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2010年4月14日(水)

移植ではなくハードの特徴を生かした制作! iPhone『ストIV』開発スタッフに迫る

文:電撃オンライン

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――iPhone版『ストIV』のコンセプトを教えてもらえますか?

 重視したのは、“いろいろな人に遊んでもらう”ということです。iPhoneって当然、ゲーム専用ハードではなくて、“ゲームもできる機械”なんですね。ゲームハードの場合、お金を出してゲームハードを買って、情報も自分から集めている人が多い。iPhoneユーザーはたまたまゲームをできるハードを持っているだけで、ゲームに関して積極的な人は少ない。その人たちに楽しんでいただくためにどうするかを、重要視しました。

 この点は以前にかかわっていた、アーケードゲーム開発の感覚に近いと思いますね。飲み会の後に、レースゲームやパンチングマシーンをやったり、クレーンゲームを楽しんだりと。ふらっと立ち寄った人がたまたまやったらおもしろくて、もっとコインを入れるという感覚です。

 ゲームハードを買っている人は、そこを越えて、趣味にしてもいいという人が多い。でもiPhoneは、それらの市場とはまるっきり違いますよね。そこで、『ストリートファイター』やカプコンという看板をかかげてやるからには、“なんちゃってゲーム”を出すわけにはいかない。ゲームファンの方にも納得していただける作品にする。しかし、クオリティが高いことで初心者お断りとなるとユーザーが広がっていかないので、初めてプレイされる方でも違和感なく遊べるものにするのが、ポイントでした。

――ちなみに、手塚さんがアーケードゲームでかかわったタイトルを教えてもらえますか?

 最初は『ストII』のデバックです。メインでやったのは『X-MEN』や『マーヴル・スーパーヒーローズ』、あとは『パワーストーン』ですね。

――『パワーストーン』もアクションでありながら、カジュアルに遊べます。そこは今回の『ストIV』のコンセプトに近かったりしますか?

 格闘ゲームがブームになり、先鋭化していく中で、それについていけないユーザーがいるのが実態でした。アーケードゲームの開発者としては「広くの人に遊んでもらいたい」というのがあったので、どうするかを考えていました。『マーヴル・スーパーヒーローズ』の時は『ストリートファイター』のルールとは少し変えて、スーパーコンボは同じコマンドで出せるようにしていますし、オートガードを付けています。『パワーストーン』の時はゲームシステムをがらっと変えて、新しいルールで遊んでもらえるタイプにできないかとトライしました。

 今回は『ストリートファイター』というルールの中で、かつてプレイしていた人にもう一度やっていただけるかに注力しました。初心者と上級者が楽しく遊べるというのは、ゲーム開発における僕のテーマですね。

『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』
▲手塚さんがゲームを作る際にテーマとしているのは、“初心者と上級者が楽しく遊べること”。本作でも、ゲームからそれを感じられる。

――6ボタンのゲームを2ボタン(+レバーで変化)に落とし込むのは、大変ではありませんでしたか?

 6つボタンを再現するのはスペースの都合上も難しいので、4つボタンでパンチ・キックに対してそれぞれ弱・強を割り当てるという案はあったんですよ。開発中盤くらいまではそういうイメージでした。でも、“誰とでも対戦できる仕様にする”とした時に、セービングボタン(Sボタン)や必殺技ボタン(SPボタン)は外せなかった。そうなると、パンチやキックを2ボタンで対応せざるを得なかったんです。

 最終的に、レバー入れをすると攻撃が変化するのがわかりやすいかなと。上級者の人のほうが、そういう使い分けがうまいと思うんですね。どちらかというと初心者の操作が基準になって、うまい人は使い分けもできるよ、というチューニングにしました。もっとも難しかったのは2ボタン設定よりも、先ほども話しましたが、コントローラの部分を違和感なく動かせるようにすることですね。コマンドがちゃんと入るか、思ったとおりに動いているのかでは、相当試行錯誤しています。

