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2010年5月24日(月)

続編の構想もあった――Xbox 360版『ファントム』虚淵玄さんインタビュー

文:ごえモン

※ネタバレを多く含んでいるので、原作未プレイ&TVアニメを見ていない人は注意してください。

■クロウディアルートは『ToHeart』長岡志保EDに背中を押されて作った

『Phantom PHANTOM OF INFERNO』

――続いて、登場キャラクターの誕生経緯や魅力についてお聞きしたいと思います。まずは主人公のツヴァイから教えていただけますか?

 ゲーム版のツヴァイは、アニメと違ってユーザーにシンクロしてもらう器としてのポジションがあったので、空っぽのキャラクターにしようと意識していたつもりでした。でも、気が付いたらキャラが立っていたという不思議なキャラクターです(笑)。だから、当初は目が隠れていたんですよ。いわゆる当時の無個性な主人公として、あまり顔を見せない方向だったんです。でも、主人公人気みたいなものが出てしまったので、「それならツヴァイのキャラを立ててもいいや」と目を出すようにしました。

『Phantom PHANTOM OF INFERNO』

――ヒロインのアインはどういう意図で生まれたのでしょうか?

 アインは主人公の映し鏡というか、最初は空っぽだったキャラクターが、主人公との交流を経て中身を取り戻していく、というスタンスで作ったキャラクターですね。なので、Xbox 360版になってアインの名前を付けられなくなったのは唯一残念なところです。フルボイスになったのでしょうがないところではあるんですが、当時はアインの名前をプレイヤーが付けられるところに、意味合いとして重きを置いたところがあったので。それがなくなってしまったのは残念ですね。

 まあ、そのぶん高垣彩陽さんの声がついたと思えばプラスではないかと思います。もしかしたら、アインは旧作から一番印象が変わったキャラクターかもしれないですね。スパッツではなくスカートになっていたり、アニメのキャラクターデザインに合わせてグラマーになっていたり。昔はか弱さの象徴として、細いデザインにしていたので。声優も南央美さんから高垣さんに変わって、まさにアインに関しては“女優が変わった”という意識でいます。

――旧作よりも人間味を帯びた印象を受けますね。

 そうですね。昔の“人形っぽさ”、“空っぽさ”、“透明さ”というキーワードから、悲劇のヒロインとしての方向に振られています。

『Phantom PHANTOM OF INFERNO』

――ネタバレを多く含んでしまいそうですが、続いてキャル・ディヴェンスについて教えていただけますか?

 キャルに関しては、元ネタになっている映画の『レオン』のエピソードを、まるっと突っ込もうというところから生まれたキャラクターですね(笑)。主人公を殺人機械として仕立てていくアインに対して、そこから主人公をキャルが元の人間に戻していくという、アインと対になるポジションとして作ったキャラクターです。また、キャルは後々ひょう変していくキャラクターなので、声を才能がある沢城みゆきさんにお願いできたのはよかったなと思います。

『Phantom PHANTOM OF INFERNO』

――クロウディア・マッキェネンも元ネタがあるのでしょうか?

 クロウディアは「『不夜城』も入れよう」というところから生まれたキャラクターです(笑)。いわゆるギャルゲーのお約束的な“主人公に都合のいいキャラクター”ではなく、“主人公を利用してのし上がっていく怖い女”というポジションで、ちょっと冒険しすぎたところはあります。当時は「本当にこんなキャラでいいんだろうか」という思いがあったんですが、まあ結果オーライということで。

 先ほども言いましたが、“死んじゃうからっていけない話ではない”という思いもあって、恋愛劇で“男女が結ばれなければ、いいエンディングではない”という考えは、自分は違うと思うんです。すれ違ってしまったり、片方だけ倒れてしまったりというのは、それはそれで恋愛劇として成り立つと思うんです。

 昔、『ToHeart』の長岡志保のエンディングを見て「なんて大人の恋愛劇なんだ」と感じたんですね。自分はあのエンディングにいたく感銘を受けまして。「この落とし方ありなんだ」って。そんな志保エンディングの冒険っぷりに背中を押されて作ったのがクロウディアルートです。「所帯を持つことだけが幸せではなかろう」というのは自分の中でありますから。

『Phantom PHANTOM OF INFERNO』

――唯一の日本人ヒロイン・藤枝美緒の誕生経緯を教えてください。

 美緒は最初の企画段階ではいなかったキャラクターなんです。日本編というのが、そもそも後付けのエピソードだったんですね。アメリカ編のあとに、ドライを巻き込んで対決するという意図はあったんですが、逃げ先をどこにするのかが全然計画になくて。で、「いっそ故郷に戻るのはどうだろう」、「学園モノにしてしまえばどうだろう」と。それは「ここからいきなりギャルゲーになったら驚くよね」といういやらしい意図もあったんですが(笑)。あと、パッケージにセーラー服を入れよう、という案ももともとありました。

――セーラー服を入れればキャッチーになりますからね。

 キャッチーさを入れるために始めた日本編でもあったんです。そんな日本編のプロットを組んでいくうちに、争奪戦の焦点になるキャラクターもほしいという話になってきて「だったらヒロインにしちゃおうよ」という流れから生まれたキャラクターですね。だから舞台設定から先行して、「ああいう状況に追い込まれた主人公があこがれるなら、こんなキャラクターに違いない」と。そんな方法論から作ったキャラクターなんですが、それで『ブラック・ラグーン』のヤクザ編のキャラともろ被りした、というのは必然なんだと思います。修羅場をくぐってきて、日本に帰ってきた主人公に故郷の空気を思い出させるなら、それは黒髪ロングしかないでしょう。でも、犯罪に巻き込まれる事情があるなら、ただの女子高生ではまずい。だったら「家がヤクザだよね」というところから作っていったら、あそこまで被ってしまいました。当時、広江礼威さんも『ファントム』をプレイしていなかったはずなので、お互い同じものを目指していたら、同じものになったという……シンクロニシティですね。

――今でこそ“セーラー服と拳銃”というイメージですが、美緒がいなかった当初は違っていたんですね。

 企画書の段階ではメキシコに逃げていたはずです。なので、3部のビジョンがいまいち弱かったんですよね。だから、話を盛り上げつつ美少女ゲームとしてのキャッチーさも意識して、じゃあ『エリア88』にしようと(笑)。

――ここまでメインの登場人物についてお聞きしてきましたが、虚淵さんの一番好きなキャラクターは誰ですか? やっぱり、頑張るロリっ娘のキャルがお好きなんでしょうか?

 キャルは、自分が作ったロリっ娘としては完成形かもしれないですね。でも、誰が好きかと問われればやっぱりリズィになっちゃいますね。当初、彼女は男性キャラのポジション、いわゆる親友のポジションだったんですよ。でも、社内で「女性比率が少ない」と言われて、「わかりました、女にします。ちゃんとおっぱい付けます」という感じで(笑)。それがXbox 360版でもそうなんですが、TVアニメ版で一気に美人になっちゃって……。

――リズィは原作から大分印象が変わりましたよね。

 ええ。原作の段階でかなりわがままを言って作ったキャラだったんですが「さすがにこのキャラはアニメに出せません」とTVアニメ版のプロデューサーや監督から総反対をくらって、やむを得ず今のキャラクターになりました。

――実はリズィがヒロイン候補だったり……なんていうことは?

 まあ、ないですね(笑)。ただ、あれだけ怖い顔をしていて“実は真人間”というギャップで狙っていたキャラクターではありました。TVアニメ版のリズィだったら、普通にヒロイン候補にできちゃいますけどね。

→次のページでは、『ファントム』の続編構想について聞いてみた!

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