2009年2月18日(水)
KONAMIから現在発売中のDS用ソフト『幻想水滸伝ティアクライス(以下、ティアクライス)』。本作のディレクター・小牟田(こむた)修さんと、ディルク役の声優・小西克幸さんの対談を掲載する。
宿星と呼ばれる星を持つ108人を集めるRPGとして、ファンから高い支持を得ているKONAMIの『幻想水滸伝』シリーズ。その最新作『ティアクライス』が、2008年12月18日にDS用ソフトとして発売された。電撃オンラインでは、本作のディレクターである小牟田修さんと、作中で大きな役割を果たすキャラクター・ディルクを演じた声優の小西克幸さんを迎えて、1月某日に特別対談を実施。『ティアクライス』が描く“百万世界”の物語にハマった人はもちろん、新シリーズだからとまだ手を出していない人に向けて、『ティアクライス』の魅力をタップリ語っていただいた。
本日から3週にわたって毎週水曜日に、2人の対談の模様を掲載する。第1回となる今回は、小西さんが演じたディルクのキャラクターや、ボイス収録についての話をお届け。『ティアクライス』ファンはぜひチェックしてほしい。
ディレクター・小牟田修さん | ディルク役・小西克幸さん | |
『幻想水滸伝IV』からプログラマーとしてシリーズ作品の制作に参加。『ラプソディア』と『ティアクライス』では、企画・ディレクターとして制作の指揮を執る。 | 賢プロダクション所属。『ティアクライス』では、主人公の兄貴分であるディルクを演じる。好評発売中の『幻想水滸伝』のドラマCDでは、ビクトール役としても参加。無類のゲーム好きとしても知られている。 |
小牟田修さん(以下:小牟田、敬称略):今日はよろしくお願いします。小西さんは『幻想水滸伝』の『I』からプレイされているとのことですが?
小西克幸さん(以下:小西、敬称略):もともと僕は『幻想水滸伝』という作品が、ものすごく好きだったんです。『幻想水滸伝』シリーズは『III』までは音声が入っていませんでしたよね。だから、声のお仕事をするようになってからは、声が付いたらぜひ演じたいなと思っていたんです。なにせ『I』や『II』でメッセージを自分で読んで遊んでいたぐらいですし。そうしたら、昨年末に発売された『幻想水滸伝』のドラマCDで、ビクトールを演じることになりまして。「こんなことがあるんだな」と驚きました。やりたいと思い続けていたら、かなうんですね(笑)。ドラマCDの話が『ティアクライス』と同じぐらいのタイミングにオファーが来たのですが、どちらも参加できてうれしかったです。
小牟田:最初にディルクを見たとき、どんな印象でした?
小西:“頼れる先輩”という印象ですね。しかも、序盤は主人公たちよりもレベルが高いので、「もさもさはすぐ倒すぞ」と意気込んでいたら、魔物が出現するイベントで「ひぃ」って……。その後主人公たちにはレベルもあっという間に追いつかれるわ、書の力で星の印は使えるわで、「もう俺が教えることは何もない」って形になるのが残念でした(笑)。
小牟田:ディルクが出てくるシーンのアニメーションはものすごくいいですよね。クオリティもそうですが、ディルクらしいエッセンスがタップリ入っています。
小西:「危ないぞお前ら」って言いながらも、めちゃめちゃビビッてるアニメーションが気に入っています。普通の人っぽくていいですよね。
小牟田:そうなんですよ。頼れる先輩なんだけど、超人ではなくて人間の弱さを持っているんです。
小西:アスアド(※1)が出てくるシーンとかは、完全に超人っぽいじゃないですか。みんなかっこよく出てきて戦って終わりとかですし。ディルクだってこんなにカッコいいのに(頭身大パネルを指して)。
小牟田:彼は自警団で一番の使い手という設定なんですけどね……。
小西:主人公たちと決別して、1つの道の協会の教えに染まって、悪くなって主人公たちの前に戻ってくる場面がありますよね。演じた後に改めてプレイすると、書に支配された心の弱さとかが見えて、彼が一層好きになりました。
小牟田:協会側についていても、ディルクのあの行動はすべて主人公たちを考えてのことなんですよね。方法は間違ってはいるけど「弟分たちが危険な道に行こうとしているのを、オレの力で救ってやりたい」という思いをずっと持ち続けているんです。まあ、若干ヘタレな部分もありますが(苦笑)。
小西:アフレコするときも、そのあたりの考えは確認しながら演じたのを覚えています。「こういうことを言ってはいますけど、自分の信念や思いの方向がだんだんおかしくなってきてしまった、ということでいいんですよね?」と。
小牟田:そうですね。アフレコ前の意思疎通は大切なので、その辺りは綿密に確認しながら進めましたよね。小西さん的にディルクのセリフで印象深い部分はありますか?
