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2009年7月31日(金)

これからを見つめて――『マジック:ザ・ギャザリング M10』発売記念インタビュー

文:電撃オンライン

 ウィザーズ・オブ・ザ・コースト(以下、ウィザーズ)から、TCG『マジック:ザ・ギャザリング』(以下、マジック)の『基本セット2010(以下、M10)』が、2009年7月17日に発売された。

 『M10』は、過去の再録カードと新たなカードからなる全249枚で構成された、『マジック』の最新カードセット。このセットの発売にあたり、ウィザーズ・ブランド部の森慶太氏にインタビューを行った。『M10』だけでなく、10年ぶりのルール変更や今後の『マジック』の方向性などについても語ってもらったので、ぜひご覧いただきたい。

『マジック:ザ・ギャザリング M10』
▲ウィザーズ・ブランド部の森慶太氏

――『第10版』に続く基本セットが発売されますが、今回一部のルールが改正され、また、セットに含まれるカードの枚数が縮小されました。同時に、すべてが再録であった基本セットに新カードが登場するなど、いくつかの変更点があります。こういった変更の背景には、どのような意図があるのでしょうか。

森氏:『マジック』は今年で発売から16年が経つのですが、昨年15周年の節目を迎えた中で、“今後、新しくゲームに触れてくださるプレイヤーのためのハードルをどこに設定すればいいのか”というテーマについて弊社開発陣は考えました。15周年という1つのポイントを迎えることはできたわけですが、次の5年、10年といった未来を見渡してみたところ、今この時点で大きな構造の改革をする必要があるという判断に至りました。それが今回の一連の変更という形で表れました。変更の根幹にあるものの1つは“ユーザーフレンドリー”です。初心者の方が理屈ではなく、感覚でマジックを理解できるようにしよう、といった意図があります。

――10年前に制定された旧ルールには、初心者の方にわかりにくい部分があった、ということですね。

森氏:はい。10年前の変更よりさらに以前、いわゆる“インタラプト”と呼ばれる呪文などが存在した時代は、プレイヤーが複数のカード、複数の能力をプレイした時に、それらをどう処理していくのかということがわかりにくい状態でした。それを明快にするために第6版ルール、いわゆるスタックルールが導入され、呪文や能力は1つずつ順番に解決しましょう、ということになりました。概して、この変更によってゲームの流れがわかりやすくなってよかったんですが、反面、『マジック』はファンタジー世界の物語をテーマにしているにもかかわらず「ダメージをスタックに乗せて、それからそのクリーチャーを生け贄(にえ)に捧(ささ)げて……」という、感覚的には不自然な部分が前面に出てきてしまった。つまり、感覚的、直感的に遊んでいるとつまずいてしまう部分が生まれてしまったんですね。私たちはそこを反省し、変更することにしました。ロジカルなゲームであることは『マジック』の大きな魅力ですが、ある意味でそれが行き過ぎてしまい、感覚面での不自然さをともなってしまったんです。

――ロジカルな部分、というのも『マジック』の持つおもしろさの一部ではないかと思いますが、それよりも直感的なわかりやすさを優先したと。

森氏:もちろん今回の変更には、いい点があると同時に悪い点もあるかと思います。悪い点というのは、たとえばスタックルールに慣れ親しんだ方が「このカード、以前なら破壊される前にもうひと仕事できて、もっと強かったのに……」と思われるというような、ある種のカードを以前より少し弱く感じてしまう点ですね。確かにカードの持つ機能が新ルールのもとで変わるということに戸惑われる方がいらっしゃるかもしれない、ただ、ご理解いただきたいのは、今回の変更はさらに5年、10年と世代が変わっても『マジック』が愛されるゲームでいられるようにというコンセプトで整備されたということです。それに、当然ですがTCGとしての根源的なおもしろさである「新カードが現れて、そのたびに環境が変わっていく」という点では、変わらずにお楽しみいただけるだろうと思っています。今後、新ルールを生かしたギミック、トリックといったものにも期待していただければと思います。

――では、次にこの『M10』がトーナメントに与える影響について伺いたいと思います。発売の翌日に日本選手権が開催されます。おまけに今回10版から『M10』への移行で退場するカードには、現在主流となっているデッキのキーとなる部分がいくつか含まれていると思います。このようにトーナメントの直前で環境に大きな揺さぶりをかけることにどういった狙いがあったのでしょうか。

