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2009年12月16日(水)

「元気になりたい人はぜひ」MW文庫賞『太陽のあくび』有間先生インタビュー

文:電撃オンライン

 小説『太陽のあくび』で、第16回電撃小説大賞・メディアワークス文庫賞を受賞した有間カオル先生のインタビューをお届けしていく。

『太陽のあくび』

 『太陽のあくび』は、新種の夏ミカン“レモミカン”にかかわる人たちを描いた物語。その開発に携わった少年・風間陽介の話と、生放送のTV通販番組で“レモミカン”を売ろうとするバイヤー・柿崎照美の話の2つを軸に、それぞれを中心とした人間模様が語られていく。

 以下に、有間先生に行ったインタビューを掲載していく。どういった経緯でこの作品が生まれたのかなどを聞いているので、ぜひご一読いただきたい。

『太陽のあくび』
▲有間カオル先生

――まずは、この作品を書くに至った経緯を教えてもらえますか?

有間先生:ある商品があるとして、実際にそれを作った人や、その商品を売ったり買ったりしている人など、いろんな人の想いというものが、商品にはこめられているんだろうなというのが、一番最初に思いついたことでした。それをキッカケに「商品にはどんなストーリーが秘められているんだろう?」というふうにふくらませていきました。

――そこで、商品として夏ミカンを選んだ理由は?

有間先生:題材として夏ミカンを選んだ理由は……実は、夏ミカンじゃなくてもよかったんです。たとえば、リンゴでもさくらんぼでもよかったんですが、文字にした時に一番イメージしやすいものはなんだろうと考えた時に、夏ミカンがいいかと思って。

――夏ミカンに特別な思い入れがあった、というワケではなかったんですね。

有間先生:(笑)。さくらんぼだと小さすぎるし、個人的になんですが、風景を思い描く時に、暖かい方が絵としてキレイにイメージが伝わりやすいかなと感じたんですよ。

――愛媛という舞台のイメージを優先して考えて、夏ミカンになったということなんですかね。

有間先生:そうですね。

――もう1つの舞台となるTVショッピングについては?

有間先生:こちらはもうストレートな話で、私の職場だったからということなんです(笑)。

――なるほど。実際の会社のやりとりなどで作品に生かされた部分はありますか?

有間先生:多少誇張したり、フィクションを交えたりはしています。ですが、TV会社の舞台裏の雰囲気は、割としっかり出せたと思っています。

――確かに文中に「シズル感(※食欲をそそるような表現)をもっと出したい」といった言い回しも出ていて、とてもTV番組の制作現場っぽいな、と思いました。

有間先生:そうですね。業界用語も入れてみたりして。脚注を入れるかどうか迷ったりもしましたね。

――インタビューではさすがに伝わらないかと思いますので、脚注を入れたほうがいいかもしれませんが、本編では、知らない人でも前後を読んでなんとなく意味がつかめるようになっていたと思います。では続けて、応募された理由を教えていただけますか?

有間先生:メディアワークス文庫の創刊を知って、応募するならこのタイミングほうがいいのかな、ということと、母体である電撃文庫自体がとても大きなレーベルだということがあります。

――電撃文庫の作品自体は結構読んでいるんですか?

有間先生:それがそうでもなくて(笑)。アニメなどは結構見るので、アニメ化されている電撃文庫の作品でしたら、どんなお話なのか知っています。書店などでライトノベルのコーナーがあるところだと、ほとんど必ず電撃文庫が置かれているので、それで「大きなレーベルだな」ということは知っていました。

――ちなみに本作を書く時、メディアワークス文庫賞を狙って書いた部分はありますか?

有間先生:いいえ、特に注意した点はありません。ただ、応募した際にもしも賞をもらえるとしたら、メディアワークス文庫賞なんじゃないかな、とは漠然と思っていました。あまりライトノベル的な作品ではないな、という自覚はありましたので。

――確かに、書かれていることや舞台も現実に根ざしたものが多いですしね。ちなみに、愛媛へ取材に行かれたりは?

有間先生:実はしていないんです。本当なら取材に行きたかったところですが。こちらは想像です……。

――執筆の際はほとんどイメージで書いていたんですか?

有間先生:そうですね。愛媛のアンテナショップへ行ったり、インターネットで愛媛の情報を集めたり、キレイな海が映っているパンフレットを見たりしながら書きました。

――冒頭の「愛媛には三つの太陽が~」というところだったり、その後の畑の描写などから、実際に行ってご覧になったことがあるのかと思っていました。

有間先生:「愛媛には三つの太陽が~」というのは、宣伝文句としてよく使われるフレーズをいただいたものなんです。

――というと、有間先生自身の職業が生かされている感じもしますね。続いて、改稿した部分についてお話しいただけますでしょうか?

有間先生:自分があまり気にしていなかったキャラクターについてのアドバイスをいただいたりして「こんなに気にしてくれるんだ」と思いましたね。アドバイスをいただいたキャラクターのエピソードがどんどんとふくらんで、結局100ページくらい追加した形になりました。

――どんなキャラクターにスポットが当たったんですか?