小西:じつは仲間集めとレベル上げと交易に夢中で、ディルクの最後まではプレイが追いついていないんですよ(笑)。でも、プレイしながら「ああ、これが入っていたのか」と思い出しつつ、ディルクのシーンを楽しんでいます。
小牟田:ディルクのシーンの中では、ちょっと狂気な感じで書を燃やして、ニヤリと笑うシーン(※2)とかいいですよね。
小西:燃やした後に2階から飛び降りたりと、完全にこそ泥ですよね(笑)。ディルクはいろんな意味でいいキャラだなあ。そうそう、ディルク以外ではロベルトも好きですね。
小牟田:欠点だらけの青年ですが、成長していくところとツンデレなところが人気ありますね。
小西:ロベルトは反省するからいいんですよ。
小牟田:反省の仕方がすごいかわいいじゃないですか、ツンデレで。小西さんは完ペキな人よりも、多少欠点があるキャラがお好きなんですか?
小西:僕的には人間っぽいキャラのほうが好きですね。超人というよりも、欠点があってどこか泥臭いところがあるほうが好きです。だから、ディルクは演じて楽しかったです。
小牟田:そういっていただけるとうれしいです。もう1人、小西さんが演じてくださったマクート(※3)ですが、演じてみていかがでした?
小西:プレイしているとマクートも結構しゃべっていて、「あ、マクートここにもいるんだ」って感じが楽しいです(笑)。
小牟田:ユーザーさんの中には、マクートを小西さんが演じているのを知って、結構ビックリされている方が多いみたいですよ。ああいうタイプもハマっていますよね。
小西:自分を加工するというか、大げさに演じるというのも好きです。
小牟田:ディルクとはぜんぜん違うタイプですよね。両方ともバッチリはまっていました。
小西:でも、108星の役もやりたかったなぁ(笑)。
小牟田:残念ながらディルクは違いますからね(笑)。最初ディルクは108星にしようという話もあったんですよ。シナリオの最後までもめていました。でも、死んだ人が仲間になったら、あまりにも今までのシリーズのお約束過ぎてどうなのかなと。確かに108人集めて死んだ人が生き返るのは、『幻想水滸伝』シリーズの定番ではありますが、ディルクはあの形で散ったほうがベストだと判断しました。
小西:確かに生き返ると冷めますね。「あのとき流した俺の涙はなんなんだ」って(笑)。
小西:そういえば、リウ役の柿原徹也君がディルクを「兄貴兄貴」って呼ぶシーン、最初はなくなるんじゃないかと心配していました。まあ、KONAMIさんだから大丈夫かなと思いながらと、すごくビクビクしていましたよ(笑)。(※4)
小牟田:ふと見たら2人の名前が並んでいて「これ、やばいんじゃないの?」という話は確かにありました(笑)。キャスティングのときのエピソードなんですけど、キャラの設定とイラストを見ながら、チームであれこれ意見を出し合ったんです。声って記憶に残っているので、記憶をもとにスタッフたちの中でもある程度イメージができ上がっているんですよね。こういうキャラにはこの声だよねって。そういうのがあって、チーム員全員から108人分の声優さんリストを作るんです。なにせ108人分の声優さんのライブラリが自分にはないので、1人では決められませんから。
小西:108人全員を決めるのはすごいですよね。
小牟田:まあ、あとで声のイメージを伝えて、サンプルを挙げてもらうこともあります。でも、メインメンバーは基本的に自分たちで決めています。ただ、主人公やリウやディルクのシトロ村のメンバーは、スタッフごとに声のイメージが全然違っていて。キャラによっては10人ぐらい候補を挙げる形になりましたね。いろいろ打ち合わせて、最終的には一番イメージにあっている人を僕のほうで決めました。でも、さっき話したリウとディルクは本当に狙って選んだわけではないんですよ。
小西:僕もそれは聞きました。狙ってやっているわけじゃなくてたまたまだと(笑)。
小牟田:おかげさまで、最終的にはピッタリなキャスティングになったと思います。
小西:しかし、DSなのに相当しゃべりますよね。すごいですよね、こんなにしゃべるんだとプレイしながら驚きました。
小牟田:ボイスの量はトータルで約3時間ぐらいですかね。アニメも30分ぐらい入っていますし、ロムの容量の半分がムービーと音声でなんですよ。
小西:本拠地でマリカの姉・シスカを仲間にして話しかけると、ムービーのタイトルがズラっと出るじゃないですか。「こんなにあるんだ!」と驚きつつ、よく入るなって。
小牟田:数秒で終わるものもありますが、かなりギリギリまで入れていますね。2ギガROMという一番大きい容量のものを使っているんですが、もういっぱいいっぱいです。2ギガROMはCDの約3分の1の容量だったりします。PSの『I』や『II』がCDだったので、あれの3分の1の容量に同じぐらいのボリュームを詰め込んでいるんですよ。
小西:だからフィールドマップが選択方式になったんですか?
