2009年3月11日(水)
『ひぐらしのなく頃に』の原作者としておなじみ、竜騎士07さん最新作『うみねこのなく頃に EP4』が昨年末に発表された。そこで『EP3』発売後対談に引き続き、今回も原作者であり同人サークル・07th Expansion代表の竜騎士07さんと、『最終考察 ひぐらしのなく頃に』の著者で、現在は『うみねこ』考察本を制作中であるKEIYAさんの対談を3回にわたって掲載していく。
(インタビュー中は敬称略)
▼竜騎士07
07th Expansion代表。サークル内では主にシナリオとグラフィックを担当している。『うみねこのなく頃に』以外には、今後発売予定のPC用AVG『Rewrite』にもシナリオライターとして参加。
▼BT
07th Expansionメンバー。主にシステム周りと、公式サイトの管理運営を担当している。
▼KEIYA
考察サイト・PARADOX代表。『ひぐらしのなく頃に』の考察本『最終考察 ひぐらしのなく頃に』が、アスキー・メディアワークスより好評発売中。現在は電撃マ王にて『うみねこ』考察企画“魔女狩りの宴”を連載している。
←『最終考察 ひぐらしのなく頃に』(アスキー・メディアワークス刊)……「各シナリオの真相は?」「圭一のメモを破った犯人と、その意図とは?」「フレデリカ・ベルンカステルの名の意味は?」など、原作(PC)版『ひぐらし』のすべての謎を推理・考察した考察本。単純に真相を書いているだけではなく、読めば『ひぐらし』を2倍楽しめる内容となっている。また竜騎士07さんとの対談、みさくらなんこつさん・しゅーさんなど多数の絵師たちによる描き下ろしイラストも掲載。
――『EP4』が発表されてから1カ月半程度経過しましたが(インタビューは2月中旬)、まだまだ品薄のお店も多いようで、非常に好調なことが伝わってきます。実際、竜騎士07さんのもとに入ってくる反響に、手応えを感じますか?
竜騎士07:冬コミのあとはすぐに他の仕事に入ってしまったので、じつはまだあまり反響をチェックできていません。普段なら、各所の掲示板や送られてきたメールを見るのですが……。ただ雰囲気的には好評な感じがします。
BT:実際のところ、反響はすごくいいですね。掲示板の書き込み件数や人気投票の投票数を見ていると、『EP3』発売後と比べて1.5倍くらいになっています。それだけを見ていても、非常に反響が大きいことが具体的に伝わってきますね。
竜騎士07:目に見えて反響の大きさが感じられるのはすごいね。
KEIYA:今まで待っていて、『EP4』からプレイを始めた人も結構いると思います。
竜騎士07:出題編がまとまったから始める、という人も多いでしょうね。本当は1話1話を噛み締めながら遊んでほしいので、「まとまってから遊ぶ」というのは少しもったいない気がします。ただ、現段階で謎を解くためのパーツはかなり与えられていると思います。コミック版やアニメ版の第1話を監修していると、「こんなこと第1話で書いていいの?」みたいなことがいっぱいあるので。だから謎に挑むのは今からでもまだ遅くないかなと思います。
KEIYA:現段階でも、提示されたパーツのなかで特に気になるものがいくつかありますね。小出しにはされていたと思いますが、『EP4』で真里亞の魔法の邪悪な一面が提示されたのは、かなり大きいなと思っています。
竜騎士07:『EP4』はヒントが多いです。ヒントの塊です。せめて出題編という区切りの段階で、まとまったヒント、というか情報を与えようと思って執筆したら、すごいボリュームになってしまいました。
KEIYA:『EP2』のTipsや鏡の話で、“何かが反映された架空世界”という可能性がすごく高まったとは思っていて、それが『EP4』でかなり、架空世界の中に入れるようになったかなという感じを受けています。やっと足掛かりができてきたような感じがします。
竜騎士07:ここから『EP5』をどのようにしていくかは、私も楽しみです。最終的にはまとめサイトなどで皆さんの推理を読んで、そこから『EP5』で明かす謎を決めたいと思います。明かしたい謎はすでにいくつかあって、どの謎をどのエピソードで公開するかに関しては、かなりコントロールしたいと思っていて。『EP5』で一気に答え合わせを始めるのか、あるいは小出しにしていくのか。やはり物語なので、皆さんに最も楽しんでもらえる配分を目指したいなと。私が把握している範囲内では、結構おもしろい見方がたくさん出てきて、非常に興味深いなと思っています。それを裏切るように裏切るようにと、物語を作っていきたいとは思いますね。
KEIYA:確定された情報と思わせておいて、じつはまだ手の平で踊らされている、みたいな可能性は常に考えています。「この手掛かりをもとに考えていいのか?」という部分が結構あるんですよ。
竜騎士07:どうなんでしょうね~。
KEIYA:それでは、いくつか質問させていただきます。これから推理を進めようとしている人はとても多いと思うのですが、大きなポイントである“碑文の謎”は、現時点で公開されている情報だけで解けるのでしょうか? それとも、解けるか否かも含めて考えてほしい部分なのでしょうか?
