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2010年2月22日(月)

【ケイブ・コラム第2回】新川はるか氏がオンラインゲームのシナリオの立ち位置を語る!

『haruka』
▲新川はるか氏は『真・女神転生IMAGINE』の運営プロデューサー。

■オンラインゲームにおけるシナリオの立ち位置

 結局、3行にまとめきれませんでした(意味不明の方は第1回の末尾をお読みください)。

 本来こだわるべきクオリティ部分を見誤り、お客様をお待たせすることが一番の悪ではないかと考えている新川です。東京も今年一番の積雪の折、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 さて。シナリオとコミュニティの話です。

 出鼻をくじくようでアレですが“オンラインゲームでは、シナリオはオマケに過ぎない”というのが通説になっています。これには、自分も賛成です。おそらく、どのオンラインゲームにも「本筋」というものが存在しているとは思いますが、「話の展開を強烈に覚えているネトゲを浮かべてください」と聞いたとき、どれくらいのストーリーが鮮明に思い出せるでしょうか?
 むしろ「○○○クエストをフレンドとやった」とか「超難敵をクランの人たちと倒した!」とか「俺の職業はなかなかPTに誘われなくて大変で大変で…」などの思い出のほうが、ポコポコ出てくるのではないかと思います。

 決してシナリオが軽視されているというワケではなく、また自分も軽視してはいないのですが、コンシューマと違ってシナリオそれ自体よりも、話題を生み出すきっかけとなるNPCのキャラクター性が非常に大きく問われるものと思ってください。

 比較してみましょう。

 コンシューマのソフト(特にRPG)は、それひとつが文学作品のようなクオリティを求められる場合もありますから、経験と研鑽を積んだシナリオライターの方が執筆をします。
 ところが重過ぎる世界設定は、以後の実装内容や緊急対応を行うにあたって、作り手を束縛してしまうといった事が往々にしてあるようです。ウチのコンテンツでも「コレやったらおもしろくねー!?」という提案に対し「いや、それやると世界観がね…」などというようなやり取りをよく耳にします。本来、プレイヤーを楽しませるべき提案に、コンテンツの都合が割り込んでくるのです。

 世界観に浸っているプレイヤーもいることを考えれば、一概にそれが悪だとは言い切れませんが、ならば「そんな楽しそうな仕様を入れる事ができるよう、世界観の拡張を考えよう」というときに、強烈な設定であるがゆえに制作の作業に膨大な時間を割かざるを得ないといった事態もまま見受けられます。

 生産性の問題もあります。重厚かつ濃密なシナリオを、オンラインゲーム・プレイヤーが持つ消費速度に見合ったスピードで提供できれば文句なし!最高なのですが、構想1ヶ月のシナリオが1日(2時間くらい)で消費されるなんてケースはざらです。言い方は悪いかもしれませんが、穴のあいたバケツに水を汲むようなもので、作っても作っても足りず、最悪の場合、一つ一つの話に重みが薄れるケースも…。

 ちなみに『真・女神転生』シリーズなどもご多分に漏れず、世界観や元々のストーリーが強烈すぎて『真・女神転生IMAGINE(以下、IMAGINE)』では難儀している面もあります。まあ、『IMAGINE』の場合、リリース当初の開発者がコンシューマのノリをそのまま持ち込んでしまい、今「ギャー!」している傾向もございますが。

 閑話休題。

『新川はるか氏』 『新川はるか氏』 『新川はるか氏』
▲『IMAGINE』では、『真・女神転生』シリーズ特有の人と悪魔、そして神が織りなすデジタルデビルサーガを楽しめる。ストーリーやキャラクター、演出にも力を入れたオンラインRPGなのだ。

 そんな背景もあり、シナリオというよりは「キャラクター性」が重視されます。というよりは、コンシューマ以上にキャラクター性が必要になってきます。
 例えばアップデート内容に「クエストを実装しました」とあると、大部分の方はそのクエストの消化にかかります。つまり、プレイヤーの中に共通した話題が生まれる瞬間が発生します。その時に、クエストを吐き出すキャラクターが個性的であれば、それだけで話題のきっかけが増大します。誰かと話したい!その想いを後押しする最大限の演出。

 初回にも言いましたとおり、オンラインゲームの目的やメリットは“コミュニティ形成”にあり、極端な話をすると、コンテンツの全てがそのきっかけに過ぎません。例えが適正かどうかはさておき、一皿のステーキがあるとしましょう。プレイヤーが“お肉”だとすると、その他の要素はあくまで付け合わせの“人参”だったり“ジャガイモ”だったり。メインのお肉を引き立てる為に必須ではありますが、それ自体が主役ではいけないということになります。
 で、結局のところは“量(生産性)”“質(クオリティ)”“話題性(キャラクターや展開)”この3つと、かけることができる“時間(コスト)”とのバランスがうまく取れるかどうか、そういった資質が求められます。

 ちなみに『IMAGINE』では、元々『真・女神転生』シリーズの流れを期待して遊んでおられるプレイヤーも多いので、今回、元アトラスの鈴木一也さんをお招きしてシナリオを書いてもらっています。氏のシナリオを『IMAGINE』に導入する際も、開発都合でいろいろ「ギャー!」しました。多分、これからも「ギャー!」すると思います。

『haruka02』
▲『真・女神転生』『真・女神転生Ⅱ』『真・女神転生if』のシナリオを手がけた鈴木一也氏が送る新エピソード『Chain of Curse』。現在は、導入部分がゲーム内に実装されておりプレイ可能だ。今後もエピソードは追加されていく予定で、ユーザーの期待度も非常に高い。

 そんな中で組み上げられたシナリオ、そして生まれた新しいキャラクターたちを、ぜひその目で確かめにきてください。もし、これを読んでいるあなたが、ゲームのシナリオライターを目指すのならば、きっとその夢を助けるヒントが見つかると思います。


 などなど、自社タイトルの宣伝もミッションコンプリートしたところで、次回は“直感的な表現”について、思うところを述べてみたいと思います。例えば“臭い”という情報を相手に与えたい場合、聴覚と視覚情報しか提供できないモニタの向こう側の人間に、あなたはどういう手段で伝えるでしょうか?そんな話を、今度こそ3行でまとめたいと思います。

(C) ATLUS / (C)CAVE

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