小牟田:いえ、それはあまり関係ないです。今は圧縮技術がすごく進歩していています。特に音声の圧縮技術は進歩していまして、元のデータの10分の1~30分の1ぐらいまでに圧縮できるんです。当然音質もそれなりに下がるのですが、スタッフがギリギリのラインまで調整してます。最終的には戦闘の掛け声を1つ、削るか削らないかというシビアな話にもなっていました。
小西:戦闘中もかなりしゃべりますよね。連続で斬ると掛け声も連続して出ますからね。1回の攻撃で3回ぐらいしゃべったりするじゃないですか。
小牟田:勝ちセリフをはじめ、回復したり、かばうときにもしゃべりますね。本当はもっとセリフは収録していたのですが、残念ながら結構削ってしまって……。やっぱり『幻想水滸伝』って108人いて、戦闘に出られるメンバーも多くいるので、どのキャラも使ってほしいんです。だから、キャラを入れ替えたときにいろいろな声が出たほうがおもしろいなと。戦闘に連れて行ったときに「このキャラこんなのしゃべるんだ」とか、毎回驚きがあるようにはしたかったんです。あと、声はありませんが、パーティに連れて行くとき上画面に出るセリフも、選択するキャラの順番で結構変わるんですよ。(※5)
小西:そうなんですか。知らなかった。
小牟田:例えばマリカを入れた後にジェイルを入れると、「マリカも行くのか」とか。ディルクはパーティには入らないのでセリフはありませんが(笑)。
小西:戦闘とかのシステム的なボイスもあるし、それまで入れると無茶ですよ(笑)。そういえば、ガヤ(※6)とかはどう収録しているんですか?
小牟田:あれは5~6人の方にスタジオに入っていただいて、そこで声を重ねる形で収録しています。「世界を1つに!」とかがそうですね。あと、「我らに勝利を!」のところで、マナリル役の矢作沙友里さんの声に合わせて「おー」とか1人で撮っていただいて、サウンドのスタッフが合成して大勢がしゃべっているような形に作っているんです。
小西:なるほど。しかし、先に小牟田さんにディルクの考えとかその時点での感情を聞いて演じてはいますが、前後のイベントがわからないのは難しいですね。まあ、これはゲーム系のお仕事すべてに当てはまることなんですが……。
小牟田:ディルクはセリフが多いのでシナリオ的につながっていましたが、キャラによっては話がまったくわからなかった方もいますからね。特にアスアドは本編には絡むくせにセリフはあまり多くなくて、鈴村健一さんは結局最後までストーリーの全体像ががわからなかったと話されていました。
小西:メルヴィスとかもそうですよね。
小牟田:彼はアニメではしゃべるんですけどね。全体を通してかかわらないので、演じられた川島得愛(とくよし)さんも困っていましたね。本当はフルボイスにしたかったのですが、どうしても容量の関係で難しくて。
小西:ならば出しますか、フルボイスバージョンを(笑)。
小牟田:フルボイスにしたらどのメディアなら入るんだろう? メインシナリオの長さが、テキストを読むだけで10時間はかかるんですよ。文字数で換算するとライトノベルで約5冊分だと、シナリオライターの津川さんが言っていましたから(苦笑)。
次回(2月25日公開予定)は、ゲームシステムについて小牟田ディレクターと小西さんが語る! なお現在、電撃オンラインでは『幻想水滸伝ティアクライス』の読者参加型企画が進行中。本作をプレイして疑問に思ったことや、気になったことを募集しているので、以下の専用フォームから気軽に投稿してほしい。投稿の締切日は2月24日となっている。
※募集は2月24日をもって終了しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。
【対談補足】
※1:ジャナム魔道帝国軍の第二魔道兵団の将官。魔道の扱いに長けた正義感あふれる青年である。演じているのは声優の鈴村健一さん。 | ※2:問題のシーン。確かに楽しそうである。 | ※3:今回小西さんが演じたもう1人のキャラ。ひとつの道の協会に所属する、グレイリッジの協会支部長。非常に高慢で欲深い性格の男。 |
※4:2007年にテレビ東京系列で放映されたTVアニメ『天元突破グレンラガン』で、主人公のシモンを柿原さんが、兄貴分であるカミナを小西さんが演じていた。ガイナックス、アニプレックス、コナミデジタルエンタテインメントが製作。
※5:セリフからは複雑な人間関係を読み取れる。恋愛感情のあるキャラを仲間にするとよくわかる。ちなみに、クロデキルドがいるところにフレデグントを加えると……。
※6:サイナスの街でのベルフレイドの演説中に流れる民衆の声など。
(C)2008 Konami Digital Entertainment