竜騎士07:かなりいいところまでは行けるんじゃないかな。ただ、世の中どこまで出そろっていればヒントということになるのかは、とても疑問だと思うんですよね。一例ですが、アメリカのなぞなぞに「ドラゴンは昼間は寝ているばかり。どうして?」というのがあるんです。答は「ナイトを待ってるから」。これは、ドラゴンと戦うのは騎士で、騎士は英語ではナイト(knight)と言い、夜のことも英語でナイト(night)と言うことを知っていないと答は出ないですよね。その時に「今のなぞなぞは推理可能なのか?」ということなんです。こういうレベルで解けるというのだったら、碑文の謎はもう解けますね。ただ、騎士と夜はどちらも英語でナイトと呼ぶ、という情報を持たない人にとっては情報は足りないことになると思います。となると本編のなかで律儀に「騎士はナイトと呼んで、夜もナイトと呼びます」と説明する必要が出てきますよね。でも、それをすでに見破っている人にとってはそのヒントは非常に無粋で「こんなくだらないヒントが出されたら、誰だって解けるじゃないか」という感想を抱くと思います。『レイトン教授』(編注・DS用AVGのシリーズで、130種類以上のナゾ(パズル)を解きながらストーリーを進めていく)のヒントメダル3枚目みたいな(笑)。私はその塩梅がいつもすごく難しいと思っているんですよ。やはり謎を解けた人たちというのは、難しい謎が解けたから手応えを感じるわけで、誰でも解けるようにナビゲートされたら「俺たちの苦労はなんだったんだ」というふうになると思います。ただ、騎士と夜を英語でナイトと呼ぶことは和英辞典を引けばわかる公示情報ですよね。つまり、知らない人もいるかもしれないけれど、知ろうとすれば知ることができる情報です。こういう情報はフェアに入ると私は考えています。もしも「金蔵の大好物はじつはカレーライスです」なんて事実があった場合、それは本編の中では類推しようがない。こういう情報をもとにしなければ解けない謎というのはアンフェアだと思います。あっ、別に英語で読むのがヒントと言っているわけではないですよ。英語の知識がない人にとって、それはフェアかアンフェアかという話です。その論法から言えば碑文は解けます。非常に大変ですけどね(笑)。
KEIYA:この質問をさせていただいたのは、ときどきなのですが「まだヒントが出切ってない可能性があるから考えたくない」みたいな意見を見るからなんです。私はヒントが出切っているのかどうかも含めて、プレイヤーたちの知識を集結させて考えるべきだと思っていて。それを放棄するのはあまりにももったいないと感じていたからなんです。
竜騎士07:ある有名な古典小説内で、読めない謎の暗号文があるんですよ。主人公はどうやって読んだのかというと、まず個々の暗号文字の文字数を全部書き出してみたらアルファベットと同じ文字数ということがわかったんです。そこから「アルファベットの換字式暗号じゃないか?」と主人公は推理し、新聞社に問い合わせて「アルファベットの登場頻度数」というのを調べるんです。
KEIYA:ありましたね。
竜騎士07:それで暗号文字を書き出してみたら登場頻度にバラつきがあった。そこから“I”や“A”は登場頻度が高いから、暗号文中で一番多い文字は“I”か“A”だろう、という感じで当てはめていったら最後に暗号が解けたというエピソードがあるんですよ。
KEIYA:実はその方法、試したことがあるんです。
竜騎士07:ふふふ(笑)。
KEIYA:『EP3』で登場した“07151129”の数列も当時、その方法で解けるかと思ってあれこれ試してみたのですが、全然うまくいかなくて。でも“07151129”に関しては『EP4』で新しく情報が出ましたね。
竜騎士07:そうですね。新情報が提示されましたね。今言ったような暗号の解き方もあるんですよ。だから……、なんと言うのかな。うーん、難しいです。金蔵の謎は酷(ひど)いですね。解けると言えば解けますが、酷い難易度です。だから碑文はひょっとすると、金蔵がよく言っているところの天文学的確率。「こんなふざけた暗号が解けるわけがない。それでも解けるヤツが現れたら、それは奇跡だ」という意味があるんじゃないでしょうか。もしも金蔵が誰にも黄金を渡したくないのだったら、隠し場所なんか内緒にしておけばいいだけの話なんですよ。それをわざわざ碑文にして誰にでも見られるようにしているということは、「自分の黄金と財産は誰にも引き継がないつもりだが、もしも誰かが謎を解くような奇跡が起こったら、譲ってやろう」というメッセージに見えなくもないですね。
