への資料出しがものすごく助かりました。
――本作のイラストには、川原さんのイメージが最大限に投影されている感じなのでしょうか?
三木:ほぼそんな感じですよね。
川原先生:はい。ただ、主人公と黒雪姫だけはお見せしていません。
三木:その2人は、読み手のイメージに合わせようという意図もあったんですよね。他のキャラクターは、デザインも完全に決まっていた感じです。
――HIMA先生のイラストをご覧になっての感想は?
川原先生:本当にすばらしいイラストを大量に描いていただいて、「ありがとうございます」としか言えないです。先ほども言いましたが、主人公のハルユキは資料をお渡ししていないんですね。読み手のイメージに任せたいことも理由の1つでしたが、「僕にはこの主人公描けないなぁ」と思っていましたので。それなのに、「これしかない!」というくらいバッチリのビジュアルが上がってきたので、本当に感謝しています。
――お気に入りのキャラクターを挙げるとすると、誰になりますか?
川原先生:一番気に入っているのは、ヒロインの黒雪姫ですね。
――どのあたりを気に入っているのでしょうか?
川原先生:主人公の学校の先輩であると同時に、主人公がプレイすることになる『バーストリンカー』のエキスパートである――いわゆる“師匠キャラ”の立ち位置になるのですが、そうしたキャラが好きなんですよ。
――イメージ的には、ちょっと古めのカンフー映画みたいな感じなんでしょうか?
川原先生:ああ! そうですね。僕的には、この先輩は「もうお前に教えることは何もない……」なんて言いながら死んでしまうのがいいんですけど、たぶん三木さんが許してくれないんじゃないかなー、なんて(笑)。
三木:そこはもう、しのぎをけずる殴り合いの果てに決まるんじゃないでしょうか?(一同笑)
――ちなみに、本作が出るまでにも三木さんと激しい(?)打ち合わせがあったのでしょうか?
川原先生:ええ。クライマックスシーンの主人公のセリフで――ほんの一文なんですけど、三木さんは足したい、僕はヤダ! ということで30分くらいお互いの論拠を説明しまくりましたね。最後のほうは「なんでこの人はここまで引かないんだろう!」と、感動しました(笑)。で、最終的には僕が折れる形になりまして。その意気に答えなければいけないと思いながら書きました。
三木:でも、30分って短いですよ? 意外と。ちなみに僕の意見は読者のことを想像して、これを言ってくれたらスカッとするだろうなというセリフを足したかったんですね。でも川原さん的には、ハルユキの感情やパーソナリティを考慮すると、ちょっと違うんじゃないかと。で、落としどころを見つけてもらいました。
川原先生:全体的には、5回か6回くらい直しましたね。
――逆に、川原さんが折れずに意見を押し通したところってありますか?
川原先生:ないです!(キッパリ)
三木:いやあります!!(一同笑) 黒雪姫の口調ってそうでしたよね?
川原先生:言われるがままだと思ってましたけど、そうでした! 14歳の女の子にしては口調が固くないか、と言われたんですが、そこは「師匠なので」と。
――キャラクターのパーソナリティに関する部分はあまり直しが入らなかったのでしょうか?
三木:そうですね。そもそも大賞受賞作なので、すでにかなり完成していましたので、わかりにくいところをフォローするくらいの修正でしょうか。
――続いて、お気に入りのシーンを教えてもらえますか?
川原先生:学食でヒロインが爆弾発言をするシーンですね。コミカルなシーンというのは大の苦手なんですが、今作では少し頑張ってみました。読んでみると、「お前何回逃げてんだよ!」という感じですが。
――確かにたくさん逃げてますよね。
川原先生:はい。最後の最後だけ逃げないんです。
――では、少し話を変えまして、執筆活動をされる上で、影響を受けた作家さんを教えていただけますか?
川原先生:『新宿鮫』シリーズを書いている大沢在昌さんです。小説を書く上での原点ですね。文体もかなり意識しています。
――大沢在昌さんだとむしろ『アルバイト探偵』みたいなイメージが近い気もするんですが?
川原先生:う~ん、主人公の年齢的には近いのかもしれませんが、やっぱり『新宿鮫』ですね。僕が創作する上での話なんですが、主人公が限界まで頭を使って考える、というのが好きなんですよ。反対のものを否定するわけではないのですが、主人公が頭を使わないがゆえにドンドン状況が悪くなってくる話にはフラストレーションがたまってしまうんですね。結果的にダメだったのならしょうがないと思うんですが、その時点で考えられることはすべて考えるタイプのキャラクターが好きです。『新宿鮫』の鮫島警部は、頭のよさで勝負するところが本当にカッコイイですよね。僕の中でのヒーローの理想像です。
――なるほど。小説以外のところですと、ネットゲームにも影響を受けていると聞いたのですが。
川原先生:ネットゲームはもう……メチャメチャ時間をつぎ込みました。時間にしたらもう、わからないですね。
――プレイをはじめたのは、何年前くらいなんですか?