『マジック:ザ・ギャザリング M10』

森氏:トーナメントレベルの『マジック』にはメタゲーム、すなわち情報戦という側面があります。実際の大会の前にすでに戦いは始まっているわけです。日本選手権の直後にはアメリカ選手権がありますが、アメリカのプレイヤーたちは日本選手権でのデッキの動向を見て、使用するデッキを選ぶと明言しています。それほど『マジック』において情報は重要な位置を占めます。しかし、今回の日本選手権では事前の情報というのは、それほど役に立ちません。こうなるだろう、という予想や推論はあっても、実際の結果がないわけです。それに加えて、私たちの見立てでは『M10』後の環境における強力なデッキというのはいくつか挙がっていますが、どれか1つだけが突出し過ぎているというものはありません。そんな中でどのようなデッキを選べばいいのか、今回の日本選手権が普段よりも個人のセンスが問われる、おもしろい大会になることを期待しています。

――続いて、ウィザーズとしては、この『M10』でどんなデッキを出したい、フィーチャーしたいと考えているのでしょうか。たとえば、『ローウィン』ブロックでは、フェアリー・エルフ・キスキンといった部族をフィーチャーして、それらを使ったデッキはトーナメントでも成功を収めました。

森氏:まず、ローウィンでフィーチャーされた“部族”という要素ですが、これについて一度バランスを取り直そうと私たちは考えています。具体的な例としては、これまではエルフ・戦士・ドルイドだった《護民官の道探し》は、《国境地帯のレインジャー》(※1)として、能力はそのままにタイプが人間・スカウトへと変わりました。『M10』では、『ローウィン』においてフィーチャーされなかった、けれどファンタジー世界では愛着を持たれているような種族・職業を増やして全体のバランス調整をしています。たとえば『M10』の白で言えば兵士や天使、騎士といったところですね。以前は、プレイヤーに「どんなデッキが好きか」と尋ねると「白が好き」「青が好き」のように色の好みがよく挙げられていましたが、『ローウィン』ブロック以降はエルフ、フェアリーというようにクリーチャーのタイプ、部族を挙げられる方も増えました。なので『M10』でも“部族”は推していきたいと考えています。種族だけでなく、職業にも注目していただきたいですね。意外なほど過去のカードで機能が強化されているものも存在しますので、オールドファンの方には秘蔵のコレクションを見返していただきたいですね。

『マジック』
▲《国境地帯のレインジャー》(※1)

――バランスを取るとともに、新しいカードにもトーナメントとカジュアル、どちらを志向しても、愛着を持ってもらえるようなカードをデザインしたということですか。

森氏:トーナメントレベルのカードが収録されたことで、それを使ってどんなデッキが誕生するか、という点はもちろん重要なことです。しかし、それと同時に趣味のデッキ、いわゆるファンデッキと呼ばれるようなものでカジュアルに『マジック』を遊ぶ方も楽しめるようなセットにしよう、初めて遊ばれる方にも楽しんでいただけるようなものを目指そう、とも考えられています。たとえば『マジック』の大元は、西洋ファンタジーだと言っていいと思うのですが、そういった世界観などに興味を持って『マジック』に触れる方が、ゲームに感情移入していただきやすいようにするというのもそうですね。一例としては、《ナントゥーコの鞘虫》は《吸血鬼の貴族》(※2)に変わりましたし、そういう吸血鬼やアンデッドに強い《アンデットを屠る者》(※3)が登場したり、といったような背景世界のフレーバーに統一感をもたせようとしています。

『マジック』 『マジック』
▲《吸血鬼の貴族》(※2)▲《アンデットを屠る者》(※3)

――実戦的、機能的なカードばかりではなくて、ファンタジーとしてのフレーバーの楽しさを追求しているわけですね。

森氏:はい。そういう楽しみ方も見出していただければいいですね。そういう点で一番わかりやすいのは《悪斬の天使》(※4)だろうと思います。プロテクション(赤)や(黒)ではなくて、プロテクション(デーモン)、(ドラゴン)であると。こういったトーナメントレベルのカードと、フレーバーの共存、この方向性は、次に発売される『ゼンディカー』からもプッシュしていく予定です。また、『M10』は再録カードについても古いところでは《稲妻》(※5)や《白騎士》(※6)、《黒騎士》(※7)、新しいところでは“プレインズウォーカー”というように、新旧のバランスが取れているセットになっていると思います。自分たちで言うのもなんですが(笑)。

『マジック』 『マジック』
▲《悪斬の天使》(※4)▲《稲妻》(※5)

『マジック』 『マジック』
▲《白騎士》(※6)▲《黒騎士》(※7)

 →森氏オススメのカードなども掲載! インタビューの続きはこちら!

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データ

▼『マジック:ザ・ギャザリング 基本セット2010』ブースターパック
■メーカー:ウィザーズ・オブ・ザ・コースト
■発売日:2009年7月17日
■価格:441円(税込)
 
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