2010年2月27日(土)
土屋:『2』のヒュムノスというのは、『1』の正当な進化系なんですね。『1』でヒュムノスが大変好評だったので、『2』ではさらにそれをグレードアップさせようという狙いで制作しました。それで全編にわたり、すごく神々しい雰囲気のヒュムノスを多用したわけです。ただ、これにはいくつかの反省点もありました。いろいろとご感想もいただきまして、同じような傾向の曲が見受けられるというご意見や、演出的にも似通った感じになってしまっているというご指摘もあり、確かにその通りだなと。あと、個人的な反省点になりますが、プロジェクト発足当時から、『アルトネリコ』プロジェクトでは常に新しいサプライズを目指し続けると決めていまして、そういった点から見ると『2』の楽曲に関しては、かなり保守にまわってしまったなというのがありました。
▲『2』の舞台となった、第2塔を擁する“メタ・ファルス”地方。技術レベルは他の地方より劣るが、スピリチュアルな面では逆に抜きんでている。 |
土屋:そして『3』の制作を開始するわけですが、さすがに『3』でも同じ方向性で行くのはどうかな……と思ったわけです。そして、そもそもの“ヒュムノスの原点”にまで立ち返って考えてみました。本来ヒュムノスというのは、多重コーラスの楽曲でなければいけないという仕様はどこにもなく、レーヴァテイルが、心の中で想ったとおりに紡いだ曲がヒュムノスの原点なんです。それが設定上、声を重ねると詩の威力が増幅されることもあり、また、詩を聴いた時にも、声がたくさん重なっていた方が重厚で強大な印象を与えるので、アルシエルの世界史上この傾向がメジャーになっていたわけです。ただ、本来はもっといろいろな詩の増幅方法があり、謳い手の感情や想い、詩の想いを受け取った時のアプローチやリアクションなども、レーヴァテイルによって多種多様なんですよね。そういった部分まで立ち返り、演出面も含めて「こんなヒュムノスがあってもいいんじゃないか」という可能性を、いろいろな人と意見交換しました。そして、よりユーザーさんが楽しめて、かつ多彩なヒュムノスの側面を見せられるような作りを目指した結果が『3』のヒュムノスたちというわけです。“EXEC_EP=NOVA/.”や“EXEC_CUTYPUMP/.”に代表される冒険した楽曲も登場し、かたや今までのテイストを受け継いだ“EXEC_FLIP_ARPHAGE/.”や“EXEC_FLIP_FUSIONSPHERE/.”もあるという、従来通りの安心感と新しいサプライズを織り交ぜた作品を作ることができたのではないかと考えています。
▲『2』を代表する詩魔法“レプレキア”。最大100人で謳うことによって、威力が飛躍的に上昇する。 |
土屋:これは完全に、前作までのユーザーさんに対してのびっくり箱ですね(笑)。サキが謳う直前までは、『1』の“EXEC_PAJA/.”とか、あの辺の雰囲気をすごく意識して演出をして、あえてユーザーさんに“EXEC_PAJA/.”みたいな曲がくるだろうなと思わせておいて、そこで“EXEC_EP=NOVA/.”がかかって、「……はぁ!?」となるような感じで、楽しんでもらえたらなと思って作りました。
土屋:途中で曲ががらっと変わるというあの流れは、実は詩を担当された志方あきこさんに、私の方からお願いしてやっていただきました。当初の“EXEC_FLIP_ARPHAGE/.”は1曲だけだったんですね。“ムーシェリエル”でのシーンでは、同じ曲がずっと流れているという感じでした。ですが、途中でサキが、自分の使命とかを思い出すわけです。そんな状況なのに、「感情に大きく左右されるヒュムノスが変わらないというのは、おかしいのでは?」という想いが出てきました。謳っている途中で自分の真実を思い出すという話の流れがある以上は、詩も可能な限りそれを表現していきたいと、無理を承知でお願いしました。そして、現在の2曲構成という形にしていただきました。前半はより可憐にサキらしく、後半は自分の使命に覚醒した“惑星の意志”として力強く謳って欲しい、と。こういった、単なる発注者と制作者という関係ではない、共に作品を創りあげていくという作り方に協力していただいていることに関して、本当に言葉で表せないぐらい感謝しています。こういう話は他にもありまして、特に『2』の制作時は、こういう風なお願いや意見交換をたくさんさせていただきました。それを受けて、作品がよりよくなっていくということも非常に多く、歌い手さんたちには、いつも本当にお世話になっているという感じです。