――対戦時になると上級者の人もSPボタンを押して、波動拳を連打するということもありますよね? そこもこのゲームのおもしろさなのかと思います。

 開発スタッフからは、「コマンド必殺技は入力して出すことがおもしろいのであって、簡単に出てしまったらゲーム性を阻害するのでは?」という意見も出たんですよ。でも僕は、必殺技の本質は“どのタイミングで出すか”だと思うんですよ。“どうやって出すか”を覚えてもらうのではなく、“どこの場面で出すか”を覚えてもらう。そう考えているので、やさしく出ることに問題はないんじゃないかと思いました。

『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』
▲キャラクターの横にあるリベンジゲージが半分以上たまっている時にゲージをタップすると、威力の高いウルトラコンボが発動! この操作も複雑なコマンドを入力せずに、気軽に出せる。

――素朴な疑問なのですが、“キャンセル”を“スキップ”と呼んでいるのはなぜですか?

 そこに気づいてもらえてうれしいですね(笑)。キャンセルというのは元々、開発用語だったんですね。アッパー昇龍拳であれば、アッパーが出て、戻りのグラフィックを表示せずに昇龍拳が出るという。それを開発ではキャンセルと呼んでいた。戻りのグラフィックを表示しないから“キャンセル”。それが雑誌メディアにそのままの言葉で載ってしまい、一般的に流布していったんですよ。

 でも、キャンセルという言葉から受けるネガティブな印象とゲーム中の動作は、少し違うと個人的に思っていました。ましてやキャンセルという単語では、初めて格闘ゲームをプレイする人には伝わらない。ですので、「必殺技を早く出せた」という意味を込めて、スキップという一般の方が理解しやすい言い方に変えています。

 道場の文言に関しては、企画担当者にお願いしていたんですが、僕の思っていたものとは違っていたので、僕自身がリュウだけを書き直しました。それを参考にした上で、「自分のお母さんが読んでもわかるようにしてください!」という縛りを入れて、お願いしました。そうでないと、初めてやる人には伝わらないので。他にも、いくつかの単語で表現を変えています。コンボも変えようかと悩みましたが、ファーストフードでも使われているので大体意味がわかるだろうとそのままにしました(笑)。文言に関しては普段ゲームをプレイしない人にモニタリングをした上で、徹底的に気を使いました。

――リュウの波動拳に拾い判定が追加されていたりと、オリジナルとは細かい変更点がありますが、これはゲームバランスを考慮した上での調整なのでしょうか?

 意図的にやっています。実は我々は、この『ストIV』を“移植”とは考えていないんですよ。移植は同じプログラムが動くように多機種に持ってくることを指すんですが、今回はゼロから作っている。リメイクということに近いと思っています。しかし、僕らは単なるリメイクとはとらえてないんですね。コンソールで遊んでいるユーザーとiPhoneで遊んでいるユーザーは元々文化が違う。それを考慮して、ゲームを改変しているんです。開発ではオプティマイズ――最適化という言い方をしています。ですから、『ストIV』を遊んでいる人が満足しつつ、他のiPhoneゲームを遊んでいる人も、楽しくプレイできる調整を入れています。

――使用できる8キャラクターの選考基準はどこだったんですか?

 まずは容量の問題があったので、キャラをしぼらざるを得なかった。その上で誰を選ぶかという問題になるんですが、メインとなるターゲット層が、『ストII』以来遊んでいない人が多いと考えていたので、そういった人たちが懐かしいと思ってもらえるキャラをメインにしようと。あとは、『ストIV』のキャラも入れたいという思いがあったので、アベルが入っています。

 他には、キャラクターの特徴ですね。個性的なものやいろいろな遊びができるキャラが集まっている方が楽しいじゃないですか? 使われているキャラや人気のあるキャラだけを入れると、ゲームのバランスとしてはおもしろくなくなってしまうので、使い勝手の違うキャラをいれて、1キャラをマスターしたら、他のキャラを使いたくなるようなテイストを意識していますね。春麗やブランカは、一発逆転の要素が高いキャラで初心者への配慮も兼ねています。

『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』
▲8人のキャラを操作できる『ストIV』。しかし、キャラクターを選ぶにも、さまざまな意見があったという。

――今後、キャラが追加されることはあるのでしょうか。

 明日4月15日に正式な発表を行いますのでぜひ楽しみにしていてください。また、今後も他のユーザーさんが驚く企画や仕掛けを用意していますので、こちらも同様に楽しみにしていただければと!!