川原先生:1998年にはもう遊んでましたから、10年選手ですね。『ウルティマオンライン』からです。
――オンラインゲームといえば『ファンタシースターオンライン』なども?
川原先生:僕も遊びましたよ。確かにあの作品は、日本に多くのネットゲーマーを生み出しましたよね。時間もものすごく費やしましたけど、その経験がこの作品に生かされて……いるのではないかと思っています(笑)。もとは取ったんじゃないかと。
――一番ハマったタイトルはなんでしょうか?
川原先生:累計プレイ時間でいうと、やっぱり『ラグナロクオンライン』ですね。
――どこがおもしろかったですか?
川原先生:“カジュアル”さですね。コンシューマーゲームに通じる手軽さがあって、遊んでいて疲れないんですよ。やっぱり3Dのゲームだとプレイしていて疲れてしまうので。
――今もまだプレイされているんですか?
川原先生:最近また新規タイトルに手を出しつつありますけれど……大賞をいただいてしまいましたので、小説を優先していくということで(笑)。
三木:こんなこと言ってますけど、川原さんは、自分のホームページで同時並行的に小説の連載を進めていて、「いつ寝てるんだろう?」と思うくらい順調で。せっつくこともないくらいなんですよ。
川原先生:スミマセン! 言っておきますけれど、それは今だけです(一同笑)。一時期マンガを書いていたこともあるんですが、締め切りは大幅に破っていましたね。
三木:やっぱりマンガ家じゃなくて小説家で正解だったんじゃないですか?
川原先生:何年間も小説を書いていられたのも、ホームページで小出しにしていたからなんだと思います。同じ分量を書きためてから公開しろと言われると、難しかったと思います。
――確かにそうですね。では、川原さんが書き続けられたワケとは?
川原先生:なぜかというと、感想を書いてくれる人がいるからだと思うんです。僕のサイトの場合、初期からそういう読者さんがいてくれて、これはラッキーなことだったと思います。
――あとがきに、「川上稔先生からアクションの要諦を書いた“カワカミ・エディション”をいただいた」と書いてあったのですが、そのことについて詳しく教えていただけますか?
川原先生:はい! いただきました!
三木:もともとは、「今回の電撃小説大賞<大賞>作品の帯に推薦文を書いてほしい」と依頼したんです。そうしたら、「自分が責任を持って推薦できる作品かどうかわからない」と返事をいただいたんですね。それはその通りだと思いまして、ですから「原稿を読んで決めて欲しい」と言って送ったんです。
――なるほど。
三木:そしてお返事を待ってましたら、半月後くらいに「推薦文を書く書かない」という返事じゃなくて、いきなり川上さんが書いた“小説”そのものが送られてきたんですよ。「一応書いてみた」って(一同笑)。
――それはすごい話ですね(笑)。
川原先生:川上先生の小説だけではなく、そのテキストでは『アクセル・ワールド』に足りないところをかなりの長文で指摘していただいたんです。アクションシーンに限らず、とにかくディテールを積み上げていくことが肝要なんだなあ、と目からウロコがベローンとはがれましたね。
三木:川上さんの作品は、“『アクセル・ワールド』の設定を生かしたらこんな話ができちゃいました”を体現した小説だったんです。こんなのもらえたら、推薦される側としては嬉しい限りですよね。それで、せっかくですから、巻末に収録しようという話になったんです。そうしたら次に解説ビジュアル企画が届いた(笑)。
――それで、推薦文はいただけたんですか?
三木:結局、推薦文に関しては、改めて「推薦文をもらっていいですか?」って聞きました(笑)。川上さん曰く、「電撃小説大賞の大賞受賞作にかかわるんだから中途半端はできないし、自分にその役が来たならば自分のできること全部やる方針でないと、大賞というタイトルに対して不敬になるから」という理由があってのことだそうで、その意気込みすべて含めて非常にありがたかったです。
――そういう話って、あまり聞かないですよね。
三木:ええ。そのために作業も増えて。
――それはそれは、お疲れさまでした。
三木:川上さんには「(川原さんが)有名になって、将来的には川上さんの本の推薦文を書いて、『川原ファン』がそれを手にとって川上作品を読むようになってくれればいいですよね」って実際に話してありますので、(川原さんに向かって)頑張ってください。
川原先生:もう……そんなことになったら本当にうれしいですよね。でも、川上先生の本ですと、10ページくらい増えても誤差の範囲内でしょうけど(笑)。
――確かにそうですね。そんな“川・川コンビ”が将来生まれたらいいですよね。
川原先生:恐縮です。
――続きまして、本作のタイトルについて伺います。Web上で発表された時には『超絶加速バーストリンカー』というタイトルだったとのことですが、ここからなぜ、『アクセル・ワールド』に変わったのでしょうか?