KEIYA:『EP4』では、ネットに広まっていた説がいくつか登場しましたね。
竜騎士07:ラプラタ川説と江之浦漁港説ですね。おもしろい説でした。
――読者の推理をすぐさま本編中に取り入れていくというのは『うみねこ』ならではですね。
竜騎士07:そのへんのことはもっとやっていきたいですね。実際『EP4』ではファン代表みたいな位置付けのキャラとして“大月教授”を登場させましたし。いつか大月教授を通して、ファンの典型的な質問を登場人物たちにぶつけてみたいと思っているんですよ。「心臓説とかどう思われますか?」のような感じで(笑)。劇中人物へのインタビューみたいなノリで描けたらおもしろそうだなと。私がこの場で「あの説は○○ですね」というのはフェアではないと思うんですよ。なぜならこのインタビューを読まない人には得られない情報になってしまうので。だからそういうことは本編中でやるべきだなと思っています。碑文について最後にもう一度言いますと、解けると言えば解けます。ただ、公示されたある知識を持たない人にとっては、解けない可能性が非常に高い、難解な謎になっています。よく「金蔵が昔どこに住んでいたのかわからない」という人がいらっしゃいますが、それは金蔵が住みえたあらゆる場所を想定して考えるしかないですね。酷い話ですが。でも不可能ではないと思います。
KEIYA:自分の中で可能性をどれだけ展開できるか? という思考の遊びですね。
竜騎士07:そうですね。自分でも酷い謎だとは思います。ウチのスタッフですら、2、3度は説明したのに、概要は覚えていても詳細は忘れていますから(笑)。それくらい複雑なんですよ。
KEIYA:暗号の本を読んでいろいろな解き方を当てはめようとしているのですが、非常に手強いですね。
竜騎士07:あの謎は本当に酷いですよ。仮に連載が8話続くとしたら4年ですよ。そのなかで私の任意とするタイミングになるまで、誰にも解かれないような謎を考えるのは私も相当苦労しました。あんなに酷い謎を、絵羽はよく解いたなと思います。でも絵羽の場合は金蔵が昔住んでいた場所を具体的に知っていた分だけ、ラクだったでしょうね。普通の人だったら“金蔵の故郷”について、それこそ北海道の礼文島から沖縄の与那国島まで全部想定して考えなければならないですから。ただ金蔵はごく普通の人間なので、宇宙ステーションに住んでいたわけはないだろうし、まさか南極に住んでいたとも考えにくいですね。少なくとも、普通に人間として住めるどこかの住所だったでしょう。だから架空の島には住んでいないでしょう。つまり劇中にしか存在しない架空の場所に住んでいるとは考えにくいです。碑文が現時点で解けるということは公開された情報、つまり実在する所在に住んでいたことは間違いなさそうです。本当に酷い謎です。あの8桁の数字もだいぶ酷いですが。
KEIYA:それもこれからもっと考えないといけないと思っています。
竜騎士07:とりあえず『EP4』で、ある種の解答を出させてもらったわけですが……。解答というべきかヒントというべきか。
KEIYA:私は新たな手掛かりというふうに受け取りました。
竜騎士07:ふふふ(笑)。結構大きいヒントじゃないかなと。少なくとも、個々の数字に意味があるかは別として、あの8桁の数字がそろったときに意味があるということは間違いないわけなので。1つ言えることは、シンプルにあれが暗証番号だと判断するなら、あれを知らない人間はカギを持っていようが、カードを持っていようが金庫室に入れないということだけは間違いないことです。ということは、あの数字を知るだけでも莫大(ばくだい)なお金に触れるキッカケになり得る可能性があるという。そしてそんな大事な暗証番号にあの8桁の数字を使うということは、数字自体に相応の意味があるのか。さもなければ8桁の数字自体に莫大なお金を……。
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(C)竜騎士07/07th Expansion 肖像画/江草天仁