――それは楽しみですね。手塚さんが今後挑戦してみたいはありますか?

 ……あえて発言するんですが、今の日本のゲーム業界は元気がないと思うんです。ゲームにはもっと色んな可能性がある。今の開発者は生まれた時から家にゲーム機があって、「ゲームってこんなもの」という概念ができてしまっている人が多いように感じるんですよ。そういう人にとってはコンシューマゲーム以外のゲームは、ゲームではないと思い込んでしまっているんじゃないかと。ですが、実はそうではない。射撃や輪投げもゲームですし、テーブルゲームだってそう。ユーザーやニーズによって、その市場で求められているゲームは違うんですが、開発者がコンシューマの呪縛にとらわれてしまっていて、考えを閉じてしまっているように見えるんです。

 10年間モバイル向けアプリを作ってきて、アーケードやコンシューマのユーザーと考えが違うことがわかった上で、『ストIV』を作りました。iPhoneで遊ぶユーザーの求めていることを徹底的に考え、作り直している。単なる移植ならiPhoneで作る意味はないと思うんです。移植度の高いゲームが評価されることもありますが、まったく同じものを作ればいいというものではない。モバイルゲーム、ソーシャルゲーム、iPhone用ゲーム、業務用ゲーム、コンシューマゲームといろいろなユーザー、市場があります。いろいろなことをやれる畑――市場が回りにあるんですが、視野が狭くなってしまい、それに気がつかない。

 スキーをしたくなった時、板を買って、ウェアを揃えるのはハードルが高いじゃないですか? でもレンタルという制度があって、楽しみを理解してから購入できる環境がある。ゲームだってそうあるべきじゃないですか? 気軽に遊べるものがあって、初めて高価なハードを購入して、もっとおもしろいものを遊びたいと思う。ゲームに気軽にふれあう文化、環境があって、カジュアルにふれあう場所があれば、そこからシーンとして広がっていくと思いますね。そこは現在のゲーム業界が追従できていない部分だと思うので、もっと多くの人に遊べる作品を出していきたいです。

――では、最後にまだ遊んでいない人へメッセージをお願いします。

 実は、iPhoneのタッチパネルでバーチャルパッド的な使い方をすることに、僕自身が「そんなんでストIV遊べるの?」ともっとも懐疑的だったんですよ。今回、iPhoneで『ストIV』を出すにあたり、一番聞かれたのが「昇龍拳が本当に出るの?」という問い合わせだったんですが、そこに関してはちゃんと出るということを証明できたと思います。

 今までは、iPhone用ゲームにはシビアな操作が必要でないタイトルを選ぶことが多かったんですが、もっとも難易度が高い『ストIV』をなんとか作り上げることができましたので今までに発売されたコントローラで操作するすべてのゲームを出せると確信しました。これまで体験してきたバーチャルパッドの品質が低くて、『ストIV』は無理でしょうと思っている人もいると思うんですが、そういう先入観を捨てていただき、ぜひさわってみていただきたいです。

『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』 『ストリートファイターIV』
▲これまでのファンと、初めてさわる人に向けて『ストIV』を作ったと語る手塚さん。まだプレイしたことがないという人は、プレイしてみては?

(C)CAPCOM U.S.A, INC. 2010 ALL RIGHTS RESERVED.

データ

▼『ストリートファイターIV』
■メーカー:カプコン
■対応機種:iPhone/iPod touch(ダウンロード専用)
■ジャンル:FTG
■発売日:2010年3月10日
■価格:900円(税込)
 
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▼『スーパーストリートファイターIV』
■メーカー:カプコン
■対応機種:PS3/Xbox 360
■ジャンル:FTG
■発売日:2010年4月28日
■価格:通常版 4,990円(税込)/コレクターズ・パッケージ 5,990円(税込)
 
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