有間先生:照美の同僚で、彼女に助言してくれるホビー商品担当のバイヤー・小塚や、東京から愛媛に引っ越してきて、陽介たちのグループとかかわりを持っていく東堂といったキャラクターのエピソードがふくらんだ感じです。

――確かに、読ませていただいたのですが2人とも結構目立つキャラクターになっていますよね。

有間先生:ええ。東堂は“サラリといいヤツ”だったのですが、“とてもいいヤツ”になっています。

――どういうふうにいいヤツなのかは実際に読んで知ってもらうとして、有間先生のイチオシキャラクターや書いていて楽しかったのは誰ですか?

有間先生:基本的には、主人公の陽介が書いていて楽しかったですね。とても動かしやすいというか、感情移入しやすいというか。ストレートに少年らしさを出していけばいいキャラクターですので。それと、これは改稿時の話なんですが、小塚をはじめとした大人のキャラクターが書いていて楽しくなりました。

――注目してほしいシーンはどこになるでしょうか?

有間先生:そうですねえ……割とまんべんなく力を注いだもので、どこがというと少し難しいのですが……言うとするなら最後まで読んでもらいたいですね。最後の最後、それこそ何かが実ったような、花開くような感覚を楽しんでもらえれば、と思います。

――なるほど。ラストの部分がやはり力が入っていると。

有間先生:他ですと、陽介の恋にまつわる話も改稿の時に力を入れて書いたので、ぜひ読んでもらいたいです。ちょっぴりヒロインにツンデレ要素を足したりして……とはいえ、ツンデレ初心者なので、あまり期待しすぎないようにしてください(笑)。

――とてもさわやかなシーンになっていましたよね。

有間先生:ありがとうございます(笑)。

――もう1つ、タイトルにもなっている“太陽のあくび”について伺いたいのですが、これはいつごろ思いついた言葉だったのでしょうか?

有間先生:“太陽のあくび”は、書き出した最初のころにひらめきました。夏ミカンを取り上げて、さわやかな話にしようと決めて、そこから連想していって……といった具合です。

――そうでしたか。今度はちょっぴり有間先生自身のことをお聞かせください。創作に関して、アイデア出しのためにやっていることはありますか?

有間先生:どちらかというと“ひらめき型”なので、プロットを練るためにアレコレすることはほとんどありません。何か心に引っかかるモノがあったら、後はそれについて調べたり、似たようなテーマを扱っている本を読んだり、映画を見たりとかはします。

――今回の作品を書くにあたってはどうでしたか?

有間先生:ショッピング業界の今後について書かれた本を読んだりしました。……でも、あまり生かされていないかもしれません(笑)。

――そうですか(笑)。ひょっとすると、実体験のほうが生かされていたりするのでしょうか?

有間先生:私の勤めている職場自体がかなりドタバタとしたところでして(笑)。それこそ、小説になりそうな事件が突発的に起きているくらいなんです。いろいろな人がいろいろなことをやっている職場ですから、作品の要素として組み込むのはおもしろいかな、と。

――職場で働いていらっしゃる方を、登場人物のモデルにされていたりは?

有間先生:明確にモデルにしたということはありませんけど、会議の雰囲気を参考にはしましたね。後は、TVの生放送の部分ですね。たまに、というよりかは、日常的にハプニングが起きている感じです。照美のライバルキャラクターとして“1億の女”なんて呼ばれているバイヤーも出てきますが、現実にはもっとすごい人がいます。

――では、好きな作品や、この世界にかかわるキッカケになった作品を教えてもらえますか?

有間先生:そうですね……推理小説を書かれている加納朋子さんが好きな作家さんです。

――具体的に、どんな部分が好きですか?

有間先生:いわゆるスーパーヒーローや名探偵が出てくるような作品ではなく、日常のちょっとした発想の転換をヒントに謎が暴かれていくところですね。読後感がとてもいいんですよ。読んだ後にちょっと元気が出るような作品が多いです。

――小説を書き始めてからどれくらいになりますか?

有間先生:5年くらいです。何度か作品を投稿したこともあります。

――『太陽のあくび』の執筆期間はどれくらいでしたか?

有間先生:だいたい2カ月くらいです。アイデアをひらめいてからだと、1年くらいかかっています。賞をとってからの改稿は、1回目の改稿がだいたい2週間ほどで、そこから直しをいただいてさらに2週間。あわせて1カ月くらいですね。

――それでは最後に、これから読んでくれるであろう読者にメッセージをお願いします。

有間先生:読み終わった後にさわやかな気持ちになれるような物語ですので、落ち込んだ人や元気になりたい人に手にとってもらえたらうれしいです。もちろん、元気な皆様にもぜひ読んでいただきたいと思います(笑)。よろしくお願いいたします!

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データ

▼『太陽のあくび』
■メーカー:アスキー・メディアワークス
■発売日:2009年12月16日
■価格:620円(税込)
 
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