土屋:あの演出は、今回ある意味で冒険したところですね。建物の中に入ると歌が聞こえるというような演出は、『1』でも『2』でもやっていますが、今回はより深い形でストーリーの核の部分の伏線として使っています。プレイしていただいた方ならわかると思いますが、本作の“塔”の中というのはティリアの体内です。そこで“EXEC_REBIRTHIA=PROTOCOL/.”が流れていますよね。あれは、ティリアの心の中の“未完了”を表現していて、曲がノイズ交じりになって巻き戻るという手法によってそれを表現しています。ノイズというのは楽曲的にはとても不自然なものであり、それゆえにみんな気になると思うんですよ。ですので、あえてそこを気にしてもらった上で、PHASE 4の、ティリアの“あの”バイナリ野でのストーリーを体験して「なるほど!」と思ってほしかったという狙いがあります。
土屋:実はあの戦闘は、1回目のプレイではほとんどのプレイヤーがノーマルエンドに向かうようなバランスで作っています。今回のノーマルエンドは、未完了的というか、やや悲しめな終わり方になっていますよね。半分ハッピーだけど、半分そうじゃないというか。でも、現実ってそういうことばっかりで、基本的に大団円というのがなかなかないんですよね。なにかしら代償があったり、自分の思い描いていた通りにならなかったり。なので、バッドエンドとノーマルエンドというのは、普通にやったらこうなるよね、というのを描いたエンディングになっています。ただ、現実でも相当頑張ればハッピーエンドもあり得るわけで、それを表現したくて制作した部分です。本当にノーマルエンドに行かせたいだけなら、フラグ管理で必ず初回は負ける戦闘にすればいいだけの話です。ですが今回、なぜ、あえてシビアなバランスが必要なこの手法を採ったのかと言えば、「頑張れば道は開けるんだ!」ということを体感してほしかったからです。ユーザーさんにはあの戦闘で、自分で道を切り開いているという感覚を持ってほしかったというのがあって、この戦闘のボスは滅茶苦茶強いけど、こいつを倒す、つまり困難を乗り越えることによって、自分の人生を変えることができるんだ、というのを表現したいという想いがありました。
土屋:制作上の話になってしまいますが、この部分は、マスターアップギリギリまで調整し続けた部分であり、スタッフに延々と「ここはどうなってる? 大丈夫?」と聞き続けた部分でもありました。そういった意味でも、とても思い入れの深い分岐ポイントですね。
土屋:まあ、“おばば様エンド(タスティエーラたちを倒して終わるエンディングの通称)”も半分バッドエンドみたいなノリでしたが、私としてはバッドエンドではありません。今回のバッドエンドも同じで、PS3のトロフィーシステム上での呼称はバッドエンドとなっていますが、実際には特別酷い終わり方ではないと考えています。おばば様エンドも今作のバッドエンドも、ひとつのよくある終わり方という認識ですね。先ほどのお話の延長になってしまいますが、バッドエンドとは言っていますが、あれも現実的な結末であって、頑張ってもああいう風になってしまうということは、ままあります。そして今回は、そういう部分をただの美談で終わらせず、正直に描きたかったという理由によるところがあります。そう考えると、あのバッドエンドは一番可能性が高いエンディングでもあり、それを描かないというのは、ご都合主義的なハッピーエンドで固められた王道ファンタジーになってしまいます。アルトネリコはそれを目指す作品ではありません。また、頑張ったら頑張った分だけ幸せになれる! というのを相対的に表現するために、あえて用意したという側面もありますね。ごく自然な結末などとは言っていますが、私だってそういう悲しい結末は、やり直せたら……と思います。幸いなことにゲームではそれができますので、そういうところも感じとってもらえたらと思います。
河内:ぜひ、何度もプレイしてくださいってことですね(笑)。
土屋:だって現実では、それは無理じゃないですか(笑)。どんなに後悔したって戻らないんですよ。そういうところで、頑張ればよい方向に転がせるんだなというのを、ユーザーさんにはぜひ体感していただきたいですね。
>> 魅力的なキャラクターはこうして生まれた!(5ページ目へ)
(C)GUST CO.,LTD. 2006 (C)2006 NBGI
(C)GUST CO.,LTD. 2007 (C)2007 NBGI
(C)GUST CO.,LTD. 2010 (C)2010 NBGI
※画面は開発中のものです。
データ