川原先生:Web上で掲載していた当時にいただいた感想の中に、「タイトルがバカっぽかったので読んでなかったんですが、読んでみたらおもしろかったです」というものがたくさんあったんですね。
――でも、四文字熟語が並んでいるのはある意味“アリ”だと思うんですが……。
川原先生:そうなんです! 僕の世代だと、ヒーローものって、漢字+カタカナが定型なんですよ。
――わかります。
川原先生:でも、最近の若い人にとっては、そうではないみたいなんですよね。言われてみれば、最近だとライトノベルでもそういうタイトルは見ないですし。
――アニメだと、『天元突破グレンラガン』など最近の作品でもありますけどね。
川原先生:僕的には違和感なかったんですけど、変えることになりまして。ションボリしながら変えました。でも、三木さんと2人で出したタイトルも、申し訳ないことにいまひとつピンときませんでしたね。
――ちなみに、ボツ案だとどういうものがあったんですか?
川原先生:思い出したくないです!(笑)
三木:ただ、漢字とカタカナにしようというのはあったんです。後は、“加速”を入れようですとか。でも、結局『アクセル・ワールド』に落ち着いたんですよね。
川原先生:すでに発表されちゃってましたからね。ですので、“-黒雪姫の帰還-”というサブタイトルを入れたんです。ただ、サブタイトルを入れるなら、巻数を入れなきゃいけないだろうという話になりまして。だから、申し訳ないんですけど新人なのに巻数が入っています。
――なるほど。そういう経緯で“1”と付いているんですね。
三木:いや、そんな理由じゃないです。「次書かなきゃいけないって、わかるよね?」という、イジメというかプレッシャーです。
川原先生:そうらしいんですが、これで華々しくコケましたら、『アクセル・ワールド1』というタイトルだったんだってことにします。
――タイトルについてはかなりご苦労されたようですが、キャラクターの名前に関してはどうだったんでしょうか?
川原先生:実は、キャラクターの名前にはあまりこだわりがないんです。登場するシーンになって、初めて考えるくらいですから。だいたい1分くらい考えて決めてしまうんです。あまりよろしくないなぁ、と自分では思っているんですけどね。それと、実は、主人公の名前を漢字で書くと“春雪”になるんです。で、ヒロインが黒雪姫なんですが……これはもう完全に偶然です。ただ、本作のキャラクターにはテーマカラーがありまして、ヒロインが“黒”ということだけは決まっていたんです。で、黒い人に付くニックネームは……みたいなノリで黒雪姫の名前が決まりました。
――では、これから“電撃小説大賞”に投稿するであろう人たちにメッセージをお願いします。
川原先生:次回は今回よりもさらに投稿作品が増えるので、大変だと思います。
――もうちょっと、コツ的なものを……。
三木:じゃあ、大賞を獲るコツをお願いします(笑)。
川原先生:えっ!? コツですか!? ……(長い沈黙)……規定を守ること、ですね。
――(笑)。審査される三木さんから見て、やっぱりそれは大事ですか。
三木:大事です。これを守らない人は、それだけでハネられると考えてくれていいと思います。
川原先生:あと、個人的に気を付けた点としましては、読みやすいよう体裁を整えることですかね。
――内容だけでなく、そうしたところも審査の対象になっているんですね。では、内容面で気を付けたところはどこになりますか?
川原先生:文章に関して言うと、極力平易な表現で書こうと心掛けました。選考委員さんの意見の中にも、その点を評価してくれた声があったので、よかったんだと思います。口はばったいですが、ついついページをめくってしまうページターナー的な小説を書きたいというのが、僕の理想ですので。そういう意味で、やっぱり大沢在昌さんはすごいと思いますね。どんなぶ厚いハードカバーの上下巻でも、読むのが苦じゃないんですよ。文章を極限までシェイプしていて、粗筋を追わせる力が本当にすごいんです。
――では、普段書いているものとは、そのあたりの姿勢が違うと。
川原先生:そうですね。普段はもうちょっとクドいですね。
――三木さんから見て、そのあたりの違いは伺えましたか?
三木:僕は、川原さんがおっしゃるほど、そこの違いはあまり気になりませんでした。キャラクターの光らせ方や、物事の表現の仕方の根本が変わるわけではないですし、もともと読みやすい文章を書かれているので。つまり、読み手に意識させないレベルで、読みやすくさせることができているんだと思いますね。
川原先生:そのあたりは、文章を書いてから一度考えるようにはしています。
三木:今、川原さんの言葉を聞いていて気づいたのですけど、打ち合わせで僕が直しをお願いしたところは、“じっくり書いてほしいのに、サラッと流してあるところ”が多かったように思います。
川原先生:確かに、「○○のシーンを膨らませましょう」という直しはよく言われましたね。
――それでは、これから作品を読んでくださるであろう人にメッセージをお願いします。
川原先生:僕は、ライトノベル黎明期のころから、それこそ『ロードス島』のころから読んでいました。ですから、これから小説を読みはじめる世代の方に喜んでいただけるとうれしいですね。もちろん、ライトノベルを読んできたファンの方にも楽しんでいただければ何よりです。当時与えてもらった感動と興奮の何分の一かでも、今中学生や高校生の読者さんたちに伝えられるように頑張っていきたいです。細く長く続けていけるよう努力しますので、どうぞよろしくお願いします。
――ありがとうございました!
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